店舗の賃借人が、賃貸人のクーラー等の設備の修繕義務違反を理由に賃料支払を拒むことは許されないとして、賃料不払を理由とする解除が認められた事例 (東京地裁平成5年11月8日判決、判例時報1501号115頁)
(事案)
クーラー、換気扇の設備のなされている店舗をスナック営業の目的で賃借したYは、賃料を9か月分払わなかった。そこで賃貸人Xは賃貸借契約を解除し、Yに店舗の明渡しを求めた。
これに対しYは、入店当初からクーラー、換気扇の故障により休業を余儀なくされた上、数度にわたる換気扇の増設、交換等の修理の結果、飲食店としての営業が不可能になるほどの騒音、温度差という新たなトラブルが生じた。このように当初から機器の性能に難があってYは本件店舗をスナック営業という本来用途に従って使用収益できなかったのであるから、使用収益が可能になるまで賃料の全部又は一部の支払を免れると主張してXの明渡請を求争った。
(判旨)
賃貸人は賃借人に対し、賃貸目的物の使用収益に必要な修繕をする義務を負い(民法606条)、賃貸人が右修繕義務を怠り、その結果、賃借人が目的物の使用収益を全くできなかった場合には、賃借人は、右使用収益ができなかった期間の賃料支払義務を免れると解されるか、右修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、賃借人は、当然には賃料支払義務を右一部についても免れないというべきである」
これを本件についてみると、証拠上は、エアコンと換気扇の機能障害は、スナック営業を全く不能ならしめる程度にまでは至っていないし、換気扇増設後の騒音についても同様である。したがってYは、その間本件店舗で営業活動をしていると否とを問わず、店舗を占有する以上、その期間中の賃料支払義務を当然に免れるものではない。よって、Yの主張は理由がなく、Xの契約解除は有効である。
(寸評)
賃貸人の修繕義務不履行に対して、賃借人はいかなる対抗措置がとれるか。まず、修繕義務不履行を理由とする損害賠償の請求ができ、これと賃料との相殺が可能である。更に、賃借人自らが修繕して、その修繕費の償還(民法608条1項)もしくは賃料との相殺を請求することができる。あるいはまた、使用収益の不完全な割合に応じて賃料の減額請求権を取得する。
この本件の賃借人Yは、右のいずれとも違い、賃料全額の支払をストップしてしまった。最も危険なやり方であったといわねばならない。
修繕義務の不履行に対しては、いずれの方法が実践的に有効であるかは、事案毎に慎重に検討する必要がある。 1994.11.
(弁護士 白石 光征)
東京借地借家人新聞より
借地借家の賃貸トラブルのご相談は
東京多摩借地借家人組合
一人で悩まず
042(526)1094
(事案)
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これに対しYは、入店当初からクーラー、換気扇の故障により休業を余儀なくされた上、数度にわたる換気扇の増設、交換等の修理の結果、飲食店としての営業が不可能になるほどの騒音、温度差という新たなトラブルが生じた。このように当初から機器の性能に難があってYは本件店舗をスナック営業という本来用途に従って使用収益できなかったのであるから、使用収益が可能になるまで賃料の全部又は一部の支払を免れると主張してXの明渡請を求争った。
(判旨)
賃貸人は賃借人に対し、賃貸目的物の使用収益に必要な修繕をする義務を負い(民法606条)、賃貸人が右修繕義務を怠り、その結果、賃借人が目的物の使用収益を全くできなかった場合には、賃借人は、右使用収益ができなかった期間の賃料支払義務を免れると解されるか、右修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、賃借人は、当然には賃料支払義務を右一部についても免れないというべきである」
これを本件についてみると、証拠上は、エアコンと換気扇の機能障害は、スナック営業を全く不能ならしめる程度にまでは至っていないし、換気扇増設後の騒音についても同様である。したがってYは、その間本件店舗で営業活動をしていると否とを問わず、店舗を占有する以上、その期間中の賃料支払義務を当然に免れるものではない。よって、Yの主張は理由がなく、Xの契約解除は有効である。
(寸評)
賃貸人の修繕義務不履行に対して、賃借人はいかなる対抗措置がとれるか。まず、修繕義務不履行を理由とする損害賠償の請求ができ、これと賃料との相殺が可能である。更に、賃借人自らが修繕して、その修繕費の償還(民法608条1項)もしくは賃料との相殺を請求することができる。あるいはまた、使用収益の不完全な割合に応じて賃料の減額請求権を取得する。
この本件の賃借人Yは、右のいずれとも違い、賃料全額の支払をストップしてしまった。最も危険なやり方であったといわねばならない。
修繕義務の不履行に対しては、いずれの方法が実践的に有効であるかは、事案毎に慎重に検討する必要がある。 1994.11.
(弁護士 白石 光征)
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