博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2019年10月に読んだ本

2019年11月01日 | 読書メーター
日本語と論理: 哲学者、その謎に挑む (NHK出版新書)日本語と論理: 哲学者、その謎に挑む (NHK出版新書)感想
「日本語は非論理的な言語か?」という疑問から入る言語哲学論だが、単数と複数の区別など基礎的な問題を、ごく単純な文章を対象に考察していくというスタイルで、この種の本を読み慣れていない側からするとかなり面食らったというのが正直なところ。最終章で触れられる、総称文が我々の偏見を助長するという方向でしばしば悪用されるという問題、全称文と総称文の区別が曖昧にされてきたという論理学自体が抱える問題については興味深く読んだ。
読了日:10月03日 著者:飯田 隆

薔薇戦争 イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱薔薇戦争 イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱感想
高校世界史的には1455年から1485年までの30年間とされてきた薔薇戦争の流れを、1399年のランカスター朝の成立から説き起こす。戦争の流れ、人物関係など、コンパクトにまとめられていると思う。(巻頭の王室系図は何回も見返すことになったが)ヘンリー4世によるリチャード2世の廃位をはじめとする簒奪劇は、中国で後漢→魏→晋と繰り返された簒奪劇を連想させる。
読了日:10月04日 著者:陶山 昇平

中国古代史 司馬遷「史記」の世界 (角川ソフィア文庫)中国古代史 司馬遷「史記」の世界 (角川ソフィア文庫)感想
黄帝をはじめとする五帝の時代から司馬遷の同時代となる前漢の武帝の時代まで、更には唐の司馬貞が補った三皇のことなども加えつつ、『史記』の内容を時代に偏ることなく紹介しているが、解説がいちいち俗流なのが欠点となるか。このあたりは先日来Twitterで話題となっている、古典を現代語訳ではなく原文で読む意味を逆説的に示してしまっているのかもしれない。
読了日:10月08日 著者:渡辺 精一

チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学感想
「チョンキンマンションのボス」ことカラマの動きを通して香港在住タンザニア人たちの生態を描き出す。彼らが体現する、無理のない範囲で相互扶助を行う「ついで」の論理と、大陸中国で流行りの信用スコアによる評価経済との簡単な比較が終盤で展開されるが、もっと本格的な比較が読みたい気もする。カラマの服を洗わずビニール袋に詰めて置いておく、ビジネスの相手との約束の時間を守らないといった一見不合理な行動に彼なりの戦略が隠されているという話も面白い。
読了日:10月11日 著者:小川 さやか

二重国籍と日本 (ちくま新書 (1440))二重国籍と日本 (ちくま新書 (1440))感想
前半で2016年に問題となった蓮舫氏の二重国籍問題及び日本・台湾間の国籍問題、後半で二重国籍問題一般を議論する。第一章は当時の蓮舫問題の推移のよいまとめとなっている。蓮舫氏が法務省より受けたとされる、日本では台湾出身者に中華人民共和国の国籍法が適用されるという説明については、確かに台湾出身者や関係者にそういう説明がされていたことがあるようだ。蓮舫氏については本人の努力ではどうにもならない部分も多く、バッシングは理不尽ということになるだろう。
読了日:10月13日 著者:

「異形」の古墳 朝鮮半島の前方後円墳 (角川選書)「異形」の古墳 朝鮮半島の前方後円墳 (角川選書)感想
日本のネットでは政治的な扱いをされがちな朝鮮半島の前方後円墳に関する専論。その被葬者に関する研究史を敢えて後回しにするという構成からも窺われる通り、その位置づけを征服・被征服関係のようなわかりやすい話に落とし込んだものではない。冒頭で、朝鮮半島の前方後円墳が都出比呂志の「前方後円墳体制論」に疑問を突きつける存在であると位置づけているのがおもしろい。
読了日:10月15日 著者:高田 貫太

君主号の世界史 (新潮新書)君主号の世界史 (新潮新書)感想
トリビアルに世界各地の君主号について取り上げるのではなく、取り上げる地域は割と限られているが、中国→西洋→日本と、うまく文脈をつなげてある。王と皇帝の位置づけについて東西で一脈通じているという評価や、天皇については元来「王」号呼称になじんでいたという話、チャールズはなぜ「皇太子」と呼ばれるのかといった話題が面白い。
読了日:10月17日 著者:岡本 隆司

なぜ科学を学ぶのか (ちくまプリマー新書 (335))なぜ科学を学ぶのか (ちくまプリマー新書 (335))感想
「科学」という言葉の由来、科学的な発想とは、環境問題、軍事利用の問題、科学・技術と経済性、科学者としての倫理など、まさになぜ科学を学ぶのかという根本に立ち返った内容となっている。軍事開発された技術の民生利用について、「戦争は発明の母」というのはどこまで本当か?と、その実態にツッコミを入れているのは面白い。
読了日:10月17日 著者:池内 了

執権 北条氏と鎌倉幕府 (講談社学術文庫)執権 北条氏と鎌倉幕府 (講談社学術文庫)感想
時政・義時から時宗・貞時・高時に至るまで、伊豆の無名に近い氏族から出発し、「将軍権力代行者」として鎌倉幕府の独裁者の立場を確立するまでの鎌倉北条氏の歩みを見ていくことで、「北条氏はなぜ将軍にならなかったのか」という問いに答える。北条氏は自ら将軍になる必要はなく、なりたくもなかったということだが、中国には強いて皇帝になる必要はないはずなのに、皇帝になりたい人間がたくさんおり、実際彼らが次々と皇帝になったことを思えば、やはり日本の武士政権の(あり方ではなく)発想が特殊ということになるかもしれない。
読了日:10月20日 著者:細川 重男

ローマ教皇史 (ちくま学芸文庫 (ス-21-1))ローマ教皇史 (ちくま学芸文庫 (ス-21-1))感想
ローマ帝国時代のローマ司教から現代の教皇(ヨハネス・パウルス2世以降は解説で補足)まで、歴代の教皇の事績や公会議、論争を総覧。古代・中世の司教・教皇に多く紙幅を割いている。ディオクレティアヌスの大迫害、ゲルマン諸民族やビザンティン皇帝との関係、教会大分裂、宗教改革など、その時々の危機に対してどう向かい合ってきたのか(あるいは向かい合ってこなかったのか)が読みどころ。
読了日:10月23日 著者:鈴木 宣明
持統天皇-壬申の乱の「真の勝者」 (中公新書 2563)持統天皇-壬申の乱の「真の勝者」 (中公新書 2563)感想
「女帝の即位は実子を皇位継承から外すことと引き替えに成り立つ」という理解が全編の鍵のひとつとなっているが、これは学界でどの程度支持されているのだろうか。ほかにも『万葉集』の位置づけなど、「話としては面白いが……」というのが目立つ。
読了日:10月24日 著者:瀧浪 貞子

芝園団地に住んでいます : 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか芝園団地に住んでいます : 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか感想
副題のように、住民の多くが外国人になるという今後の日本、あるいは移民の排斥が進むアメリカなど世界各国の縮図として芝園団地での問題を見ていく。日本人と中国人というだけでなく、高齢者と若者という世代の違い、長期間の在住と2、3年といった短期間の在住という在住期間の違いといったように、あらゆる点で日本人住民と中国人住民とが対照的であるのが、問題を複雑にしているように思う。
読了日:10月26日 著者:大島 隆

アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 (集英社新書)アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 (集英社新書)感想
『ゴールデンカムイ』は漫画もアニメも未見、アイヌ文化についても全く知識がないという状態だったが、おもしろく読めた。アイヌの英雄叙事詩ユカラのノリがドラゴンボールのようだという話、アイヌの地名が東北地方などにも残っているのではないかという話に引き込まれた。本書でアイヌのことには興味が持てたが、『ゴールデンカムイ』自体はまあそれなりにという感じになったのは、本書としては成功なのか失敗なのか…
読了日:10月29日 著者:中川 裕

コメント
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