AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

新・耳鳴の針灸治療 鼓室神経刺激と顔面神経下顎縁枝刺激 Ver.1.1

2015-01-30 | 耳鼻咽喉科症状

1.耳鳴に対する鼓室神経刺針と治効機序  

1)耳鳴に対する鼓室神経刺激とは


筆者はこれまで、体性耳鳴に対して針灸治療が効果的であることを説明してきた。ムチウチ後遺症や顎関節症に付随した耳鳴は、顎関節関連筋や胸鎖乳突筋の緊張を緩めることが耳鳴の治療につながるということである。

 
ただし耳鳴患者の中には、顎関節症や頸椎症状がないのに耳鳴を訴える者がいる。このタイプの耳鳴には、耳そのものへの治療が必要で、筆者は下耳痕穴をその治療点として掲げた。

 
耳中に響かせる針をするには、下耳痕穴(≒柳谷素霊の一本針である完骨移動穴、もしくは深谷伊三郎の難聴穴)から1~2㎝直刺刺針が一定の価値のあることはすでに説明済である。それは舌咽神経(主に舌奥や咽頭の知覚支配)の分枝である鼓室神経(中耳~鼓膜の知覚を支配中耳知覚支配)を刺激するからである。

※下耳痕穴位置:中国では耳垂つけね部に耳痕という新穴が制定されている。その下方5㎜。

 

 

 下耳穴刺針で、鼓室神経を刺激する意味は、中耳炎等による中耳痛に適応があるらしいことは推定できるが、それだけでなく耳鳴や難聴などの内耳症状にも効果あるらしい。その旨を耳鳴で来院している一人の患者に説明すると、
<玉突き>にような作用だとの返答が得られた。実に分かりやすい理解なのだが、医学的説明とはいえない。 

 

2)蝸牛神経は、延髄で三叉神経、顔面神経、迷走神経、舌咽神経でつながっている 
 
下耳穴刺針で耳中に響かせることが、なぜ耳鳴や難聴に効果があるのかは、専門家の解釈を待たねばならないのだが、ネットで色々と調べていくうち、次のような解釈があること分かった。
 
耳鳴は難聴と同様に蝸牛神経障害であるが、延髄において蝸牛神経背側核は、体性神経核とつながっている。この体性神経核は中耳と外耳を支配している三叉神経、楔状束、顔面神経、迷走神経、舌咽神経に枝を送っている。すなわち上記の脳神経は耳鳴は関係があると考える学者がいる。要するに、耳鳴に対しては、三叉神経、顔面神経、迷走神経、舌咽神経を刺激することが治療につながる余地があるということらしい。(Byung In Han MD  他 Tinnutus:Characteristics,Causes,Mechanism,and Trearment TheJou rnal of Clinical Neurology 2009;5:11-19) 

蝸牛からの交通枝は、顔面神経・三叉神経・ 舌咽神経・迷走神経などと交流している。この結果、顔面麻痺時にみるアブミ骨筋反射(大きすぎる音は中耳に入れない)や、三叉神経(第1枝の瞬目反射←角膜知覚支配)などの現象がみられることになる。

②耳鳴りと顎関節症(三叉神経第3枝の咀嚼筋緊張)との関係も指摘できる。   

③三叉神経第Ⅲ枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚を支配しているだけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与してい る。これは顎関節症によ り二次的に外耳道や鼓膜 症状が出現することを示唆している。筆者は針灸 臨床上、顎関節症を治す ことが耳鳴軽減につなが ることを多く経験している。


3.顔面神経下顎縁枝刺激(佐藤意生先生の臨床実験)

(佐藤意生「顔面神経下顎縁枝刺激による耳鳴の抑制」耳鼻科臨床98:11,2005より)

1)考え方

聴覚路の比較的末梢(蝸牛、聴神経)で発生したと推測される異常なインパルスが中枢に送られ、これを耳鳴として感じとると考えている。そうであれば、この異常なインパルスを中枢経路のどこかで蝸牛神経への交通枝を通して他の神経からのインパルスによってブロックできれば、耳鳴は軽減するはずである。佐藤意生(耳鼻科医)はこのように考え、感音性耳鳴患者の顔面神経下顎縁枝に経皮的に反復電気刺激を与える試みを実施した。

2)刺激方法

具体的には顔面神経下顎骨底中央部の皮膚表面に陽極、その2.5㎝上方に陰極の円形表面電極(直径0.7㎝)を装着、パルス低周波刺激を与えた。周波数は初めは1ヘルツの筋収縮がみられる閾値の強さまでとし、患者に耳鳴の軽減具合を聴取しつつ、耳鳴が軽くなったと返答するまで徐々に周波数を上げた。耳鳴が軽減したと答えた場合、その周波数で2分間持続的に刺激を与えた。最高50ヘルツまで上げ、それでも耳鳴に変化ないものは治療中止した。

3)治療成績

①有効率
頭鳴を除く耳鳴患者91例中、耳鳴が5/10以下に減少した者は47例(51.6%)、6/10~8/10に減少した者は34例(37.4%)、9/10~10/10に止まった者28例(11.0%)だった。 
②有効となる周波数と刺激強度
この治療が有効だった者に与えた周波数は、2~30ヘルツと人によって異なっていた。
なお閾値以下の刺激では、改善は得られなかった。
③治療効果の持続性
治療有効だった者(53例)の持続効果は、1週間以内に元に戻ったのは43例(81.1%)、このうち、持続効果2~3日だった者は17例(32.0%)だった。ただし4週間経過後におても耳鳴が以前より軽いと答えた例も5例(9.4%)あった。

4)考察

蝸牛神経は、眼神経や頸神経とともに顔面神経に反射経路をもっている。この具体例としては、アブミ骨筋反射(大きすぎる音は中耳に入れない)や瞬目反射(角膜分布の三叉神経刺激で瞬目が起こる)、ガラスを爪で引っ掻くような音がした場合、顔面表情筋の収縮がみられるなどがある。
要するに顔面神経を刺激することで、蝸牛神経の異常を抑制しようと試みた。
 
ただしその一方では、三叉神経と蝸牛神経間、そして三叉神経と顔面神経間にも反射経路があるともいわれるので、今回の顔面神経下顎縁刺激による耳鳴抑制効果は、顔面神経に与えた刺激だけでなく、三叉神経も大きく関与している結果になる。 

 

 

4.まとめ

佐藤意生先生(以下敬称略)の耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝刺激刺激点は、経穴でいうと陽極が大迎、陰極が頬車の位置に相当すると思う。これは筆者の提唱する刺激点である下耳痕の近傍であることにまず驚かされた。確かに下耳痕から刺針すると、浅層で顔面神経を刺激(針響は生じない)し、深層で舌咽神経鼓室神経を刺激するので、筆者は鼓室神経刺激が耳鳴に有効と思っているが、実際は顔面神経刺激が有効なのかもしれない。たたし筆者は佐藤のように低周波刺激を行っていないので、当然顔面表情筋の攣縮も起こらない。その一方で、佐藤は2分間程度の刺激時間なのに対し、筆者は30分以上置針しているという違いがある。


調節性眼精疲労に対する針灸治療の考察 

2015-01-14 | 眼科症状

1.機能性眼精疲労の分類
機能性眼精疲労の原因は、次の2つに分類されるが、調節性眼精疲労の方が主なる原因であるとされている。

1)調節性眼精疲労(=内眼筋障害) 

毛様体筋の疲労による。毛様体神経節は、目の焦点を合わせ、虹彩の開き具合を調整する機能がある。眼精疲労は、この毛様体神経節および毛様体筋の疲労であると考えられる。 

2)筋性眼精疲労(=外眼筋障害)

輻輳(=より目)不全、斜視による。左右の眼の動きの不統一。                


2.調節性眼精疲労と毛様体筋

瞳孔括約筋は、虹彩の内周にある。巾着袋のような作用で、筋緊張すると口が狭まり、縮瞳になる。瞳孔散大筋は、虹彩の外周にある。瞳孔括約筋と逆で筋緊張すると虹彩が開き、散瞳になる。

遠見時:毛様体輪状筋が弛緩して輪が広がる → チン小帯はピンと張る→ 水晶体は引っ張られて薄くなる。
近見時:毛様体輪状筋が緊張して輪が狭まる → チン小帯が緩む→ 本来もっている性質により、水晶体は厚くなる。

 

 

3.調節性眼精疲労の針灸治療

1)調節性眼精疲労は副交感神経緊張によるのものだろうか?

眼精疲労を訴える患者に対し、伏臥位で天柱から深刺手技針を十数秒間行なった後、患者は「目がすっきりし、外界が明るく見える」などの喜びの声をあげることは、日々の臨床で普通にみられる。ただ筆者は昔から、「外界が明るくなった‥‥」という返答から、虹彩が開いた状態になった、すなわち交感神経緊張状態になったと理解すべきかどうかを悩んでいた。
常識的に考えれば、ストレス→交感神経緊張→眼精疲労という機序の改善は、副交感神経緊張状態に誘導すべきだと考えがちなのだが‥‥

2)調節性眼精疲労の機序の考察 

①成書には調節性眼精疲労は、副交感神経緊張→毛様体筋収縮→水晶体厚くなるという機序が載されている。これは一見すると意外で、交感神経緊張の間違いではないかと考えがちである。


しかし考えてみれば、本来、人間は近くを見ているとき、リラックス状態をつくっている状態にる。というのは原始時代、人間は仕事として獲物を狩り、そして狩ってき食料を住居で食べて生するという形をとってきた。そのため、遠くにいる獲物を探したり、狩るときは交感神経が優位なり、家の中で家族とご飯を食べている時は副交感神経が優位になることが正常な自律神経サイクルだったのだろう。


副交感神経緊張→毛様体筋収縮→水晶体厚くなるというのが調節性眼精疲労であるなら、これは毛様体過緊張による仮性近視状態になっているともいえる。この状態での対処法として、凸レンズめがね(=老眼鏡)をかけてみるのも一つの方法である。凸レンズめがねを使うと、水体が以前より厚くなる必要がない→毛様体筋収縮緩和→眼精疲労改善という機序になる。

(以上、さくら眼科 院長とスタッフblog )

②天柱深刺で眼精疲労がとれる機序は、身体を交感神経緊張状態に誘導した結果だと考える。わが国の習慣として、気合いをいれて物事に取り組もうとする時、ハチマキ巻くことがある。これも交感神経緊張度を高める方法として広く知られている。こめかみにメントール軟膏を少々塗って、眠気を防ぐのも同様である。こめかみ部は、経穴では太陽穴に相当している。

太陽穴の局所解剖
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/fa45a20b1cb0137a5678eaf59e4c5fac