AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

膝痛に対する手技療法を応用した大腿四頭筋刺針

2015-10-14 | 膝痛

膝OAの多くは大腿四頭筋(大腿直筋・ 外側広筋・内側広筋・中間広筋)の筋力低下の結果であり、その治療には以前から大腿四頭筋の筋肉量を増やす目的で、大腿四頭筋強化運動をおこなわせるのがよいとされてきた。これは、次のような悪循環を想定している。
☆膝痛→動くと痛むのであまり動かさない(廃用性筋萎縮)→膝関節痛の増悪。

この考え方では、廃用性萎縮を避けるには、筋肉量を増やす必要があり、大腿四頭筋強化運動等を行うべきだという結論になる。しかし筋肉強化訓練は、短期間の訓練では効果が乏しく、途中で訓練中断してしまうケースは少なくない。

ただし実際には、長期的な努力を強いられるので途中で挫折してしまうという話をよく聞く。膝OAの病理機序として次のようなことも考えられるのではないか。
☆膝痛→膝関節周囲筋の常時収縮 (保護スパズム)→動くと痛むので動かさない(廃用性筋萎縮)→膝関節痛の増悪。

筆者が行っている大腿四頭筋を緩める方法は、大腿直筋に対するものと、内側広い筋外側広筋に対するものとでは違ったものになっている。自然と区別されるに至っている。


1.大腿直筋の緊張緩和方法

大腿直筋が過緊張して短縮状態にあることで、膝痛を生じるので、大腿直筋を緩める方法を考える。
大腿直筋は股関節と膝関節をまたぐ2関節筋であり、本筋のストレッチは、股関節伸展と膝関節屈曲を同時に行うと効果が高い。もっともアスリートに対する方法はその通りであっても、膝OAの患者多くは高齢者なので、仰臥位で膝屈曲姿勢のなどのように、股関節屈曲状態で、膝関節だけ屈曲させても大腿直筋に対するストレッチは治療に使える。膝屈曲させると、膝蓋骨の位置が予想したより下に移動し、したがって鶴頂の位置も下に移動することになる。

この姿勢で、大腿直筋の膝蓋骨停止部(≒鶴頂穴)を触診し、圧痛硬結を診て、圧痛点に刺針して雀啄刺激を行うことで、大腿直筋緊張が緩み、筋長が伸びるので膝痛が軽減されることが多い。これはⅠb抑制の機序を利用したものである。 

Ⅰb抑制:筋の持続的伸張などでゴルジ腱器官を興奮させることにより、Ⅰb線維を介して、目的とする筋の緊張が低下する現象。筋腱の骨付着部などゴルジ腱器官の集まる部位を針灸などで刺激すると、これと連なる筋の緊張緩和すること。

 

 


2.外側広筋・内側広筋

外側広筋・内側広筋・中間広筋の三つは膝関節をまたぐ単関節筋である。中間広筋については不明なことが多いので、以下は外側広筋と内側広筋について記す。

上記の大腿直筋緊張を改善する方法では、膝蓋骨の上縁(鶴頂)の大腿直筋付着部を押圧して圧痛点に刺針するのだが、膝蓋骨の内外縁(下血海)や外内縁(下梁丘)には圧痛が出現しないことに気づいた。すなわち膝屈曲位で圧痛を調べる方法は、内側広筋や外側広筋の圧痛検出には向かないのかもしれないと思った。

内側広筋や外側広筋の筋収縮は、股関節の状態は無関係で、座位で膝関節を伸展状態に保持すること、あるいは仰臥位で下肢をベッドからやや挙上させること(=ともに等張性短縮性筋収縮)で痛みの有無を調べられる。これと同じ原理だが、臨床では仰臥位で、意識的に太ももにギュッと力を入れさせて意識的に膝完全伸展にして圧痛を調べる方法(=等尺性筋収縮)もあり、すぐに刺針しやすいという意味で後者の方が合理的だろう。 

このような肢位にさせると、内側広筋停止部痛(とくに外側広筋)に強い圧痛硬結をみることが多く、圧痛硬結部に2番針程度の針で軽い雀啄して抜針すると痛みが減ずることをよく経験する。

要するに内側広筋(または外側広筋)の骨付着部症に対する治療の要点になる。