神戸地裁判決 平成15年3月28日
(ホームページ下級裁主要判決情報判決)
《要旨》
賃借人に対して負担する目的物を使用収益させる義務を怠った賃貸人に対する、賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求が認められた事例
(1) 事案の概要
賃貸人Yは、媒介業者Aに、カラオケ禁止、焼肉等強い臭気が出るものは禁止の条件で、本物件の媒介を依頼した。Xは、他業者を経由した本物件のチラシを見て、居酒屋営業に問題ないと判断し、入居申込みをした。申込みを受けたYは、カラオケ禁止、焼肉等の臭気の強いもの営業禁止の特約条項を設けるようAに対して指示した。
A作成の重要事項説明書、契約書には、カラオケ不可とのみ記載され、Yの指示した特約についての記載はなかった。Yは、Xの押印済みの契約書を受け取った際、このことに気付いたが、Aを信頼していたこともあり、本件特約の契約書への追記を指示したのみで、これに押印をした。
開業前、特約を主張するYが、屋上より高いダクトの完備を要求したため、Xは、ここでの居酒屋経営は困難であると考え、賃貸借契約を解除する旨の通知をするとともに、Yの債務不履行(不完全履行)を理由として、保証金及び賃料の返還並びに開業準備費用、逸失利益の賠償を求めた。
(2) 判決の要旨
①Yの焼肉等強い臭気が出るものの営業禁止の意向が、Xには伝わっておらず、また、Yは、本件特約が記載されていないことを認識しながら調印しているので、本件特約についての合意はなされておらず、臭気の強いものの営業は不可であるという制限が付されていない賃貸借契約が成立している。
②Yに錯誤があるとしても、特約がない契約書に記名押印したYには重過失が存するものと認められ、本件賃貸借契約は無効になるものではない。
③本件賃貸借契約には特約による制限はないと認められ、焼肉等の営業を妨げる権利を有しないというべきであり、Xに対して負担する目的物を使用収益させる義務を怠ったものと認められる。
④Yは、自らに帰責事由はないと主張するが、本件契約書を作成したのが媒介業者Aであったことを考えれば、Xに対して主張できる事情であるとはいい難い。
⑤Yの不完全履行によって本件物件の使用収益が妨げられ、Xは、本件賃貸借契約を解除せざるを得なかったのであるから、営業上の逸失利益までは認められないが、既払いの保証金、賃料及び開業準備費用については、相当因果関係にある損害に当たる。
(3) まとめ
本事例は、媒介業者が、重要な貸主の条件を重要事項説明書及び契約書に記載して明示することを怠ったために生じたものと考えられる。媒介業者は、重要事項説明書・契約書の作成並びに説明時においては、依頼者の意向を事前に確認して十分反映させるとともに、相手方に対しても明確に説明することが、契約上のトラブルを未然に防ぐことになる。媒介業者の業務の重要性を示唆している事例である。
(ホームページ下級裁主要判決情報判決)
《要旨》
賃借人に対して負担する目的物を使用収益させる義務を怠った賃貸人に対する、賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求が認められた事例
(1) 事案の概要
賃貸人Yは、媒介業者Aに、カラオケ禁止、焼肉等強い臭気が出るものは禁止の条件で、本物件の媒介を依頼した。Xは、他業者を経由した本物件のチラシを見て、居酒屋営業に問題ないと判断し、入居申込みをした。申込みを受けたYは、カラオケ禁止、焼肉等の臭気の強いもの営業禁止の特約条項を設けるようAに対して指示した。
A作成の重要事項説明書、契約書には、カラオケ不可とのみ記載され、Yの指示した特約についての記載はなかった。Yは、Xの押印済みの契約書を受け取った際、このことに気付いたが、Aを信頼していたこともあり、本件特約の契約書への追記を指示したのみで、これに押印をした。
開業前、特約を主張するYが、屋上より高いダクトの完備を要求したため、Xは、ここでの居酒屋経営は困難であると考え、賃貸借契約を解除する旨の通知をするとともに、Yの債務不履行(不完全履行)を理由として、保証金及び賃料の返還並びに開業準備費用、逸失利益の賠償を求めた。
(2) 判決の要旨
①Yの焼肉等強い臭気が出るものの営業禁止の意向が、Xには伝わっておらず、また、Yは、本件特約が記載されていないことを認識しながら調印しているので、本件特約についての合意はなされておらず、臭気の強いものの営業は不可であるという制限が付されていない賃貸借契約が成立している。
②Yに錯誤があるとしても、特約がない契約書に記名押印したYには重過失が存するものと認められ、本件賃貸借契約は無効になるものではない。
③本件賃貸借契約には特約による制限はないと認められ、焼肉等の営業を妨げる権利を有しないというべきであり、Xに対して負担する目的物を使用収益させる義務を怠ったものと認められる。
④Yは、自らに帰責事由はないと主張するが、本件契約書を作成したのが媒介業者Aであったことを考えれば、Xに対して主張できる事情であるとはいい難い。
⑤Yの不完全履行によって本件物件の使用収益が妨げられ、Xは、本件賃貸借契約を解除せざるを得なかったのであるから、営業上の逸失利益までは認められないが、既払いの保証金、賃料及び開業準備費用については、相当因果関係にある損害に当たる。
(3) まとめ
本事例は、媒介業者が、重要な貸主の条件を重要事項説明書及び契約書に記載して明示することを怠ったために生じたものと考えられる。媒介業者は、重要事項説明書・契約書の作成並びに説明時においては、依頼者の意向を事前に確認して十分反映させるとともに、相手方に対しても明確に説明することが、契約上のトラブルを未然に防ぐことになる。媒介業者の業務の重要性を示唆している事例である。