マラソンなど持久走時に生ずるの脇腹痛の機序は、かつては肝臓や脾臓内の血液量が減少するためだとされてきた。それで一応納得していたのだが、このような理由であれば、なかには重篤疾患に移行する人もいる筈であるが、そうした事例は耳にしないことが不思議であった。このたび、テレビ番組によりその機序と対処法を知ることができた。テレビもたまには役立つことがあるということだ。
1.脇腹痛の原因
そうした状況下で、NHKテレビ「解体新ショー」(2008年7月11日(金)午後11:00放送)で、ランニングして脇腹が痛くなった者を、立位の状態で撮影できるMRIで腹部を撮影することで、痛む原因が明らかになった。
持久走中、大腸の蠕動運動が小さくなる一方、走る振動によって腹部で腸全体が大きく揺れるため、大腸内のガスが大腸の上部に上昇する。その際に大腸の左右の曲がり角(肝彎曲部や脾彎曲部)にガスが溜まりやすく、このガス塊が周囲の神経に刺激を与え強く痛むようになるという。運動を止めると大腸が蠕動を再開するので、ガスが分散し、痛みがなくなる。
2.脇腹痛の対処法
第2日本テレビ「伊藤家ランド」では、「走った時のわき腹の痛みがすぐ消える裏わざ!」を放送した(Gyaoにで視聴)。脇腹が痛くなったら、ランニングしながらでも、痛くなった側の上肢を上へ挙げるというもので、その際に背中を痛くない側に曲げるようにすると、さらに効果が高まるとのことだった。この動作により、ガス塊が分散した結果であろう。
3.鼓脹の概要
1)鼓腸とは
消化管にガスが充満した感覚があることを鼓腸とよぶ。鼓腸では、腹痛と腹部膨満を伴うことが多い。空気もガスの1種として、食物と一緒に飲みこまれる。増加したガスは胃に集まり、ゲップとして口から排出されるが、少量のガスはさらに腸にまで進み、肛門からおならとして放出されるか、消化管壁から吸収されて血液中に入り肺で排出される。正常な人では1日に10回以上おならが出るが、鼓腸があるとそれ以上多くのおならが出る。
※おならを我慢すると、その腸内ガスは血中に溶け込み、肺から排出される。その時、おならのニオイ成分は分解されているので、息が臭くなることはない)
消化管の細菌も代謝の分解産物としてガスを発生する。
鼓脹は以下のように分類される。
2)胃泡症候群(呑気(どんき)症、空気嚥下症)
食事の際の空気嚥下のほか、緊張すると唾を飲み込む回数が増える傾向にあり、この時、唾液とともに空気も嚥下し、胃泡が次第に大きくなる。食後の心窩部の膨満感。おくびを出すと楽になる。
2)脾弯曲症候群と肝湾曲症候群
食事の後でS状結腸が強く収縮して腸内ガスや糞便の通過を妨げると、左脾結腸彎曲部(横行結腸が下行結腸に移行する部)や肝湾曲部が伸展され痛みが現れる。上記のマラソン時の脇腹痛は、このタイプ。
3)小腸の栄養吸収力低下
小腸の栄養吸収力が低下すると、大腸に栄養分が入る。それを養分として腸内細菌が異常増殖し、これにともなって大腸内のガス貯留増大することがある。エビオスやビオフェルミンなどの薬が有効なのは、このタイプ。