今からでも遅くない。映画にごりえを海外へ。
・・・・・うっとおしい最近の日本です。でも、誇りを失うことはありません。日本はとてもよいものを作る出せる国にです。すばらしい映画『にごりえ(1953)』を、今からでも海外へ売り込みましょう。この映画に描かれている人間の悲しみ美しさと貧しさは、、世界に通じる普遍性があります。以下は、その推薦の言葉です。
映画「にごりえ」1・・・・・杉村春子、VS、高峰秀子
今、録画をしておいた「にごりえ」を二度目としてみています。いつもテレビの録画はフェイスブックの処理をしながら見ていてるのでしっかりとは鑑賞していないのですが、「にごりえ」にこだわったのは最後の方に出てくる杉村春子が抜群にいいのです。それをもう一回見たくてね。実は杉村春子は、私はあまり好きではないのです。特にテレビで何度も放映された演劇『女の一生』は、何も感動しないなと、(無論、テレビで、演劇を見るのは、最低の手法ですけれどね)思っているわけです。
でも、まだ、この映画のそこまでは、進んでいないのですが、絶対に裏切られないでしょう。実は今読んでいる、「高峰秀子」の流儀の中でも、15歳のときに、高峰秀子が、後姿だけを見せて、せりふひとつない杉村春子の演技に電流に打たれたような大反省をしたというエピソードが出てきます。
高峰秀子は...、5歳のころから養母しげと、彼女が寄生をさせた親戚13人に搾取、搾取の憂き目に会い、大好きな読書さえ、布団の中で隠れて読んでいても、電気をばちっと切られるほどの、意地悪にあい、松竹から東宝に引き抜かれるときの約束であった女学校の入学を、「入学はさせるが、通学をさせるとは、契約書には書いていない」と反古にされて、・・・・・その女学校が、なんと、文化学院と言う自由主義の学校なのに、高峰秀子が、あまりに出席日数が少ないので、学校を取るか、女優を採るかと迫ってきたので、・・・・・しかたがなくて、自分から、退学しますと決めたそうですが、
そういう生活の中で、映画女優であることに、希望も夢も失い、ほとんど惰性で、仕事をしていた(大変聡明なので、それでも平均点以上の仕事はできたが・・・・・)中で、
突然に、自分を目覚めさせてくれた、杉村春子の一瞬の演技だったそうです。
今から楽しみに待っていますが、私もにごりえの中での、杉村春子の演技には裏切られないでしょう。
ただし、別の項目で書きますが、高峰秀子と、杉村春子はまったく違った種類の人間のようですね。それは、16歳ぐらいまでの、育ちの違いにあるのでしょう。徹底的に、大人に裏切られてしまった高峰秀子と、女学校までほとんどわがままに、自己を貫いて、叱られるということも無かったであろう、杉村春子との違いです。
私の人生って、どちらかというと、家庭環境の特に経済的な側面では、杉村春子に近いのですが、それでも、自己主張という面では、なんとなく高峰秀子に、近い部分があるなあと思いますよ。相当に周りの状況がわかっていて、自分を抑える方だったから。
映画「にごりえ」・・・・2、 芥川比呂志の美しさに驚く
ところで、このにごりえは、文学座が創ったので、分裂前の文学座の名優たちが、総出演です。第一話の車引きが、芥川龍之介の長男、比呂志だったのですね。グーグルで検索をしたので、今回、はじめて気が付きました。最近の私は芸能界とか、文化人が、政治にも大きな役目を果たしていることに気がついてきていて、芸能界の興味を抱いています。特にプロバイダーが提供するウエブサイトニュースで、基本的なことがわかりますから。
で、第一話で、零落した車引きを演じるのが、芥川比呂志だったのです。私がテレビで、芥川比呂志を見始めたころは、すでに、病気(もしかすると結核?)でほほがこけた姿だったのですが、この映画『にごりえ』のころはまだ、とても美しいのですね。
それから、第二話に出てくる、のけ者扱いをされている長男を演じる仲谷昇も同じです。ほっそりして上品で。そして、まだ見ていませんが、最終話に出てくる山村総もきっとそうでしょう。ただ、これらの男性陣が主役ではない映画なのですよね。
映画『にごりえ』ー3
この映画はオムニバス形式で、中でも多分ですが第二話「おおつごもり」がメインでしょうね。ただ、お話としては、やや、予定調和の中に終わります。苦しむ純情な女中を、放蕩息子が、救ってやるお話です。
で、今見ると、この映画の中で、杉村春子についで、名演だったのが、この第二話に登場する長岡輝子でしょうね。悪役、意地悪な役なのですが、すばらしいです。実の娘たちには、甘くて、優しいお母さん。だが、前の奥さんの息子(長男)と、女中には、残酷なまでに意地悪な女性・・・・それが、うまい。うまい。
それから、wikipediaには女優としては、名前が出ていなかった三崎千恵子がうまかったです。主人公と対比する、引き立て役です。おしゃべりで、自己主張がある若い女中さん。
... で、三つの話で、三人のヒロインが居るのですが、この第二話の主人公、純真極まりない女中が、もっとも美しい女性なのでしょう。ですが、私はwikipediaで確かめるまでは、香川京子だとばかり思っていました。大失敗、久我美子です。
でも、私の中のイメージでは、久我美子は、子爵家かなにかのお嬢様で、恋愛映画のヒロインと言う思い出が強いですから・・・・・このかわいそうな女中をやっているのが、久我美子だとは、思いも及びませんでした。
ところで、この第二話と、第三話のヒロインだけは文学座が外部から招いていますね。でも、この第二話で、意地悪な長岡輝子の娘二人を演じている中で、次女役が岸田今日子です。後日仲谷昇と結婚しますね。
映画『にごりえ』-4、
この映画の中では、やはり、第三話が圧巻でしょう。筋はオペラカルメンと、大体似ています。もちろん明治の女、樋口一葉が、オペラ・カルメンを見たはずがないので、こういうストーリーが、世の中に普遍的にあるのでしょう。魅力に満ちた酌婦おりきには、昔入れあげてくれた布団やの宮口精二がいて、今、落ちぶれています。吹っ切っているつもりなのに、そして、お金がないので、会わないのに、男女ともに相手の印象が強く残っているのです。
このおりきがもちろん上手できれいなんですが、淡島千影だとは今回まで気が付きませんでした。が、今、人生経験が増えてきて、この酌婦おりきへの感情移入が大きくなったとはいえ、やはり圧巻は杉村春子です。ヒロインじゃあないけれど、これほど、印象強い女性像も居ないのではないかというほど、すごい造型です。まあ、相手役の宮口精二もすごいけれど。
映画『真実一路』、淡島千景追悼
本日NHKのBSプレミアムで、「真実一路」が放映されます。これには驚いたという私です。淡島千景さんはお子様も居ないのに、見事に母であり、自由や真実を求める女性を熱演しています。地に近い女性像なのでしょう。誰も言わないけれど、岸信介首相と、とても近い仲だったと、うわさで聞いております。ご本人は一切、それに関しておっしゃらないであの世に旅立たれました。戦前の女性の典型です。
なお、昨日書いた映画『にごりえ』内での、コンビ、山村総氏と、ここでは反対に、感情も肉体的にも、合わなかった夫婦を演じておられます。でも、それも、意外とリアルで、・・・・・
『水木洋子、と、今井正』 映画『にごりえ』ー6
映画『にごりえ』は、今見ても内容が充実しきっていて、どこも古いとは感じません。すばらしい映画です。小津安二郎の評価が高いのですが、今井正監督もすごい力量で、この映画は日本映画の宝物だと感じます。でも、1953年は、雨月物語かな? 羅生門かな? 京マチコさんの映画が、世界のコンクールに出品をされ、受賞をしました。こちらの『にごりえ』は、日本国内では、芸術祭参加ですが、海外に出たとは聞いていません。
でも、今からでも出したらどうかなあ? 懸念は二つあります。日本が貧しかったことを、強調し過ぎているから、それが国民的に恥ずかしいですか? 家ね。貧しいことは恥ずかしいことでありません。酌婦おりきが小さいころご飯を買ってきて、それが、ころんで泥水の中に解けていくの画面のせつなさ・・・・・そういうところに、酌婦(これは、芸妓ほど、技術や修練が...ない女性を指すらしい)が、水商売に入らなければいけなかった、悲しい背景などを、浮き彫りにします。明快な因果関係があるのです。
情緒纏綿たる映画のように見えて、実際には、理性的で、相当に理詰めな因果関係が、描きされています。これは、現代でも、非常に新しいし、世界中で理解を得られるでしょう。「おしん」が世界中の人の対日感情をよくしたことを思えば、この映画を、新しく世界へ売り出して行くのは、相当に効果かがあるように思えます。
もうひとつの懸念は、第一話と、特に、第二話が、やや、予定調和に過ぎるところ、・・・・・
それでも、樋口一葉が、ここまで丁寧にディテールを書いているとは思われないので、脚本家、水木洋子が、すばらしいのだろうと思います。グーグルで検索をすると、生前の邸宅だ市川市に寄付されたというお話ばかり出てきます。もっと、業績を書いてほしいなあ。誰かが・・・・・
ああ、しかし、後日知るのですが、この夫婦が、有馬稲子を、大変苦しめたという事を。
2012年3月3日 雨宮舜 (川崎千恵子)