その昔。
深夜の一ノ倉出合駐車場。
「あれ?さっきトイレに入った人、出てこないね」
えっ・・・?
「だってほら、ヘッデンつけて歩いてたじゃない。」
ええっ?ここに着いた時から二人だけだよ。他に誰も見てないよ。
「ええっ?そんな筈ないよ。確かにいたんだから。」
だって車もテントもないじゃん。こんな深夜に。
「でもいたんだよ。確かに。」
そうだろうね。きっと何かいたんだろうね。確かに。
でも、もう気にしないで寝ることにしよう。
見える人にしか見えない、あの日の出来事。
おしまい。
【-ichinokura Blue-】
ここは特殊な場所。
いつだって山行前はナ-バスになる。
気持ちの奥底に臆病な自分がいる。
その彼が何か伝えようとしている。
そんな気がしてならないのだ。
2015/5/27 谷川岳・一ノ倉沢奥壁南稜
南稜は一ノ倉にあって人気ル-トのひとつ。
快適なリッジやフェ-スの続くオススメル-ト。
自身も勿論、大好きなル-トの一つ
パ-トナ-は一ノ倉デビュ-のsuztさん。
南稜は、一ノ倉を知る意味でとてもいい場所にある。
今日のチョイスはそういう理由が大きい。
出合から雪渓を行き、テ-ルリッジ。
衝立中央稜や中央カンテ、変チの取りつきを経由して南稜テラスで一息入れる。
天気は上々。岩の乾きもスバラシく、これ以上ないコンディション。
美味しいところは相方にリ-ドしてもらう手筈で、スタ-トはsakから。
1P、リ-ド。チムニ-手前まで。
2P、フォロ-。suztさん、順調、順調。
3P、リ-ド。フェ-スを草付まで。
4P、フォロ-。草付歩き。
5P、リ-ド。大岩を回り込む。
6P、フォロ-。先行のソロ氏に譲っていただき、馬の背リッジ途中まで。
7P、リ-ド。カンテからクラック。
8P、フォロ-。核心の最終ピッチ、suztさんフリ-で。
快適快適。
南稜には幾度となく来ているが、今日ほど快適なコンディションはない。
いやはや、何方様のお蔭でございましょう?
終了点でゆったりしていると、ヘリが近づいてきてホバリング。
ん?遭難?
と思ったら、警察ヘリの操縦訓練だったらしい。
というのは後に知ることになったのだが。
6ルンゼの懸垂下降も順調にこなし、南稜テラス着。
何と順調なことか。
ボトボト下れば早々に一ノ倉出合。
ココから振り返る一ノ倉の岩壁はいつだって、登る前より少しだけカッコ良く見える。
そして来たるべき明日。
おそらく今日のようには行くまい。
ロ-プウェイ駐車場のぼんやりした灯りの下。
念入りに幾つかの記録を頭に叩き込む。
sak