AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

むずむず脚症候群の針灸治療 ver.1.4

2019-07-18 | 下肢症状

むずむず脚症候群の正式名称は、下肢静止不能症候群、RLS, Restless Legs Syndromeという。最近になって認知されてきた疾患である。ある日、橈骨麻痺で来院中の患者が「むずむず脚症候群もある」と訴えた。これまで抱いていた私の印象から、「それは大変だ」と応じたが、その患者は薬を飲めば治るが、あまり薬は飲みたくないと云った。私は患者がむずむず脚症候群であること以上に、治す薬があることに驚いた。早速ネット検索してみて、かつての常識がすでに古くなっているこをを思い知らされ、新たな見解も生まれたので、本稿としてまとめる。

1.症状

脚の不快感と動かしたい欲求。脚の表面ではなく深部に不快な感じがあり、動かすと少し軽減する。その不快感は様々に表現される。むずむずする、虫が這う、痛がゆい、など。

症状は夕方から夜間にかけて強くなることが多い。自然治癒はごくまれで、進行性増悪することが多い。人によっては背中や腕にも現れることがある。

2.原因

神経伝達物質であるドーパミンの機能異常。
    
神経伝達物質ドーパミンの機能低下

         ↓
A11と呼ばれる脳の神経細胞の機能低下。
                 ↓
脳に送る必要のない身体深部知覚の些細な信号をカットできず、脳が過敏状態
         ↓
     「むずむず脚症候群」
   
身体の中では、脳が認識する運動刺激や身体感覚の他に、一定の閾値に達しない「雑音」のような深部知覚が無数に発生している。これらの深部知覚は、間脳部に相当するA11領域から脊髄に伸びる下行性の神経細胞によって抑制されているので脳にまでは達しない。


しかし何らかの原因によってA11の神経細胞の働きが弱まり、特に夜間、運動刺激や身体感覚の刺激がなくなると、「雑音」のような深部知覚が上行しやすくなり、脳が感覚情報過多の状態になり“むずむず”するような不快感を覚えるようになる。

なおA11の働きが弱まる原因として、ドーパミン神経細胞の機能障害や、脳内の貯蔵鉄(フェリチン)減少や鉄代謝異常が関係しているとされている。

   
夜になると脳の松果体からメラトニンが分泌され、身体が眠りにつきやすいように深部体温が下がる。とともに“むずむず”するような異常感覚も現れてくる。明け方になってメラトニンの分泌が減って、深部体温が上昇し始めると異常感覚は消失する。 

A11の働きが弱まる原因として、ドーパミン神経細胞の機能障害が関係している。一部の統合失調症治療薬(リスパダールなど)は、ドーパミン過剰活性を抑えるので副作用として、むずむず症状が生ずることがある。  


 

3.現代医療での治療


 「ビ・ シフロール錠」が、日本で初めてむずむず脚症候群の薬として2010年1月に保険適用された。本剤はドパミンアゴニスト(=作動)薬で、ドパミンの代わりとなってドパミン受容体を刺激するもの。要するにドーパミン量を増やし、弱まったA11神経細胞に直接刺激を与え 脚の不快感のもとをブロックする機能を回復させるもの。

  
※本剤は、パーキンソン病での治療薬だが、むずむず脚症候群で使われる場合はパーキンソン病治療に比べて、6分の1~18分の1という少ない量で効果がある。ただし長期間連用すると効かなくなっていくる。

 

4.針灸治療

1)考え方


A11神経細胞の機能低下により、脳に届ける必要のない深部知覚信号カットできなくなっている。であるなら脳へより大きい深部知覚信号(=響かせる針)を送ることで、先の「雑音」のような深部知覚信号をマスキングできるのではないだろうか。この考え方は、パーキンソン病の四肢痙縮治療としても使えるものであろう。  

  

2)発作時、足三里に対する深刺で響かせる(小宮猛史先生)


体験例:うちの家内は、寝室で寝ていたかと思うと脚をどんどん叩きながら起きてきて「なんとかしてー」と訴える。虫が這うようなむずむず感を感じ、じっとしていられないと言う。発症はたいてい右側。


そこで発症するたびに足三里に、そっとゆっくり止まるまで刺入し、ゆっくり雀啄することで得るズーンという響きを与える。すると直後に8割くらい楽になり、次に足三里の少し下にもう一箇所響かすように鍼をするとすっかり消失し、そのあとぐっすり眠れるようになる。時間にして2~3分。なお切皮程度の深さで高速撚鍼して響きを与えても症状の軽快はみられない。


先日の発作時、家内に協力してもらい、いつもの鍼するところをお灸にしてみた(半米粒大の大きさで7壮ずつ)。しかし、じっとしていられるような効果までは出なかった。結局そのあと鍼して鎮静。(小宮猛史:ブログJTDの小窓 ムズムズ脚足症候群 2014.3.12より)

小宮猛史先生ブログ

http://blog.goo.ne.jp/takeincho/e/75b1700aff424fe277a7309dc1deb0c6



3)委中部の強圧(「昼のガスパール・オカブ日記」より)

患者は仰向けに床に寝る。治療者により患者の膝の裏の筋を強く圧してもらっていると、かなり痛く感じる箇所がある。そこを治療者に50回くらい念入りに強く圧すように揉んでもらう。これを両脚やる。揉んでもらっている時はかなり痛く感じるのが普通である。本報告者の場合、この治療の効果は1ヶ月程度である。それを過ぎるとまたむずむず感が出てくるので、上記方法を繰り返す。就寝前に治療を行うのが望ましいという。

 

 

4)下肢脛骨骨膜刺針が効果的かもしれない

ズーンと響くように刺針することが有効だという報告があったので、筆者は中国針で足三里や三陰交から神経幹ねらいで刺針してみたが、思うような効果が得られなかった。そこで脛骨骨膜刺として足三里や三陰交から脛骨骨膜に擦りつけるように刺入し、後脛骨筋に至るような深刺をしてみた。すなわち、シンスプリントの針治療の流用を行った。すると、これまで単に強い響きを与える目的で行った刺針よりも、ムズムズが減った。針灸治療的に、シンスプリントとムズムズ脚症候群は同じ範疇として捉えることができるのだろうか。
 

シンスプリントの骨膜刺激針治療(似田)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/58c9421d320b880ecd41da4e15861ead

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 


「偽内臓症治療のための体性神経刺激~肋間神経・脊髄神経後枝・陰部神経への鍼灸治療」 セミナー 終了しました

2019-07-12 | 講習会・勉強会・懇親会

 神奈川県鍼灸師会 令和元年第一回 イブニングセミナー <終了>

「偽内臓症治療野ための体性神経刺激~肋間神経・脊髄神経後枝・陰部神経への鍼灸治療」 <実技供覧>

ごあいさつ
日頃の鍼灸臨床で、整形外科やペインクリニック分野の治療は得意とするが、いわゆる内臓系疾患は苦手としているのが普通である。すなわち自律神経是正を目標とする鍼灸治療の方法は確実性に乏しい。今回は、一見すると内臓症状であっても実際は体性神経症状であるものを取り上げ、その具体的方法を実技供覧しつつ説明したい。  

①耳針と迷走神経刺激 
②肋間神経刺激と横隔膜知覚  
③腹痛と肋間神経痛  
④柳谷素霊の五臓六腑の針の解剖学的根拠 
⑤代田文誌の脾兪と小野寺殿部圧痛点の相関  
⑥陰部神経刺激と泌尿器疾患
⑦北小路博司氏の骨盤神経刺激法  
⑧常習性便秘に対する左府舎刺針の解剖特性


日時 平成元年7月10日(水) 19時~20時30分 

会場 万国橋会議センター402号室(下地図)   
みなとみらい線「馬車道」駅6番出口より徒歩4分    
市営地下鉄「桜木町」駅より徒歩10分




申込方法 事前予約不要。当日受付(18時30分より)  

受講料 会員無料 学生会員無料(会員証提示) 、学生1500円(学生証提示) 、一般3000円

連絡先 神奈川県鍼灸師会事務局

 http://kanagawa.harikyu.or.jp/seminar/

 

7月10日予定通り講演を行った。受講者は40名程度で、これはイブニングセミナーとしてはなかりの好記録だったそうです。
90分という短時間だったので、かいつまんで説明したら60分で終了してしまった。長時間セミナーの方が私には向いていると思った。