今桜が満開だが夫は中学生の時、成城学園前駅から徒歩約15分の距離にある
「都立重機工業中学校」へ通っていた。先日新宿御苑の帰りに、都立新宿高校の
前を歩きながら、「今頃成城学園前のあの通りは、きっと桜が咲いて奇麗だろうな」
と懐かしそうに漏らした。「じゃ今度歩いてみようね」と、昨日10時頃に家を出た。
夫が昔通学した、成城学園前駅から直線に伸びた道を歩いたが、風がとても冷た
かった。道は広々して、夫が想像したように桜が沢山咲いていたが、多分その頃見た
と思われる大きな古木は、あふれるように花が咲いていて、あまりに美しく二人で立
ち止まってしばらく見つめた。
中学は駅からまっすぐに伸びた道を突き当たり、左へ曲がり、またすぐ右に曲がる
そうだが、70余年以上昔なので、折角来たのにとうとう中学校へは辿り着けなかった。
果たしてまだ存在するのかどうかも調べず歩いたが、ネットで調べればよかったと
後悔したが、後の祭りだった。「もうここまで来たから良いや」と夫が言うので、その
まま駅まで戻った。約1時間ほど成城学園前の、夫の思い出の通学路辺りを歩いた。
クラスメート達と、ときどき直線コースの道を駅まで競争して走ったなど、色々な
思い出話を聞いたが、夫はとても懐かしく、嬉しかったようで「能里子ありがとね」と
三回も言った。昔は細く小さかった桜は古木になっていたが、若い木も沢山あり、枯れると
すぐに植え変えたようだ。高級住宅として開発されたので、住民は洗濯物や布団は道路から
見えないところに干す、頬かぶりをして歩いてはいけない、みだらな服装では歩かないなど
実際にかなり厳しく制限されていたようだ。大分以前シニアスクールで、成城学園前の高級住
が開発されたとき以来、現在でも「成城学園前住宅憲法」があると、講座の中で聞いたがあったが
どうもそれは事実のようだ。広壮な住宅が多く、町並みは整然として美しかったし、左右対称の横の道路
も、すべて桜が植えてあった。
中学はその住宅街を抜けた畑の中にあり、その頃は農家が点在し、そこまで来るとガラっと
景色が変わり、歩く人達の服装も、雰囲気もまるで変っていたそうだ。
「心の旅路」は目的地までたどり着けなかった。認知症の治療法の一つに「回想法」がある。
今回は思い出を辿りながら、実際に歩いたので、精神的にはもっとも効果的で癒される方法
だと思った。時間は11時45分、時々成城ホールで開かれる「シニアスクール」の講座の帰りに
クラスメート達と昼食をする、餃子が美味しい中華料理店に入った。
そして、昼間から老夫婦で、「楽しかった思い出に乾杯」した、とても幸せな日だった。