症例 Y.F. 81才女性 やや肥満
膝関節症、左肩関節痛、腰下肢痛、花粉症などを主訴として来院中の患者。鍼灸治療により、どれも症状は軽減しているが、前記症状の他に、ふらつき感も訴えていた。
橋本病の持病があり、医師に定期的に受診していること。症状が多数あったことなどの理由で、当院ではふらつきの原因追及をしなかった。ふらつきを、動揺性めまいと解釈すると、頸性メマイであることが多く、頸性めまいは鍼灸の適応でもあるので、項部に大した筋緊張はなかったが、定石にのっとり、座位にて天柱や風池には深刺し、後頸筋のコリを弛める処置はしていた。
他の症状が改善するにつれ、相対的にふらつきの苦痛順位が上がってきたが、天柱や風池以外に大した治療もないの‥‥、とひそかに私は悩んでいた。
この患者は当院から徒歩5分くらいの処に住んでいるのだが、自転車に乗って当院に来院していることを当院の窓から見て初めて知った。「ふらふらしているのに、危険ではないか」と問うと、「自転車に乗っていればふらつくことはない」と返事した。
そういえば、本患者は自分のふらつきを、「めまいとは違う」と何回も説明していた。私は長らく、これを動揺性めまいと考えていた。そして「広義ではめまいの中に含めます」と患者に説明していた。
このふらつきは、中殿筋筋力の低下によるものかもしれないと瞬時に思った。というのは、以前かなり肥満している老人女性が「立ち上がって歩くことができなくなった」との訴えに対し、中殿筋を覆うように、骨盤ゴムベルトを装着せしめ、歩行可能となった症例を思い出したからである(本ブログ「殿筋痛による歩行困難に対するリフォーマーベルトの適用」2012.3.24.発表)。
本例も、側臥位にして左右の中殿筋に中国針で深刺手技針して抜針の後、中殿筋を覆う骨盤ゴムベルト(商品名:リフォーマーベルト)を巻いて歩行させてみると、あまりふらつかないで歩けるということであった。
ネットで調べてみると、中殿筋筋力低下で、歩行時にふらつきが生ずるという知識は、カイロや運動療法関連のホームページに数多く載っていて、既知の事実であったことに恐れ入った。
結局、ふらつきを、動揺性めまいと早合点したことが失敗の元といえる。