小野寺直助の小野寺殿点は、針灸学校教育では簡単に触れるに過ぎない。中川嘉志馬著『触診と圧診』金原出版(絶版)をみると、次のような記載がある。側臥位で診ることと、相当強い力で押圧することを知っておくべきだろう。
1.小野寺寺殿点の基礎知識
1)小野寺殿点の位置と押圧方法
側臥位で股関節と膝関節を軽く曲げさせておき、腸骨陵に沿って3~4㎝下のところを指頭で腸骨面に向け、垂直に力強く、指を捻じ込むような気持ちで圧迫する。
2)判定と解釈
①弱陽性(+):圧痛が局所のみにあるもの
②中度陽性(++):顔をしかめ、または逃避する程度の痛みがあるもの。または痛みが 膝関節まで放散するもの。
③強陽性(+++):痛みが踵骨から足尖に及ぶもの。
消化器(食道、胃、十二指腸、小腸、上行結腸)の粘膜および筋層に病変があると陽性になる。病変が粘膜にのみある時は、局所の痛みはあっても放散しない。しかし深く筋層が侵されると(++)や(+++)のように放散するという。
2.小野寺殿点とは何を診ているのか?
1)小野寺殿点と上殿神経との関係
『触診と圧診』には下記のような図も載っており、 「臀部圧診点は、仙骨神経叢(L4~S3)が異常感受性を得たときに生ずる」とある。
※この図は「松永による」としている。「エアポケット現象」で有名な松永藤雄のことだろうか?
小野寺殿点として押圧している筋は、中殿筋であることは間違いなく、中殿筋は上殿神経支配である。上殿神経は仙骨神経叢から出る枝で運動を支配している。そして上殿筋の過敏性が一定以上になれば、その興奮は坐骨神経にも伝わり、坐骨神経痛様の痛みを生ずるのだろう。
そこまではいいとしても、上部消化器病変の反応が、なぜ上殿神経興奮という形になるのかは示されていない。
小野寺殿点のある上殿部の皮膚は、上殿皮神経が知覚支配している。上殿皮神経は腰神経叢から起こるが、胃十二指腸疾患で、腰神経叢が興奮するとも考えにくいのである。
3.小野寺殿点の圧痛の所在の違いによる推定罹患臓器
小野寺殿点の反応点と病巣部位の関係は興味深い。前部は食道、噴門部の病変に、中部は胃全体、後部は幽門部および十二指腸の病変で現れるとして、次のような図も載せられている。紺色(筆者が彩色)で描かれた線は。上方から斜め外方へと伸びているが何を意味するのだろうか。一見すると、上殿皮神経の走行に似ているが、上殿皮神経はL1~L3後枝の別名であり、この紺色線は上殿皮神経よりもさらに上方から下っているので上殿皮神経の走行とは異なる。また明らかにデルマトームとも異なる。
4.小野寺殿点と撮診との関係(独善的解釈)
実は、この紺色の線に興味を持ったのは、筆者が撮痛を調べるラインと酷似しているからであった。上図では、紺色線は椎体の途中から描かれているにすぎないが、線の起点は椎体直側になっていると考えている。要するに、小野寺殿点の圧痛部位を認識したら、紺色線に沿うように、撮診でその内上方を調べ、最終的にはその延長上にある椎体棘突起の直側に刺針するという技法を30年前に筆者は考案し、無数の症例に対して実効性のある治療成績をあげることができたと自負している。
撮痛帯は、当初は脊髄神経の皮神経走行と一致すると考えていたが、体幹部の皮神経は、デルマトームと同じで、輪切りのような模様になるが、とそれとは異なる。椎体棘突起を起点として「斜め45度外下方(殿部は斜め60度外下方)を診る」という治療原則にのっとり、棘突起直側に刺針する。なぜ斜め45度となるのかを理論的に説明するのは困難であるが、実際に撮診すると、撮痛がそうした方向に延びていることを指先で感じとれる(患者は痛がる)からであり、延長上の棘突起直側に刺針するというのも、実際に治療効果があることから、この考え方の妥当性を否定できないのである。
上図の紺色線を斜め60度の外外方に下った線だと仮定すれば、次のような作図ができ、胃(全体)の撮痛帯はTh9棘突起あたりまで延びるので、内臓体壁反射的に胃の反応として妥当なものとなる。つまり、小野寺殿点で圧痛反応がみられた場合、それが胃十二指腸疾患に由来するものであれば、同部の撮診も陽性となる公算が強いといえる。