AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

鍼灸古典派は、現代的な意味での発展はできるのか?

2013-01-15 | 古典概念の現代的解釈

代田文誌が昭和24年の経絡論争の時に、古典治療派に対し、「なんで現代の知識を応用して鍼灸を発展させることがいけないことなのか(大意)」ということを述べていたという。この話は現代鍼灸科学研究会メンバーのT先生に教えてもらった。至って当たり前かつシンプルな意見であるが、重要な問題提議になっている。この問に似た質疑は、本間祥白著「誰でもわかる經絡治療講話」に書かれていると思うので、かいつまんで紹介する。

                                  
1.「誰にもわかる經絡治療講話」にみる本間祥白の嘆き    

もう40年近く前、私が鍼灸学校1年だった頃、本間祥白著「誰にもわかる經絡治療講話」を購入して読んでみようと思った。ところが本書の緒編に「まずは批判的態度を離れ、白紙になって学ぶ必要がある」と書かれていて、非常にがっかりした思いがあった。

数十年ぶりに読み返してみると、言わんとしている經絡理論は、人に説明できる程度には理解できるようになった(実際に鍼灸学校で講義を担当した)。ただし自分自身では信用できない気持ちに変わりはなかった。

しかしながら本間祥白の大言壮語するでもなく、<鍼灸師としての努力にも限界がある>とする想いが切々と伝わってくるものであった。本著は昭和24年に出版された。60年経った現在、鍼灸の科学化はある程度進んだが、それは針・灸の治効機序であって、古典的治療の進歩とはいいがたい。基礎医学の上に立脚した鍼灸術を目指すという姿勢は、いまでいう現代鍼灸派の立場となっている。

1)鍼灸科学化は、科学的教養のある人にやってもらう他ない 

司会者:(鍼灸の)科学化については異論はないのだが、一向に実現しないのはなぜか?


谷井先生:現代(昭和24年頃)の鍼灸師で科学的教養を持った人はマレである。そのような鍼灸師がいくら科学化だとの、かけ声をあげたところで科学化はできない。鍼灸師のできることは、科学的教養のある人に、鍼灸が研究する価値のある学問だということを提示することだ。すなわち科学化への素材としてこれを提供すべきだ。(本書p8)

2)古典は臨床医学としての実利性がある。ただし基礎医学の面でも努力すべき

司会者:古典の間違った基礎概念から正しい治療効果が生まれるはずはないとの意見がある。


谷井先生:治療効果という点から判断しなければならない。立派な治療体系ができているとすれば、その限りにおいて、前記の基礎知識は有用であるといえる。逆に現代医学的な基礎概念であっても、それに続く治療体系が乏しいとするならば、治療家としては前者を選ぶことになる。

しかしいつまでもこれでいいというのではない。正しい基礎医学の上に立つ鍼灸術を完成しなければならないことは当然であり、この方面でも大いに努力しなければならない。(本書p24)



2.中西医結合(中西合作)の低迷


では中国ではどうか。「中医学の科学化」とのかけ声は、政府主導で行われた。 

1949年の中華人民共和国成立後、とくに1958年の大躍進政策以後、中国政府は中医と西医の長所を互いに学び取り入れることを目標として「中西医結合」を呼びかけた。しかし中医学は自己完結型であって、中医学サイドから改善する方法はなく、事実上は西医の基準で中医を測り検査するだけのものとなった。

西洋医学の発展は現代科学的成果の相互浸透による一部分として実現したものであり、中医学は西洋医学の後についていくしかない。中医学の理論と実践を発展させるには、現代科学の成果を利用する勇気を持たなければならない。(カク(赤+邑)暁卿「中西医結合医学の歴史と現状を顧みて」福岡県立大学人間社会学部紀要2008,Vol.17,No.1.13-27)


3.結語


古典派(中医派も含む)は、自らの努力だけで科学化することは困難だろう。科学とは前例のデータを基にして修正・改善を積み重ねることができる概念のことをいう。 古典文献は内容の改変はできないだろうから、修正・改善は不可能である。この点において、古典派は宿命的に科学とは無縁な存在なのである。あるいは古典派であることを売りにし、それでメシが食えているのであれば、科学化する努力など必要ないのかもしれない。

4.余談:ヒゲについて
「誰にもわかる經絡治療講話」を読んでいたら、p137にヒゲに関する説明があった。興味深いので転記した。
髪:頭にあり。
眉:目の上にあり。音は媚であり、人に媚びるためのものである。
鬚:あごひげ。秀の音である。人物が大成して初めて出る毛である。ゆえにあごひげは、功成って生やすべきです。ビアード (beard)
髯:ほおひげ。頬にあるもの。
髭:くちひげ。口上にある、姿の音であり、容姿(すがたかたち)の美を表すひげであります。すなわち鼻下のひげは、おしゃれのひげの意です。ムスタッシュ (mustache)


 


平成25年初夢 近未来の鍼灸は?

2013-01-06 | 雑件

平成25年年賀状として、次の一文を書きました。しかし自分の住所・氏名を書き忘れる大失態。大方の人は、私からの年賀状と理解されたようですが、差出人不明と思った人もいたはず。この場をお借りして、釈明します。

謹賀新年 平成25年、私は次のような初夢をみました。

201×年
  政府はTTPを解禁。日本の各医療施設も保険と自費の両刀使いとなった。
保険取扱はもちろん、自費であっても医療施設内では有料の鍼灸治療は認可されなかったせいで、その実効性の関わらず少数の医療施設で、いわばモグリだったので目立たぬ程度に鍼灸治療は行われていたのだが、ここへきて自費であれば医療施設内で正式に施術することができるようになった。これにより、高血圧の治療は内科にて保険治療を行い、鍼灸科にて1回数千円の自費治療といった併用治療が認められるようになったのだ。

当初は、リハ科の片隅で行われた針灸も、次第に法整備が進んできた。

鍼灸は現在は整形外科疾患での患者は多いが、それ以外の疾患の治療も担当していること、また漢方薬に目を向けると内科を中心に各科に及んでいることなどに鑑み、鍼灸も本来は全科の疾患に行う潜在的価値があるので、漢方と鍼灸を一つにまとめた東洋医学科を新設するのがスジではないかという見解が生まれた。
 
そこで東洋医学科を新設するための法規が追加された。①東洋医学科は専属の医師1名が長となること。その医師は鍼灸・漢方の知識技術を一定時間以上研修した者に与えられる東洋医学認定医であること。②現在のリハ科と同様に、鍼灸施術自体は鍼灸師によって行われてもよいこと。その鍼灸師は、病院勤務する必要上、従来の鍼灸学校教育にプラスする形で1年以上の研修(実地研修含む)を受けること。③東洋医学科を標榜するため、専用の施術室、専用の人員(医師1名以上、鍼灸師1名以上)を有すること。などが決定された。

 
その一方で、現代の中医師がそうであるように60才未満者の鍼灸開業を禁止するという法律も同時に決定された(移行措置あり。二十年後から実施)。