AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

緊張性頭痛治療に効果的な天柱・上天柱の刺針体位 ver.1.2

2012-10-14 | 頭顔面症状

1.伏臥位にて行う天柱刺針では効果不足か?

張性頭痛では、天柱や上天柱からシコリを探し、そのシコリに命中するように深刺することが多い。そのシコリが何筋に所属するものであるかは通常は意識する必要はないだろう。その際の患者の体位は、通常は伏臥位で行われるが、針がシコリ中にしっかりと入っているにも関わらず、患者が満足する程度に頭痛が改善しないケースが時にある。そこで、パルスをかけてみたり、太い針に変更してみたり、灸を追加してみたり、終いには遠隔治療と称して崑崙、後谿を使ったりしても、効果なく、多くは徒労に終わるのである。

2.刺針姿勢の工夫  

こうした状況を打開するため、筆者は最近、患者に下記に示すような体位にさせ、刺針するようにしていて、非常に治療効果が上がることを確認した。

1)患者は椅座位。術者は立って、患者と向かい合う。
2)患者は下を向かせ、額を術者の上腹につける。術者は患者の天柱付近に指を添え、腹と指で頭を抱える感じにする。
)術者は、後頭隆起の下あたりを指先で探る。その時、指頭は後頭骨を触知している。
4)指と後頭骨間にグリグリしたシコリを発見することに努める。
5)シコリを発見したら、寸6#2程度の針で、直刺やや上方に向けてシコリ中に入れる。
6)シコリに命中したら、軽く雀啄して抜針する。

3.この刺針体位を実施しての印象 

針灸治療の効果を引き出すのは、ツボの選定は当然として、刺針体位も非常に重要となる。私がこのことに気づいたのは、自らの臨床経験によるところが大きいが、柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」でも、効かすために姿勢についての細かな肢位の説明が書かれているので、自分の見解への自信を強めた。
※この十年来、筆者のカルテには、刺針点だけでなく、その刺針の際の刺針体位も記録している。

上記体位で天柱や上天柱にを探ると、とくに後頭骨の頚筋起始部の硬結が把握しやすく、結局緊張性頭痛というのは、筋付着部症の一種なのではないかと考えるようになった。針で筋緊張を緩めるには、緊張筋を活動(=緊張)させた状態で刺針することがコツなのだろう。

当院でも天柱・上天柱の針を使う機会は非常に多い。緊張性頭痛のほかにも眼精疲労、不眠、めまいなどが、まず思いつく。先日、眼精疲労患者を診る機会があった。この患者は仰臥位で太陽刺針、伏臥位で天柱刺針を行い、効果あるのだがせいぜい1週間すると元に戻るという。そこで上記方法で天柱・上天柱へ刺針すると直後治療効果、持続効果とも、これまでよりも良好な結果となった。(不眠、めまいに対しては未検討)

 


4.解剖学的な検討 

天柱に刺針すると、まず僧帽筋を刺入することになるが、僧帽筋の機能は、鎖骨と肩甲骨の動きに関わるものなので、基本的には頭痛症状と無関係。後頭骨の後正面と頸椎を結ぶ筋は、頭半棘筋と後頭下筋群である。うち頭半棘筋は頭の重量を支持し、後頭下筋は刻々と変化する頭位を延髄に伝達し、姿勢制御に関係している。ゆえに、電車の長椅子などでで座ってうたた寝している際、頭半棘筋が緩むほどの深い眠りになれば座っていられず、長椅子に倒れるようにして寝込むことになる。後頭下筋が過緊張では、頚性めまいが生ずる。
上に示した体位にさせて上天柱・天柱を指頭で探ると、後頭骨底付近の筋起始を触知しやすい。後頭下筋が直接に触知できないので、解剖学見地から、この筋シコリは、頭半棘筋によるものであろう。

 

 

5.めまい・不眠に対する効果(追補分)

上記は2012年9月28日報告内容であったが、同年10月13日現在、不眠やメマイ患者に対する本肢位での天柱刺針を何例か試行することができた。その結果は、予期していた以上に効果があることを確認できた。これまでも、メマイや不眠に天柱刺針を行っていたが、効くか効かないか、私自身予想できなかったのだが、本法では、コリの存在とその程度が指先でしっかりと確認でき、またしっかりと筋コリに命中していることが「手の下感」として実感できた場合、治療効果が発揮できることを知った。  

※この術式については、2012年11月18日の「現代科学針灸研究会」(東京都立川市市民会館)にて実技を披露する予定ですので、興味ある先生は、ご参加下さい。

 

 

   

 


 


肩甲骨裏面に自覚するコリの正体と刺針法 Ver 2.0

2012-10-10 | 頸肩腕症状

1.肩甲骨裏面のコリの疑問
頸椎椎間板ヘルニアの患者は、頸部痛や上肢痛を訴えるとともに、肩甲骨内縁や肩甲骨裏面に、コリや痛みを訴えることがある。また緊張性頭痛と緊張性の頸コリを訴える患者でも同様の現象がみられることがある。

この理由として、初めは肩甲下筋の緊張に由来するものだろうと考えていた。肩甲下筋は肩腱板の一部であるが、上記症状をもつ患者は肩関節症状とは無関係の者ばかりなので、判然としなかった。

従来から肩甲骨内縁のコリや肩甲骨裏面のコリを訴える者に対し、肩甲骨内縁から肩甲骨裏面へ水平刺する方法が広く行われていることは知っていた。しかし肩甲骨内縁のコリは脊髄神経後枝の興奮に由来すると筆者は考えていたので、大小菱形筋のコリという考えさえも疑問視していたのであった。

しかし常連患者で、肩甲骨裏面が凝って非常につらいという訴えがあったので、肩甲骨-肋骨間に入れる局所刺針を行ってみた。最初は一向に感触がなかったのだが、よく来院する人かつ針に強い人でもあったので、いろいろ試行錯誤できた。その結果、私なりに結論を得ることができたので、報告する。

なお本稿は、一年ほど前の報告を書き改めたものであるが、当時と結論が異なっている。

 


2.肩甲骨裏面への刺針

患者の中には、肩甲骨の裏が凝ると訴える者がいる。局所治療として、そのコリ部に刺入するためには、肩甲骨内縁を刺針点として、肩甲骨と肋骨間に刺針することになる。
肩甲骨と肋骨間にある筋は、肩甲下筋と前鋸筋である。肩甲下筋も前鋸筋も、腕神経叢の枝に属する。

 

 

 

 

 

 3.刺針体位の工夫

肩甲骨と肋骨のつくる間隙に十分深く刺入するためには、患側を下にした側臥位または側腹位にするとよい。この体位により、肩甲骨が背部から浮き上がるので、刺入しやすくなる。

 

4.刺入

肩甲骨内縁の膏肓あたりを刺入点として、肩甲骨裏面と肋骨間に刺入する。針は、4番~8番が必要である。2番以下ではツボに当たったという手応えを感じにくい。

また3㎝程度の刺入では響かず、5㎝以上刺入すると刺し手にしこりを感じることができるので、ここを狙って刺入する。ツボに命中すると、患者はコリを感じる肩甲骨裏面あたりにドンいう刺激が得られ、「よく効いた」といって満足する患者が多い。

 

5.肩甲下神経のモーターポイントを刺激しているのか?

刺入すると、まず前鋸筋を貫くが、この程度の刺針長では針響は得られず、手応えも得られない。さらに刺入を勧めると、肩甲下筋中に入る。響きが得られるのは一定の長さの刺入の後なので、肩甲下筋を刺激したというよりも、肩甲下筋のモーターポイントを刺激した結果だと思っている。なお肩甲下筋の支配神経は、肩甲下神経(純運動性)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


五十肩で上腕外側痛を生じる理由と治療法

2012-10-09 | 肩関節痛

1.肩関節周囲炎で上腕外側痛を訴える患者 

肩関節周囲炎の者は、肩関節部だけでなく、上腕外側(ときに前面や後面)の痛みを訴えることが珍しくない。肩関節部痛をさほど訴えず、上腕部だけ痛むという者さえ結構いる。

 


2.上腕外側痛は上外側上腕皮神経由来か? 



この上腕外側痛は、痛む部が非常に広く、押圧してもツボ反応は発見しづらい。しかし撮痛反応はしっかりと出現することから。皮膚の痛みであると判断していた。

すなわち、この皮膚知覚を支配は上外側上腕皮神経なので、この十数年来、五十肩時にみる上腕外側の痛みは、外側上腕皮神経痛だと考えていた。

 

 

実際に、五十肩患者がしばしば訴える上腕外側痛に、皮膚刺激として長針で皮下を横刺したり、点状刺絡したりすると、即効的に治療効果は得られることが多かった。
このやり方は、柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」にも、<上肢外側痛の鍼>として載っている。

しかしその持続効果は、一両日であることから、単にきわめて頑固な神経痛なのだとみなしていたのだった。

 
3.上腕外側痛は棘下筋の関連痛由来か? 

肩甲上神経は、棘上筋・棘下筋を運動性に支配し、肩関節包の上部と後部の知覚支配し、皮膚支配ない。

筆者は天宗から肩甲骨骨面にぶつけるように刺針すると、肩関節前面に針響が得られることの多いことを前から知っていたが、トラベルのトリガーポイントマニュアル図を改めて見ると、天宗あたりにトリガーポイントが発生すると、上腕外側に放散痛となるらしいことがわかった。


すなわち上腕外側痛は、肩甲上神経の興奮→棘下筋緊張→それがトリガーとなって上腕外側痛という病態進展が考えられる。ゆえに天宗へ刺針すると上腕外側痛が改善するのかもしれない。実際に上腕外側痛を訴える患者に天宗付近の圧痛硬結を探して刺針すると、上腕部に響くことが判明し、施術後は上腕外側痛は軽減する例が多々あった。
現在のところ、肩グウ水平刺に比べ、天宗刺針の方が成績がよい印象がある。


4.高い確率で肩甲上腕関節前面に響かせる方法 


なお、天宗周囲の圧痛硬結点から棘下筋に刺入すると、常に上腕外側に響く訳ではない。この部がトリガーポイントになっているという前提があるからである。


しかしながら、肩甲骨面に擦るように刺針すると、高い確率で肩関節前面に響きを与えることができるようだ。肩甲骨面に擦るように刺針するには、肩甲骨下角あたりを刺入点として、肩甲骨面に針先をぶつけ、針を刺針転向させて肩甲棘方向に刺入しつつ擦り続けるようにするとよい。