父さんはこの数日、はなの冷たくなった身体を見て落ち込み、はなの思い出を引きずり出しては、悲しみにどっぷり浸っていた。そして今日、はなの身体は物理的に消滅した。
19年に渡る、はなとの生活の記憶を消し去る方法は恐らくないだろう。なので、深い喪失感や悲しみから逃れようとするのは、永遠に無駄な抵抗のような気がする。年寄りらしくすっかり忘れてしまえば、平穏な生を送ることができるのに。
起きている間だけでも、感傷的にならないためには、せいぜい忙しく動き回るしかない。父さんは、珍しくも1時間半かけて掃除機を引っ張り、家中掃除して回った。こんなに時間がかかったのはていねいに作業したからではない。父さんは掃除しながら、はなとの記憶に浸っていた。
実は、はなは、掃除機追っかけ遊びが大好きだった。掃除を終えて、はなの姿を見失った父さんは、掃除前より大きな悲嘆に襲われた。(2023.1.15)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます