年始め、雪山に残された小さな足あとに気がついて一句詠んだ。そのときから二か月にもなる。あらためて、時は疾風より速く去り、この世に移ろわぬものはないと身にしみて感じる。
つい数日前にも、家の前をまっすぐに横切る動物の足あとがあった。引っかかるものがあって、もう一度見にいくと、やはりその足あとは同伴者がいない単独行なのだ。だが、綱渡りするような一直線のキツネのものではない。
この辺りにタヌキやシカはいないはずだ。アライグマの可能性はなくはないが、本物を見たことはない。やはりイヌ以外の動物は思い浮かばない。傍らに人の足あとがあれば、と探してみるが判別できない。この辺りに野良犬は皆無。飼い主がリードを外してイヌを遊ばせたとしか考えようがない。
一昨日の朝、出勤しようと自宅を出たら、玄関の階段下の雪面あちこちに、大きな靴あとがいくつも付いていた。車庫の前、雪捨て場になっている裏の畑の方にも続いている。何だか気持ち悪いまま、時間に追われて雪道を走った。
走れば走るほどに、靴あとがペタペタと増えていくような気がした。私は携帯をポケットから引っぱり出して、思わず「不審者がいるぞ」と大きな声で家人に向かって叫んだ。
しばらくして、家人からメールが来た。
「おあいにく、あなた様の長靴でした」
前日、雪かきしたことを思い出した。湿った雪に付いた長靴底のあとが、夜のうちにしっかり凍ったのだ。それにしても、最近、些細なことに過敏に反応しすぎる。国内外の政治がらみの悲惨な事柄、たとえば、毒殺や、テロ対策にならない対テロ法案、幼稚園や市場の敷地のゴミ溜めに見え隠れする政治家の足あとなどに、腹を立てすぎているためか。(2017.3.1)