レイノー現象とは、寒冷暴露に際して左右対称に手足指趾の末端動脈が発作性に一過性に収縮することで生ずる現象をいう。交感神経過緊張や強い情動が原因とされる。1次相は蒼白、2次相はチアノーゼ、3次相は反動的な動脈拡張による発赤。発作時は患部の知覚異常を訴える。
1回の発作時間は、10~30分間ほど。ひどい場合には1時間程度になる。
2.1次性レイノーと2次性レイノー
レイノー現象が単独で生ずるものを、レイノー病とよぶ。これは機能的血管収縮によるもので若い女性に多い。基礎疾患が根底にあり、症状の1つにレイノー現象があるものを、レイノー症候群とよぶ。レイノー症候群の代表疾患は、閉塞性動脈硬化症(ASO)・バージャー病(TAO)、膠原病などである。レイノー病に比べ、レイノー症候群が圧倒的に多い。
3.一次性レイノーの針灸治療
グロムス機構の反射を期待し、好発指に対する指間指刺針や井穴刺絡を行うと、血管拡張することで症状軽減するようであり、発作が起こりにくくなる傾向がある。この治療パターンは代田文誌先生そのまである。
※グロム機構→「指端刺絡の作用」ブログ記事参照のこと。
4.二次性レイノーの針灸治療をめぐって
Moehrle(1995)は1次性レイノーに対する針灸治療が有効であり、二次性レイノーに対する針灸治療が無効だったことを統計学的に証明した。(Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「鍼治療の科学的根拠」医道の日本社 2001)
すなわち二次性レイノーに対する針灸治療の効果は乏しいが、それを云々する以前に、原疾患の存在を見極め、原疾患に対する治療を行うことが重要になる。
1)閉塞性動脈硬化症によるレイノー症例(代田文誌)
代田文誌「針灸臨床ノート下巻」には次のような症例提示を行っている。
「レイノー病により左右の手の指端が黒色に変わり壊疽が始まったばかりの患者に対してm血管周囲に刺激を与える針灸治療を6ヶ月間行い、指端の壊疽発生を防止できた。針灸治療を継続しても、重症のものは6ヶ月~1年ほど要する」
当時の記述としてはやむを得ないが、提示症例はレイノー病ではなく、レイノー症候群であり、基礎疾患に閉塞性動脈硬化症である可能性が高い。
本疾患に対する現代医療は、先進的な試みが行われているが、決定的なものがない。最悪の場合は罹患部以下を切断することになる。
2)膠原病によるレイノー
二次性レイノーを起こす最も高頻度の疾患は膠原病である。ただし常見膠原病の慢性関節リウマチにレイノーは起こりにくい。針灸院でRA以外の膠原病を扱う機会はあまり多くないが、大学病院で行う針灸治療では、膠原病に付随するレイノーは解決すべき課題であった。
「あった」と過去形にしたのは、2004年頃から生物学的製剤の投与が行われるようになり、治療成績が格段によくなってきた。それに伴うレイノーの問題も自然と解決してしまったからである。現代医学の進歩が、針灸での取り組みを無意味にした例といえる。