イギリスの中南部の工業都市バーミンガム、そこから西へ約60キロメートル、セバーン川が流れる渓谷に世界最古の鉄の橋「アイアンブリッジ」がある。地名もまたアイアンブリッジである。一帯は産業遺産の宝庫で、シンボルのアイアンブリッジの他、溶鉱炉跡や鉱山の坑道、インクラインなど多数の遺構がある。また、ブリスツヒル野外博物館、コールポート陶器博物館など6つの博物館を総合して、アイアンブリッジ峡谷博物館と呼ばれている。 イギリスを歩いているといくつかの産業革命発祥の地に出会う。それは、製鉄、製鋼、紡績とそれぞれの産業分野毎にわが地が歴史に名を残すと主張しているからである。ここアイアンブリッジはその名が示すように製鉄技術革新の地であった。
橋の設計は建築家のトーマス・プリチャード、建設はダービー三世が指揮し、彼のコールブルック製鉄所の鋳鉄約320トンを使用して1779年に橋は完成した。
ところでアイアンブリッジの構造に注目してみよう。現在一般に見られる鋼鉄橋とは違い、アーチ形をしているのがわかる。それは、材料が鋼ではなく鋳鉄であるからである。
鋳鉄(鋳物)は、鋼と違い、引張力や曲げには弱く、圧縮力には強い性質がある。それで圧縮力に強い構造、石橋と同様にアーチ形の構造となったのである。
(石田正治さんより・愛知県立豊橋工業高等学校教諭)