AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

カゼの針灸治療

2012-09-21 | 耳鼻咽喉科症状

1.鍼灸のカゼ治療のニーズ
カゼを自覚すれば医者にかかるのは普通なので、「カゼをひいたから針灸して欲しい」という 来院理由は非常に少ない。他の愁訴で施術していて、ついでに咽痛も治して欲しい、咳も治して 欲しいなどというオマケ治療のニーズがあり、また医療にかかってしばらく通院したが、治りき らないので、鍼灸で何とかならないかというニーズである。

まずは現代の針灸家が概ね常識とする見解をいくつかあげ、個々について現代針灸の立場を説明する。

 
2.カゼの初期には風門の多壮灸(20~30壮)

カゼの初期とは、これから体温がぐんぐんと上昇する時である。これは免疫機能を高める目的で、延髄の体温中枢の命令する体温が高いことを示している。体温は内臓熱増大、筋の震え、発汗停止などの生理的機序を介して、実体温を延髄の指示した温度に一致させようとする。


しかし視床下部あたりに血流低下があれば、現在の身体の深部温度の情報を正確に把 握できない可能性がる。視床下部の血流低下の一因として頸肩部のコリがあるのだろう。発熱中枢である視床下部に働きかける目的で実施する。

 

3.長びくカゼに対しては、自律神経失調症としての治療

「半年もずっとカゼをひいている」という者がいる。これはカゼを契機として発病した自律神経失調状態が、カゼウィルス消失後も続いていると考えることができる。


※カゼがなかなか治らない場合には、次の疾患こともあるので鑑別を要する。

R/O アレルギー性鼻炎、慢性咽頭炎、慢性気管支炎、上咽頭浮腫

1)副交感神経優位に対する施術

副交感神経緊張状態に対しては、座位での風門の多壮灸といった使い方が代表的になる。

2)交感神経優位に対する施術

頸部の後方の筋(頭板状筋、頭半棘筋)、前方の筋(胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、輪状甲状筋、舌咽頭収縮筋)、側方の筋(前中斜角筋、肩甲挙筋)などに著しい硬結と圧痛が必ずあるので、  これらの筋に対して希釈ステロイド注射をすると、短時間でこじれたカゼ症状が消失する。(枝川直義「なおさん(4)」医道の日本、昭59年3月)

 

 

4.初期を過ぎたカゼに対しては対症治療

本稿のテーマとはずれるので、ここでは現在私が行っている最も高頻度の治療点の紹介に留める。

鼻炎→挟鼻刺針
扁桃炎→舌根刺針
咽頭炎→上喉頭神経刺針
喉頭炎→気管軟骨多数刺針  


5.安保徹先生の考えをヒントにしたカゼの針灸治療

カゼの経過は、①咽喉痛→②発熱→③くしゃみ・鼻水・だるさ・食欲不振→④治癒と進行し、治癒までは約1週間を要する。
 

1)カゼ進行期の針灸治療

①咽喉痛→②発熱→③くしゃみ・鼻水・だるさ・食欲不振の時期(5日間ほど)が、カゼの進行期になる。

この時のカゼの治療は、交感神経を優位にするような施術を行う。換言すれば「身体に活力をいれる治療」を行う。具体的には「座位にての施灸、針であれば浅針で速刺速抜」という方法が西条一止らの研究により明らかになっている(詳細は気管支喘息の項を参照)。熱いバスタブに短時間入るというイメージである。

この肢位にて上気道に対応したデルマトーム(Th1~Th3中心)上の起立筋上すなわち膀胱経の背部兪穴ラインまたは同じ高さの夾脊にに施術する。


2)カゼ回復期の針灸治療


カゼの過程の③くしゃみ・鼻水・だるさ・食欲不振の時期→④治癒の期間である。

カゼの治る頃には元気が出て、白血球の顆粒球と常在菌の反応により、硬く黄色い鼻汁となる。これらは交感神経優位の体調となった結果である。

この時のカゼの治療は、副交感神経を優位にするような施術を心がける。これには伏  臥位にての背部兪穴置針など、従来の針灸治療(これまでも無意識的に行われている治  療)でよい。副交感神経を優位に導く治療とは、いうなれば休息を与える治療(=リラクセーション)である。ぬるめのバスタブに長時間入るというイメージになる。


 


足関節周囲痛に、下腿後側の運動針が有効

2012-09-18 | 下肢症状

1.針灸局所治療で治せない足関節周囲の痛み

症例(Y.F. 61才女性):全身の関節痛、筋肉痛で以前から当院来院している患者。元気があり、線維筋痛症や関節リウマチは否定されている。毎回、いろいろな症状を訴えるが、数回の針灸治療を行うと、間もなく改善していた。

今回はスクワットをして以来、両側足首が痛み、5分以上の歩行が困難とのこと。足関節を捻挫した覚えはないとのこと。
診察すると、内外の足関節裂間隙やアキレス腱の踵骨停止部など、半円周状に痛むとこことである。
とりあえず、足関節症とアレス腱付着部症の合併と考え、局所圧痛点に置針するも無効。置針を運動針に変更したり、太針に変更したりした。しかし30回ほど治療しても効果なかった。


2.下腿三頭筋放散痛としての足関節周囲痛 

そうした状況下、栗原誠先生ブログ「鍼灸師のツボ日記;捻挫とは限らない足首の痛み(2012.7.22)」の記事を発見した。本ブログでの症例は、まさしく当患者と一致していた。

 

 栗原先生の方法に従って下腿三頭筋を緩めるように、伏臥位で足首部に膝マクラを入れた姿勢をとらせ、寸6、2番針で腓腹筋→ヒラメ筋と刺針その状態で足首の底背屈自動運動を行わせた。あれだけ難治だった痛みが、治療2~3回で大幅に改善してしまった。
結局、本例の足首周囲痛は、下腿三頭筋の放散痛だったことになる。


3.下腿三頭筋の解剖学的特徴

上記治療で問題解決したのだが、下腿三頭筋は、腓腹筋とヒラメ筋を併せた名称である。どちらの筋の放散痛だったのだろうか。最終的にはアキレス腱となり、踵骨に停止する。膝関節90度屈曲状態で、足関節を底屈する作用はヒラメ筋により、膝関節伸展状態で、足関節を底屈する作用は腓腹筋による。
上記症例で、歩行姿勢は61才女性という点から考え、膝関節伸展位に近いだろうから、下腿三頭筋の放散痛というのは、腓腹筋の放散痛であろうと考えた。

なお運動針(直接法)は、置針した状態で該当筋の伸縮運動をさせる技法であるから、腓腹筋、ヒラメ筋それぞれに対する運動針は次に示すように異なるものになるだろう。