AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

線香入れとしてジャストサイズとなるチョコベビー容器

2024-10-23 | 雑件

当院では線香容器として長い間、百均の透明プラ製箸入れを使っている。外に持ち出すとフタが開きそうで不便を感じている。しかし、YouTubeでチョコベビー容器が線香入れにピッタリなことを知った。 
チョコベビーには通常サイズ(32g)  と、見たことはないがジャンボサイズ(102g)があるという。通常サイズには9cmまでの線香(90本)が入り、ジャンボサイズには13.5cmまでの線香が入る。標準的な線香の長さは 13.5cmなので、線香を入れるにはジャンボサイズの方が適している。ちなみに当院で使っている線香14.5cmだった。長すぎた分は、折るしかない。
往療用として割り切るなら、通常サイズを使った方がコンパクトでよいだろう。

同じようなコンテンツとして、ネット検索でパルメザンチーズ容器を線香入れとして使う記事を発見した。
パルメザンチーズ容器は樹脂性で高さは14cmで、13.5cmの線香が100本程度入るということである。


兎眼・長掌筋・メラトニン・心肺停止等のトリビア ver.1.1

2024-10-22 | 雑件

兎眼
 
眼が大きく開き、眼瞼が閉じない状態を兎眼とよぶ。顔面麻痺の所見。ではウサギは目を閉じないのだろうか。といえばそんなことはない。ウサギの上瞼は2枚あって、外側のは普通の瞼だが、内側の瞼が瞬膜とよばれる薄い膜である。外敵に対する威嚇を目的に、閉じていても開眼しているように見える。本当に安全だと思えば外側の瞼まで閉眼して眠る。ヒトでも内眼角部附近の白目部分(強膜)にピンク色の部分がある。これは瞬膜のなごりである。



長掌筋


長掌筋は、手関節を屈曲する時、浮き出てくる腱として有名である。その機能は、手掌腱膜を緊張させることで、猿などが木登りや木の枝にぶら下がる際に使われた。ネコが爪をしまう時にも使う。しかし今日ヒトはその機能は退化したので、長掌筋は無用のものとなった。同じことは足底筋膜を緊張させ、荒地でも裸足で歩行できることを可能にしている足底筋がある。足底筋の筋部分はちょうど委中あたにあり、長い腱が足底まで伸びている。ヒトでは足底筋が退化してしまったが、アキレス腱断裂時でも足底屈ができるのは足底筋の存在による。



メラトニン

 
動物の進化をたどると、額の位置に「第3の眼」とよばれるものが存在した。これはカメレオンのように周囲の色や光を感知し、自らの体色を周囲に同調させるという保護色としての役割があった。メラトニン分泌により、皮膚に分布するメラニン細胞を収縮させることで変色させる。今日では、「第3の眼」は、大脳が巨大化した結果 脳深部の松果体に変化している。

松果体から分泌されるメラトニン量は昼間は低く、夜は高い傾向にあることから、夜はよく眠れる。メラトニンの役割は、動物の24時間のリズムを整えることと、生殖腺の発達と性活動を抑制することを仕事としている。ただし現在、睡眠誘導剤としてメラトニン製剤が誕生しているものの、医薬品としては効能が弱く、効果出現まで時間がかかるのであまり利用されていない。

 



心肺停止

ニュースなどで心肺停止という言葉を、最近よく耳にするようになった。死亡ではなく、わざわざ心肺停止というのはなぜだろうか。法律上、死亡の判断は医師しかできないが、心肺停止は所見なので救急隊でもそのように判断できるのだろうと私は思った。しかし心肺停止がすなわち死亡とはよべないことを知った。
 
心肺停止とは、脈もなければ息もしていない状態である。当然ながら意識はなく昏睡状態である。確かに二昔前であれば死亡とされていた。しかし現代の救急医療にあっては、止まったばかりの心臓を動かすことは簡単で、電気ショックとアドレナリンを中心とした薬剤を与えれば何とかなる。また息をしていなくでも人工呼吸器をつければ呼吸は停止しない。もっとも数分間の心停止の後、医療処置によって心臓が再び出したとしても、新たに別の問題が出てきた。酸素不足に対して脳幹は比較的強いが、大脳皮質は非常に脆弱なので、生きてはいるが意識は戻らないという植物状態への回避も考えねばならなくなった。


つまり一旦止まった心臓に対し、長々と(4分間以上)
心臓マッサージなどをやるのは考えものなのだ。

 

灸するために天皇の地位を譲った話

現行の天皇が高齢のため、皇太子に天皇位を譲位する意向であることが話題になっている最中(平成31年)、天皇の歴史について研究している方(患者)に、興味深い話を聴いた。かつて後水尾(ごみずのお)天皇(在位1611年5月9日-1629年12月22日)は、徳川幕府へ通告することなく、次女の7歳になる興子内親王(明正天皇)に譲位したという。この理由というのが、病気の天皇が治療のために灸を据えようとしたところ、「玉体に火傷の痕をつけるなどとんでもない」と廷臣が反対したために退位して治療を受けたという逸話がある。

 

嗅ぎタバコ盆

大腸経上で手関節背面橈側で、長短指伸筋腱間の陥凹に「陽谿」穴がある。この陥凹は通称タバチエールともよばれるが、私は四十年もの間、タバコ盆(=灰皿)と覚えていた。灰皿にしては小さすぎるのではないかとは思ったのだが。しかし最近偶然、嗅ぎタバコというもののあることを知った。この陽谿部に米粒大の嗅ぎタバコの葉を載せ、強く息を吸い込んで鼻の孔から鼻腔に入れるという。この嗅ぎタバコは、タバコ成分を丸ごと鼻腔に入れるものなので、紙巻きたばこ以上に毒性が強いという。ただし火は使わず煙も出ないので副流煙の被害はない。JTは2013年8月頃から無煙タバコ<ゼロスタイル>という商品名で販売している。

嗅ぎタバコと同種のものに、噛みタバコがある。噛みタバコはタバコ成分の入った佃煮様のものを、舌裏または歯と頬の間に入れ、タバコ成分を口腔粘膜から浸透させるものである。今から40年くらい前、東京ディスニーランドに行った折、ランド内の売店で初めて目にした。当時、喫煙者だったが、そもそも噛みタバコの存在を知らなかった。試しに買って、口の中に入れて噛んでみた。これは間違った使用法だが箱書きの説明文は外国語であり読めなかったのだ。すると、とにかく口中が苦く、タール感もたっぷりで思わず吐き捨てた。

 

 


私のPCの歩みと悩み

2024-10-12 | 雑件

1.PC-8001

私のパソコン歴はかれこれ40年程になる。最初に買ったのは日本電気のPC8001で27歳の時、定価で168,000円だった。テレビにつないでみたが解像度が足りず、結局グリーンモニターも購入した。当時のパソコンは電源を切ると記憶も消えてしまうので、カセットテープでデータを残した。記憶容量は32バイト、この大きさの情報をカセットテープから出し入れするには5分間ほどかかった。現在の使っているパソコンは16ギガバイトすなわち16,000,000Kバイトなので、その50万分の1の容量にすぎないものだった。
32Kバイドという記憶容量は、 PC8001はパソコン入門機としては手頃で、パソコンがどういったのかを知るにはよかったが、ワープロをしようと思えば、フロッピーディスク駆動装置(約20万円)やドットインパクトプリンター(約5万円)を買い求め、その上でワープロソフト「松」98,000円を購入しなくてはならなかった。その結果できることは、ワープロ専用機に劣るものだった。アスキー社が出版したPC8001ゲーム集(カセットテープ版)を購入してプレイしたことだけが懐かしい思い出である。

代田文彦先生が愛娘(当時、高校生)に欲しいものを尋ねてみたら、PCが欲しいと言ったことがきっかけで、玉川病院東洋医学科にもPCを導入することになった。PC9001を導入するとともに先の必要装置を導入した。「松」は高価だったので「文筆」という1万円程度のワープロソフトを使用。それでできたことといえば、症例報告会で各先生が提出したタイトル名を一覧表にしてプリントアウトで、それさえ数時間を要したものだった。


2.ワープロ専用機「文豪」

それ以降私は玉川病院を離職して、中国語学留学を経て東京衛生学園に就職した。そこで業務上必要になったのは、自分の教える教科のテキストづくりで、これには自腹で購入したワープロ専用機「文豪」だった。10万円ほどしたが大活躍し、十分元を取った。ワープロ専用機はコンパクトでキーボードに機能が書かれていて、B4印字できるプリンターつきだった。ただしB41枚の印字に10分以上の時間を要し、インクリボン代も馬鹿にならなかった。それに加え、文書に図を入れる必要から、ハンディスキャナを買って使ってみたが、一枚のモノクロ図版を取込んだだけでフロッピーディスク(640キロバイド)の数分の一を消費した。結局のところ、テキストを図入りで保存するにはフロッピーディスクの容量では足りなかったのだった。テキストをプリントアウトする際、図の入るスペースを見繕って開けておき、プリント文書に図を糊付けしてコピーする方法をとった。このやり方では、テキストは保存できても図は保存できない。


3.Windowsパソコン(Xp→7→11への移行)

どうしたらよいか困っていた状況下、事前予告なしにワープロ専用機が次々と販売中止になった。PCは暇つぶしにはよいが、実用には役立たないという苦い思いをしたのだが、PCを使う以外に手はなくなった。
 
重い腰をあげて購入したのは当時の最新型だったソニーのバイオノートパソコンWindows Meバージョンだった。このとはいえこのWindows Meはリソースという概念があり、複数の仕事を同時にやらせるとリソース不足となり、不便を感じた。それにやたらとフリーズした。現在でいう本体RAM量がよほど少なかったのだろう。
 
数年後に、エプソンのノートパソコンに替え、基本ソフトをWindows XP にしてみた。Windows XPは使い勝手がよく、長い間使えたので、その機能を十分に使い切れたと思う。 

Windows XPには不満がなったのだが、マイクロソフトは次のバージョンを発売開始した。これがWindows VISAで、巷の評判が悪いためスルー。その次のバージョンはエプソンのデスクトップPCのWindows7で、ついにXPから7に乗り換えたのだが、Xpから7に変えたメリットは未だ判然としない。デスクトップにしたには、大画面モニター(17インチ)にしたかったからだった。

以降もマイクロソフトは数年毎にWindowsの新バージョンを販売し、以前のバージョンの動作はサポートしないという作戦をとった。この頃になるとWindowsは洗練されてきて、革新的な変化が起きなくなった。新しいバージョンに変えても、作動しないアプリケーションがあったり、新しい操作に慣れる必要があったりで、余計な手間が増えることが苦痛になった。Windows7の次は Windows 8で、不評だったので無視。次に出てきたのはWindows10だった。これも10に乗り換える必要性がないので、7を使い続けてきた。ただし数年前からマイクロソフトはWindows7のサポートは中止。これに伴い、いろいろなアプリケーションソフトでもWindows7下では動かないものが現れた。

マイクロソフトはWindows10が最終バージョンだと明言していた筈だが、数年後にはWindows 11にバージョンアップした。やむを得ず、遅ればせながらWindows11パソコン(デルinspironn)を新規購入したのだった。


Windowsのバージョンを変えることは、事実上新しいパソコンに買い換えることになる。買い替えるとなると、これまで所持していたものより高性能なものが欲しくなる。当初は17インチモニターを使っていたのだが、現在では27インチモニターとなり、A4書類を見開きで2ページ表示できる環境となった。不平不満を言いつつも、要求水準が上がってきたのだった。ただしこの27インチモニターはデル製で”安物買いの銭失い”の典型だった。27インチといっても以前の24インチモニターと同じ解像度だったので、単にキメが荒くなっただけだった。まあ動画を観る際は若干迫力があるようだ。A4書類を見開きで2ページ表示にするといってが、その都度90%縮小に操作する必要があった。


4.「一太郎」の終焉

 
PC9001が現役の時、最も使われたのがジャストシステム社のワープロソフト「一太郎」(58,000円)だった。この値段は今となっては非常に高価だが、そのすぐ前に販売されたワープロソフト松は98000円で、評判はよかったが、さすがに高価だった。その点、一太郎は相対的に安かったので、かつてPCのベストセラーソフトとなった。それでも当時のワープロ専用機に比べて使い勝手が悪く、加えてプリンターも別途買い揃える必要があった。
先に、ワープロ専用機が予告なく販売停止となってしまい、私もPCをワープロとして使うことになった。その時、選んだのがワープロソフト一太郎(当時12,000円程度)だった。この数年間で一太郎も進化していて、使い勝手が改善されていた。これはパソコン処理速度と記憶容量が向上したためでもあった。
 
一太郎は現在も使っているが、現在の一太郎の値段はかつての2倍以上となり、その上日本語入力ソフトATOKの使用は、1年ごとに使用料を支払うというやり方に変えた(これをATOKパスポートと称した)ことで愛想がつきた。私の手元にある一太郎についていたATOK2008では
、google検索のため単語を入力すると、画面が閉じてしまう。一方新しいバージョンの一太郎を購入する気は失せた。

いよいよMicrosoft IMEに乗り換える時が来たかと思ったが、第三の方法であるgoogle日本語入力の評判がよいことを耳にした。google日本語入力は昔からあったというが、最近性能が上がったとのこと。しかも無料。さっそくインストールしてみると確かに高性能だった。たとえば中脘や次髎といった穴名も、漢字変換できる。おそらく経穴名はすべて入っていると思われた。ATOKに保存したユーザー登録単語約4000語の移行にも成功した。
そうであれば、もはやATOKは不要となった。すなわち「一太郎」もついに終焉を迎えたのではないか?
 
 


バックハンドテニス肘の針灸治療 ver.2.2

2024-10-10 | 上肢症状

1.バックハンドテニス肘の概要

1)症状:
テニスでバックハンドで球を打つたびに痛みが出る。雑巾絞り動作(前腕回外筋負荷)でも起こりやすい。
 
2)所見
外側上顆の腱起始部圧痛(++)、伸筋々腹(おもに短橈側手根伸筋)の圧痛
中指伸展テスト(+):手掌を下にして前腕をベッド面につける。検者は被験者の中指を軽く押圧しつつ患者に中指を反らすよう指示。手三里付近の痛みが出れば陽性。
中指伸展テストそしてトムゼンテストやチェアテストなどのバックハンドテニス肘の理学テストは、短縮性筋収縮を再現しているので、バックハンドテニス肘の真因である伸張性筋筋収縮とは違ったものといえる。ただし実際の診療では、バックハンドテニス肘の診療に非常に役立つものである。
 

3)病態


 
①テニスで相手からの返球をラケットで受け止める際、手関節は背屈するのて前腕屈筋は伸張状態になるが、この衝撃を受け止めるには短橈側手根伸筋が強く収縮する。
すなわち筋長は伸びているのに筋は緊張する。これを伸張性筋収縮(=エキセントリック筋収縮)とよぶ。
  

 

②エキセントリック筋収縮による筋損傷

エキセントリック筋収縮は筋に負荷がかかるので、筋力を増やすには適するが、筋の微細損傷を生じやすい筋収縮形態になる。
なお
通常の筋収縮は緊張すると筋長は短くなる。これを短縮性筋収縮(コンセントリック収縮)とよぶ。コンセントリック筋収縮は、筋への負荷が比較的少ないので、筋線維を損傷しづらい。
eccentricは<奇妙な>という意味。鉄棒懸垂で肘を曲げて身体を上げつつあるのは短縮性筋収縮であり、肘を伸ばして身体を下ろしつつある状態は伸張性筋収縮である。


③短橈側手根伸筋の特徴

長・短橈側手根伸筋の共通起始は上腕骨外側上顆である。長橈側手根伸筋停止は第2中手骨底、短橈側手根伸筋の停止は第3中手骨底である。この停止位置の違いにより、長橈側手根伸筋は単に手関節背屈作用、短橈側手根伸筋は橈背屈作用になる。バックハンドで球を受ける際、前腕は橈背屈運動となるので、短橈側手根屈筋への負荷が大きい。
 
なお腕橈骨筋は上腕の筋に分類され、肘屈曲機能になる。手関節の運動とは無関係なので、テニス肘やゴルフ肘とは無関係。

 

 ②短橈側手根伸筋の負荷         
   

2.手関節背屈時痛に対する手三里移動穴運動針 

中指伸展テストを実施し、その時に出現する手三 里付近で短橈手根筋上の圧痛点(手三里の5㎜~1㎝尺側)を発見して刺針する。置針したまま、肘伸展位で手関節の背屈運動針を5~10回程度行わせる。学校協会教科書での手三里は「
曲池穴の下2寸、長・短橈側手根伸筋の間にとる」とあるが、ここでは短橈側手根筋中にとり、刺針している。   
    

上の断面解剖図では、手三里を刺入点として短橈側手根伸筋→回外筋に刺入している。しかし回外筋の収縮時症状では使うが、バックハンドテニス肘では使わないかもしれない。

3 前腕回外痛に対する孔際運動針 

バックハンドでテイクバック(後に引く動作)ら球をインパクト姿勢に移する際、前腕は回内位となり、円回内筋は伸ばされながらも収縮、つまり伸張性筋収縮となる。前腕運動が最大のパフォーマンスを発揮しようとすると、ワインのコルクを引き抜く動作のように、前腕屈曲と前腕回外は同時に行われる。(ちなみにボクシング時、ストレートパンチの力を強めたい場合、前腕伸展動作と同時に前腕回内が同時に行われる)

上写真で、バックハンド姿勢で、テイクバック時からボールをインパクトする際まで、前腕は強く内旋しているのが理解できる。

 

治療は、前腕回外位にて伸張状態にあ る円回内筋で孔最あたりの圧痛点へ刺針し、前腕の回外の運動針を行うとよい。円回内筋は上腕骨内側上顆と前腕屈筋側中央で橈側中点を結んだ線上にあり、代表穴には孔最 がある。(本稿p2図参照)
※孔最(肺):前腕前橈側、前腕長を1尺2寸と定めた場合、太淵穴の上7寸。尺沢穴の下5寸で腕橈骨筋上。深部に円回内筋がある。なお尺沢は肘窩横紋の上で上腕二頭筋腱の橈側。腕橈骨筋中にとる。

手三里の反対側に円回内筋がある。ここを「裏三里」を定め、孔最刺針の代わりに使う方法もある。

 

  

 

 


下肢~足の筋膜症アプローチ最終回(その5)シンスプリント

2024-10-02 | 下肢症状

1.シンスプリントの概要

Shinは向こう脛(すね)、Splintsは(骨折時に使う)副木のこと。短距離走はSprintなので、副木とは関係がない。ランナーやジャンパーにとって頻発疾患である。

軽症では、運動後に“ジーンとするすねの内側に痛みが多い。進行すると運動中も痛み感じるようになる。さらに進行すると安静時にも持続する痛みとなる。

重症度分類(Walsh)
ステージ1:運動後に“ジーンとする鈍痛(すねの内側に痛みが多い)
ステージ2:運動中も痛みを感じるようになる。
ステージ3:パフォーマンスに影響(タイムが落ちたり、足をひきずったり)
ステージ4:慢性的で安静時にも持続する痛み。次第に歩行困難となる。シンスプリント治癒までの期間は、運動制限を厳守すば2週間程度で症状が消失する。運動制限ができない場合、早い者だと1ヵ月程度、長い者では1~3ヵ月程度の療養期間を要する。


痛みの病理は、①筋膜痛(筋微小断裂含む)と②骨膜牽引痛である。脛骨の膜牽引痛では、マレに脛骨過労性骨膜炎のこともあり、限局性の強い痛みで疲労性骨折を疑う必要もある。

 

2.後内側型シンスプリント

下部:長趾屈筋と後脛骨筋筋膜の滑走障害
中部:長趾屈筋とヒラメ筋の滑走障害 前外側型のシンスプリント:前脛骨筋と長腓骨筋の滑走障害
 

後内側型シンスプリントは次の2つに分類できる。

1)後内側シムスプリント(長趾屈筋と後脛筋間の滑走障害)高頻度


①病態
下腿後側深部筋には後脛骨筋・長母趾屈筋・長趾屈筋があり、この3筋の腱は、みな足内果の下方の足根管を通って足趾に停止する。その機能は足関節底屈作用(つま先立ち)である。したがって足関節底屈運動過多では負担が増強する。
足関節底屈すなわち踵を上げて走行するこのと多いランニングやジャンプの際には、癒した筋膜が滑走障害を起こしやすくなる。

②針灸治療
園部俊彦氏(運動と医学の出版社代表)によると、後内側シンスプリントは長趾屈筋と後脛筋間の滑走障害が多く、後脛骨筋関連の内側下1/3周辺に痛みが現れるという。
したがって仰臥位で、三陰交あたりから2寸針で脛骨下縁に向けて直刺深刺し、長趾屈・後脛骨筋を刺激するようにする。置針したまま足の自動運動を行わせることで、滑走を回復させる。

 

③運動療法
踏み台の上に立たせる。その際、踵を踏み台に置き、足の前半分踏み板の外に浮かせた状態にする。まず膝を伸ばした状態で、足関の底屈・背屈運動を大きな動きで30秒間に速いスピードで行わせる。    この運動は主に長母趾屈筋と長趾屈筋の収縮運動。
30秒間休んだ後、両膝45度屈曲位で上記同様30秒間実施する。今度は足指の屈伸運動に、下腿三頭筋運動が加わることで、下腿浅層筋下腿深層筋間の筋膜癒着を剥がそうとしている。この組合わせを1セトとして3セット実施。セット間休憩は1~2分間とする。


2)後内側シムスプリント(長趾屈筋とヒラメ筋の滑走障害) 

①病態
長趾屈筋とヒラメ筋の滑走障害が原因。ただし低頻度。ヒラメ筋は足関節の底屈作用、長趾筋は足趾の底屈作用であり、足や足趾屈曲の際に、これら筋膜の滑走が起こる。両筋間に癒着が生ずると滑走できず、下腿内側下部に筋膜痛が生ずる。
圧痛は、下腿内側の中央付近であることから、ヒラメ筋・長母趾伸筋とも起始は脛骨に着している部であり、痛みの原因は骨膜牽引痛の要素も疑われる。

②針灸治療
仰臥位で脛骨内縁の地機あたりの圧痛点を刺入点とする。2~3寸針を使って、腓骨下方向に向けて直刺深刺し、足関節屈伸および足の回内回外の自動運動を行わせる。
地機(脾):足内果の上10寸(旧テキストでは上8寸)、陰陵泉下3寸


3.前外側型のシンスプリント(低頻度)

1)病態

下腿前面外側が痛むタイプ。足関節背屈(足趾を足背側に向ける)すると痛みが増強する。園部俊彦氏によれば前脛骨筋や長母趾伸筋間の癒着による滑走障害だとしている。私の意見では、前脛骨筋の脛骨骨膜起始部の牽引痛かもしれぬと思う。本症は単一の原因とは限らないのだろう。
私が診た患者に「下腿前面の足三里あたりが痛む」と訴える者がいた。当初は前脛骨筋のコリに入れて足首あたりまで響かせる針をしたが効果なく。足三里を脛骨粗面の直側にとり、脛骨骨膜にこすりつけるような刺針をすることで初めて症状軽減した例を経験したことがある。

 

2)針灸治療
足三里をどこに取穴するかは文献によって微妙に異なる。下図は尾崎昭弘「図解鍼灸臨床手技の実際」からで前脛骨筋部から刺入し、深部で長腓骨筋との筋膜刺激になっている。これは園部氏の見解に沿った刺針といえるだろう。刺針方向によっては前脛骨筋のみに対する刺激にもなる。足三里を脛骨内縁にとり、直刺すると脛骨骨膜刺になる。

このような骨膜刺激の針法は、小山曲泉著「神経痛掃骨針法」(明治東洋医学院出版部刊)に同様の技法が参考になる。