1.伏臥位にて行う天柱刺針では効果不足か?
張性頭痛では、天柱や上天柱からシコリを探し、そのシコリに命中するように深刺することが多い。そのシコリが何筋に所属するものであるかは通常は意識する必要はないだろう。その際の患者の体位は、通常は伏臥位で行われるが、針がシコリ中にしっかりと入っているにも関わらず、患者が満足する程度に頭痛が改善しないケースが時にある。そこで、パルスをかけてみたり、太い針に変更してみたり、灸を追加してみたり、終いには遠隔治療と称して崑崙、後谿を使ったりしても、効果なく、多くは徒労に終わるのである。
2.刺針姿勢の工夫
こうした状況を打開するため、筆者は最近、患者に下記に示すような体位にさせ、刺針するようにしていて、非常に治療効果が上がることを確認した。
1)患者は椅座位。術者は立って、患者と向かい合う。
2)患者は下を向かせ、額を術者の上腹につける。術者は患者の天柱付近に指を添え、腹と指で頭を抱える感じにする。
3)術者は、後頭隆起の下あたりを指先で探る。その時、指頭は後頭骨を触知している。
4)指と後頭骨間にグリグリしたシコリを発見することに努める。
5)シコリを発見したら、寸6#2程度の針で、直刺やや上方に向けてシコリ中に入れる。
6)シコリに命中したら、軽く雀啄して抜針する。
3.この刺針体位を実施しての印象
針灸治療の効果を引き出すのは、ツボの選定は当然として、刺針体位も非常に重要となる。私がこのことに気づいたのは、自らの臨床経験によるところが大きいが、柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」でも、効かすために姿勢についての細かな肢位の説明が書かれているので、自分の見解への自信を強めた。
※この十年来、筆者のカルテには、刺針点だけでなく、その刺針の際の刺針体位も記録している。
上記体位で天柱や上天柱にを探ると、とくに後頭骨の頚筋起始部の硬結が把握しやすく、結局緊張性頭痛というのは、筋付着部症の一種なのではないかと考えるようになった。針で筋緊張を緩めるには、緊張筋を活動(=緊張)させた状態で刺針することがコツなのだろう。
当院でも天柱・上天柱の針を使う機会は非常に多い。緊張性頭痛のほかにも眼精疲労、不眠、めまいなどが、まず思いつく。先日、眼精疲労患者を診る機会があった。この患者は仰臥位で太陽刺針、伏臥位で天柱刺針を行い、効果あるのだがせいぜい1週間すると元に戻るという。そこで上記方法で天柱・上天柱へ刺針すると直後治療効果、持続効果とも、これまでよりも良好な結果となった。(不眠、めまいに対しては未検討)
4.解剖学的な検討
天柱に刺針すると、まず僧帽筋を刺入することになるが、僧帽筋の機能は、鎖骨と肩甲骨の動きに関わるものなので、基本的には頭痛症状と無関係。後頭骨の後正面と頸椎を結ぶ筋は、頭半棘筋と後頭下筋群である。うち頭半棘筋は頭の重量を支持し、後頭下筋は刻々と変化する頭位を延髄に伝達し、姿勢制御に関係している。ゆえに、電車の長椅子などでで座ってうたた寝している際、頭半棘筋が緩むほどの深い眠りになれば座っていられず、長椅子に倒れるようにして寝込むことになる。後頭下筋が過緊張では、頚性めまいが生ずる。
上に示した体位にさせて上天柱・天柱を指頭で探ると、後頭骨底付近の筋起始を触知しやすい。後頭下筋が直接に触知できないので、解剖学見地から、この筋シコリは、頭半棘筋によるものであろう。
5.めまい・不眠に対する効果(追補分)
上記は2012年9月28日報告内容であったが、同年10月13日現在、不眠やメマイ患者に対する本肢位での天柱刺針を何例か試行することができた。その結果は、予期していた以上に効果があることを確認できた。これまでも、メマイや不眠に天柱刺針を行っていたが、効くか効かないか、私自身予想できなかったのだが、本法では、コリの存在とその程度が指先でしっかりと確認でき、またしっかりと筋コリに命中していることが「手の下感」として実感できた場合、治療効果が発揮できることを知った。
※この術式については、2012年11月18日の「現代科学針灸研究会」(東京都立川市市民会館)にて実技を披露する予定ですので、興味ある先生は、ご参加下さい。