活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

TDC2018に関連して

2018-04-11 10:52:26 | 活版印刷のふるさと紀行

 ギンザ・グラフィック・ギャラリーでTDC展を観ました。TDC東京タイプディレクターズクラブも設立されてから30年、まさに油がのりきって、作品分野は多岐、国際色豊か、中身の充実ぶりには思わず敬意を表したくなりました。

 とくに私のようなシルバー世代にはグランプリ作品のスイスのPrill Vieceli Cremersのブックデザインを引き合いに出すまでもなく150点近くの出品作の中にいろいろな古典的な印刷技法がみられるものを見つけると、無性に懐かしく、楽しくなるから困ったものです。

 たまたま今、印刷博物館で「進化するデジタル印刷」が、催されていますが、最近のようにデジタル一色になってしまった「印刷」は私の眼には悲しくてやりきれません。日本の場合、いいとなうと、いっせいにみんなが同方向をめざす傾向が強すぎる気がします。

 いまはどうか知りませんが、7~8年前、パリのサンジェルマン・デ・プレで新刊の活版印刷本を集めた書店に出くわして驚いたことがあります。フランスでもまだ、活版印刷で頑張っている印刷会社があるということで、いち早く活版部門を斬り捨てた日本の多くの印刷会社をうらめしく思いました。私の夢は活版印刷の本づくりを見せ、その本を展示して売ってくれるブースのある生きている印刷博物館です。

 

 

 

 

 

 

 

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オペレッタ「こうもり序曲」を聴きながら

2018-02-25 13:59:07 | 活版印刷のふるさと紀行

 昨日、紀尾井ホールのDNPフィルハーモニック・アンサンブルの定期演奏会に行きました。印刷会社の社員によるアマチュアコンサートが「ふれあい音楽会」と題して今回で36回目と聞くと「おぬし、なかなかやるなー」です。

 終演後のアンケートでヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」と混声合唱つきの「美しく青きドナウ」のふたつに私は票を入れましたが、次回の演奏曲目希望は空欄で提出してしまいました。古楽器が必要になってしまうかもしれませんが、本当はグレゴリオ聖歌に代表される日本にはじめて入ってきたキリスト教がらみの曲の演奏や合唱を希望したかったのです。

 なぜでしょうかか。日本に初めてグーテンベルク方式の「活版印刷術」を持ち込んだ天正遣欧少年使節の一行と西洋音楽との数々のふれあいのエピソード、1605年に長崎で刊行されたキリスト教の典礼書『サカラメンタ提要』の二色刷り19曲の楽譜などなど、日本の印刷と西洋音楽との深いかかわりあいの史実から印刷会社のコンサートにふさわしいと思うからです。

 秀吉が何度も懇望したという「皇帝の歌」、これは「千々の悲しみ」ともいわれるが、クラヴォ(鍵盤楽器)、アルパ(ハープ)、ラウデ(リュート)ラベキーニャ(弦楽器)ヴィオラ・デ・アルコ(弦楽器)レアレレジョ(風琴)などの400年も前の音色、「はかりしれぬ悲しさよ―」ではじまる合唱をきいてみたい気がします。

 

 

 

 

 

 

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牛乳パック考証

2018-02-19 14:50:10 | 活版印刷のふるさと紀行

 ここでお目にかけるのは、再利用ボックスに投入寸前の我が家の愛飲後の牛乳パックです。

 戦中・戦後の物資窮乏時代を除いて、牛乳はいちばん身近で馴染みの深い飲みものです。我が家でも昔は毎朝、勝手口の横にある木のボックスに配達されている牛乳瓶を取り込むのは母の役目でした。

 みなさん、ご記憶にあると思いますが、瓶の口の紙の蓋をとるのはやっかいで、めんどうな作業でした。あの小さな牛乳瓶がほとんど姿を消して牛乳パックをスーパーで店頭買いするようになってもう30、40年は経つかと思われます。

 印刷会社の包装印刷部門で牛乳パックや日本酒パックなど紙容器の印刷がされるようになったのは1950年代の半ばころだったと記憶しています。インスタントラーメンや袋菓子、食パンなどグラビヤ印刷部門で新しい分野が次々にひろがった時期と重なっていました。

 印刷会社につとめていると変なクセがつきます。本を買うと奥付の印行名(印刷会社名)を最初に見ますし、珍しい雑誌や豪華なカタログなどに出会っても同じです。牛乳瓶も同じで、開け口部分の凹部に隠れているパックのメーカー名をつい、つい確認してしまいます。

 そのせいか私は家人になるべく見慣れないデザインの牛乳パックを買ってきてもらいます。「味じゃなくて、入れ物なんですか」と文句をいわれながら。そうこうしているうちにひとつ気付いたことがあります。商品名をいかにもその土地の牧場で産したふるさとトレトレ牛乳のようにつけているのに,製造所在地名を確認すると全く関係ない土地のケースがかなりあります。あれは産地偽証ではないかと。

 脱線しました。話を印刷に戻しますと、現在、食品包材などの包装印刷分野が日本でもアメリカでもいちばん堅実な伸びを示していることは注目に値いします。

 

 

 

 

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たかがノンブル、されどノンブル

2018-02-15 13:42:13 | 活版印刷のふるさと紀行

 写植からスタートしてデジタルフォントの領域で大活躍の㈱モリサワについては以前、同社のカレンダーのことを紹介しました。

 モリサワの大阪本社には文字と書物の歴史を見せてくれるショールームがありますが、こんど来館者に手渡しするがイドブック『文字の歴史館』が出されました。それがなかなか憎たらしいような出来なのです.私のように「印刷の歴史」について話す機会がある人間にとってヤラレタ感を催すくらい巧みな。編集です。

 アルファベット圏の文字、漢字圏の文字の歴史と印刷に大半を割き、写植からデジタルフォントへの流れをわかりやすく説明してくれている構成は文字の歴史にとどまらず印刷の歴史としても大変参考になりました。

 さて、話は少々回りくどくなりますが、今日、製本工芸作家の市田文子さんのフェースブックに、これまた先日ご紹介したばかりの学研の『大人の科学 活版印刷機』が登場しておりました。

 評判を聞きつけて今年の年賀状をこの大人の科学の活版印刷機でと思いついた彼女の話、それを読んで「私も印刷機の組み立てにチャレンジしました」というご友人の投稿。活版印刷機がこんなにモテるのは近頃、うれしい話です。

 そこで私にヒラメイタのが、この大人気の『大人の科学 活版印刷機』の企画・進行で活躍された学研の西村さんにモリサワの『文字の歴史館』を読んでもらおうという思い付きでした。「遅きに失したが、印刷の歴史の紹介に苦労されていたから」と。

 さてさて、ことの次第を西村さんにメールをするのに『文字の歴史館』のぺージ数を書き込もうとしたところ、ページの下にも上にもノンブルがないではありませんか。おやっと目を凝らしたら、ありました。パンフレットのページのサイド、小口のところに小見出しとともに赤丸に白抜き数字でノンブルが入っておりました。

 こうした処理はデザイン的、レイアウト的にはきれいですが、ページ数を素早く見るにはちょっと不便です。「ノンブルは製本所で丁合いをとるとき目印にもなるんだ」とかけ出しのころ教わったことをふと、思い出しました。パソコンがないころ、本の索引づくりにノンブルと格闘した思い出もあります、たかがノンブル、されどノンブル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『新潮』の記念号のこと

2018-02-01 13:40:28 | 活版印刷のふるさと紀行

 

  印刷のデジタル化で質問をいただきました。たとえば、前回の雑誌の場合ですと、1990年代までは印刷会社に作家の原稿は原稿用紙に肉筆で書かれた形で出版社経由で入ってくるのが普通でした。印刷現場ではそれを読んで1字ずつ活字を拾う、あるいはオペレーターがタイピングするのでした。

だから、印刷会社には出帳校正室があって校了間際になると出版社の編集者や校閲担当者が詰めきりになってゲラ(校正刷)に赤字を入れ、即、その箇所を印刷現場で訂正するのです。その往復作業を何度か繰り返してようやくOK、印刷開始となるのです。

 それではデジタル化した今はどうかといいますと、作家はパソコンで原稿を書き、そののデータが出版社経由で印刷会社のコンピュータに送られ、それが印刷会社で指定どうりに紙面化されそれが出版社経由で作家のパソコンに送られます。作家はパソコンの画面上で校正します。つまり、原稿用紙もゲラ刷も登場しないままに雑誌作りが進むようになったのです。

 さて、前回は『文藝春秋』でしたが、『新潮』が永久保存版創刊110周年記念特大号が昨年夏に出たことにも触れないといけません。創刊の1904年、明治37年といえば日露戦争の渦中ですから確かに『新潮』こそ日本の雑誌の中で最高齢といえます。その明治37年5月から平成29年5月までの主要作品の掲載年表が「新潮100年史」の形で掲載されていましたが、作家の活躍を通して見る日本の文学史みたいで興味深いものでした。

 特に昭和10年から23年まで主要掲載作品に太宰 治が挙げられていました。そうか、私が『斜陽』に鮮烈な印象を受けたのが昭和22年の7月号だったか。してみると旧制中学の4年生、自分の読書史?にも重なりました。

 そういえば新潮社の出張校正室はありませんでした。印刷元の大日本印刷とあまりにも近く立ったからでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

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文藝春秋創刊95周年の特別号に

2018-01-29 10:47:29 | 活版印刷のふるさと紀行

 最近の『週刊文春』には首を傾げますが、月刊の『文藝春秋』は中身はもちろん、サイズといい、厚さといい、付き合いの深い馴染みの店みたいな親しみを覚えます。私自身も95年とはいかないまでも、その半分に近い年月、なじみを重ねてきた一人です。

 新年特別号は大型企画と銘うって「文藝春秋を彩った95人」が目玉。前編が司馬遼太郎からはじまって山本七平まで34人で81ぺージ、後編が昭和天皇から篠沢秀夫まで35人で59ぺージ、これだと69人ですが、「文藝春秋と私」と題する立花 隆から柳田邦男まで43ページの特別寄稿26人があって95人になる勘定で1冊の中で150ぺージにも及ぶ大特集でした。大正12年の創刊から平成に至る95年間に文藝春秋誌上で活躍した各界の人たちが登場しているからのついつい読まされてしまいます。

 ただ、個人的に心ひそかに生じた不満はこの大型企画の中で担当編集者の話は出て来ても、印刷担当者や印刷について触れる場面はひとつも出てきません。

 雑誌ほど印刷担当者のカゲの力に負う印刷物はないと思われます。あまたおられる遅筆作家や評論家先生のために生じたロスタイムを必死で埋め、書店の棚に発行期日どうりに雑誌を並べるためにどれくらい印刷担当者が無理をしなくてはならないか。私は目の当たりにしています。大正・昭和の時代と現代、平成のデジタル印刷技術とは格段に違います。しかし、出版社と印刷会社の雑誌の仕上がりと時間との共闘には今も変わりはありません。印刷にも光を。

 

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学研の『大人の科学』 小さな活版印刷機

2018-01-05 15:35:35 | 活版印刷のふるさと紀行

 2018年の正月、うれしいことがありました。タイトルが三題噺(さんだいばなし)みたいになりましたが学研から刊行された『大人の科学マガジン』3,500円がすばらしかったのです。

 テレビ朝日でしたか、発売前から大人気と紹介されているのを見て関心を持ったのが最初でしたが、うれしい第一は付録に実際に名刺やはがきが刷れ小さな活版印刷機がついていることです。まあ、付録というよりもひらがな、アルファベット、数字など162個の活字や印刷用の紙までついていて、自分で組み立て、自分で活字を組んで実際に印刷できること。

 第二は活版印刷の歴史や活版印刷の技術のあれこれ、『活版印刷三日月堂』で有名な長崎の五島列島の小値賀島の小さな活版印刷所「普弘舎」訪問記、秀英明朝の100年などゾクゾクするような読み物と写真についつい引き込まれてしまいます。

 そして第三は全編、全ぺージに溢れるいまや滅亡寸前の活版印刷に対する編集制作者の愛情と愛着の確かさでした。活版印刷に愛着をお持ちの方におすすめです。手作りの小型印刷機で小物の印刷をあなたも是非実現してください。

 

 

 

 

 

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おめでとう 印刷図書館70周年

2017-10-27 18:04:13 | 活版印刷のふるさと紀行

 昨夕、如水会館で『印刷図書館コレクション』出版パーティがありました。図書館が財団になって70周年の記念出版です。ここにお見せするのは収蔵品図録のポスターの部の寿屋ポートワインのポスターを紹介しているぺージです。扱われているのは、1922年,大正11年市田オフセット印刷の製品、日本のポスター史の上でもっとも有名なものの一つです。

 ポスターに限らず、明治・大正・昭和の書籍や雑誌はもちろん、活字見本帳など印刷図書館収蔵の貴重な史資料が収められている『印刷図書館コレクション』は、そのもまま日本の印刷産業の歩みを伝えてくれるようで見ているだけでも飽きません。

 ところで、印刷図書館は印刷業の規模のわりにはささやかな存在です。専門図書館として自動車業界とか電機業界などのそれとは比較になりません。しかし、財団になってからでも70年、多くの印刷人によって愛され、守られて来た地道な歩みには頭がさがります。

 席上、多くの方のスピーチには教えられるところが多かったのですが、最後に挨拶に立った印刷図書館の司書で記念出版の編集にも努力された松本佐恵美さんの「私どもに一度も足をお運びになったことのない沖縄や北海道の印刷業者さんが毎年律義に会費を納めてくださるのには感動しております」のエピソード紹介には考えさせられました。

 正直いって主として目下のところ、紙情報を扱う図書館も図書を印刷する印刷業も電子化の波に押されて退潮気味です。帰り道、これからの展開を案じながら歩いた次第です。

 

 

 

 

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個展 組版造形 白井敬尚

2017-09-27 14:15:46 | 活版印刷のふるさと紀行

昨日、ギンザ・グラフィック・ギャラリーのオープニングに行ってきました

わが感想としては「うれしかった」の1語につきます。

1Fと地階の会場いっぱいが白井敬尚さんの「組版造形」のお花畑なのです。

活字が、組版が、こんなに美しいものとは。タイポグラフィが醸し出す造形美に

見とれていると白井敬尚さんが活字の魔術師かと疑いたくなります。

グラフィックデザイナーの方はもちろんのこと、エディトリアル関連でお仕事を

されている方には絶対のおすすめです。

 

 

 

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島原の乱と印刷遺産

2017-05-14 12:00:09 | 活版印刷のふるさと紀行
 5月11日の東京新聞朝刊に島原の乱(1637~38)で無人化した島原半島に現在の徳島県から多くの人が移住してきたことを示唆する文書が南島原市教育委員会が発見したと報道されていました。

 もともと私自身、島原の乱については無知でした。戦争中の小学校ではキリシタンの反乱だったと教えられていましたから、島原の乱の真因が領主松倉重政の圧政に苦しんだ百姓の蜂起とキリシタン迫害のふたつにあったと知ったのは成人してからでした。また、島原の乱が最近では天草島原の乱といわれるようになりましたが、江戸幕府の方針で天草領民の存在が小さく扱われていた歴史も知りました。
  
 さて、この乱の攻防の舞台になった原城についてはご存知の方が多いと思いますが、この原城のお隣が口之津、私が『活版印刷紀行』の取材で口之津町歴史資料館を訪ね、口之津が日本で最初に金属活字を使ったキリシタン版の印刷が行われた加津佐のすぐお隣なので、島原の乱より40年ちょっと前にすぎない1591年ごろの印刷遺物、せめて鉛の活字ぐらいは展示されているのではないかと期待を白石館長にぶつけて、「領民全員が原城に籠城、全員殺され、あとは四国から移住してきた人が住み着いたので無理です」といわれてしまいました。

 発見された文書によると移住してきた人にはかなりの知識人がいたとありました。移民のなかに印刷遺産を発見蒐集しておいてくれた人がいればかったのに。島原の乱の死者3万7千人の中には加津佐の印刷工房で働いていた古老もいたかも知れないなどなどと考えてしまいました。

 

 

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