AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

マラソン時の脇腹痛の原因と対処法 

2011-09-21 | 腹部症状

マラソンなど持久走時に生ずるの脇腹痛の機序は、かつては肝臓や脾臓内の血液量が減少するためだとされてきた。それで一応納得していたのだが、このような理由であれば、なかには重篤疾患に移行する人もいる筈であるが、そうした事例は耳にしないことが不思議であった。このたび、テレビ番組によりその機序と対処法を知ることができた。テレビもたまには役立つことがあるということだ。


1.脇腹痛の原因
そうした状況下で、NHKテレビ「解体新ショー」(2008年7月11日(金)午後11:00放送)で、ランニングして脇腹が痛くなった者を、立位の状態で撮影できるMRIで腹部を撮影することで、痛む原因が明らかになった。
持久走中、大腸の蠕動運動が小さくなる一方、走る振動によって腹部で腸全体が大きく揺れるため、大腸内のガスが大腸の上部に上昇する。その際に大腸の左右の曲がり角(肝彎曲部や脾彎曲部)にガスが溜まりやすく、このガス塊が周囲の神経に刺激を与え強く痛むようになるという。運動を止めると大腸が蠕動を再開するので、ガスが分散し、痛みがなくなる。

2.脇腹痛の対処法     
第2日本テレビ「伊藤家ランド」では、「走った時のわき腹の痛みがすぐ消える裏わざ!」を放送した(Gyaoにで視聴)。脇腹が痛くなったら、ランニングしながらでも、痛くなった側の上肢を上へ挙げるというもので、その際に背中を痛くない側に曲げるようにすると、さらに効果が高まるとのことだった。この動作により、ガス塊が分散した結果であろう。

3.鼓脹の概要
1)鼓腸とは 
消化管にガスが充満した感覚があることを鼓腸とよぶ。鼓腸では、腹痛と腹部膨満を伴うことが多い。空気もガスの1種として、食物と一緒に飲みこまれる。増加したガスは胃に集まり、ゲップとして口から排出されるが、少量のガスはさらに腸にまで進み、肛門からおならとして放出されるか、消化管壁から吸収されて血液中に入り肺で排出される。正常な人では1日に10回以上おならが出るが、鼓腸があるとそれ以上多くのおならが出る。
※おならを我慢すると、その腸内ガスは血中に溶け込み、肺から排出される。その時、おならのニオイ成分は分解されているので、息が臭くなることはない)

消化管の細菌も代謝の分解産物としてガスを発生する。
鼓脹は以下のように分類される。

2)胃泡症候群(呑気(どんき)症、空気嚥下症)
食事の際の空気嚥下のほか、緊張すると唾を飲み込む回数が増える傾向にあり、この時、唾液とともに空気も嚥下し、胃泡が次第に大きくなる。食後の心窩部の膨満感。おくびを出すと楽になる。

2)脾弯曲症候群と肝湾曲症候群
食事の後でS状結腸が強く収縮して腸内ガスや糞便の通過を妨げると、左脾結腸彎曲部(横行結腸が下行結腸に移行する部)や肝湾曲部が伸展され痛みが現れる。上記のマラソン時の脇腹痛は、このタイプ。

 

3)小腸の栄養吸収力低下
小腸の栄養吸収力が低下すると、大腸に栄養分が入る。それを養分として腸内細菌が異常増殖し、これにともなって大腸内のガス貯留増大することがある。エビオスやビオフェルミンなどの薬が有効なのは、このタイプ。

 


緊張性頭痛に対するトリガーポイント治療の整理 その2

2011-09-15 | 頭顔面症状

6.後頭下筋
後頭下筋は、頭半棘筋の下層の、最深部にある筋で、大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋の4筋からなり、前方へ移動しようとする頭部を後ろに引いて支える役割がある。
天井にペンキを塗るなど上を見る姿勢や、体幹部が前傾姿勢である時に頭を引き起こす姿勢が長時間続くと、本筋は過緊張を起こし、側頭部に放散痛を生じる。
 
頸椎全体のROM:前屈60°後屈50°回旋60°(ハイとイイエは60°と記憶する)
後頭骨-C1間ROM:前後屈のみで、前屈10°後屈25°
              すなわち後屈動作の半分は後頭骨-C1間の動き。
C1-C2間のROM :回旋のみで、左右回旋45°
             
すなわち左右回旋の大部分はC1C2椎体間の動き。
後頭下筋は、C2頸椎棘突起と下項線部の間に位置するので、上天柱・上風池・天柱・下天柱といった経穴からの深刺で治療できる。(浅刺では対応できない)


   


8.後頭前頭筋
後頭前頭筋とは、顔面神経支配の顔面症状筋の一つで、後頭筋と前頭筋の総称で、間に帽状腱膜を挟んで一体として機能している。後頭筋は後頭部痛を引き起こし、前頭筋は眼や前額部の痛みを引き起こす。
前頭筋緊張では、頭維から前額髪際方向に水平刺し、後頭筋緊張では玉枕から脳戸方向に水平刺する。


 

8.側頭筋
側頭筋は、咀嚼筋の一つで、三叉神経第Ⅲ枝が支配する運動神経である。側頭筋のトリガー活性は、上歯痛、顎関節症などで生ずる。
側頭筋部の経穴は下記のようになるが、局所治療として頭部周囲の緊張している筋に水平刺(たとえば頭維から頷厭、懸顱、懸釐に向けて水平刺置針)し、筋緊張を改善させることを目的とする。

9.総括 
1)側頭筋部に痛みがあったからといって、側頭筋が悪いとは限らない。後頭下筋・頭板状筋・頭半棘筋・胸鎖乳突筋・僧帽筋などは、どれも側頭部に痛みを放散するので、後頸部、肩甲上部・胸鎖乳突筋部を触診し、反応点を見出して刺針するべきである。

2)後頸部の筋は種類が多く、症状のみからどの筋が悪いかを推定するのことは難しいが、指頭感覚や解剖学的知識を総動員し、おおよその検討をつけることは可能であり、刺針して悪化することはまずないので、治療的診断(刺針した直後の症状の改善をみる)を行うこともできる。  

3)一応の傾向として次のことがいえるだろう。直下深部に骨性組織(頸椎部分)のある部分、例えば頭・頸半棘筋や後頭下筋には深刺し、骨性組織のない部分、例えば頭・頸板状筋や僧帽筋、胸鎖乳突筋には、骨に至るまでの深刺は行わない。


緊張性頭痛に対するトリガーポイント治療の整理 その1

2011-09-09 | 頭顔面症状

1.緊張性頭痛の基礎知識 
緊張型頭痛は、1988年までは筋収縮性頭痛と呼ばれていた。頭痛の7~8割を占める。重く締めつけられる感じの頭痛で、頭重とも表現される。発症は不明瞭で、梅雨時の雨のように何日も続く。両側性の頭痛。頭痛薬無効(薬が効いている間だけは軽快)。
精神緊張、抑鬱状態、頭頸部外傷等によるストレス→頭部の筋肉の持続的収縮→筋の循環障害→疼痛物質の発生→さらに筋収縮の惹起という悪循環。

2.緊張性頭痛の筋緊張部位
単純にいえば、後頸部筋の緊張では、頭に重石を載せられているような頭痛となり、 頭蓋周囲筋の緊張では、被帽感(きつい帽子をかぶったような感じ)となるとされる。
ただし後頸部の筋は重層的で種類が多く、また後頸部筋の筋緊張により側頭部や前頭部に放散痛を生じることも多い。とくに側頭部に放散する痛みは、もともと側頭部にある筋(側頭筋や側頭頭頂筋)の緊張と区別しにくい。幸いにして、痛みの発信源と放散痛の関係は、トラベルらにより詳細に検討されているので、既知のトリガーポイント部位と、その放散痛の関係から、一定の法則を導けないかを検討してみた。

3.僧帽筋と胸鎖乳突筋 
1)僧帽筋の肩井あたりのトリガーは放散痛を側頭部胆経の走行領域にもたらす。

2)胸鎖乳突筋僧帽筋のトリガーは、その付着部(完骨)あたりと前額部・眼の周囲に放散痛もたらす。

4.頭板状筋と頸板状筋
僧帽筋のすぐ深層にあるのが、頭板状筋と頸板状筋である。頭部板状筋は、側頸部上部において、僧帽筋と胸鎖乳突筋の間に触知できる。この筋間の後頭骨下縁に風池を取穴する。
     

1)頭板状筋
頭板状筋の関連痛は独特で、下風池付近にトリガーを生じると、頭頂周囲に痛み放散すこる。

2)頸板状筋
頸板状筋は、C3~C4頸椎棘突起の外方2寸ほどの部にトリガーを生じると、側顔面部とくに外眼角部に痛みが放散することが知られている。

5.頭半棘筋と頸半棘筋 
頭板状筋と頸板状筋の深層には頭半棘筋と頸棘筋がある。
頸半棘筋は、後頸部において最も太い筋であり、本筋が緩むと頭の重量を支持できない。本筋の放散痛は、後頸部と前頭部あたりの放散痛をもたらす。
頭半棘筋と頸棘筋の筋腹は、基本的に椎体の幅より外側にはみ出さないその刺針も棘突起から2㎝以内の距離からの深刺になる。 

  

※C1~C5棘突起外方、約1㎝の部にトリガーがある


鍼灸院における設備・備品の改良アイデア(その3)

2011-09-04 | 雑件

1.手すり 
壁に平行に設置した診療ベッドの横には、手すりを設置した方がよい。以前、ホームセンターでステンレスパイプと取り付け金具を購入して自作してみたが、石膏ボード製の壁に取り付けることになり、柱のある部分にネジ留めするのに苦労し、患者が体重をのせて起き上がる際など、手すりが壁ごと手前に引っ張られ、壁が壊れそうな状態だった。
仕方がないので、大工さんに手すりを注文した。どういう手すりにするかは、当方で決める必要があった。手すりのポイントは3つある。




1)ベッドからの高さ

当院の1台のベッドは高さ60㎝の固定である。このベッド天板から50㎝とした。もう一台は電動昇降ベッドである。電動昇降ベッドの場合、手すりの位置が低すぎるとベッドを高くした時に患者にぶつかる。最も低い高さ(43㎝)に設定した場合、ベッド天板から65㎝の高さとした。すなわち両方とも床から105㎝前後の高さである。実際に使ってみて、この程度の高さが妥当だということに気づいた。(下の写真は、60㎝のベッド高に設定している)。

2)手すりの長さ

短いと使いものにならないが、ベッドの長さほどは必要ない。今回は135㎝長とした。以前自作した時は120㎝にしたが、135㎝の方が良い。

3)壁から離す距離

以前自作した手すりでは、壁とパイプの間の余裕がなさすぎた。パイプを持つことはできても、しっかりと握ることはできなかった(壁に指がぶつかる)。この反省から、新しい手すりの台座高は、パイプの中心から壁面まで6.5㎝と、広く設定した。

4)その他

手すりを使うち、その周囲の壁面は当然汚れてくるので、薄い板を張り、その板上に手すりを設置することにした。患者が手すりをつかもうとして、板のカドにぶつかることが考えられるので、板の角は丸くした。なお手すり2本分の費用は、39500円だった。 

2.紫外線保管庫


1)長年つかっていた東芝の赤外線殺菌保管庫が壊れた。上開き扉方式が(東芝の専売特許だという)使いよく、同じ製品に買い換えようとしたが、すでに製造中止となっていた。非常に困ったが、買わない訳にはいかないので、安くて見栄えもよい「ナイチンゲール」という製品を、1台2万円程度で購入した。ただし庫内が狭く、針シャーレーが3枚しか入らないので2台購入する必要があった。




 

2)本製品には、オプションで棚も販売している。これを使えば庫内は2段棚として使え、これならシャーレ6枚並べられる。実際購入してみたが、両サイドに隙間ができ、使いづらい。結局、上段用の棚は自作することにした。百円ショップで、適当な大きさの金属製の格子を購入し、これを庫内側面に設置する金具として、ホームセンターで一辺2㎝のアルミのL字金具を買い、糸ノコで切断、これを強力接着剤(2液混合用)で庫内側面に取り付けた。
使用して2年以上経過するが、今のところ何も問題が起きていない。




3)ちなみに当院で常用している針は、和針の2寸#4、寸6#2、3#0(左保管庫の下段、左から順番に)、と、中国針2インチ#30と3インチ#30の5種類である。このうち寸6#2と2寸#4の使用頻度が高い。寸3#0は最も使用頻度が低い。
※下の写真は、写真撮影時の光反射防止のため、庫内背面のステンレス板を白紙で覆っている。


3.オートクレーブ

鍼灸院ではディスポ針を使う処が増えてきたが、当院は希望者にはディスポ針を使うが、通常は、曲がった針を破棄した後、オートクレーブ滅菌して再使用している。
当院は中型オートクレーブ(庫内直径22㎝)を使用している。このクラスになると。トレーの上に針シャーレーを横に5枚並べることができるので、使い勝手がよい。しかも2段式である。小型オートクレーブ(庫内直径15㎝)では、シャーレーを縦に重ねて並べることになり、非常に窮屈になる。
中型オートクレーブの値段をネットで調べると結構高額であり、40万円以上するものが殆どであった。色々調べて最も安かったのが「からだはうす」で、23万7千円(全自動タイプ)だった。「からだはうす」のカタログには載っていないが、取り寄せてくれる。