テルの金色のネコじゃらしは、すっかり有名になり、遠くに住むネコも見物に来ました。しかし、みんな、見ることはできても、触ることも、匂いを嗅ぐこともできないネコじゃらしに次第に興味がなくなっていきました。そして、少しずつ見物に来るネコが減っていき、1週間もすると、だれもテルの金色のネコじゃらしを見に来なくなってしまいました。
それに、しょせんはネコじゃらし。日を追うごとに、色褪せてきていたのです。ネコじゃらしだけではありません。テルを覆っているきれいなトラ模様も、薄汚れてしまっています。
「最近は黄色にしかみえないし、ただ眺めるだけのネコじゃらしなんてつまらないよ」
ネコたちは、こんなふうに噂をしあっていました。
今では、だれも寄り付かなくなってしまいました。それでも、テルは依然としてネコじゃらしをくわえたまま、お寺の軒下から動こうとはしないため、すっかり痩せてしまっています。
だれも、テルのネコじゃらしを見に来なくなってから、2~3日ほどたったころでしょうか。テルのいる軒下から数メートル離れた日当たりのいい場所を見つけ、ごろんと横になるネコがいました。真っ白い毛に、足の先としっぽの先だけにグレーの毛の生えたネコ。タビです。
「君も、この綺麗なネコじゃらしを見にきたのかい?」
テルがそう声をかけると、タビは横になったまま、ごろんとテルの方に向きを変えました。テルは、しばらくぶりに金色のネコじゃらしを自慢できることが、嬉しくてたまらないようです。その声を聞いたタビは、ゆっくりとテルに歩み寄って、ネコじゃらしに触れようとしました。
テルは、いつものようにタビの手をひょいと躱して、ちょっと意地悪く言いました。
「ダメ、ダメ。見るだけだよ」
テルは、久しぶりに「ダメ。ダメ」と言えたことが嬉しくて仕方ありません。興奮して話を続けます。
「君だけに教えてあげるけど、このネコじゃらしは、1丁目の空き地の奥のほうに1本だけ生えていたのを見つけたんだ。これは、みんなには内緒だよ」
テルは、久しぶりの見物客にとっておきの話をしたつもりでしたが、タビは「ふーん」と言って、大きなアクビをひとつ。そして、もとの位置に戻ると、ごろんと横になって後ろ足で首のあたりを掻いています。もう、ネコじゃらしへの興味はすっかりなくなっているようです。
でも、テルは、タビのことはお構い無しに話を続けます。
「どうだい。君も、この素敵なネコじゃらしが羨ましいだろう?」
タビは何も言わずに首の辺りを後ろ足で掻き続けています。
「興味のない不利をしてるけど、僕からこのネコじゃらし奪うつもりなんだろう。そうはいかないよ。このネコじゃらしは、僕がいつも肌身離さずもっているんだからね」
タビは怒ったような口調でそう言ったテルのほうに向き直り、スクッと立ち上がって言いました。
「ところで、君は何のためにネコじゃらし採りに行ったんだい?」
テルは、タビの質問に何と答えて良いか分からずに戸惑った目で、タビを見つめています。
(つづく)
それに、しょせんはネコじゃらし。日を追うごとに、色褪せてきていたのです。ネコじゃらしだけではありません。テルを覆っているきれいなトラ模様も、薄汚れてしまっています。
「最近は黄色にしかみえないし、ただ眺めるだけのネコじゃらしなんてつまらないよ」
ネコたちは、こんなふうに噂をしあっていました。
今では、だれも寄り付かなくなってしまいました。それでも、テルは依然としてネコじゃらしをくわえたまま、お寺の軒下から動こうとはしないため、すっかり痩せてしまっています。
だれも、テルのネコじゃらしを見に来なくなってから、2~3日ほどたったころでしょうか。テルのいる軒下から数メートル離れた日当たりのいい場所を見つけ、ごろんと横になるネコがいました。真っ白い毛に、足の先としっぽの先だけにグレーの毛の生えたネコ。タビです。
「君も、この綺麗なネコじゃらしを見にきたのかい?」
テルがそう声をかけると、タビは横になったまま、ごろんとテルの方に向きを変えました。テルは、しばらくぶりに金色のネコじゃらしを自慢できることが、嬉しくてたまらないようです。その声を聞いたタビは、ゆっくりとテルに歩み寄って、ネコじゃらしに触れようとしました。
テルは、いつものようにタビの手をひょいと躱して、ちょっと意地悪く言いました。
「ダメ、ダメ。見るだけだよ」
テルは、久しぶりに「ダメ。ダメ」と言えたことが嬉しくて仕方ありません。興奮して話を続けます。
「君だけに教えてあげるけど、このネコじゃらしは、1丁目の空き地の奥のほうに1本だけ生えていたのを見つけたんだ。これは、みんなには内緒だよ」
テルは、久しぶりの見物客にとっておきの話をしたつもりでしたが、タビは「ふーん」と言って、大きなアクビをひとつ。そして、もとの位置に戻ると、ごろんと横になって後ろ足で首のあたりを掻いています。もう、ネコじゃらしへの興味はすっかりなくなっているようです。
でも、テルは、タビのことはお構い無しに話を続けます。
「どうだい。君も、この素敵なネコじゃらしが羨ましいだろう?」
タビは何も言わずに首の辺りを後ろ足で掻き続けています。
「興味のない不利をしてるけど、僕からこのネコじゃらし奪うつもりなんだろう。そうはいかないよ。このネコじゃらしは、僕がいつも肌身離さずもっているんだからね」
タビは怒ったような口調でそう言ったテルのほうに向き直り、スクッと立ち上がって言いました。
「ところで、君は何のためにネコじゃらし採りに行ったんだい?」
テルは、タビの質問に何と答えて良いか分からずに戸惑った目で、タビを見つめています。
(つづく)