AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

鵞足のトリビアおよび鵞足炎の針灸治療 Ver.2.0

2015-12-05 | 膝痛

1.大航海時代の肉の保存方法
 
大航海時代とは、15世紀から17世紀前半にかけて、ポルトガル・スペインなどのヨーロッパ諸国が、
航海・探検により海外進出を行なった時代をいう。
大航海時代以前から、ヨーロッパでは気候の関係で、コショウ類を栽培することが難しかったので、インドなどからの香辛料(とくにコショウ)を、多くの商人の中継で陸路で地中海経由で輸入していたが価格は上昇し、一般人が入手することは難しかった。

ヨーロッパでは、草がが枯れて放牧ができなくなる冬には、大半の家畜を殺してその肉を塩で漬け保存食とした。しかし、ただ塩漬けした肉のにおいはあまりにも強烈で、これを何とかごまかすには、香辛料を使うほかなかった。さらに香辛料を使うことが、肉の腐敗防止に役立つとも考えられた。

南洋を長期航海中の船では、肉の長期保存は切実な問題で、この臭みを消すためにコショウが珍重され、同じ重さの金と交換されていた。

長期航海する大船は、生きた状態で鶏や豚が飼育していた。生きていれば腐らないからである。鶏の飼育はケージに入れればよかったが、豚は難しかった。豚が船内で暴れないようにするため、鵞足をナイフで切断し、歩き回れなくしたという。


2.鵞足の命名由来


鵞足は、英語ではグースフットgoose`s  footという。 マザーグースのグースである。

ガチョウの足は、指が3本あり、指と指の間は水かきでつながれている。鵞足は、半腱様筋腱・薄筋腱・縫工筋腱が集合した部分をいう。その形がガチョウの足に似ているところから名付けられた。
ちなみにガチョウを鵞鳥と書くのは、ガーガー鳴くからだという説がある。

※単に鵞足といえば、浅鵞足のことをさす。他に深鵞足がある。

 

 

3.鵞足炎

1)鵞足炎の病態
 
浅鵞足炎はランナー膝の一タイプである。階段昇降時や急激な立ち上がり動作、しゃがみこみ動作時の、鵞足部の痛みを生ずる、鵞足部に腫脹と圧痛がある。過使用による浅鵞足腱炎の場合、その近傍を走る伏在神経を興奮させるので、痛みが出る。
浅鵞足の直下にある浅鵞足滑液包炎のこともあり、この場合は熱感や滑液貯留をみる。

 

2)深鵞足炎について 
     
半膜様筋の起始は坐骨結節、大腿後内側を下行し、膝関節の後内方を経過し、内側側副靱帯をくぐり、脛骨内側踝に停止する。
本筋の過使用により、半膜様筋停止部附近の腱炎や腱直下にある滑液包炎を生ずることがある。深鵞足特有の問題として、内側側副靱帯損傷に伴う場合もある。 

 


4.鵞足炎の針灸治療
   
鵞足部を触診し、圧痛を発見する。撮痛反応も陽性となることが多い。このような場合、鵞足の痛みの直接原因は皮膚を知覚支配している伏在神経のことが多いように思う。その根拠として、皮膚痛の改善目的で皮内針を数カ所置くのが非常に有効となる例が多い事実がある。 

浅鵞足部構成筋である半腱・薄筋・縫工筋の緊張により、鵞足部腱の伸張ストレスが生じている場合、患側を下にして、これら筋群の圧痛点を探し、そこに膝屈伸動作の運動針を実施することも考える。鵞足構成筋の緊張短縮により、鵞足部の伏在神経が興奮すると考えれば、大腿後内側にあるこれら筋群の運動針の方が本質的になるだろう。
深鵞足炎では、半膜様筋が内側側副靱帯に絞扼されて症状を生している場合もあるので、曲泉や陰谷あたりの圧痛点も診ておく必要はある。