軍縮・不拡散 世界の軍事費

2025年03月08日 12時43分38秒 | 社会・文化・政治・経済
令和5年9月1日
 

1 軍縮・軍備管理・不拡散とは

(1)基本概念

 「軍縮」(軍備縮小)とは、一般的には、国際的な合意の下で特定の軍備の縮小又は兵器の削減を行い、さらにはそれを廃絶することも意味します。また、「軍備管理」とは、軍備又は兵器の規制、検証・査察、信頼醸成、通常兵器の移転の規制などを指します。「不拡散」とは、日本及び国際社会にとって脅威となり得る兵器(核兵器、生物・化学兵器といった大量破壊兵器及びそれらを運ぶミサイル並びに通常兵器)やその開発に用いられる関連物資・技術の拡散を防ぐことを意味します。

 冷戦期においては、特に1970年代に米国とソ連の間で行われた核兵器管理交渉から軍備管理の概念が生まれ、主として核大国間の戦略均衡の仕組みを作り上げることが重視されました。冷戦末期から冷戦終結後は、軍縮の側面がより重視されるようになり、実際に特定の種類の核兵器を全廃する条約(中距離核戦力全廃条約)も成立しました。また、大量破壊兵器等の開発・取得を企図する国やテロリストなど非国家主体への大量破壊兵器や、その関連物質・技術の拡散の懸念が高まったことを受け、不拡散の取組の重要性が大きくなりました。

(2)なぜ軍縮・軍備管理・不拡散への取組が必要なのか

 軍縮・軍備管理・不拡散のための国際的な努力は、人道主義的な観点に加え、世界の安全保障や経済発展を効率的・効果的に実現するために行われています。

 第一に、軍備拡張競争や兵器の拡散は国際の平和と安全を損なうことにつながりかねません。無制限に増大した軍備や兵器は、たとえ侵略や武力による威嚇の意図がなくても、他国の不信感を高め、不必要な武力紛争を引き起こすことになりかねないのです。

 第二に、経済的な観点からも、莫大な軍事支出は、政府の財政を圧迫します。軍事支出をできる限り抑え、経済開発や福祉などに優先的に国家予算を振り向けることができるような条件を整えることも、軍縮・不拡散外交に期待される効果です。

  確かに、世界には、領土問題、宗教対立、民族対立など、潜在的に武力紛争に発展しかねない問題を抱えた地域が各地に存在しており、世界のほとんどの国が、自国の安全保障を確保するために、軍備を必要と感じています。しかし、各国が自国の安全保障の観点を考慮しながら、自国の軍備の規模を適正水準に保ち、できれば縮小する方向で、各国間で協調して調整を進めていくことが必要とされています。

(3)核軍縮・不拡散の現状と日本の基本的考え方

 日本には、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向け国際社会の取組をリードしていく責務があります。

 近年の国際的な安全保障環境は厳しく、また2017年7月に採択された核兵器禁止条約を取り巻く対応に見られるように、核軍縮の進め方をめぐっては、核兵器国と非核兵器国の間のみならず、核兵器の脅威にさらされている非核兵器国とそうでない非核兵器国の間においても立場の違いが見られます。このような状況の下、核軍縮を進めていくためには、核兵器の非人道性と安全保障の観点を考慮し、核兵器国の協力を得ながら、現実的かつ実践的な取組を粘り強く進めていく必要があります。

 日本は、核兵器のない世界の実現のため、「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」及び「核軍縮の実質的な進展のための1.5トラック会合」、国連総会への核兵器廃絶に向けた決議の提出、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)の枠組みや個別の協議等を通じ、核兵器国と非核兵器国の間の橋渡しに努めつつ、核兵器不拡散条約(NPT)体制の維持・強化や包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始といった、核兵器国も参加する現実的かつ実践的な取組を積み重ねていく考えです。

 また、不拡散に関しては、今日の国際社会において、新興国の経済成長に伴い、それらの国における兵器やその開発に転用可能な物資などの生産・供給能力が増大するとともに、流通形態の複雑化をはじめこれら物資などの調達手法が巧妙化しています。また、新技術の登場を背景として、民間の技術が軍事転用される可能性が高まっており、脅威となり得る兵器やその関連物資・技術の拡散リスクが増大しています。このような状況において、日本は、国際的な不拡散体制・ルールの維持・強化、国内における不拡散措置の適切な実施、各国との緊密な連携・能力構築支援を柱として不拡散政策に取り組んでいます。

2 日本の取組

 日本は唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向け、国際社会による核軍縮・不拡散の議論を主導してきています。日本は、様々な多国間の枠組みや二国間の外交機会を最大限活用しつつ、今後とも具体的な取組を展開していきます。

(1)「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議

 核兵器国と非核兵器国、さらには核兵器禁止条約の参加国と非参加国からの参加者が、それぞれの国の立場を超えて、知恵を出し合い、また、各国の現職・元職の政治リーダーの関与も得て、「核兵器のない世界」の実現に向けた具体的な道筋について自由闊達な議論を行うため、岸田内閣総理大臣は2022年1月に「『核兵器のない世界』に向けた国際賢人会議」の立ち上げを表明しました。
 2022年12月には、第1回会合が広島において開催され、白石座長(熊本県立大学理事長)を含む日本人委員3名の他、核兵器国、非核兵器国等からの外国人委員10名の合計13名の委員が対面参加しました。この会合には、オバマ元米国大統領やグテーレス国連事務総長によるビデオメッセージが寄せられました。また委員は、核軍縮を取り巻く現下の国際情勢や安全保障環境について分析を行うとともに、核軍縮を進める上での課題、核軍縮分野で優先的に取り組むべき事項について議論しました。閉会セッションには、岸田内閣総理大臣が対面参加し、「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿って現実的かつ実践的な歩みを進めていく旨の挨拶(和文(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く)がありました。
 2023年4月には、第2回会合が東京において開催されました。冒頭のセッションには、林外務大臣がビデオ・メッセージを寄せる形で参加しました。委員は、同年7月末から開催される2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会により始まる次期NPT運用検討プロセスに向けた積極的な貢献も念頭に、現下の非常に厳しい安全保障環境を踏まえたNPT体制の維持・強化の重要性や、新STARTを巡る状況等について、率直かつ突っ込んだ議論を行い、会合後、2026年NPT運用検討会議メッセージ(和文英文)を発出しました。

(2)軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)

 2010年に日本とオーストラリアが主導して立ち上げた地域横断的な非核兵器国のグループであるNPDI(12か国で構成)は、メンバー国の外相自身による関与の下、建設的な取組を策定、提示する形で、核軍縮・不拡散分野での国際社会の取組を主導しています。これまでNPDIは、2015年NPT運用検討会議に計19本、2022年NPT運用検討会議プロセスに計18本の作業文書を提出しました。2019年11月には、G20愛知・名古屋外相会合の際、第10回NPDI外相会合を日・オーストラリア共同で開催し、NPT体制の維持・強化の重要性に関する外相共同声明(仮訳(PDF)別ウィンドウで開く /英文(PDF)別ウィンドウで開く )を発出しました。2022年8月には、第11回NPDIハイレベル会合をニューヨークにて開催し、岸田内閣総理大臣が出席しました。本会合では、NPT体制の維持・強化の重要性に関するNPDIのコミットメントを示すNPDIハイレベル共同声明(仮訳(PDF)別ウィンドウで開く英文(PDF)別ウィンドウで開く) が発出されました。

(3)日本提出の核兵器廃絶決議

 日本は、1994年以降、その時々の核軍縮に関する課題を織り込みながら、全面的な核廃絶に向けた具体的かつ実践的な措置を盛り込んだ、核兵器廃絶に向けた決議案を国連総会に提出してきています。2022年の決議案(骨子(PDF)別ウィンドウで開く)においては、我が国として、「核兵器のない世界」を実現する上での現実的かつ実践的な取組の方向性を示す必要があるとの考えの下、同年8月のNPT運用検討会議にて岸田内閣総理大臣が提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」を基本に、同会議の最終成果文書案の文言等も活用した決議案を提出、12月の国連総会本会議では、147か国の幅広い支持を得て採択されました。
 国連総会には、日本の核兵器廃絶決議案に加えて、ほかにも核軍縮を包括的に扱う決議案が提出されていますが、日本の決議案はそれらの決議案と比較して最も賛成国数が多く、また、これまでの決議も20年以上にわたって国際社会の立場の異なる国々から幅広く支持され続けてきています。

(4)軍縮・不拡散教育

 日本は、唯一の戦争被爆国として、軍縮・不拡散に関する教育を重視しています。具体的には、被爆証言の多言語化国連軍縮フェローシップ・プログラムを通じた各国若手外交官の広島及び長崎への招へい、在外公館を通じた海外での原爆展の開催支援、被爆体験証言を実施する被爆者に対する「非核特使」の名称付与等を通じ、被爆の実相を国内外に伝達するべく積極的に取り組んでいます。
 また、被爆者の高齢化が進む中で、広島及び長崎の被爆の実相を世代や国境を越えて語り継いでいくことが重要となっています。こうした観点から、2013年から2021年までに国内外の400人以上の若者に「ユース非核特使」の名称を付与してきています。

 

(5)国際的な枠組みの下での取組

 日本は、G7を始めとした国際的な枠組みの下でも軍縮・不拡散に貢献しています。例えば、核不拡散体制の中核的措置である国際原子力機関(IAEA)の保障措置の強化・効率化を支援しつつ、追加議定書の普遍化に取り組んでいます。また、国際社会における輸出管理の枠組みである国際輸出管理レジームや大量破壊兵器等の拡散を阻止するためのイニシアティブである「拡散に対する安全保障構想」(PSI)などの取組に積極的に参加・貢献しているほか、国際社会と連携して、北朝鮮やイランの核問題等に対処しています。

 日本は二国間での取組も重視しており、二国間協議を通じて日本と特定の国との間で共有する課題に取り組んできました。2015年のNPT運用検討会議でも、NPDIとしての活動に加え、我が国独自のイニシアティブにより、透明性・運用検討プロセス強化、軍縮・不拡散教育、原子力の平和的利用、CTBTなどの分野において、それぞれの同志国と連携して活動を行い、作業文書の提出や共同ステートメントの実施等を行いました。

 核兵器以外の大量破壊兵器である生物兵器、化学兵器や、人道や開発などの様々な分野にまたがる緊急の課題である小型武器、地雷、クラスター弾などの通常兵器の分野における国際的な取組においても、日本は関連する条約・国際的規範の実施や普遍化への貢献、現場プロジェクトへの支援などを通じ、中心的な役割を果たしています。


観光立国推進基本計画

2025年03月08日 12時39分04秒 | その気になる言葉

最終更新日:2024年3月22日

観光立国推進基本法に基づき、令和5年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」について紹介しています。
平成19年1月に施行された観光立国推進基本法の規定に基づき、観光立国の実現に関する基本的な計画として新たな「観光立国推進基本計画」が閣議決定されました(令和5年3月31日閣議決定)。この基本計画においては、観光立国の持続可能な形での復活に向け、観光の質的向上を象徴する「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」の3つをキーワードに、持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大の3つの戦略に取り組むこととしています。
持続可能な形での観光立国の復活に向けて、本計画を政府一丸、官民一体となって着実に実施してまいります。

1.基本的な方針

持続可能な観光地域づくり戦略
インバウンド回復戦略
国内交流拡大戦略

2. 計画期間

3年間

3.目標

計画期間における基本的な目標
【持続可能な観光地域づくりの体制整備】
・持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数
令和7年までに100地域(うち国際認証・表彰地域 50地域)にする。【令和4年実績:12地域(うち国際認証・表彰地域 6地域)】

【インバウンド回復】
・訪日外国人旅行消費額
早期に5兆円にする。【令和元年実績:4.8兆円】
・訪日外国人旅行消費額単価
令和7年までに20万円にする。【令和元年実績:15.9万円】
・訪日外国人旅行者一人当たり地方部宿泊数
令和7年までに2泊にする。【令和元年実績:1.4泊】
・訪日外国人旅行者数
令和7年までに令和元年水準超えにする。【令和元年実績:3,188万人】
・日本人の海外旅行者数
令和7年までに令和元年水準超えにする。【令和元年実績:2,008万人】
・アジア主要国における国際会議の開催件数に占める割合
令和7年までにアジア最大の開催国(3割以上)にする。【令和元年実績:アジア2位(30.1%)】

【国内交流拡大】
・日本人の地方部延べ宿泊者数
令和7年までに3.2億人泊にする。【令和元年実績:3.0億人泊】
・国内旅行消費額
早期に20兆円、令和7年までに22兆円にする。【令和元年実績:21.9兆円】

4.施策

具体的な施策として、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策を提示しています。

1.持続可能な観光地域づくり戦略
2.インバウンド回復戦略
3.国内交流拡大戦略

5. その他

施策の点検・評価を行うとともに、観光庁が、関係省庁に対し、当該結果について施策に反映させるよう働きかけを行います。

観光政策・制度

このページに関するお問い合わせ

観光庁 観光戦略課
電話:03-5253-8322


持続可能な観光立国へ

2025年03月08日 12時34分40秒 | 社会・文化・政治・経済
観光・地域活性化研究会
観光は点(企業)から面(地域連携)への展開が不可欠です。地域活性化に欠かせないネットワークを研究しながら視察先や参加者、地域との「つながり」を構築しましょう。
研究リポート2024.04.08

観光の現状と今後の観光政策:観光庁

<button class="simplefavorite-button" data-postid="44243" data-siteid="1" data-groupid="1" data-favoritecount="0"></button>

【第1回の趣旨】
当研究会では、個(企業)から地域(地域活性化)へ展開し、収益モデルを創造することをメインテーマとし、「持続可能な社会」と「自社の持続的な成長」の両立を実現することを先進事例から学ぶ。
第1回では、地域の自然を生かし、地域活性化のビジネスモデルを構築している企業を紹介、また、観光庁、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局より講師2名をお招きし、日本における観光業の潮流や今後の展望、日本版CCRC(生涯活躍のまち)の実現に向けた観光政策に関する取り組み事例などをご講演いただいた。

開催日時:2024年2月22日(東京開催)

 

観光庁観光産業課 栃原 裕幸氏

 

観光庁観光産業課
栃原 裕幸 氏

 

 

はじめに

日本が人口減少・少子高齢化に向かっていく中で、生産年齢人口は大きく減少していくことが見込まれる。その中で、観光業が与える経済効果は非常に大きい。観光庁は、2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」を推進し、日本が観光立国として、持続可能な形での復活に向け、次の3つをキーワードに、持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大の3つの戦略に取り組んでいる。

①「持続可能な観光」 ②「消費額拡大」 ③「地方誘客促進」

今後は持続可能な形での観光立国の復活に向け、さらに官民一体となって観光政策の取り組みを推進していく。

まなびのポイント 1:観光産業の持つ力

2019年の訪日外国人旅行者は3188万人にまで達したものの、新型コロナウイルスの影響により2020年~2022年は大きく減少した。しかしながら、2022年10月の水際措置の緩和以降、訪日外国人旅行者数とその消費額も急激に回復している。

特に、訪日外国人(一般客)一人当たりの旅行支出が2019年同期比でも大きく伸びており、その中でも、特に宿泊費・飲食費の伸びが健著となっている。今後、訪日外国人旅行者数がコロナ前の水準まで戻った場合、さらなる消費拡大を見込める。また、国内の旅行需要も2019年水準まで戻ってきており、将来的には海外だけでなく国内の需要獲得に向けた、価値提供・差別化などの取り組みが重要となってくる。

まなびのポイント 2:観光業のさらなる成長に必要な課題

まず、コロナ禍を経て、旅行者の持続可能性への関心や、自然・アクティビティーに対する需要が高まっている。Booking.comが世界32カ国約3万人を対象とした調査(※)では、71%もの人が、「当面の旅行について、よりサステナブルな旅を心がけたい」との回答を得たのだ。しかしながら、観光需要の急速な回復により、交通渋滞やマナー違反などが発生しており、地域住民の生活に大きな影響が出ている。

 

また、宿泊業では労働環境などの影響で、他業種に比べても人手不足が深刻であり、日本で観光産業そのものが魅力ある産業に成長していくには、解決すべき課題が多く存在するのが現状である。

※出所:Booking.com”Sustainable Travel Report 2022” (2022年6月)

 

オランダでは、観光客参加型のプラスチックごみを回収する クルーズツアーが人気
オランダでは、観光客参加型のプラスチックごみを回収する クルーズツアーが人気

 

まなびのポイント 3:持続可能な観光地域とインバウンド

今後、観光産業が地域活性化の重要な施策となっていくことが予想される。その中で、①産業、②住民、③地域が一体となり地域そのものの成長への好循環を生み出す観光政策が重要だ。そのためにも、「いつか、誰かが」という発想を捨て、地域内で目指すべき方向性に対し理解を深めていくことが重要である。

 

中でも、「人材育成」は1つの大きなキーワードになってくる。特に、観光地全体の経営、観光地域づくりを担う「観光地経営人材」が、地域(DMO、自治体など)、国などステークホルダーを巻き込みながら、持続可能な観光地域づくりを実現することが必要となる。観光人材育成ガイドラインなどを活用し、持続可能な成長に向けた人材育成を推進していくことが求められている。

 

観光産業人材だけではなく、観光地経営人材の育成が成長の鍵となる
観光産業人材だけではなく、観光地経営人材の育成が成長の鍵となる

(出所:国土交通省観光庁『ポストコロナ時代における観光人材育成ガイドライン』)


子どもに未来がある

2025年03月08日 12時17分51秒 | 社会・文化・政治・経済

子ども一人ひとりが、家族の宝であり、社会の宝であり、未来の宝でであり、人類の宝である。

若き清新な生命の力を伸ばし、輝かせる。

ともあれ、自分らしく輝け!

自分らいく生き抜くのだ。

自分らしく前進するのだ。

「今日の自分から」「明日の自分へ」目標を掲げ、自分の使命の場所で未来を開くのである。

 

年の社会と子供たちの未来

 本「論点整理」は、2030年の社会と、そして更にその先の豊かな未来を築くために、教育課程を通じて初等中等教育が果たすべき役割を示すことを意図している。

 グローバル化は我々の社会に多様性をもたらし、また、急速な情報化や技術革新は人間生活を質的にも変化させつつある。こうした社会的変化の影響が、身近な生活も含め社会のあらゆる領域に及んでいる中で、教育の在り方も新たな事態に直面していることは明らかである。

 そこで本「論点整理」は、学校を、変化する社会の中に位置付け、教育課程全体を体系化することによって、学校段階間、教科等間の相互連携を促し、さらに初等中等教育の総体的な姿を描くことを目指すものである。

(1)新しい時代と社会に開かれた教育課程

  • 将来の変化を予測することが困難な時代(※1)を前に、子供たちには、現在と未来に向けて、自らの人生をどのように拓(ひら)いていくことが求められているのか。また、自らの生涯を生き抜く力を培っていくことが問われる中、新しい時代を生きる子供たちに、学校教育は何を準備しなければならないのか。

  • ※1  2030年には、少子高齢化が更に進行し、65歳以上の割合は総人口の3割に達する一方、生産年齢人口は総人口の約58%にまで減少すると見込まれている(補足資料7・8ページ参照)。同年には、世界のGDPに占める日本の割合は、現在の5.8%から3.4%にまで低下するとの予測もあり、日本の国際的な存在感の低下も懸念されている(補足資料9ページ参照)。
     また、グローバル化や情報化が進展する社会の中では、多様な主体が速いスピードで相互に影響し合い、一つの出来事が広範囲かつ複雑に伝播し、先を見通すことがますます難しくなってきている。子供たちが将来就くことになる職業の在り方についても、技術革新等の影響により大きく変化することになると予測されている。子供たちの65%は将来、今は存在していない職業に就く(キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授))との予測や、今後10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化される可能性が高い(マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授))などの予測がある。また、2045年には人工知能が人類を越える「シンギュラリティ」に到達するという指摘もある。このような中で、グローバル化、情報化、技術革新等といった変化は、どのようなキャリアを選択するかにかかわらず、全ての子供たちの生き方に影響するものであるという認識に立った検討が必要である。

新たな学校文化の形成

  • 我が国の近代学校制度は、明治期に公布された学制に始まり、およそ70年を経て、昭和22年には現代学校制度の根幹を定める学校教育法が制定された(※2)。今また、それから更に70年が経(た)とうとしている。この140年間、我が国の教育は大きな成果を上げ、蓄積を積み上げてきた。この節目の時期に、これまでの蓄積を踏まえ評価しつつ、新しい時代にふさわしい学校の在り方を求め、新たな学校文化を形成していく必要がある。
  • 予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である(※3)。
  • そのためには、教育を通じて、解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解ける力を育むだけでは不十分である。これからの子供たちには、社会の加速度的な変化の中でも、社会的・職業的に自立した人間として、伝統や文化に立脚し、高い志と意欲を持って、蓄積された知識を礎としながら、膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働(※4)しながら新たな価値を生み出していくことが求められる。学校の場においては、子供たち一人一人の可能性を伸ばし、新しい時代に求められる資質・能力を確実に育成していくことや、そのために求められる学校の在り方を不断に探究する文化を形成していくことが、より一層重要になる。

  • ※2 我が国の学校教育制度の変遷については、補足資料10・11ページ参照。
  • ※3 アラン・ケイ氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校准教授)は、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と述べている。
  • ※4 本「論点整理」においては、従来「共同」又は「協同」を用いている固有の語を除き、よりよい地域社会づくり等の目的のために力を合わせる際などに使われる「協働」の語を用いることとしている。

「学校」の意義

  • 子供たちに必要な資質・能力を育成していくため、今後の学校教育にはどのような役割が期待されるのだろうか。それを考えるためには、社会的変化を視野に入れつつ、教育の姿を総体的に描きながら、「学校」の意義についても今一度捉え直していく必要がある。
  • 学校とは、社会への準備段階であると同時に、学校そのものが、子供たちや教職員、保護者、地域の人々などから構成される一つの社会でもある。子供たちは、学校も含めた社会の中で、生まれ育った環境に関わらず、また、障害の有無に関わらず、様々な人と関わりながら学び、その学びを通じて、自分の存在が認められることや、自分の活動によって何かを変えたり、社会をよりよくしたりできることなどの実感を持つことができる。
  • そうした実感は、子供たちにとって、人間一人一人の活動が身近な地域や社会生活に影響を与えるという認識につながり、これを積み重ねることにより、地球規模の問題にも関わり、持続可能な社会づくりを担っていこうとする意欲を持つようになることが期待できる。学校はこのようにして、社会的意識や積極性を持った子供たちを育成する場なのである。
  • 子供たちが、身近な地域を含めた社会とのつながりの中で学び、自らの人生や社会をよりよく変えていくことができるという実感を持つことは、貧困などの目の前にある生活上の困難を乗り越え、貧困が貧困を生むというような負の連鎖を断ち切り未来に向けて進む希望と力を与えることにつながるものである。
  • このように考えると、子供たちに、新しい時代を切り拓(ひら)いていくために必要な資質・能力を育むためには、学校が社会や世界と接点を持ちつつ、多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる、開かれた環境となることが不可欠である。
  • こうした社会とのつながりの中で学校教育を展開していくことは、我が国が社会的な課題を乗り越え、未来を切り拓(ひら)いていくための大きな原動力ともなる。未曾有(みぞう)の大災害となった東日本大震災における困難を克服する中でも、子供たちが現実の課題と向き合いながら学び、国内外の多様な人々と協力し、被災地や日本の未来を考えていく姿が、復興に向けての大きな希望となった。人口減少下での様々な地域課題の解決に向けても、社会に開かれた学校での学びが、子供たち自身の生き方や地域貢献につながっていくとともに、地域が総がかりで子供の成長を応援し、そこで生まれる絆(きずな)を地域活性化の基盤としていくという好循環をもたらすことになる(※5)。ユネスコが提唱する持続可能な開発のための教育(ESD)(※6)も、身近な課題について自分ができることを考え行動していくという学びが、地球規模の課題の解決の手掛かりとなるという理念に基づくものである。
  • このように、学校は、今を生きる子供たちにとって、現実の社会との関わりの中で、毎日の生活を築き上げていく場であるとともに、未来の社会に向けた準備段階としての場でもある。日々の豊かな生活を通して、未来の創造を目指す。そのための学校の在り方を探究し、新しい学校生活の姿と、求められる教育や授業の姿を描き、教科等の在り方を探究していく。この俯瞰(ふかん)的かつ総合的な視点を大切にしたいと考えている。

  • ※5 こうした具体的な取組例については、補足資料167ページ参照。
  • ※6 補足資料168ページ参照。

社会に開かれた教育課程

  • そのためには、子供たちの学校生活の核となる教育課程について、その役割を捉え直していくことが必要である。学校が社会や地域とのつながりを意識する中で、社会の中の学校であるためには、教育課程もまた社会とのつながりを大切にする必要がある。学校がその教育基盤を整えるにあたり、教育課程を介して社会や世界との接点を持つことが、これからの時代においてより一層重要となる。
  • これからの教育課程には、社会の変化に目を向け、教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ、社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」としての役割が期待されている。
     このような「社会に開かれた教育課程」としては、次の点が重要になる。
    1. 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
    2. これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓(ひら)いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。
    3. 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。
  • このためには、教育課程の基準となる学習指導要領及び幼稚園教育要領(以下「学習指導要領等」という。)も、各学校が「社会に開かれた教育課程」を実現していくことに資するものでなければならない。
  • さらに、こうした教育課程の理念を具体化するためには、学習・指導方法や評価の在り方と一貫性を持って議論し改善していくことが必要である。本「論点整理」はこうした問題意識の下、学習指導要領等の在り方に留(とど)まらず、これからの教育の在り方全体を視野に入れて、教員の在り方や教育インフラ等についても取りまとめている。

世界をリードする役割

  • 本「論点整理」の姿勢は、上記のような総合的な視野からのカリキュラム改革を目指すものである。こうした改革は国際的な注目も集めているところであり、例えば、OECDとの間で実施された政策対話(※7)の中では、学力向上を着実に図りつつ、新しい時代に求められる資質・能力の向上という次の段階に進もうとしている日本の改革が高く評価されるとともに、その政策対話等の成果をもとに、2030年の教育の在り方を国際的に議論していくための新しいプロジェクトが立ち上げられたところである(※8)。こうした枠組みの中でも、日本の改革は、もはや諸外国へのキャッチアップではなく、世界をリードする役割を期待されている。

  • ※7 これまでに、平成27年3月3日(パリで開催)と6月29日(東京で開催)の2回実施。概要については補足資料28・29ページ参照。
  • ※8 補足資料204・205ページ参照。

日本の子供たちの学びを支え、世界の子供たちの学びを後押しする

  • 現在検討されている次期学習指導要領等は、過去のスケジュールを踏まえて実施されれば、例えば小学校では、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年から、その10年後の2030年頃までの間、子供たちの学びを支える重要な役割を担うことになる。
  • このように、教育の将来像を描くに当たって一つの目標となる2030年の社会の在り方を見据えながら、その先も見通した初等中等教育の在り方を示し、日本の子供たちの学びを支えるとともに、世界の子供たちの学びを後押しするものとすることが、今回の改訂に課せられた使命である。

(2)前回改訂の成果と次期改訂に向けた課題

前回改訂までの成果

  • 学習指導要領等については、これまでも、時代の変化や子供たちの実態、社会の要請等を踏まえ、数次にわたり改訂されてきた。例えば、我が国が工業化という共通の社会的目標に向けて、教育を含めた様々な社会システムを構想し構築していくことが求められる中で示された昭和33年の学習指導要領、また、高度経済成長が終焉(しゅうえん)を迎える中で個性重視のもと新しい学力観を打ち出した平成元年の学習指導要領等など、時代や社会の変化とともに、学習指導要領等も改訂を重ねてきた。改訂に当たっては、時代の変化や社会の要請などの読み取りを通して、将来への展望が問われてきた(※9)。
  • そこでは、学習指導要領等の成果と課題の検証を通じて、次の学習指導要領等を構築するという作業が重ねられてきており、そうした積み重ねの上に、学習指導要領等は築かれてきたのである。
  • 平成20年及び平成21年に行われた前回の改訂では、教育基本法の改正により明確になった教育の目的や目標を踏まえ、子供たちの「生きる力」の育成をより一層重視する観点から見直しが行われた。
  • 特に学力については、学校教育法第30条第2項に示された「基礎的な知識及び技能」、「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」及び「主体的に学習に取り組む態度」の、いわゆる学力の三要素から構成される「確かな学力」をバランス良く育むことを目指し(※10)、教育目標や内容が見直されるとともに、習得・活用・探究という学習過程の中で、学級やグループで話し合い発表し合うなどの言語活動(※11)や、他者、社会、自然・環境と直接的に関わる体験活動等を重視することとされたところである。
  • これを踏まえて、各学校では真摯な取組が重ねられており、その成果の一端は、近年改善傾向にある国内外の学力調査の結果にも表れていると考えられる(※12)。
     また、幼児教育についても、教育基本法の改正によりその基本的な考え方が明確にされ、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、子供の主体性を大事にしつつ、一人一人に向き合い、総合的な指導を通じて、学校教育の一翼を担ってきている。
  • このような成果を踏まえれば、前回改訂において重視された学力の三要素のバランスのとれた育成や、各教科等を貫く改善の視点であった言語活動や体験活動の重視等については、その成果を受け継ぎ、引き続き充実を図ることが重要であると考える。

  • ※9 学習指導要領の変遷については、補足資料12ページ参照。
  • ※10 「学力の三要素」については、補足資料13ページ参照。
  • ※11 言語活動の位置付け、成果や課題等については、補足資料14・15ページ参照。
  • ※12 補足資料16・17ページ参照。

次期改訂に向けての課題

  • こうした真摯な取組が着実に成果を上げつつある一方で、我が国の子供たちについては、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・考察し説明したりすることなどについて課題が指摘されること(※13)や、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いこと(※14)など、子供が自らの力を育み、自ら能力を引き出し、主体的に判断し行動するまでには必ずしも十分に達しているとは言えない状況にある。

  • ※13 補足資料18~20ページ参照。
  • ※14 補足資料22・23ページ参照。
  • それは、社会において自立的に生きるために必要な力として掲げられた「生きる力」を育むという理念について、各学校の教育課程への、さらには、各教科等の授業への浸透や具体化が、必ずしも十分でなかったところに原因の一つがあると考えられる。
  • 前回改訂時の答申に示されたように、21世紀は、新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代である。こうした社会像についての認識を継承しつつ、さらにこれからは、グローバル化や情報化をはじめとした社会の加速度的な変化にどのように向き合い関わっていくのかが問われなければならない。将来の予測が困難な複雑で変化の激しい社会の中で求められる力の育成を、各学校の教育課程や各教科等の授業まで浸透させ具体化していくことが、これまで以上に強く求められることになる。
  • そこで、「社会に開かれた教育課程」の視点に立ち、社会の変化に向き合い適切に対応していくため、学校教育を通じて育むべき資質・能力を教育課程全体の構造の中でより明確に示し、それらを子供たちが確実に身に付けることができるよう、教育課程の全体像を念頭に置きながら日々の教育活動を展開していくことが求められている。
  • そのためにはまず、各教科等の在り方を考える際に、教育課程の要素全体が相互に有機的に関係し合って機能しているかどうかが問われなければならない。改訂を重ねるごとに各教科等の独自性が増していく状況に対して、果たして教育課程が、学校全体の教育活動のバランスや調和といった観点から、その総体的な意義や存在感をどこまで示しているか、学校教育目標の達成にどのような役割を果たしているかを検討する必要がある。
  • 前回改訂においては、各教科等を貫く改善の視点として言語活動の充実を掲げ、教科等の枠を越えた具体的な展開を求めたことによって、一定の成果は得られつつある。そこでさらに、教育課程の全体像を念頭に置いた教育活動の展開という観点から、一層の浸透や具体化を図る必要があり、それには、学習指導要領等やそれを基に編成される教育課程の在り方について、更なる見直しが必要と考えられる。
  • つまり、これまでの学習指導要領は、知識や技能の内容に沿って教科等ごとには体系化されているが、今後はさらに、教育課程全体で子供にどういった力を育むのかという観点から、教科等を越えた視点を持ちつつ、それぞれの教科等を学ぶことによってどういった力が身に付き、それが教育課程全体の中でどのような意義を持つのかを整理し、教育課程の全体構造を明らかにしていくことが重要となってくる。
  • 目指す方向は、教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科等間の相互の関連を図ることによって、それぞれ単独では生み出し得ない教育効果を得ようとする教育課程である。そのために、教科等の意義を再確認しつつ、互いの関連が図られた、全体としてバランスのとれた教育課程の編成が課題とされるのである。
  • こうした方向性に基づき、各学校が目指す教育目標を教育課程として具体化し、これまでの学力向上に向けた真摯な取組の成果をさらに伸ばしつつ、学校生活において子供たちが身に付ける資質・能力全体に目を向け、教育実践の工夫や改善を図っていくことができるよう、そのための手掛かりとなり得る学習指導要領等が求められている。
  • 以上のように、前回改訂の成果を受け継ぎながら、次期学習指導要領等が役割を担うこととなる2030年頃までの変化を見据えつつ、その先もさらに見通しながら、学習指導要領等の在り方について持続的な見直しを図り、学習指導要領等を構造化していくとともに、その構造を各学校が十分に理解した上で教育課程を編成できるようにすることが、次期改訂に向けた大きな課題である。

 

 


トランプ大統領 関税を正当化

2025年03月08日 12時13分26秒 | 社会・文化・政治・経済

【詳しく】トランプ大統領 “前政権の政策転換 関税など推進”

アメリカのトランプ大統領は今後の施政方針を示す演説を連邦議会で行い、政権発足以降、バイデン前政権の政策を転換してきたと強調した上で、関税措置など、今後も自身が主張する政策を推し進める考えを示しました。

目次

<button class="content--accordion--open js-accordion-open" aria-controls="accordion-07abfc87-ff12-45ed-9104-e34bf2208fc4" aria-expanded="false" aria-selected="false">目次を開く</button>

演説ノーカット動画(1時間39分)

<iframe src="https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250305/movie/k10014739941_202503051449_202503051511.html" allowfullscreen="allowfullscreen"></iframe>
同時通訳 日比美和子・松浦世起子

データ放送ではご覧になれません

トランプ大統領は4日、連邦議会の上下両院の合同会議で、2期目の就任後では初めてとなる、今後1年間の施政方針を示す演説を行いました。演説はおよそ1時間40分におよび、アメリカメディアによりますとこれまでで最長だったということです。

演説でトランプ大統領は、バイデン前大統領を「アメリカ史上最悪の大統領」と呼び、前政権の国境管理やインフレへの対応などを強く批判しました。

そして「政権発足以降の6週間で、100近い大統領令に署名した」と述べて、多様性などの理念を推進する政策の廃止や地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱など、前政権が進めた政策を次々と転換してきたと強調しました。

またトランプ大統領は「数え切れない国々がわれわれよりもはるかに高い関税を課してきている。非常に不公平だ」と不満を述べて、自身が相次いで実行に移している他国からの輸入品に対する関税措置の正当性を主張しました。

その上で関税措置のほか、不法移民対策やエネルギー分野などで、今後も自身が主張する政策を推し進める考えを示しました。

さらにトランプ大統領はロシアによるウクライナ侵攻について「私はウクライナでの残忍な紛争を終わらせるために、休むことなく働いている」と述べて停戦の実現に意欲を示しました。

トランプ大統領の演説中、議場では、与党・共和党の議員からたびたび大きな歓声と拍手があがりました。

一方、野党・民主党の議員の多くは席に座ったまま無言で演説を聞く姿が目立ち、一部の議員はプラカードを掲げて抗議するなどトランプ大統領の政権運営をめぐり、対立した状況が浮き彫りとなりました。

「相互関税」4月2日から発動

トランプ大統領は演説の中で、みずからの政権下では「アメリカ国内で生産していない企業は関税を支払うことになり、場合によってはかなり高額になることもある」と述べました。

その上で「数え切れないほど多くの国々がアメリカが課している関税よりもはるかに高い関税を課している。これは非常に不公平だ」と述べて、貿易相手国がアメリカに対して高い関税を課している場合、その国からの輸入品への関税を同じ水準に引き上げる「相互関税」を4月2日に発動すると表明しました。

その際、EU=ヨーロッパ連合や中国、ブラジル、メキシコ、カナダ、韓国などを名指しして批判しました。

また、トランプ大統領は相手国が関税以外の手段でアメリカをその国の市場から排除しようとするなら、アメリカも同様の手段で対抗するという方針を示しました。

日本については直接的な言及はなく、日本が対象になるかどうかは不明です。

トランプ大統領は相互関税の導入によって「アメリカは何兆ドルもの利益をあげかつてないほどの雇用を創出するだろう」と導入の必要性を強調しました。

一方、今月4日から25%の関税を課したメキシコとカナダをめぐってはフェンタニルなどの薬物がかつてない水準でアメリカに流入しているとして「両国はこれまで以上のことをやる必要がある」と述べて対策の徹底を求めました。

ゼレンスキー大統領から書簡“いつでも署名する用意”

トランプ大統領はウクライナ情勢について、ゼレンスキー大統領から書簡を受け取ったことを明らかにし「ウクライナは、鉱物資源や安全保障をめぐる合意についていつでも署名する用意があるということだ」と述べました。

書簡では、このほか、ウクライナが恒久的な平和をもたらすために 早期に交渉のテーブルに着く用意があることや、ウクライナの主権や独立を維持するためのアメリカの支援を高く評価することなどが盛り込まれていたということです。

そのうえでトランプ大統領は「ゼレンスキー大統領が書簡を送ってくれたことを感謝している」と述べ謝意を示しました。

両国をめぐっては、先月28日に行われたホワイトハウスでの首脳会談で激しい口論に発展し、鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名が見送られたほか、トランプ政権は、ウクライナへの軍事支援を一時停止したことを明らかにしていて、今回の書簡をきっかけに、関係の改善につながるのかが焦点です。

また、トランプ大統領は演説で「われわれはロシアとも真剣に協議し、ロシアから和平の準備ができているという強いシグナルを受け取った」と述べていて、早期の停戦の実現に向けて、交渉が進展するのかも注目されます。

米メディアの評価分かれる

アメリカのトランプ大統領が4日に連邦議会で行った演説について、アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは「トランプ大統領の支持者には傲慢で楽観的なメッセージを、支持しない人たちには悲観的で絶望のメッセージを示した」と伝えました。

また、トランプ大統領の発言にはウクライナへの支援額など誤解を招くものや事実かどうか疑わしい主張があったと指摘し、26か所を挙げています。

政治専門サイト「ポリティコ」は、トランプ大統領の1期目の2017年に行われた施政方針を示す演説と比較し、「最初の演説では、混乱した選挙戦のあと、すべてのアメリカ人の大統領になろうと試みて、団結や超党派の連携を示した。それとは全く対照的だ」として大統領選挙でのみずからの支持者に向けた演説を思い起こさせるものだったと伝えています。

アメリカのCNNテレビは、「トランプ大統領はもはや選挙に立候補しているわけではないが、いつまでも選挙戦モードであることを浮き彫りにした」としています。

一方、アメリカのFOXニュースは、「トランプ大統領は偉大な時代になるだろうと約束した」というタイトルの記事で、「トランプ大統領は不法移民の入国を減少させたことなどこの6週間のうちに政権が達成したことを誇示した」と伝えています。

CBSテレビは、直後に行った世論調査として、トランプ大統領の演説をみた人の中で「支持する」と答えたのが76%、「支持しない」と答えたのが23%だったとしています。

ただ、演説を見た視聴者は民主党支持者が20%だったのに対し、共和党支持者が51%と共和党の支持者が多かったとしています。

一方、ホワイトハウスは、ウェブサイトに共和党の議員などからの演説をたたえる声などを紹介し、「トランプ大統領は就任後の最初の6週間の目覚ましい成果を強調し、今後4年間の繁栄への道筋を示す力強くすばらしい演説を行った。演説は幅広く称賛された」と強調しています。

==演説を詳しく==

 

「黄金時代の幕開け」

トランプ大統領は「アメリカは戻ってきた。6週間前、私はこの議事堂に立ち、アメリカの黄金時代の幕開けを宣言した。その瞬間から、歴史上最も偉大で最も成功した時代を切り開くため、迅速かつ容赦ない行動を続けてきた。われわれは43日間で、ほとんどの政権が4年または8年で達成した以上のことを成し遂げた」と述べました。

「アメリカが勢い取り戻した」

トランプ大統領は「わたしは今夜この議場に戻り、アメリカが勢いを取り戻したことを報告する。われわれの精神が、誇りが、自信が戻ったのだ。そしてアメリカンドリームはこれまで以上に大きくすばらしいものとして膨れ上がっている。アメリカンドリームは止めることはできない。わたしたちの国は世界がこれまで目にしたことがない、そしてこれからも目にすることがないような復活を果たそうとしている」と述べました。

議長が民主下院議員に退出呼びかけ

 

トランプ大統領の演説中にジョンソン下院議長が議会の秩序を乱したとして野党・民主党のグリーン下院議員に対して議会からの退出を呼びかけ、グリーン下院議員は退出しました。

「バイデン 史上最悪の大統領」

トランプ大統領は「アメリカ史上最悪の大統領であるジョー・バイデンのもとでは、毎月多くの不法入国があり、殺人犯や麻薬の売人、ギャングのメンバー、それに精神科の患者などを含む そのほとんどすべてが私たちの国に入ってきていた」と述べました。

「違法の国境越え 最低水準に」

トランプ大統領は「私は、わが国への侵略を撃退するためにアメリカ軍と国境警備隊を配備した。その結果、どんな仕事をしたのか。先月の違法な国境越えは、これまでで最も低い水準だった」と述べました。

「最も成果のある1か月」

トランプ大統領は「現代の歴史において初めて、アメリカ国民のなかで国は正しい方向に進んでいるという考えが間違った方向に進んでいるという考えより多くなった。選挙のあとだけを見ても驚くべき記録である27ポイントの揺り戻しだ。過去最大だ。同じように中小企業による楽観的な見通しも記録上最大となる1か月で41ポイントの増加を見せた。このすばらしい国の至る所に常識、安全、楽観主義、そして富を回復するため私はこの6週間で、100近い大統領令に署名した。国民は仕事をさせるために私を選び私はそれを実践している。実際、私の就任後の1か月は、国の歴史上最も成果のある1か月だったと多くの人が言っている」と述べました。

「多様性・公平性政策の横暴 終わらせた」

トランプ大統領は「いわゆる多様性や公平性などに関する政策の横暴を終わらせた。連邦政府全体、そして民間や軍でもだ」と述べました。

「連邦職員 出勤するか 職解かれるか」

トランプ大統領は「すべての連邦職員に職場に戻るよう命じる。彼らは出勤するか、その職を解かれるか、そのどちらかになる」と述べました。

「職員雇用 政府規制 対外援助を凍結」

トランプ大統領は「日々、私の政権はアメリカが必要とする変化、アメリカにふさわしい未来をもたらすため、闘っている。大きな夢を掲げ大胆な行動をとるべき時だ。就任後、私は即時にすべての連邦職員の雇用、新たな連邦政府の規制、すべての対外援助を凍結した」と述べました。

「最優先事項は経済救うこと」

トランプ大統領は「私の最優先事項の1つは経済を救い、労働者に素早く救済の手を差し伸べることだ。私たちは前の政権から経済の大混乱とインフレの悪夢を引き継いだ。前政権の政策はエネルギー価格を高騰させ、食料品の価格を押し上げ、何百万人ものアメリカ人にとって生活必需品が手の届かないものになった。大統領としてアメリカを再び手ごろな価格でモノが買える国にするために毎日、賢明に取り組んでいる」と述べました。

「アラスカでLNGパイプライン建設 日本の参画望む」

トランプ大統領は「私の政権はアラスカ州で世界最大級のLNG=液化天然ガスのパイプラインの建設に取り組んでいる。日本、韓国、そのほかの国々が何兆ドルもの資金を投じてパートナーとなることを望んでいる。本当にすばらしいものになるだろう」と述べました。

「非常識なEV政策廃止」

トランプ大統領は「われわれはアメリカを安全でなく、(エネルギー価格を)手の届かないものにしたバイデン政権の環境規制をすべて廃止した。重要なことは非常識なEV=電気自動車の購入についての助成を廃止し、自動車産業の労働者とメーカーを経済的な危機から救ったことだ」と述べました。

「相互関税 4月2日に発動」

トランプ大統領は、演説で貿易相手国がアメリカに対して高い関税を課している場合、その国からの輸入品への関税を同じ水準に引き上げる「相互関税」を4月2日に発動すると述べました。

トランプ大統領は「相手国がアメリカに課す関税と同じ関税をアメリカも課す。これは相互主義だ」と述べました。

その上で相互関税の導入によって「アメリカは何兆ドルもの利益をあげかつてないほどの雇用を創出するだろう」と述べました。

演説中にマスク氏紹介

 

トランプ大統領は議場に入ると与党・共和党議員から大きな歓声と拍手で迎えられ、求めに応じて一人ひとりと握手をしたり、ことばを交わしたりしていました。

演説中、トランプ大統領がことばを強調するたびにバンス副大統領やジョンソン下院議長などが立ち上がって拍手をしたり、会場から「USA」と歓声があがったりする場面もありました。

一方、野党・民主党議員の多くは席に座ったまま無言で演説を聞いていました。

またトランプ大統領が支出の削減を進めるDOGE=「政府効率化省」を設置したと強調した上で、DOGEを率いるイーロン・マスク氏を紹介するとマスク氏は立ち上がり、議場からの歓声に応えていました。

「パリ協定・WHOから離脱」

トランプ大統領は「私は、ほかの国々が支払っていない何兆ドルもの費用を負担させていた不公平なパリ協定から離脱した。腐敗したWHO=世界保健機関からも離脱した。そして、反米的な国連の人権理事会からも離脱した」と述べました。

「政府効率化省 ”支出のむだ”数千億ドルを発見」

トランプ大統領は演説の中でイーロン・マスク氏が率いる政府支出の削減策を検討する組織、DOGE=政府効率化省が支出のむだだとする18の事業を確認したと指摘しました。

そのうえで「あまりにもひどいことだ。ほかにも多くのことがイーロンが率いる非常に賢い主に若い人たちによって発見され、世にさらされ、迅速に停止されている。われわれは数千億ドルを発見し、インフレなどとたたかうために金を取り戻し、借金を減らした。これは始まりにすぎない」と述べました。

「米第一主義で巨額投資もたらされた」

トランプ大統領は「アメリカ第一主義のおかげでこの数週間で1兆7000億ドルもの新規投資がアメリカにもたらされた。選挙と経済政策の組み合わせでソフトバンクグループはオープンAIなどに巨額の投資を発表した」と述べました。

「変革に抵抗の官僚排除」

トランプ大統領は「無責任な官僚機構から権力を奪い返し、アメリカに民主主義を取り戻す。変革に抵抗する官僚はすぐに排除する」と述べました。

財政赤字 解消に意欲

トランプ大統領は「近い将来、私はこの24年間、誰も成し遂げられなかったことをしたい。連邦予算をバランスさせることだ」と述べ財政赤字の解消に意欲を示しました。

「残忍な紛争 終わらせる」

トランプ大統領は「私はウクライナでの残忍な紛争を終わらせるために、休むことなく働いている」と述べました。

「ロシア 和平の準備できている」

トランプ大統領は「われわれはロシアとも真剣に協議し、ロシアから和平の準備ができているという強いシグナルを受け取った」と述べました。

「ウクライナは鉱物・安保合意に署名する用意」

トランプ大統領は「きょう、私はウクライナのゼレンスキー大統領から重要な書簡を受け取った。ウクライナは、恒久的な平和をもたらすためにできるだけ早く交渉のテーブルに着く用意があるということだ。ウクライナは、鉱物資源や安全保障をめぐる合意についていつでも署名する用意がある」と述べました。

「米 ウクライナ防衛に多くの資金提供 欧州は…」

トランプ大統領は「アメリカはウクライナを防衛するため多くの資金を提供してきた。一方、ヨーロッパは悲しいことに、ウクライナの防衛に費やした金額よりも、ロシアの石油とガスを購入するために費やした金額のほうがはるかに多い。そして、バイデン前大統領はヨーロッパが費やした以上の資金をこの戦闘に使うことを承認した」と述べました。

「環境・食べ物から有害物質取り除き 子どもを健康に」

トランプ大統領は「1975年以降、子どものがんが増加している」とした上で「この傾向を逆転させることがロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官が率いる新しい委員会の最優先事項のひとつだ。われわれの目標は環境中や食べ物から有害物質を取り除き、子どもたちを健康で強くすることだ」と述べました。

「パナマ運河を取り戻す」

トランプ大統領は「パナマ運河を取り戻す。すでに着手している。まさにきょう、アメリカの企業がパナマ運河周辺の港などを買収すると発表した」と述べました。

「米の造船業を復活させる」

トランプ大統領は「国防産業基盤を強化するために、商船や軍艦を含むアメリカの造船業を復活させる。このため私は今夜、ホワイトハウスに造船に関する新たな部署を設置し、この産業を再びアメリカ国内に戻すために特別な税制優遇措置を講じることを発表する」と述べました。

「グリーンランドは安全保障面で必要」

トランプ大統領は「グリーンランドのすばらしい人たちにメッセージがある。もしあなたたちが選ぶならわれわれはアメリカに迎え入れる。われわれはグリーンランドを安全保障面で必要としている」と述べました。

「減税法案可決で史上最高の経済へ」

トランプ大統領は「史上最高の経済を実現するための次の計画は国民のために議会が減税の法案を可決することだ」と述べました。

法案には1期目の政権で導入した所得減税を恒久化することや飲食店の従業員などが受けとるチップや残業代への課税の廃止、国内で生産する製造業への減税などが含まれているとしています。

「火星に星条旗を立てる」

トランプ大統領は「今後4年間で、われわれはこの国をさらに高いレベルへと導き、地球上に存在したことがなかったような、最も自由で進歩し、最も活力に満ちて、支配的な文明を築き上げるつもりだ」としたうえで「われわれは人類を宇宙へと導き、火星に星条旗を立て、さらにその先に行く」と述べました。

野党・民主党 「関税引き上げは逆効果」

トランプ大統領の今後の施政方針を示す演説に対して、野党・民主党からは、CIA=中央情報局や国防総省で勤務した経歴を持つスロトキン上院議員が反対演説を行いました。

地元ミシガン州から演説したスロトキン氏は「国民は変化を求めた。しかし、変化を起こすには、責任ある方法と無謀な方法がある」と述べました。

そのうえでトランプ大統領の経済や通商政策をめぐって、関税の引き上げはさらなる物価の高騰を招くおそれがあるなどとして、逆効果だと批判しました。

また、外交や安全保障政策を巡っても「トランプ大統領は『力による平和』ということばを好んで使う。レーガン大統領のまねだ。しかし、先週、大統領執務室で起きたことを見たらレーガン大統領は墓の中で怒っているにちがいない。われわれは皆、ウクライナでの戦争の終結を望んでいる。しかし、レーガン大統領は、本当の強さは、軍事力、経済力とともにモラルが必要だと理解していた。トランプ大統領は、プーチンのような独裁者にすり寄る一方、カナダのような友人をけなすことを信条としている」と非難しました。

民主党 女性議員はピンク色の上着で抗議

野党・民主党の女性議員の一部はピンク色の上着などを着てトランプ大統領の政策に抗議の姿勢を示していました。

また男性の議員の中にもピンクのネクタイを着用して抗議に加わる人の姿が見られました。

アメリカメディアによりますとピンクの服を着る意味について、民主党の女性議員でつくる団体の代表は「ピンクは力と抗議の色で、女性や家族に悪影響を及ぼしているトランプ大統領の政策に対する抗議の意思を示すためだ」と説明しているということです。

またトランプ大統領の演説中には与党・共和党の議員が立ち上がって拍手を送るなか、民主党議員の一部は「誤り」という意味がある「FALSE」など と書かれたプラカードを掲げて抗議していました。

林官房長官「相互関税は精査し適切に対応」

林官房長官は午後の記者会見で「幅広いテーマでトランプ大統領の考えを示すものだった。『相互関税』は日本が対象になるべきでないと申し入れながら意思疎通を行っており、措置の具体的な内容や影響を十分に精査し、適切に対応していく」と述べました。

また、トランプ大統領が関税に言及した際、中国やブラジルなどを名指しして批判したことをめぐり「わが国への言及がなかったことは留意している」と述べました。

LNG=液化天然ガスのパイプラインに対する日本などからの投資に期待を示したことについては「供給源の多角化にも貢献することから、LNGのさらなる購入について経済性や供給の開始時期などを踏まえ官民で検討する。日米双方の利益につながる議論が積み重ねられるよう必要な環境整備を行っていく」と述べました。

一方、ウクライナ情勢に関する発言をめぐっては「アメリカとウクライナの協議の行方を注視したい。アメリカを含む各国の外交努力が、戦闘行為の終結やウクライナの公正かつ永続的な平和の実現につながることが重要だ」と述べました。

中国外務省「“中国が運河支配している”は全くのでたらめ」

トランプ大統領が施政方針を示す演説で「パナマ運河を取り戻す」などと発言したことについて、中国外務省の林剣報道官は5日の記者会見で「中国は運河に対するパナマの主権を支持し、運河が恒久的に中立な国際航路として維持されるよう努めている」と述べました。

そのうえで「中国はこれまで運河の管理・運営に関与したことはなく、干渉もしていない。『中国が運河を支配している』という主張は全くのでたらめだ」と強調しました。

あわせて読みたい


教育 闇バイトに巻き込まれないために

2025年03月08日 12時08分40秒 | その気になる言葉

〈教育〉 闇バイトに巻き込まれないために2025年3月6日 聖教新聞

恐ろしさを知り隙をつくらない対策を
社会学者 廣末登さん

 近年、「闇バイト」が社会問題となっています。10代の子が関わった事例も少なくありません。巻き込まれないためのポイントについて、書籍『あの時こうしなければ……本当に危ない闇バイトの話』(金の星社)の監修を務めた、社会学者の廣末登さんに聞きました。

 
■破滅への一方通行

 闇バイトとは、特殊詐欺の「受け子」や「出し子」、強盗の実行役、違法売買の運び屋、などといった犯罪行為に従事して報酬を得ることです。

 「バイト」というネーミングが犯罪の印象を薄め、警戒されにくいのかもしれません。だからこそ、“闇バイトは犯罪だ”という認識を訴え続けていく必要があります。

 警察庁の発表によると、2023年に摘発された特殊詐欺の実行役のうち、4割以上がSNSの闇バイト募集情報を通じて加担していました。

 闇バイト経験者に「捕まると思わなかったのか」と問うと、「捕まる可能性は五分五分と思ったが、途中でやめられなかった」と多くの若者が回答していました。

 本人は、一度きりの仕事で金銭的な困窮や急場をしのぎたいと考えたのかもしれません。しかし実際は、闇バイト応募時に顔写真や身分証明書の写真を送るように犯罪組織から要求されるため、一度関与したら抜けられないシステムになっています。犯罪組織にとっては、“個人情報をつかめばこっちのもの”なのです。

 闇バイトの怖さは、“破滅への一方通行”という点にあります。一度手を出せば引き返すことはできません。私は「闇バイトはワンストライク、バッターアウト」と伝えます。野球ではストライクが3回入らないとアウトになりませんが、闇バイトは一度でも手を出すと、人生が終わってしまうからです。

 よく「末端の実行役だから捕まっても罪が軽い」と思っている人がいます。しかし、それは違います。末端の実行役がいなければ犯罪は成立しないため、捕まれば厳罰を受けます。

 例えば特殊詐欺で逮捕されれば初犯でも実刑を受け、刑務所などの刑事施設に収容されるでしょう。さらに、銀行口座も持てなくなるなどの社会的制裁が加わります。

 
■高額とは限らない

 闇バイトの勧誘は大きく分けて二つあります。一つは地元の地縁関係に基づくもの。もう一つはSNSを通した非対面のものです。

 かつては、地元の怖い先輩などに誘われて断れずに犯罪に手を染めるケースが多かったと思います。そういう人たちと関わらない、盛り場などに近づかないことが対策になりました。

 しかし、近年はSNSを使って勧誘されるケースがかなり増えてきています。極端なことを言えば、家から一歩も出なくても、スマホを通じて闇バイトに応募すれば犯罪に巻き込まれてしまうのです。

 そもそも、現代の子どもたちは買い物なども一から十までネット上で済ませることに慣れています。親世代のように“大事なことは対面、無理ならせめて電話で”という意識はないかもしれません。顔を合わせずに済むならその方が楽。そう考えるのは犯罪組織側も同じです。

 SNSのやりとりだけで済むということは、相手にとっては“都合の悪い所をぼかせる”ということです。自分が手軽だと感じたら、それだけ相手にとっても手軽だということを忘れないでほしいのです。

 その意味では、怪しい電話番号かどうか確認してみたり、会社が実在するかどうか調べてみたりする、“ちょっとした労を惜しまない”。それが、犯罪に巻き込まれるのを未然に防ぎ、相手に付け入る隙をつくらないことにもつながります。

 求人募集のメールや広告に「高額」「即日現金」「簡単」「運ぶだけ」「渡すだけ」というような文言があったら、まずは疑いましょう。「裏バイト」「絶対に捕まらない」などと書いてあったら問題外です。

 闇バイトの募集は見分けにくくなってきています。健全な求人サイトに出ていた「夜道で猫を捜すバイト」の求人が、内容的に闇バイトの募集ではないかと話題になりました。最近では、怪しまれないために、報酬をあえて高額にしないケースも増えています。

 犯罪グループから見れば、闇バイトは捨て駒でしかありません。捕まったら切り捨てるだけ。世間が思い描く闇バイトの誘われ方が定着してくると、それを少しずつ変化させながら、募集し続けるのです。

 
■スマホのチェック

 子どもが闇バイトに巻き込まれないために親ができることは何か。私は、闇バイトにつながる手段で最も手軽なスマホの利用状況を、まずは定期的にチェックすることだと思っています。子どもにスマホを買い与える際には、「親が定期的にチェックすること」など、ルールを一緒に決めてから持たせるのが理想です。

 チェックしてほしいのは、闇バイトで悪用されている匿名性の高い「テレグラム」や「シグナル」などのアプリが入っているかどうかです。もしあった場合には警戒が必要です。

 また、一般的によく使われるLINEやX(旧ツイッター)でも、おかしな内容のやりとりがされていないか、チェックすることをおすすめします。

 チェックができなかったとしても、次のような兆候があったら闇バイトに関わっている可能性があります。


①高価なブランド品を所持するなど、持ち物が変化した

②スーツなど、普段着慣れていない服装で外出する

③帰宅時間が遅い、外泊が増えた

④部屋に見知らぬ卒業アルバムや名簿がある

⑤携帯端末を複数台所持している


 もし、このような兆候が子どもに見られたり、あるいはすでに闇バイトに巻き込まれていたりしたら、すぐに相談しましょう。

 申し込もうとしているバイトが闇バイトかどうか迷った時でも構いません。

 いきなり警察に相談するのはハードルが高いと感じる方もいるかもしれません。そういった場合は、各都道府県にある少年サポートセンター(一部地域では少年センター、ヤング・テレホン・コーナー)に相談することをおすすめします。

 大事なことは、ためらわず、できるだけ早く相談することです。それにより、早期発見や被害を最小限に抑えることにつながります。

 何かあった時に家族に相談できない状態が、事態をより深刻化させてしまうこともあります。脅されて言えない場合もあります。何よりも大事なことは、家庭での日頃からの関わりです。ぜひ、子どもとの関わりのなかで、できる予防策から実践していただけたらと思います。

 
《 怪しい兆候があったらすぐ少年サポートセンターに電話 》
廣末さん監修『ハンディ版 あの時こうしなければ……本当に危ない闇バイトの話』(金の星社)
廣末さん監修『ハンディ版 あの時こうしなければ……本当に危ない闇バイトの話』(金の星社)
 

 

 


人工光合成とは

2025年03月08日 11時58分29秒 | 社会・文化・政治・経済

人工光合成

とは?

科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

人工光合成とは?

人工光合成とは、植物のメカニズムを模倣し、太陽光を化学エネルギーに変換する技術のことです。第4の太陽エネルギー活用法とも言われ、水と光を原料にエネルギーや有用化学物質を生み出す技術として期待されています。産総研は、世界で初めて可視光での水分解や、世界最高水準の粉末光触媒・光電極のエネルギー変換技術の開発を通じ、高効率で経済性のある人工光合成システムの実用化を目指しています。

植物の光合成の仕組みをまねるところから始まったこの技術は、太陽光発電とは異なるエネルギー生産方法として期待されています。30年にわたり第一線で研究を続けるゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)では、2023年に太陽光を利用して水を高い効率で分解し、水素や酸素を生成することができる窒化タンタル光電極の理論解明の成果を発表しました。このように、最新のテクノロジーを活用することで実用化に向けた研究開発を加速させています。首席研究員で人工光合成研究チームの佐山和弘チーム長 に「人工光合成の現在と課題」を聞きました。

Contents

人工光合成の現在地

人工光合成とは

 人工光合成を一言で表すと、太陽エネルギーを化学エネルギーに直接変換し蓄積する技術です。植物の葉緑体が行う、水と二酸化炭素を材料に酸素と糖を生産する働きと同じことをしています。植物が行うことを天然の光合成とすると、人が道具を使って行うので、人工光合成と呼ばれます。

太陽エネルギーを直接利用できる技術は非常に限られています。これまでは太陽電池、バイオマス、太陽熱利用の3種類とされてきました。

  • 太陽電池…光起電力効果を利用した発電方法。太陽光を電気に変換する。
  • バイオマス…動植物から生まれた生物資源。直接燃やしたり、これを材料として作った燃料を用いたりして発電する。
  • 太陽熱利用…太陽光で温めた水や溶媒を発電や給湯に利用することなどで、エネルギー消費量を減らす。

 人工光合成は太陽光を直接水素などのエネルギーに変換し、これまでの方法では難しかったエネルギーの貯蔵も可能にする技術として非常に有望です。

 研究は1970年代前半、オイルショックのころから行われており、1980年ごろにはやっと4種類くらいの水分解用の光触媒が報告されていました。光合成といえば漠然と日光での反応をイメージしますが、当時はいずれも紫外線を用いるものでした。可視光線での人工光合成は2001年に産総研が発表したものが世界初となりました。(2001/12/6プレスリリース

 それまでの研究では、1種類の光触媒プロセスで光合成反応を完結する方法が模索されていました。しかし、天然の光合成は2段階の光吸収プロセスで構成されています。そこで、産総研ではこの仕組みをまねすることで、世界で初めて可視光による人工光合成を可能にしたのです。この分野では現在も日本の研究が世界をリードしています。

人工光合成の実験風景写真
人工光合成の実験風景

 

人工光合成のデメリット解消に向けて

 太陽エネルギーの利用方法で最も普及しているのは太陽電池(太陽光発電)でしょう。時計や街灯、電卓の電源として、また、アウトドアや災害時の補助バッテリーとして暮らしの中に浸透しています。大規模な太陽光発電システムを目にする機会も増えました。これらの一般的な太陽電池では光を電気に変換する割合(エネルギー変換効率)が20 %程度と言われています。

 対して、人工光合成では形式や反応の種類によって異なりますが、変換効率3 ~10 %以上を目標に研究が進められています。

 産総研では、ビスマス系やタングステン系の光触媒を用いていますが、天然の植物と肩を並べるところまで技術が進歩しています 。現在発表しているエネルギー変換効率の値は最高で0.65 %。いまは少ない数値に見えますが、植物の中でも変換効率が高いサトウキビでも2.2 %程度、藍藻類のスピルリナで0.5 %程度、トウモロコシでも0.8 %程度です。理論上、人工光合成の効率が太陽電池並みになる将来は決して夢ではありません。

実用化に向けた課題

 現段階ではまだ「使い勝手の良いシステム」には到達していませんが、人工光合成はエネルギー問題を解決できる可能性を持つ数少ない選択肢と考えています。

 安全で、安価で安定的に供給できること。この全てを満たすシステムをできるだけ早く実用化することが求められます。広く普及・活用されるためには、太陽エネルギー変換システムは「芸術品」ではなく「日用品」にならなくてはいけません。

 そのために、よりエネルギー変換効率を高める触媒の探索や、工業的に利益も見込めるシステムづくりが急務となります。普及に向けて、これらが大きな課題と考えています。

人工光合成の今後

最新テクノロジーで研究開発をスピードアップ

 光触媒の研究開発では膨大な数の試料調査を行います。さまざまな金属塩溶液の比率を変えて混合・塗布し光触媒膜のサンプルをライブラリ化します。たとえば、それぞれに光を当てた際の光電流応答を計測し、性能指標とします。

 この一連の作業を正確かつ高速に行うため、「高速自動探索装置」も開発し材料探索を加速化しました。2本のロボットアームが正確に試料作製や測定機へのセッティングを行い、収集したデータは機械学習の活用で、従来の人が行うより1桁以上早い材料探索を可能としています。

触媒の高速自動探索装置

 人工光合成の理論面での研究も進んでいます。可視光で水から水素を生成する酸硫化物の粉末光触媒の変換効率として、10 %を超えるために必要な粒子サイズなどの条件を理論解析手法で明確化しました。この研究成果の指針は、他の粉末光触媒へ適用することにより、水から水素をもっと効率よく取り出す新規物質を開発できると期待されています。(2021/12/07プレスリリース記事

 2023年に発表した「ナノロッド状の構造を持つ赤色透明な水分解用の窒化タンタル光電極」は、太陽光を利用し水を高い効率で分解して酸素と水素を生成することのできる新しい電極です。電極の作り込みと理論的なシミュレーションに基づいた開発により、世界トップレベルの太陽光-水素変換効率10 %を達成しました。今後は、より安価に水素製造が可能となる粉末型光触媒シートを開発して、太陽光-水素変換効率の向上と、光触媒を用いた水素製造技術の社会実装に向けて研究開発を進めていきます。(2023/08/18プレスリリース記事

産総研オリジナルのハイブリッドシステムで「いいとこ取り」

 人工光合成の研究分野は幅広いですが、産総研では粉末の光触媒を用いて水を水素と酸素に生成する研究だけでなく、粉末光触媒と電気分解を組み合わせたハイブリッドの研究を行っています。ハイブリッドシステムは、弱い電力で作動し、太陽光など変動電源も利用して、水素と酸素を別々に生成できます。また、導電性基板に光触媒を塗布した光電極を用いて水を分解する研究を行っています。水素という燃料をいかに安く作るかとあわせて、光電極の素材や原料を工夫することで、過酸化水素や次亜塩素酸などのもっと高い付加価値のあるものを作ることを研究しています。

 水素をつくるだけでは達成できないシステム全体のコストダウンを、商品価値の高い化合物を選択的に生成することで達成しようとしています。

人工光合成の今後

 人工光合成システムを日用品として扱えるようにするとは、「植物のように扱えるもの」をイメージしています。太陽光・水・空気は地球上どこでも利用しやすい材料です。現在、エネルギーや化学物質は1カ所で作り、遠方まで輸送し、消費地で分けたり薄めたりして使うのが常識です。今後、家庭菜園のように必要な場所で必要な分だけエネルギーなどを作ることができたら、輸送や貯蔵管理、濃縮や希釈が不要になります。システムが小型になり少々単価が上がったとしても、管理コストと合わせると決して高くはないということになるでしょう。エネルギーも化学物質も地産地消の時代になるのです。

 場所を選ばず、誰でも手軽に利用できるシステムの早期開発を目指しています。