AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

十二正経走行モデル ver. 2.2

2020-06-21 | 古典概念の現代的解釈

筆者は2011.1.11付で「經絡走行モデル」ブログを発表した。その内容は、經絡走行をトポロジー的に捉えたものであったが、分かりにくい点が多々あった。そこで今回は、經絡走行概念図を示しつつ、実際の部位(あるいは経穴名)を付け加えることで、經絡を利用した針灸臨床を考えるための素材を提供することを考え大幅な改良を行い、何回か改良を行った。 

 

1.三陰三陽の表在経絡 

一般的な経絡図は、表層経絡(正確には絡脈)だけが描かれているのは周知の通りである。十二經絡は、走行別に手の三陰經、手の三陽経、足の三陰経、足の三陽経に分類される。この4種の走行パターンを下記に示した。

 

2.表在經絡と深部經絡

これは初歩的学習としては妥当なものだが、きちんと経絡を利用した治療をしようとすれば、まったく不足している。一つの経絡の特徴としては、走行のどこかで該当臓腑につながっていて、臓腑と直接つながっているのは深部經絡であって、上記の図では省略されているからである。 

直接、鍼灸刺激できるのは、上図の表層經絡部分だけだが、鍼灸刺激が表層經絡→深層經絡→臓腑というように伝播されるので、内臓治療が可能となるというのが古典理論になっている。体幹内臓を直接治療する方法としては他に兪募穴治療がある。


3.經絡走行モデル図

実際の經絡流注は極めて複雑で信憑性も高いとは言い難い。經絡を考慮した鍼灸治療するにしても、經絡走行を細部まで記憶するのは難しく、それを記憶しなければ治療できないというわけでもない。 

手元には本間祥白著「図解鍼灸実用経穴学」と同氏著「誰でもわかる經絡治療講話」の二冊がある。両書籍とも下図のような經絡走行一覧表が載っている。非常に複雑であることが改めて思い知らされる。(色づけは私自身の勉強のために付加したもの) 

だが、始点と終点、深部經絡が臓腑に出入りする部位、浅層經が深層經絡との出入口など、要点をきっちりと押さえる一方、細かな走行を省略することにすれば、經絡走行の全体像が見渡せるものとなるだろう。 

①上図で青色が表層經絡で針灸刺激できる部位である。表層經絡は、四肢と体幹ともに流れている、体幹部分の表層經絡は体壁を走行している。黒色は深層經絡で鍼灸刺激できない部位である。深層經絡は体幹深部(=体内)にある。

②經絡で、太線は太線が直經、細線が支脈である。

③四肢末端附近にある経穴は、<絡穴>であり、次経への流入口である。四肢の經絡末端は<井穴>である。 

④手三陰経と足三陽経は直接はつながっているようには図示されていない。これは頭蓋の感覚器官や脳内を複雑に走行していて図示困難なことによる。  


4.經絡走行モデル2

上図はトポロジーの観点から次のように表すこともできる。一巡目(肺-大腸-胃-脾)の流注、二巡目(心-小腸-膀胱-腎)、三巡目(心包-三焦-胆-肝)と、よく似たルートを通るが、走行の細部の違い(とくに足の三陰経の走行)の違いを把握しやすいと思った。
内臓治療に対する鍼灸のやり方は、実線部分を直接刺激し、点線部分につながる臓腑症状をリモート的に改善させることになる。(点線部分は直接刺激できないので)

 



 


 

    


秩序ある成長の仕組み<ファッシア、気、モルフォゲン、フラクタル理論>(「閃く經絡」の読み解き その3)Ver.1.1

2020-06-15 | 古典概念の現代的解釈

1.ファッシアとは何か?

ファッシア(fascia)とは、ラテン語で「結びつける」の意味で、まさしく組織と組織を結びつける組織である。初めは筋肉を包む膜を筋膜とよんでいたが、筋肉だけでなく、臓器、骨、血管など、それぞれのパーツも筋膜同様の膜に覆われていることから、幅広い概念としてファッシアとよばれるようになった。とくに筋膜を意味するには、myofascia とよぶようになった。旧来からこうした膜の存在は知られていたのだが、組織を包む単なる包装紙のような役割だとして、あまり注目されていなかった。
ファッシア自体は結合織の膜で、組織ごとにファッシアで包まれている。隣接するファッシア間には空白ができ、細胞間質基質できる。
ファッシアはいわば真空パックとなり、水・空気・血液・膿・電気等を通さないので、隣接するファッシア間の細胞間基質をすべって移動する。そしてこの通路こそ經絡であるとしている。


2.気とは何か?

ファッシアを考慮することで、經絡の流れを説明しやすくなる。經絡を通過するのは気の流れとされていた。ところで気はもとは氣と表し、气+米で構成されてた。「气」は蒸気、空気などを示し、「米」は文字通りお米のことで、ポン菓子のようにポーンと弾けたお米を描いている。以上から気という文字は、米と空気が混ざることでエネルギーがつくられることを表している。気は代謝だといえるが、各細胞が行う全代謝の合計で、よりより言い回しでは生命力という言葉になるだろか。
ただし気は単なる代謝ではなく、知的な代謝であって、発電所でつくられる電気に似ている。気も電気も目に見えないが、電気と同じように、その効果を通じて気も見える。
 ファッシアの表面を気(=電気)が流れることで、気はモルフォゲン(直訳では、形態形成を支配する物質)に参加する。モルフォゲンは細胞から複雑な我々の体が作られる際の道標となるもので、癌では中心的役割を演じることでも知られる。


3.ファッシアによる体幹内臓の区分

1)ファッシアによる区画
内臓は個々の臓器を包むファッシアとは別に、同種のものとの間にコンパートメントをつくり、部屋を区分している。胸部と腹部の間には分厚い横隔膜が存在し、これがファッシアとして胸・腹部を分離している。胸部では胸膜心のう膜が、腹部では腹腔と腹膜後壁腔という区画がある。ダニエル氏は、大胆な発想とも思えるが、これら三区画を総称して三焦とよぶと記している。なお心嚢膜は心包のことだという。

※後腹膜とは
  腹部は腹膜という膜に裏打ちされた「腹腔」という空間と、腹膜の外側である「後腹膜」に分けられる。腹腔内には消化器のほとんどの臓器があり、後腹膜内の臓器には、通常、十二指腸、膵臓、上行結腸、下行結腸、腎臓、副腎、尿管、腹大動脈、下大静脈、交感神経幹などが含まれる。後腹膜臓器に炎症が起きると腰背部痛が起こりやすいという特徴がある。

 


 

さらに、体幹内部の空間は、以下の三陰経区分があると考察した。一般的には臓ごとに三陰を区分するが、解剖学な閉鎖空間により三陰を区分するのは新しい考えである。これが病態分析的に何を意味するかは、今後の課題となるだろう。
少陰経(西洋医学でいう腹膜後腔)=心・腎
太陰経(西洋医学でいう前腎傍腔)=膵・脾・肺
厥陰経(腹膜、横隔膜、心膜)を通る肝・心包


2)ファッシア間の開口部

ファッシアで区分された各コンパートメントは、互いに絶縁される一方、限られた開口を通して連絡している。横隔膜に隔てられた胸部と腹部は次の3カ所でつながっている。この知見がどのように病態に関与するは、次なる課題だろう。
大動脈:横隔膜の後面で(心と腎)-少陰経
食道:横隔膜の中央で(脾と膵と肺)-太陰経
大静脈:横隔膜の前面で(肝と心包)-厥陰経

著者のダニエル氏は、中国の女性医師に、動悸を治すため、肝に対する治療をしてもらった。その治療により、物理的に横隔膜の緩むのを感じ、深呼吸できるようになりラックスした気持ちになった。そして、肝経は上方に向かうが、これは横隔膜を通って心包と接続する方向。同じ厥陰經を通って肝と心包がつながっていると説明を受け、この理論の正しさを実感できた、とある。

※私の理論:胸腔は陰圧で、腹腔は陽圧になっている。その境にあるのが横隔膜である。この圧力のバランスが崩れると、胸脇苦満や心下痞硬などの症状を訴える。治療は心や肝に対する施術を行う。肝への治療は、肝気を鎮めたり上手に上に逃がしてやることが重要で、膈兪・肝兪などに施術する。心の疾患は器質的なものと機能的(=心因性)のものがあり、後者であれば横隔膜に対する施術になる。前者は重篤疾患。

4.成長

1)形成中心(モルフォゲン)と要穴の位置

一個の受精卵が成人へと成長するには、膨大な細胞分裂を繰り返すが、それは組織的な分裂であるべきである(無秩序に細胞分裂するのがガン細胞)。すべての細胞分裂を組織的に行うなら、その複雑性は処理できないほどになる。そこで成長する部分を集中的に制御することとなって、成長コントロールする発生的なポイント(形成中心=モルフォゲン)を結節点とよぶことになった。たとえば手の指をつくるには、肩→上腕→肘→前腕→手関節と成長していることが前提になる。
ところで要穴(五行穴や原穴・絡穴・郄穴)はすべて肘より末端に、膝より末端にあるが、これが形成中心になっているからだとダニエル氏は説明した。


2)フラクタル理論とマイクロアキュパンクチャー

形成中心から各細胞に直接連絡され、秩序ある成長をうながす。しかし発生が進むにつれ、形成中心も多数になるので、この理論は細胞反応を説明する発生学だけでは説明がつかず、数学的モデルを使った理論へと移行した。
 
ブノワ・マンデルブロは、自然界のカオス(混沌状態)にも規則性があり、これを方程式で表現することを報告した。この理論を一言で要約すると、<非常に複雑な組織化は、単純なフィードバック機構によって起こる>という内容になる。
 
マンデブロは、小さな変化から無限に美しい形を生み出すことを見つけ、これを「フラクタルfractal、語源はバラバラ)と名付けた。これは一から十まで指示する設計図はなくても、変化の法則性を発見できれば、設計図は非常に単純化されることになる。たとえば気管支の分岐、動静脈の分岐がこれに相当する。

 

このフラクタル理論は、これまでマイクロアキュパンクチャーとよばれていた範疇であり、全体的に診療するのではなく、耳鍼・頭鍼・高麗手指鍼・足の反射療法等、全身状態が、ある特定部分に反映されているという理論にもとづき、それぞれの部分を刺激すると種々な症状に効果あるとするものである。


5.ファッシアの癒着と治療法(「閃く經絡」から離れて)

ファッシアを理解することは、最終的には治療に結びつけたいからに他ならない。現行のファッシア刺激治療について、簡単に説明する。
ファッシアは組織や器官を密着するように包むラップのようなものだが、隣り合う組織ではファッシアが重なって存在する。通常であれば二つの筋は癒着することなく違う動きをするのだが、ファッシア同士が癒着していれば別々の動きをする筈の筋肉が一緒に動いてすまうので、動きづらくなってくる。
 癒着しているファッシア部に局麻注射(生理食塩水注射でもよい)をすると、瞬時に癒着は解消される。ただし慢性になると癒着しているファッシアは何ヶ所もあるので、何回かの注射が必要である。
癒着しているファッシアを発見するには、超音波画像診断装置を使うが、それでも発見しづらい場合が少なくないという。鍼灸師や手技療養を行う者は、皮膚を押圧したり撮んだりして周囲組織と異なる部位(=ツボ)を発見し、そこを押圧しながら、これまででなかったポーズをとらせるようにすると、徐々に可動性が増してくる。鍼灸師の場合は、その後に刺針するようにする。


「閃く經絡」の人体五臓図の解釈(「閃く經絡」の読み解き その2)

2020-06-12 | 古典概念の現代的解釈

<閃く經絡> は、東洋医学の考えを発生学的観点から説明しようとしている。この視点は、これまでになかったものであり、改めて東洋医学の懐の深さを感じざるを得ない。なお著者のダニエル・キーオン Daniel Keown 氏はイギリスの外科医で、中国に渡り北京の王居易医師(經絡医学研究センター)に師事した経歴をもつ。長年の目的は、西洋医学の最前線で鍼灸と気を再確立することであり、その経緯から本書が生まれた、とある。

 胚が生長するにつれ背中と脊髄が形成されるが、次の段階として臓器を形成し始める。「閃く經絡」にはカラーの口絵が一枚載っている。著者ダニエル・キーオン氏が考察した東洋医学の五臓配置図で価値あるものと思える。本書の五臓の考えを紹介するには、この図なくしてはできないが、この図をスキャンして当ブログに載せることは著作権上の問題があるに違いない。しかし図を提示てきないと話が進まないので、本図とよく似たモノクロの図が本文中にあるので、これを自力で彩色化することで、一応の創作性を担保することにした。

 

 なお私は2012年1月9日、「東洋医学人体構造モデル」を当gooブログで発表済みである。ダニエル氏の図のと全く異なり、「東洋医学人体構造モデル」では五臓を機械装置にみたてて表現たものになる。
      fhttps://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/0f10f985473890163d250ba3ba5b328f

 

赤色は血管、オレンジは消化管と気道、黄色は神経を示しているのではなく、「腎節」といって背骨のように節になって脊柱の左右両側に幹のように上下に連なっている原始の腎を示してる。これについては詳細後述する。五臓の図とはいえ、肝の下には小さく胆も描かれている。

1.心


1)心と脳の機能の相違点

心機能には、まず血液循環のポンプ作用がある。ただし心が感情のの影響を受けて心拍数を増減させているという意味で、脳と心は神経で連絡されていることが知れる。
感情表出とは喜怒哀楽のことで、今日でいう大脳基底核(大脳古皮質)が担当するものである。これはマクリーンの理論でいう旧皮質<馬の脳>が担当している。犬や馬など高等哺乳類骨には感情がある。
ちなみに鳥や魚には感情がなく本能で行動している。本能は<ワニの脳>である古皮質が担当している。

2)骨髄と骨に包まれた脳の類似点

骨内部には骨髄があるが、脳はその親玉であるとの認識から、骨髄が障害を受けると運動障害がおき、脳が障害を受けると意識障害または意識錯乱が起こるとした。脳=正常な意識(神)という認識だった。
 ダニエル氏の図での心は、血管がくびれたように表現されている。これは発生学的に、格動する血管のくびれから心の臓が生長したことを表現しているものだろう。


2.肺

1)大気のエネルギーを体内に取り込み、体内に溜まった濁気を排出するというのが基本。

2)「肺の宣発・粛降作用」

中医理論では、「肺には宣発・粛降作用がある」という。この考えが我が国に入ってきたのは意外にも新しい。40年前当時の東洋医学理論ににない内容である。宣発とは呼気時に起こる作用で、噴水のように大気を四肢末端まで散布することであって、散布するためには、体幹の高い位置(=肺のあるべき位置)にある必然性がある。粛降とは吸気時に起こる作用で、大気エネルギーを五臓六腑にまで巡らす作用である。冒頭図では、腹式呼吸で吸気の際の、肛門から腹腔内に大気を巡らせるような矢印が描かれている。


3.脾

1)「脾は湿を悪(にく)む」
肺は呼気時、体内に溜まった湿を絞り出す役割がある(ゆえに呼気は湿っている)。ところで湿は元来飮食物に含まれる水が元となるので、通常は大小便や皮膚呼吸、そして呼気により体外に排出されるのだが、それで処理しきれなければ体内に湿が溜まる。脾は胃に入った飮食物を栄養別に振り分け、最終形としては気・血・津液に造り替える働きがある。これを脾の運化作用とよぶ。
 「脾は湿を悪(にく)む」とは、脾の低下により水を処理しきれない場合、体内に水(津液)が貯留する状況をさす。

2)脾と膵の相違

古代中国人がいう脾は、現代での膵を指しているのではないかとの見方は以前からあった。現代医学的常識では、脾の役割は老化した赤血球を破壊し、除去することだとしている。
一方、現代医学でいう膵臓の主な役割は、消化液である膵液分泌と、インスリンを分泌し、血糖値を一定濃度にコントロールする働きになる。膵液は消化物を別の物質に変換する機能である。後者については、血液中に糖がいくらあってもインスリンがないと細胞に糖を取り込んで利用することができない、という意味でインスリンも糖の輸送に関与している。物質変換と輸送という機能は、東洋医学でいう脾の機能そのものである。
もっとも著者のダニエル氏は、脾臓と膵臓は、発生学的に両者とも十二指腸から生じている。それは膵臓が先に生じ、次に脾臓が帽子のように覆うという観点、血液の供給、ファッシアのつながりも共通であることから、一体としてとらえ、呼び名も脾でなく膵脾とした方が適切だと主張している。


4.肝

1)門脈
冒頭の図で、心と肝とを結ぶ黒い部分は、門脈である。この図は腸が吸収した栄養素は肝臓で処理されて有害物質が解毒され、血液は無害になった後、臓に環流するという、いうなれば心を守る機能になっている。

2)中医基本内容のおさらい

 著者は中医独特の言い回しについて解説している。中医の基本内容なので、周知の方は飛ばして読んで頂きたい。

①「肝は血を貯蔵する」

文字とおり肝臓は血液で充たされているとの意味。激しい運動な どで血液が必要になると肝は収縮し、約500mlの血液を放出する。マラソンをしてい ると脇腹が痛くなることがあるのは、肝の収縮による痛み。

②「肝は疏泄を主どる」

肝は門脈系を通じて腹部のあらゆる消化管に接続している。肝臓 の働きが減速すると門脈圧も高くなり、肝臓は体液を腹腔内に出し、腹水を生ずる。これが肝硬変である。また靭帯を 通じて横隔膜・食道・胃・膵臓につながっている。
中医の「肝は疏泄を主どる」とは、内臓の各機能が支障なく円滑に機能させるのに役立っているというように理解できる。
また感情を円滑に流れさせるという意味もある。肝気が円滑に流れれば感情も穏やかになり、短気でイライラするような人は、すぐに怒りやすくなる。イライラと密接に結びついているホルモンはヒスタミンで、本物質は病原体に対して身体を過敏にする。ヒスタミンが多量につくられると、アレルギーや喘息などを引き起こす。これも肝の疏泄作用の悪化と捉えることができる。

③「肝は風を嫌う」

熱があると風が生まれ、動きをつくり、ときに破壊的にもなり得る。中国人は、身体が動く病の原因を風に求めた。てんかん、チック、振戦、などで脳波検査以外では病理をみつけられない。器質的変化は指摘できないのが特徴である。


5.腎

1)腎節の生長と退化の果てにできた腎臓

冒頭の図でユニークなのは腎の発生学的過程を描いていること、左腎と右腎(=命門)を区別していることにあるだろう。

1)腎節
腎は発生学的には腎節といって、背骨のように節になって脊柱の左右両側に節のように上下に連なっていた。頸部・胸部・腰部と順々にでき、それぞれ「前腎」「中腎」「後腎」とよばれた。しかし前腎は生長し退化し、中腎も生長し退化した後、後腎が誕生して生長するという発生学的手順を踏む。後腎は最終腎ともよばれ、今日でいう腎臓になる。
 ダニエル氏の図は、前腎・後腎を表現していることがユニークである。(前腎と中腎はまとめて表現されている)

2)腎と副腎
中医で想定している腎と現代医学の腎とでは、意味するものが異なり、副腎機能に近いとされている。ただし解剖学的に腎と副腎は腎筋膜で包まれているという点で、発生学的には同じ臓器といってよい。
腎は尿生成の器官であるが、副腎髄質はアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどを産生し、副腎皮質は、糖質コルチコイド(=いわゆるステロイドホルモン)、鉱質ステロイド、アルデステロンなどを分泌しているのは周知のことであろうが、これらも古典的には腎の作用であるとみなすことができる。

3)「腎は精を貯蔵する」「腎は骨を制御し骨髄を満たす」

中医学で精は、気に変化して各種機能活動のエネルギー源として利用されると定義されている。生命活動の本になる物質とされている。精には、先天の精と後天の精があって、 先天の精とは、父母から受け継いだ体質(≒遺伝子)を、後天の精とは飮食物を摂取して獲得できる身体を育む栄養分だとしている。両親のもつ生命の炎を、自分のロウソクに点火してもらったとしても、その炎を育てるのは飮食物による。”精のつく食べ物”という場合の精は、後天の精を意味している。

人は成長しやがて老いて死ぬ宿命にあるが、骨格にもその過程が表現されている。骨格は端的にこの生長と衰退を示すものである。骨を栄養するのは骨髄で、骨髄は腎精によりつくるとされている。腎精が乏しくなれば、骨も干からびて折れやすくなる。
腎精が少なくなることは、自身の生命力が乏しくなることと同時に、新しい生命を誕生させる力も乏しくなる。

4)左腎と右腎(命門)
副腎には性ホルモン(テストステロンとエストロゲン)を放出する機能があるので、腎は性欲を生殖を支配するという古人の解釈に間違いはなかった。
腎は左にあり、右の腎に相当するものは命門とよばれている。左右の腎の解剖学違いは、解剖によって明らかになった。右腎のみが十二指腸下行部に非常に細いつながり、トライツ靭帯が関係しているということである。


三胚葉形成からみた鶏卵の成長と太極図(「閃く經絡」の読み解き その1)

2020-06-11 | 古典概念の現代的解釈

「閃(ひらめ)く經絡」が出版され、丸2年が経過しようとしている。出版当時は非常に話題になった本であるが、内容が斬新である一方、鍼灸臨床には直接は役立たない(鍼灸の根本原理なので)という内容でもあった。
 
私がネットで調べてみると本著の前1/4(Part1 鍼のサイエンス>限定だが、自分の経験を織り交ぜ、咀嚼しながら分かりやすく内容紹介しているのが、菅田裕子氏<鍼灸師が読み解く!「閃く経絡」、かげにひなたにブログ>(2018)5回シリーズだった。  山口髙明氏(山口マッサージ鍼灸治療院)も<外科医ダニエル・キーオン著 「閃く経絡」を読んで>と題して、15回シリーズで同部分を読み解いている。山口氏は大学で理学部生物学科で発生遺伝学を専攻卒業した経歴があるといことで、よく追従しており、難しい内容を平易に紹介できている。両者とも私と同じく鍼灸師であることは誇らしいことである。

ここでは菅田裕子氏<その3、ファッシアを流れる電流>(2018年07月15日)に関係した内容を、私なりに分かりやすい形で紹介したい。山口氏のブログも、同じ部分を解説している。山口氏のものは、別の回(「閃く經絡」の読み解き  その3)で検討予定である。

 

1.鶏卵の構造

1)鶏卵構造

問題1:鶏卵の殻を割った状態を示している。以下の写真で、将来ヒヨコになる部分はどれか?

 

解説と解答:

この問題は、私主催の勉強会の余興で出題したが、誰も正解できなかった。Aは卵白、Bはカラザ、Cは卵黄、Dは胎盤(=胚)である。胚盤は直径3~4㎜の薄く白い円形で、ここがヒヨコへと生長する部分である。卵黄はヒヨコと生長する過程で必要となる栄養貯蔵庫である。卵白は内部が乾燥するのを防ぎ、細菌侵入を防ぐ意味がある。Bのカラザは卵黄が端に片寄らないようにするためのヒモで2本ある。(ヒトなどの哺乳類は、胎児は母体胎盤を通じて酸素と栄養を供給されているので、卵黄に相当するものは必要ない。)
 

胚を乾燥や外部の衝撃などから保護する意味から、胚は、羊膜に覆われ守られる。すなわち始めは胚は、羊膜と卵黄膜という2つの膜間にあったが、胚の生長とともに羊膜も広がり、胚の一部と卵黄が連絡する形になる。

 

2)三胚葉への分化

受精卵が次第に分割され、三胚葉の段階にまで分裂すると、一体だった胚の一部が陥凹し、それが次第に深くなってパイプのように穴が貫通するようになる。パイプの外側を形成するのが外胚葉で、パイプの内側を形成するのが内胚葉である。その間にあって空間と接触しない部分を中胚葉と分化する。

①内胚葉
多細胞動物が生まれてから、受精卵が分裂し原口のもとになる凹みを形成。凹みは次第に深くなり、パイプのように体の中を突き抜ける。このパイプの内側を内胚葉とよび、外部から必要な物質を取り込み、不要なものを吐き出す。すなわち消化管と排泄器官に発達する。肺もチューブの内側にあるから内胚葉に属する。


②外胚葉
パイプの外側部分を外胚葉とよぶ。外胚葉は、個体の外側を覆う層で多細胞化の初期段階で形成される。皮膚の表皮・毛髪などの感覚器を形成し、また一部が発生過程で溝状に陥没し神経管を形成する。神経の大元という意味からか、脳も外胚葉から進化する。
 
③中胚葉

外胚葉と内胚葉と繋がり、外界とは直接繋がらない器官を中胚葉とよぶ。中胚葉が進化したことにより、体腔内に複雑かつ高度な臓器を発達させることが可能になる。筋、骨格、皮膚の真皮、結合組織、尿道、心臓・血管、血液や脾臓などを形成。

 

2.太極図にみる三胚葉
1)太極図のいろいろ
問題2:以下の3種類の太極図で間違いはどれか?

解説と解答

太極図は、今から3000年前の易經で生まれたもので、陰と陽が循環している状態を示している。現在では時計回りと反時計回りの2パターンあるが、どちらか正しいかは諸説ある。
「左が陽、右は陰」という決まりはあるが、それは自分から見てなのか、向かって見てなのか分からない。太極図は縦向きでも横向きでも構わず、色も必ずしも黒と白の2色でなくてよい。すなわち全部正解となるが、次に述べる理由からB黒の太極図(時計回りの回転)を間違いとする考え方がある。


2)太極図に隠された三胚葉

韓国旗は横向きで半時計回りに運動している。赤青の2色が使われている。ところで「閃く經絡」での太極図も韓国国旗と同様の構成になっているが、陰と陽がのびのびと活動している様子を表しているかのようだ。陰と陽はぐるぐると回転し、かつ両者が混じり合わないこことが重要ポイントである。
 
陰を内胚葉、陽を外胚葉とすると、陰陽の境界線が中胚葉だと著者のダニエル氏は説明した。 内胚葉と外胚葉を分け隔てると同時に、バラバラにならないように結合しているもの、これは広義の膜すなわちファッシアの機能に他ならない。