二口山塊・二口沢~神室山
どうやら沢の分岐を間違えた。
その予感は、登山道に出て確信した。
二口山塊といえば、ナメ。
暑い日が続いたならば、誰もが涼を求めるのは自然な成り行きである。
沢ヤなら森の中の緩やかなナメに涼を求めるのもまた成り行きであろう。
名取川、二口沢本流の小松原沢を遡り、山形神室、仙台神室を踏んで薮尾根を下り、風ノ堂沢下降というのが当初の計画だった。
しかし、銚子の滝を見ることなく源頭の様相を呈してきたころからそんな予感はしていた。
後に確認するとどうやら桂沢へと入り込んだらしい。
二口林道ゲ-ト手前から入渓点は僅か。
風ノ堂沢出合手前で入渓。いきなりナメからスタ-トする。
さすがに誉れ高き二口のナメは秀逸。時に落し穴のようにある深みに気をつけながらいく。
数mから10mほどの滝を登ったり、小さく巻くなどしつつ遡る。
本日チョイスしたアクアステルスは、二口のナメに相性が悪いらしく足元に神経を使う。
特に問題となる個所はないものの、似たようなナメ滝が多く、いつしか遡行図と現地確認がズレていた。
大体、取り違えた場所は想像がついた。
とはいえ、桂沢も滑り台のようなナメが源頭近くまで続く。
草つきと薮を繋いで登山道へ出たものの、山形神室までは1時間ほどを要した。
山形神室は低木を敷き詰めた頂。とても開放的な雰囲気だ。
仙台神室まではアップダウンで1時間ほど。
そこから、風ノ堂沢を目指し、かつての山道へと進むも踏み後はあっけなく消える。
見晴らしのいい場所で地形とコンパスの照合をしていると、行く手にニホンザルの集団。
しばらく様子を見る。退く様子もないので、声をだしながら歩を進めると、さすがに退いていった。
仙台神室の東尾根はかつては山道として登られていたが、今では廃道となったと聞く。
道形を期待したものの、見出すに至らず薮グレ-ドはⅣ級といったところだろうか。
そんなこんなで道草を食っていると、雷雲が蠢きだす。
次第に強風が吹き出し、視界がなくなった。ヤベ-なぁ。
薮との格闘も程々に風ノ堂沢をあきらめ、南沢へと下降。
北斜面を薮頼りに下って行くと沢床に着いた。荒れた樹林帯だった。
水分補給し小休止。雷雲は悪化することなく、なりを潜めた。
しばらく下るとナメ床が出る。このあたりはどこかしこにもナメが潜んでいるのだろう。
いくつかの小滝をクライムダウンすると、15m、凹場の滝に出くわした。
右岸を小さく巻き下るが下部はドロとスラブでズルズル。
無事降りたのも束の間、その下にさらに大きな滝。
落ち口から下が見えないので、角度は急。落ち口先の空間が大きく開き、はるか下方に流れが続いていることから30mは越えているだろう。
瞬間的に「巻きだな」と思ったものの、降りてきたドロとスラブのズルズル壁は”アリ地獄”の様相。
下るのは容易でも、大きく巻くために登り返すのは容易ではない。
考えた末、そのあたりにある流木や枝を集め、それを足場にバイルと草頼りでなんとか立ち木に指が届いた。
この沢旅の核心だった。
巻きは最終的に懸垂下降を交えたが、併せていくつかの滝を巻いたようで、大滝の姿は見ることはなかった。
そこから二口沢本流へは僅か。いくつかのナメ滝を下った先に出合う。
さて、後は本流をのんびり下ればと鷹揚に構えていたものの、この先が意外と長かった。
はたして下降は南沢であったのだろうかと疑問を残すことになった。
後日、二口渓谷、南沢の記述を調べて見ると、「特に難しいところはなく、下降に適している」という記録を散見した。
南沢でも右俣・左俣、右沢・左沢とその流域は扇状に広がる。そのどこかである可能性はある。
膝を打つような答えを見つけることはできなかったが、隣の小松倉沢には大滝があるらしい。
或いは小松倉沢を下降したということも無くはない。
こういうときにGPSがあるならば、即時解決と相成るのであろう。
しかし、こんなちょっとした「冒険」も悪くは無い。
この日の引っかかりは時を越えて、或る時ヒョッコリと顔を出す。案外それが楽しみなのだ。
sak