心の免疫力~書とことばから

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求めて~ by 沙於里

「あ」に込められた思い

2008-05-24 | 書の話
                     「あ」 五種  (半紙)

    


いつだったか、母の書の師でもあられた(故)清田岱石先生が、
ある書展で「あ」の字の連作を出品されていた。
確か3×6尺の横に「あ」の文字ばかりたくさん。

それぞれに表情が違い、また全体としての響き合いもあって、
いつかこんなのが書けたらなぁって思っていた。

清田先生は30代から小学校の校長先生をされていた方で、
私の師とも深い関わりのあるお方。

小柄で、いつもベレー帽をかぶられ、私などにも子供に接するときのように、
いつもにこやかな笑顔で話しかけて下さる、穏やかでやさしいお人柄だった。

書を始めた頃、消しゴムや木に文字や絵を彫って遊んでいた私は、
相変わらずの世間知らずもあって、清田先生の似顔絵を消しゴムで彫り、
拙い手紙も添えてお贈りしたことがある。

今思えばお恥ずかしい限りだけど、先生はその印を
「とても気に入りました。」とお手紙を下さった。
封書の御自分のお名前の横には、似顔絵の印が押してあって。

その後お目にかかった折には、いつものやさしい笑顔で、
「今度は住所印を彫ってくれませんか?」

私はなんだかうれしくなって、消しゴムはんこ作りが益々楽しくなり、
全部で200個位あったかな。。

そんなわけで、今も「あ」という文字を見ると、清田先生を思い出します。

教育者であられた先生は、子供たち一人一人をちゃんと見ていらっしゃったように
たった「あ」という文字も一つ一つ、愛情を込めて書かれていらしたんだろうなぁと
随分あとになってから思いました。

私はせめて、先生の「あ」に込められた思いを忘れないように、
いつか私なりの「あ」の作品を書けたらなぁと思います。
コメント (2)
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