AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

前胸部ツボ名の由来 ver.1.1

2023-09-19 | 経穴の意味

1.前胸部経穴位置の特徴
 
前胸部は肺、心臓、乳房、横隔膜などで他に気管や胃などの重要組織があるが、前胸部のツボは、胸骨上もしくは肋間に整然と並んで、一見すると没個性的なのようにも見受けられる。
では実際どういう構成になっているのだろうか。ツボの特性を大きく4つに分類して色分けした(下図)。

 

①前胸部で<青色>で示したのは肺・呼吸器関係のツボである。昔の中国では肺はハスの花に例えられたこと、あるいは肺は現代と同じく呼吸作用で、他に宣散粛降作用がある関係で、解剖学敵な肺の位置より上になっているのだろうか。
②前胸部中央<赤色>には心臓・精神関連のツボがある。中医でいう心とは、血液ポンプ+ハート(精神)の作用だった。
③心関連のツボの周囲は<緑色>で、私の分類では区分・部屋・建物といった比喩的なものを示すツボがある。これには心を守る役割もあるのだろう。
大包は、私見であるが脾の大絡として胃泡の診察ポイントであり、胃や横隔膜の動きに関係していると解釈している。
④乳房と乳汁および胃の関連は<ピンク色>で示した。食竇穴は従来は食道と解釈すると位置的に横にありすぎて合理性がないので、私は胃泡を示すものにした。なお乳根穴は文字通り乳房と関係するが、胃の大絡として心尖拍動の診察点ともなる。

      

2.胸部経穴名の由来
巻末に提示した4種の文献を参考にしたが、不満が残ったので※印として自説を示した。

1)胸骨頸切痕ライン
①天突(任) 
胸骨希頚切痕の上に向かう形。

②気舎(胃) 
「舎」=場所。肺(気の出入り)のある場所。

③缺盆(胃)  
丸い鎖骨窩を二分するのが鎖骨。これを欠けた鉢に例えた。缺盆骨=鎖骨のこと。


2)鎖骨下窩

①璇璣(任)  
北斗七星で、璇(せん)は2番星、璣(き)は3番星で、どちらも美しいという意味がある。北斗七星が北極星を中心に規則正しく回転しているよう
に、本穴も呼吸により上下に規則正しく動く。ちなみに1番星(北極星に最も近い星)の名は「天枢」という。天枢は回転扉の軸部分をいい、天枢を軸として上半身を折り曲げる処とした。扉は開閉により位置を変えるが、軸部分は位置を変えないので、北極星に似ている。

②兪府(腎)   
 a.腎経の走行は肋骨を上行し、最後には、この穴に集結することを示す。
※b.「府」=は集合で肺の宣発作用、「兪」=輸送で肺の粛降作用をいう。すなわち兪府とは肺のもつ宣発粛降作用のこと。
吸気時、体内の水分を一度肺の処まで引き上げ、息はく時に、その水分を内臓全体に、じょうろで水をまくようにする。これはポンプの仕組みと同じ。
③気戸(胃)  
※前胸で、鎖骨と第1肋骨の間の小さな間隙を戸に例えた。気の出入りをする肺の入口。

3)第1肋間
①華蓋(任)
肺は蓮の花の形のようで、天子の頭上にある絹の傘の形(蓋)に似ている。肺は五臓六腑中で最も高い地位にあることを示す。あるいは華蓋=肺そのもの。

②彧中(腎)  
※「彧」=区切り、枠取り。肺と心の区切りのこと。

③庫房(胃)
「庫」は倉庫、「房」は厨房とか工房。その下にある臓器「肺」を収納するための部屋。


4)第2肋間

①紫宮(任)  
天帝が住んでいる星、すなわち北極星を紫微星とよんだ。
紫微星とは貴重な星の意味で、心臓の位置にある。
中国皇帝といえば代々黄色(五行色体表の五方すなわち東・西・南・北・中央の中で、中央に相当するのが黄色)を重要視していた。しかし貝からとれる紫染料が非常に希少で高価なことを知ると、紫も重視するようになった。北京にある昔の皇帝の住居(故宮)の別名を紫禁城という。これは一般人が入ることのできない特別な場所との意味がある。
ちなみに聖徳太子が制定した冠位十二階の最高位も紫色だったが、この染料は安価な紫芋によるものだった。無駄な処に金を使わないという賢明なところがある。

②神蔵(腎)  
心に近い紫宮の両側で霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。

③屋翳(胃)  
「翳」とは屋根、「翳」は羽でできたひさし。

④周栄(脾)  
「栄」は活力源で栄養素と同じ。全身に栄養素を巡らす。

4)第3肋間
①玉堂(任)  
玉堂=高貴な場所。中国の科挙合格者の中でトップが配属される部門(歴史編纂、皇帝の発言を記録)。

②霊墟(腎)
「墟」は土で盛られた高い山。 仰臥位になると霊墟は前胸部の高い位置になることから。       
秦始皇帝が築いた運河。中国の桂林市興安県に現存。
③膺窓(胃) 
「膺」は胸、「窓」は気と光を通すところ。胸部の閉塞を通すため。

④胸郷(脾)
「郷」は人が集まる村々(=故郷など)のこと。胸郭はタル型をしていて、その
側面中央の断面積が最も大きい処になる。
胸の断面積が最も大きい処として胸郷と名づけた。

5)第4肋間
①膻中(任)  
a.両乳間の間を膻という。膻にはヒツジのような生臭い。乳児がいる女性では仰臥位で寝ている時など、乳頭から漏れ出た乳汁がこの部に溜まるので生臭くなることがある。

b.君主(心)の住まいである宮城(心包)の別名。
②神封(腎)  
※「神」=心、「封」=境界線。胸中線の脇で心に近い部。

③乳中(胃)  
乳頭部

④天池(包)   
肋間のくぼみのような池(汗をかくところ)

⑤天渓(脾)  
この場合の「渓」は、乳汁分泌を川に例えている。

⑥輒筋(胆)  
「輒」は荷車の左右の側板をいい、荷崩れしないで多くの荷物を積めるようにしたもの。これが転じて胸横部の前鋸筋をさす。「輒」には耳タブのように軟らかいとの意味がある。これは前鋸筋筋腹の形容になっている。

⑦淵腋(胆)  
 脇の下に隠れる水溜まり。腋下の汗をかきやすい部。

                                   
6)第5肋間
①中庭(任) 
「庭」=宮殿(君主)正面の庭園。膻中(宮殿)の下に位置する。胸骨体下端の陥み(胸骨体下端)で、腹直筋停止部になる。
②歩廊(腎) 
「廊」とは建築用語で、2列の柱を繋ぐために作られた通路(腹直筋停止)のこと。歩道橋が代表的。中庭穴を跨ぐように左右の肋軟骨上に歩廊穴がある。
③乳根(胃)あ
 乳頭の根元。乳根は胃の大絡であり、心拍による左前胸部の上下動を虚里(わずかな振幅)の動ととらえた。

④食竇(脾)  
※「竇」=洞。左食竇は胃泡のこと。胃の中に食物が入る場所との意味。  

従来の説では「食道」と解釈するが、本穴の位置は前正中付近にはない。


7)胸骨弓縁、その他
①極泉(心)  
泉(汗)がわき出る最も高いところ。
②期門(肝) 
十二正経は肺経の中府から始まり、肝経の期門で終わる。一周りしたとの意味。

③日月(胆)   
日月(胆募)の上方5分には期門(肝募)がある。

※「肝胆相照らす」との表現にあるように、両雄とも影響を受け合う存在。期門と日月は影響を受け合うことを示す。
④章門(肝)  
※「章」=ひとまとまり。他の肋骨と異なり、本穴は第11肋骨前端という浮遊肋骨
にあることを示す。
⑤京門(胆)
※「京」はみやことの意味の他に、高い丘の意味がある。京門は第12肋骨前端という浮遊肋骨にあることを示す。

⑥大包(脾)   
脾の大絡として、内臓診察点。

※左大包は胃泡を示す(打診で鼓音の存在で調べたのだろう)。その上の横隔膜の動きにも関与。横隔膜は陰である胸部臓腑と陽である腹部臓腑の境界。
⑦鳩尾(任)  
剣状突起が鳩の尾の形に似ていることから。

 

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研

 


痔疾の針灸治療 ver.3.0

2023-09-15 | 腹部症状

本内容は、令和5年10月15日奮起の会「下部消化器症状」で使用する現代針灸実技テキストからの抜粋になります。

1.痔疾の基礎的原因

肛門部における炎症を起こす攻撃因子が、肛門周囲の免疫力を上回った場合に痔となる。攻撃因子としては排便異常とくに便秘があり、免疫力低下因子としては疲労・ストレス・冷え・飲酒などがある。痔核・痔瘻・裂肛が、痔の三大疾患になる。

基本的訴え:内痔核→出血、外痔核→排便時痛、裂肛→排便時痛、痔瘻→痒み
※痔を「ぢ」と書くのは誤りで、正しくは「じ」である。「痔」は肛門静脈腫瘤ことで、それ自体は健常者にもあって疾患を意味しない。


2.痔核(いぼ痔)

1)病態生理(肛門上皮滑脱説)

痔核とは、血管が拡張・蛇行した静脈瘤様病変で、大便の摩擦により静脈瘤の支持組織が滑脱した結果が内痔核だとする。現在主流の学説である。

※旧説:血管起源説

人間は直立するので、静脈環流は四足動物より悪くなる。とくに直腸~肛門管の静脈(上・中・下直腸静脈)には静脈弁がないため、粘膜下の内痔静脈叢が鬱血し、静脈瘤を形成しやすい。排便痔の肛門周囲の静脈叢伸縮→静脈血管の弾性消失→静脈鬱血(血栓)という機序。排便時のイキミにより、直腸下部と肛門にある静脈血流が一時的に止まり、これが静脈瘤ができる原因となるという説。しかし今日では、肛門部の静脈瘤は誰にでもあり、それは便のストッパーとしての役割を果たしていることが明らかとなった。


2)分類と症状


痔核は歯状線を境として外痔核(少数)と内痔核(大部分)に大別され内痔核の方が圧倒的に多い。歯状線から内側は腸粘膜なので知覚はない。ゆえに内痔核は痛むことはないが、圧迫されにくい部なので出血は止まりにくい。内痔核は1度(軽度)~4度(重度)に細分化される。歯状線から外側は陰部神経の知覚支配なので、外痔核は痛むが、圧迫される部位なので出血は止まりやすい。 

※脱肛とは直腸や肛門の一部が肛門外に脱出することで、内痔核が進行して、それを覆っている粘膜ごと肛門外に脱出した状態である。
※アルコールを飲むと痔が悪化するというのは、静脈腫の血流が良くなり、腫瘤が拡大するため。かつて上直腸動脈から肝臓に行く静脈血液量が問題視されたが現在は否定されている。

3)現代医学的治療



①内痔核


1度:温罨法や鎮痛座薬治療


2度:内痔核硬化療法。注射薬であるALTA(商品名:ジオン注)を内痔核に注射して、核内に流れ込む血液量を減らして痔を硬くし、直腸粘膜に癒着固定させる。注射は内痔核(知覚がない)部    に行うので、痛むことはない。2~3日の入院が必要。


3度以上:結紮切除術。腰椎麻酔下で、内痔核に注入動脈を根元の部分でしばり、痔核を放射状に部分的に切除。1〜2週間程度入院が必要。

※昔の内痔核の手術は、ホワイトヘッド手術といい、痔核だけでなく、周囲の肛門上皮も全てリング状に取り除いてしまうものだった。この手術は非常に痛いため、患者に怖れられていた。  後遺症として腸の粘膜が、かなり手前まで下がってくる脱肛状態となり後遺症も問題だった。
 

②外痔核:硬化療法が使えないので、局所麻酔して痔を切開摘出。 


2.痔瘻

1)病態生理

肛門小窩(歯状線の凹んだ部分)に糞便が付着

→炎症を生じて肛門周囲に膿が溜まり非常な痛みと発熱(=「肛門周囲膿瘍」状態)
→膿疱が破れて後、管状の空洞(瘻管)ができる
→この瘻管から細菌侵入し炎症を惹起する。

2)症状:肛門掻痒感、下着が汚れる
3)現代医学治療:管の入口と瘻管を結紮する手術以外にない。針灸不適応。


3.裂肛(切れ痔)

1)病態生理

排便の際の肛門部外傷。とくに硬い便をいきんで排泄する際に生じやすい。破れるのは歯状線と肛門縁間にある1.5㎝くらいの部位。

 排便時刺激による会陰神経の興奮
 →内括約筋の痙攣
 →これがトリガーとなりさらに陰部神経興奮し続ける。

2)症状と現代医学的治療

排便時の激痛と出血。排便後もしばらく続く痛み

外傷程度が軽い場合は便を軟らかくしておけば自然治癒する。
しかし硬い便を繰り返し出すと同じ部位が何回も切れ、肛門潰瘍となり肛門が狭くなり、このためさらに切れやすくなるという悪循環が生じる。この場合には潰瘍部分の切除が必要。


4.痔核の針灸治療
痔疾で針灸が有効なのは、痔核と軽度の裂肛のみだだろう。そして軽度の裂肛であれば針灸に来院しなくても何とかなるから、実際には痔核治療のみであろう。痔瘻は針灸は効果ない。

1)肛門周囲圧痛点からの刺激 (国分壮・橋本敬三共著「鍼灸による速効療法」医歯薬1965年4月)
 痔核は肛門周囲に分布する静脈鬱血を改善させ、併せて肛門挙筋(陰部神経運動支配)の過緊張を緩め、肛門付近の皮膚を知覚支配している陰部神経興奮を緩和する方針で行う。
 
①鬱血した痔静脈に対する直接刺激
仰臥位でズボンとパンツを膝あたりまで下ろすよう指示。患者は大腿を持ち上げ、術者は肘で患者の下腿後側を押さえてこの体勢を保持。術者はゴム手袋を装着して、患者の肛門周囲を押圧し、硬結圧痛(=静脈腫瘤のあるところ)を発見。このシコリめがけて太く長い針で刺入する。するとズキッと響くが、抜針後の痛みは大幅に軽減する。要するに痔静脈の鬱血が改善される。
灸治療では、有痕灸は使わない。太い線香や蚊取り線香、たばこ灸などで肛門周囲のしこり部を加熱する。ある程度火を近づけると、ポカポカして気持ち良く感ずるが、さらに火を肛門に近づけるとアチッといって驚くので火を遠ざける。これを5~6回繰り返す。 
   
②患者心理的に肛門周囲の痔核を触診することがしづらい場合、仙骨骨外端に長強穴をとり、そこから外方3㎝。直刺で2寸ほど深刺する。肛門挙筋中に入る。この刺針は肛門静脈叢にも影響を与え、静脈鬱血を改善さえる作用もある。普通は10分間程度置針する。
 

2)孔最の灸

①澤田流孔最の取穴 
前腕長を1.25寸と定めた時、尺沢の下3寸。標準孔最の2.5寸上方。孔最のツボ反応は痔核の位置によって上下に移動する。指先の按圧感によって、その最高過敏点の硬結を取穴する(代田文誌)。

②適応
痔痛・痔核・痔出血・痔瘻・裂肛。脱肛には効かないこともある。灸治が適する(代田文誌「鍼灸治療基礎学」より)。

③孔最刺激の肢位(三島康之「今日から使える身近な疾患35の治療法」より)
痛みを我慢する姿勢は、歯を食いしばり、上下肢を含め全身に力を入れた状態になる。昔の排便スタイルはでは、膝を相当窮屈にまげた姿勢で、手は自然と結ばれ、前腕は屈筋に力が入った姿勢で、前腕屈筋群では、孔最穴あたりから手首に向かって一番力が入った状態になる。この体位で孔最を刺激するとよい。

④左右の沢田流孔最の移動反応(小島福松:痔疾、現代日本の鍼灸 医道の日本300回記念)
左右孔最の調べて、圧痛や硬結の多い方が患部である。まず硬結を目標に5~7壮施灸する。そしてその灸痕は、翌日になれば必ず移動している。毎日移動している硬結を求めて、その中心に施灸する。そのうち硬結の移動が止まる。この時が治癒の近づいた時である。痔痛が除かれても孔最の穴の移動している間は血齲したとはいえない。だいたい2~5週間くらいを要する。3ヶ月要した例もある。

 

 


腹部ツボ名の由来 ver.1.3

2023-09-13 | 経穴の意味

先回、前胸部ツボ名の由来を調べ、当ブログで報告した。この作業は知的好奇心を刺激するものだった。そういう訳ならば同じ方式で腹部ツボの名称の由来を調べてみることにした。腹部のツボについて、中脘などの「脘」は腹直筋を示すこと。ブログ「鼠径部の経穴」と「天文学と経穴」において、天枢の「枢」は扉の回転軸であることを示した。ツボの五枢の「五」とは五方のことで、ここでは全方向を指し、「五枢」が股関節がいろいろな方向に可動性があることを示している。気衝の「衝」は脈拍ではなく、胃経走行の直角に折れ曲がる様を表現している。太乙の「乙」とは大腸が折れ曲がって走行する様、もしくは太乙で胃袋の終わりをさすのかもしれない。膏兪の「膏」は横隔膜ではなく、膏膜(現在の腸間膜)であることを指摘した。中脘穴の外方2寸の梁門は、腹直筋の腱画を示すとした。


1.腹部経穴の分布傾向

①上腹部は、予想通り胃に関係する経穴(赤)が多い。すぐ下層には胃と腸の境界を意味する経穴(オレンジ色)も多数あり、両者は分離されてる。
②臍の横のライン、恥骨上のラインは、鼠径溝は取穴する上で基準となるものである。
これらの穴名には、解剖学的特性の名前が優先されてつけられている(黄緑色)。
③臍下2寸ラインにある石門、四満は腸を示す名称になる(黄色)。
④腸に関係するツボの下には、腎・膀胱を示す経穴がある(紺色)。
⑤さらにその下には婦人科の妊娠関連を示す大赫や帰来がある(紫色)。

 

2.腹部経穴の由来
※印は独自の解釈

1)臍上6寸
①巨闕(任)    「闕」は宮殿入口にある大きな門のこと。肋骨弓基部の陥凹部。
②幽門(腎)    「幽」は幽閉の幽で、隠すとの意味。胃の上部が肋骨弓で隠される。解剖学の胃の下口である幽門とは無関係。
③不容(胃)   胃の噴門に相当。胃の受納能力の限界が、このあたりになる。

2)臍上5寸
①上脘(任)  
a.胃の上部

b.「脘」には平たくのばした肉の意味があり、腹直筋を意味する。腹直筋の上部のこと。
②腹通谷(腎)    内経には<谷の道は脾を通ず>とある。水穀(飲食物)を上から下へ流す所。
③承満(胃)  「承」は受納。「満」は充満。不容穴の下にあり、水穀で満タンという意味。

3)臍上4寸
①中脘(任) 
a.「脘」=腹直筋を、平たくした干肉にたとえた。腹直筋の中央。

b.胃の中央、小湾部
②陰都(腎) 
a. 腎経の流注が、胃の両側にある胃経と交わる。その様子が、村から都に上がる者のような、”お上りさん”状態。

b.胃の近くにあるので、胃を整える作用がある。別名「食宮」「食府」。
③梁門(胃)   「梁」=柱のハリ。腹筋と腹筋の間にある腱画。心下痞満(心窩部がつかえた感じ)、胃のつかえ、消化不良、脹満)治療の門戸。※滑肉門穴の図を参照のこと。

4)臍上3寸
①建里(任)  「建」=建ておく、位置する。「里」=居住地で、ここでは胃をさす。胃の通り道の途中にあるツボ。
②石関(腎)    石が邪魔しているように物が通らないこと。胃や腸の通過障害。
③関門(胃)  「関」は関所、「門」の開閉を管理すること。胃と腸の境目で、閉門時には食を受けつけず、開門時には下痢が止まらない状況になる。
④腹哀(脾)   悲しげな泣き声(この場合は腹鳴)を哀鳴という。腹痛、腹鳴の愁訴を治す。

5)臍上2寸
①下脘(任) 
a.胃の下部。

※b.腹直筋の下部のこと(「上脘」の説明を参照)。
②商曲(腎)    このツボの内部は大腸の横行結腸が下に垂れ下がり弯曲しているところ。商」は五行では五音の金に属し、肺・大腸に関係する。
③太乙(胃)   
a.中国の古代思想で、天地・万物の生じる根源。北極星のこと。

古代中国では北極星という星は限定されなかった。北極星というからには、一番明るい星であるべきなのだが、現実には2等星。どう解釈すべきかさぞ困ったこだろう。

※b.「乙」=二番目という意味の他に、つかえて曲がって止まるとの意味がある。
 道なりに歩いていて途中で急に曲がる。すなわち腸の形を示しているのではないだろうか? 「太」は腸の中での太い部分すなわ大腸のことだろう。
※C.「乙」には終わりという意味もある。太とは胃袋をさし、乙がつくと胃の終わりということ。
 ちなみに「乙字湯」は江戸時代からつくられた痔疾の和製漢方薬で、この場合の「乙」は<終わり>の意味している。消化管の終わりは肛門である。


6)臍上1寸
①水分(任)     臍上1寸にあって水分が分かれ出る部。飲食物のうち水液は腎臓→膀胱に入る。この下にある小腸には清を吸収し、濁(植物残渣)は 大腸  に入る
②滑肉門(胃)   腹直筋上で、汗をかきやすい部。腰ヒモが腹を滑って褲子(=ズボン)が下がりやすい処。

 

7)臍部
①神闕(任) 「神」は生命、「闕」は要塞や都市を守る城壁の大きな門また門間の通路。神闕は体内への入口という意味。臍からへその緒を伝い胎児を 滋養するので、臍は神の気の出入り口だとする。
②肓兪(腎)  腎の流注は、この部から深く潜り肓膜(=腸間膜)に向かい入っていく。腹痛、泄瀉、便秘などを主治とする。
③天枢(胃)   
a.北斗七星の一番星(北極星に最も近い星)

b.「枢」とは回転扉の軸構造をいう。金属製のちょうつがいが発明される前は、木の棒を丸ほぞ(凸構造)と丸ほぞ受け(凹構造)の2通り加工し、 組み合せて扉を開閉する仕組みをつくった。
体を折り曲げるところを扉の開閉軸に例えた。ここを境に上半身と下半身を区分する。
④大横(脾)    神闕から大きく離れた部位。
⑤帯脈(胆)    腰に巻く帯の位置。


8)臍下1寸
①陰交(任)    「交」=交わる。任脈・衝脈・腎経の陰経の三脈が交わる穴
②中注(腎)   深部には 腎気が集まる胞宮や精巣があり、ここから胞中(子宮)へと腎気が注がれる。
③外陵(胃)  「外」は傍ら、「陵」は突起したところ。臍下の高さで腹直筋が隆起しているところ。腹筋が盛り上がる様子が陵(=豪族の墓)のように見えることから。


9)臍下1寸5分
①気海(任)    先天の気が広く集まるところ。腎の精気が集まるところ。
②腹結(脾)    腹気すなわち腸の蠕動を調整する。腹の脹満を治する。


10)臍下2寸
①石門(任)       この部が石のように詰まって固い状態。大便秘訣、尿閉、この部が固く不妊女性のことを石女とよんだ。
②四満(腎)  臍~腸の瘀血による、切られるような劇痛に対して、瘀を散らし脹を消す効能がある。
③大巨(胃)       腹直筋で最も高く、大きく隆起した場所


11)臍下3寸
①関元(任)   「関」は要の場所。田=これを産する土地。不老不死を得るための修行を練丹術とよんだ。丹とは火の燃えているような朱色のこと。
        道教では人体の要所は下丹田(関元)、中丹田(膻中)、上丹田(印堂)の3カ所あり、中でも重要視したのは下丹田だった。
       
                             ※朱の原材料は硫化水銀で、西洋では賢者の石とよばれた。熱すると硫黄と水銀に分離できた。水銀は猛毒なのだが、当時は不老不死に
なる霊薬とされ珍重された。 非常に高価だったの  で、服用できた のは王貴族に限られた。ただ、この霊薬を飲んだ者は水銀中毒死したのだった。
②気穴(腎)    腎気が集まるところ。腎は納気を主どる。これは深く息を吸い込んで、大気を下腹までもっていく道教での呼吸法。
③水道(胃)    「道」は道路のこと、本穴は膀胱の上部にあり治水をする役目がある。


12)臍下4寸
①中極(任)      本穴は全身のほぼ中心にあたる。一方、腹部任脈の端なので「極」と名づけた。極とは南極北極、月極駐車場の「極」である。
        深部に膀胱があるので、膀胱の募穴でもある。
②大赫(腎)    「赫」=赤々という他にはっきりと現れるとの意味がある。本穴の内部には子宮があり、妊娠すると、この部が脹らみ突出する。
③帰来(胃)   a.帰来とは、還って戻るの意味。呼吸法で、息を吐き出した後、再び息を吸って、この場所に気が戻ること。
                     b.帰来=帰ってくること   病弱で子供ができず、実家に帰された女性が、このツボ刺激で元気になり夫の元へ帰れた。 
④府舎(脾)   「府」=腑と同じ、「舎」=住居する場所。腹部には六腑が集まることを示す。


13)臍下5寸
①曲骨(任)   かつては恥骨のことを横骨とよんだ。本穴は恥骨上縁で弯曲した処なので曲骨とした。
 ※骨度法では横骨幅6.5寸としているが、これを恥骨結節両端間の距離と解釈するのは無理がある。恥骨上枝の、左右外端の間の長さのこと だろう。
②横骨(腎)    恥骨の旧名を横骨という。
③気衝(胃)   ※鼠径部で、上行した胃経が衝突するように折れ曲がる部位。本穴の「衝」は脈拍とは無関係。
④衝門(脾)    「衝」は脈拍部で、突き上げる様をいう。大腿動脈拍動部。
⑤急脈(奇)  急脈は<鼠径部で曲骨の外方の2.5寸の拍動部>とある。すなわち曲骨の外方2寸にある「気衝」の、外方わずか約1㎝外方になる。「脈」の名がついてはい
る が、大腿動脈拍動は触知できない。<医心方>によれば「急脈の別名を羊矢(ようし)という。羊矢とくに陰部の腹と股が相接するところ」とある。したがって急脈は陰嚢と鼠径溝の境界で精索あたりをさす。急脈の”脈”とは勃起時の脈動を示しているのだろうと推測する。急脈の拍動は勃起時に限定するので、正穴ではなく奇穴として認定したのだろう。


14)その他の部位
①五枢(胆)    ※「枢」には枢要という意味の他に、扉の回転軸との意味がある。「五」は五方(東西南北と中央)のこと。
  本穴は腹部と大腿部の境にある鼠径部近くにあって股関節部にあり、広い関節可動域をもつことを示す。
②維道(胆)    「維」とはつなぎとめること。本穴は体幹側面を下行する胆経(縦糸)と臍周りを一周する帯脈(横糸)をつなぎとめる交会穴になる。



引用文献
①森和監修:王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著:土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE
⑤漢和辞典「漢字源」学研


ボアス圧診点について ver.1.2

2023-09-10 | 経穴の意味

1.ボアス圧診点は胃・十二指腸潰瘍の反応点として広く知られている。ボアス圧診点の位置は、原著によればTh10~Th12椎体の左側になっている。
上部消化器の所属デルマトームはTh5~Th9だが、圧痛点は押圧して求めるものなので、ミオトームの問題と解釈すれば、ほぼ合致していると考えるべきだろうか。
それにしてもボアス圧痛点は「椎体の左側」という漠とした説明であって、これを起立筋上すなわち背部兪穴ラインで、棘突起の外方1.5寸の処だと解釈する者は多いと思う。

2.一方、意舎は胃倉は、ボアス圧診点の外下方にある。沢田流では胃痙攣(今日でいう胆石痛)の治療点として有名な穴であり、本穴の刺針で強力な鎮痛作用をもたらすことが多い。
ボアス圧診点と意舎・胃倉に共通するのが腰方形筋である。腰方形筋は第12肋骨を起始としているので、上記部位の圧痛反応は、腰方形筋の緊張を診ているのだろうか。
すなわち、胆石痛→交感神経興奮→脊髄→交通枝→体性神経興奮→腰方形筋緊張という内臓体壁反射である。とするなら、棘突起の外方3寸が正確なのかもしれない。

 ※代田文雑誌は、胃倉(Th12棘突起下外方3寸)を日常繁用だとし、胃痙攣、胆石疝痛に著効があると記している。また意舎(胃倉の上方1寸)の効能も、胃倉と殆ど同様だとしている。胃痙攣(現代でいう胆石痛)'の場合の圧痛点は、この意舎よりも五分ほど内下方に寄った筋間に現れることが多いという。(「鍼灸治療基礎学」より)

 

3.右ボアス圧痛点

ボアス圧痛点は左側が有名だが、右にもあって、「右第9、第10胸椎横棘突起の外方3㎝をボアス胆嚢点とよび、胆道疾患で出現する」という。ただしこの資料は中川嘉志馬著、守一雄改定「触診と圧診」金原出版、1955(絶版)によるもの。「石川太刀雄著内臓体壁反射」には<Th12すぐ右側>となっている。このあたりが不明瞭だったので海外のネット検索して確かめることにした。
ちなみに書籍「触診と圧診」は絶版ながら、鍼灸師が読むべき本。古書で発見したら購入をお勧めする。私は当時、新宿の紀伊国屋書店で1700円で購入した。

 

4.再びボアス徴候について

  LIFE IN THE FASTLIANEによれば、イスマール・イシドール・ボアス (1858 – 1938) はドイツの消化器病学者であった。
欧米でのボアス徴候は、胃十二指潰瘍よりも,、むしろ
胆嚢疾患の方を中心に記載されていた。


急性胆嚢炎時のボアス徴候

Th10 ~Th12 棘突起の右側の領域にある点の圧痛領域。正中線から右に 2 ~ 3 横指の位置から横方向に、後腋窩線に向かってのびる圧痛点。
上記の「触診と圧診」の本の内容は正しく、棘突起の直側ではなく、横突起あたりがら広範囲で圧痛が出てくることを知った。なお別の海外文献によると、この背部圧痛点の斜め上方の棘突起からの脊髄神経後枝の走行上の反応であって、Th7~Th8棘突起直側(いわゆる背部一行)を刺激すると効果的なことが予想される。


胃腸潰瘍時のボアス徴候

Th10 ~ThT12 左側にある圧痛。脊椎のすぐ左側、Th 12 脊椎に近い圧痛点。
※胃潰瘍でのボアス圧痛点は、棘突起の外方3㎝くらいで起立筋の最大隆起部をとると思っていたが、これは間違いで棘突起の直側を診ることを知って驚いた。鍼灸治療ではTh10 ~ThT12棘突起直側への刺針が有効になると思われた。


乳根・膻中・中庭・歩廊のツボ名由来

2023-09-06 | 経穴の意味

両乳間を結んだ胸骨体中央に膻中(任)をとり、その下1寸には中庭(任)がある。
中庭の外方2寸に歩廊(腎)をとり、歩廊のさらに外方2寸に乳根(胃)をとる。
以上の経穴の中で歩廊以外は、基本的ななツボであり、取穴の基準点ともなっている。

1.乳根
乳根の穴名由来は、自明なの省略する。左乳根は心尖拍部(=虚里の動?)であり、古典では胃の大絡として認識されたと考えている。これについての説明は、筆者のブログ参照のこと。

胃の大絡と脾の大絡の考察 2023.6.9
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/f1b72a840a5c85aa0f5a2b07a07414f0


2.膻中
「膻」とはヒツジのように生臭いのこと。膻中は乳頭の間にあるので、仰臥位で寝ている時などに乳頭から母乳が漏れ出て、膻中に溜まりやすいことから命名した。生臭いのは溜まった乳汁の臭いだろう。


3.中庭

中庭のすぐ上には胸骨体が隆起している。胸骨体は深部に心臓があって非常に重要な場所なので、その高貴な場所に続く庭という意味になる。これが外庭ではなく中庭としたのは。胸骨体から外れたとはいえ、左右肋骨弓間にあり下には剣状突起があるので、ここはまだ宮殿の敷地内という認識だろう。

 

4.歩廊
歩廊穴のツボ名由来についていろいろな参考書を開くも、しっくりくるものがなかったので、自分で考えてみた。
歩廊は、もとは建築用語で、二列の柱をつなぐための細い通路という意味がある。現代では工事現場の足場のようなものであり、歩道橋(少々立派すぎるが)もこのたぐいになる。

歩廊穴は肋骨軟骨縁にあり、左右歩廊の内側は陥凹して下にが剣状突起がある。
また左右歩廊は腹直筋停止部により連結している。このことを踏まえると次のような位置関係が得られるだろう。以上、歩廊の由来を簡単にまとめると、左右の肋軟骨が腹直筋停止で連絡している部位といえると思われた。

 

 

 

歩廊の例


腸症状に対する遠隔治療穴の原理

2023-09-02 | 腹部症状

※本ブログ内容は、令和5年10月15日、針灸奮起の会「内科症状の現代針灸」、<第2章、中・下部消化器症状の現代針灸>の原稿から抜粋したものです。

1.下腹部臓器の体壁反射表の見方
    
  
①内臓は交感神経と副交感神経という2つの自律神経で制御されている。どちらが優位であるかは定まっており、胸腰系内臓は交感神経優位、頭仙系内臓は、副交感神経優位になる。
  
②上表の見「虫垂・上行結腸:Th9~Th11(+)前、骨盤神経(-)」との意味は、Th9~Th11デルマトーム交感神経優位であり、体幹前面に反応は出現する一方、副交感経支配は優位ではないことを示す。

③ Th9~Th11デルマトーム交感神経反応は、皮膚のザラツキ、冷え、発汗などの皮膚所見となり、診察上見逃されやすい。しかし交感神経興奮がある閾値を超えると体性神経に刺激が漏れ出すので、体性神経デルマトーム反応である皮膚の痛みやコリなどの所見として反応が出現し触知しやすい。

④体性神経デルマトームとは末梢神経皮枝分布のことで、神経が深層から浅層へ現れる部に反応が現れやすい。そえは背部では起立筋、腹部では腹直筋上にコリや痛み反応として現れる。この皮枝をつまむと、皮下筋膜が癒着している部ともいえる。 

⑤なお、交感神経デルマトームと体性神経デルマトームは体幹では同じ分布としてよいので、実際には交感神経デルマトーム図は使われず、体性神経デルマトームで代用されている。

⑥「虫垂・上行結腸」「小腸(空腸・回腸)・大腸(横行結腸・下行結腸)」の体壁反応を図示すると次のようになる。

 

⑦交感神経反応は、体性神経反応に漏れ出すと説明したが、体性神経の神経の主要枝を刺激るので、腹部内臓では、Th12より上位ではでは肋間神経が興奮となり、L1~L3は腰神経叢反応として腰部と大腿前面に反応が現れる。
たとえば血海はL3デルマトーム上なので、血海には小・大腸の反応が現れる。梁丘はL4デルマトームで、仙骨神経叢領域(L4~S3)となるが、これも腰神経叢反応の誤差範囲なので、小・大腸の反応が現れるとしてよいだろう。


  


⑧ 冒頭の表で「S状結腸~直腸 L1~L2(-)、骨盤神経反応(+)」とは、交感神経反応として鼠径部に現れることになるがこの反応は優位はなく、副交感神経優位なので、仙部副交感神経反応として、八髎穴に反応が出現する。
骨盤神経を含む副交感神経反応は、体性神経反応のように圧痛硬結は現れない。下図では骨盤内体性神経刺激点として多用する陰部神経刺針や陰部神経刺激目的の中極刺針もつけ加えた。

今回のブログは内臓治療について記しているわけだが、内臓に響かせる針というのは、体性神経の知覚成分を刺激した結果といえるだろう。内臓を自分の意志である程度コントロールできる部分は、運動神経コントロールとしての呼吸運動(横隔神経)と尿便我慢(陰部神経)の2つしかない。これに内臓に響いたような感覚が得られる肋間神経が加わる。

 

 

 

2.柳谷素霊による胃カタルに対する梁丘刺針の技法
  
梁丘穴は胃痛に効き、血海が婦人科で血に関係する病に効くという話を耳にすることは多いが、実際の針灸治療に使えるほど効果が高いのだろうか。効く確率は実際は意外に低いのではないかという気持ちもある。効かせるには、コツがあるのかもしれない。柳谷素霊著「胃カタルの鍼灸法」柳谷素霊選集下よりの中で、梁丘の刺針ついて書かれている箇所がある。以下引用文。


胃カタルとは現代の胃炎に相当するが、とくに嘔吐を繰り返すものをいう。

大腿外側の大腿直筋の外縁で、下肢を伸ばしてウンと力を入れると凹むところに梁丘を取穴。下方から上方に向けて、大腿直筋外縁下に針尖が入るような気持ちで斜刺する。この時、患者には息を吸わせ、なるべく手足をキバるよう力を入れさせて刺入、針を進ませるのは吸気時行い、呼気時には針を留め、または力を抜く(呼吸の瀉法)。このようにして徐々に進め針響きが腹中に入ると患者が訴えれば、病の痛みが次第にうすらいでくる。腹中に響かない場合、弾振(ピンピンと針柄をゆっくりと弱く弾ずる)すれば、やがて疼痛は軽減する。