AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

現代針灸における新しい考え方の整理 ver.1.2

2020-01-06 | 古典概念の現代的解釈

令和2年の正月に相応しく、最近の筆者の考えを整理してみたい。内容はこれまで本ブログで報告した内容も多いが、振り返って整理することも読者の理解の助けになるだろう。最近、西洋から新しい理論が流入された。それは結構なことなのだが、古い考えには愛着もあって、自分の針灸治療理論に組み入れることに、戸惑いも感じている。

 

1.現代針灸でいう局所治療とは

現代針灸ときくと、局所治療専門と思えるかもしれない。刺針部位の局所解剖を理解することで、どのような深度・角度で刺針することがよいのかを考察できる。また症状が皮膚の知覚神経興奮なのか筋膜痛なのか、関節包や骨膜痛なのかを分析することで、それぞれに対応した針灸手技も考察できる。現代医学針灸でいう針灸局所治療とは、単に患者が訴える症状部位を刺激することでなく、 症状をもたらしている元の部位を見極めて治療することになる。


2.現代針灸における近隣取穴理論

1)トリガーポイントとの関係

トリガーポイントと放散痛部位(=旧来の症状部位)を考えることで、真の局所治療部位と症状部位は距離的に離れていることもあり得ることもあることが認識されるようになった。このことなどは、従来の近隣取穴治療に相当するかもしれない。

2)神経生理学的制御  

この十年来、私は静的針灸ではなく動的針灸に興味をもっている。その最も単純な形としては運動針があるだろう。その背後にある理論にはⅠa抑制、Ⅰb抑制がある。ここでは、かいつまんで仕組みを説明する。

①Ⅰa抑制(筋紡錘刺激は、拮抗筋緊張を抑制する)

Ⅰa抑制とはスムーズな関節運動を行うためのしくみ。主動作筋が収縮する際は、拮抗筋が弛緩する生理的機序のこと。橋本敬三の「操体法」はこの仕組みを応用したもので、身体を痛くない方向に動かす(すなわち問題筋の拮抗筋を緊張させる)ことが基本になっている。Ⅰa抑制機能がないとスムーズな関節運動はできなくなる。たとえば肘屈曲の際、上腕二頭筋が収縮する際には、上腕三頭筋が弛緩するなど。

②Ⅰb抑制(腱紡錘刺激は自筋緊張を抑制する)

Ⅰb抑制とは、本来は筋断裂を防ぐしくみである。筋肉が急に引き伸ばされた時、筋が切れないように筋が防御的に伸張することで筋断裂しないようにする仕組み。等尺性の筋収縮(=関節運動を伴わない筋収縮)を起こす。筋を伸張さた状態にすると腱も同時に伸張状態になる。この姿勢で腱を刺激すると筋がゆるむ。

 

3)PNFストレッチ(固有受容性神経筋促通法)

前記したⅠa抑制・Ⅰb抑制は、単純な神経生理学的制御であるのに対し、これらの機序を利用した筋に対する徒手抵抗ストレッチをPNFストレッチとよぶ。 基本的にセラピストが患者に対して行う治療法である。セラピストが手で触り抵抗をかけて、被験者に動いてもらう。筋を縮ませると、その後は前より弛緩する性質を利用している。次の2つがある。

①ホールドリラックス

尺性収縮をホールド(保持)と言う。ホールドリラックスとは相反抑制のことで、患者と術者の力が逆向きの力をかけあって拮抗している状態、。なわち「動きのない」等尺性収縮である。 以下にハムストリングスに対するホールドリラックス例を示す。

 

 

 

 ②コントラクトリラックス

短縮性収縮をコントラクト(収縮)と言う。短縮性筋収縮運動になる。 以下に大腿四頭筋に対するコントラクトリラックス例を示す。
a.側臥位。患側の股関節をできるたけ伸展(後に引く)させる。
b.術者の手を患者の大腿前面に当て、大腿を前にもっていくよう指示する。
c.術者はそれに抵抗を加えつつ徐々に大腿屈曲運動を行う。 この抵抗運動始動時には10秒間タメをつくり、患者の動きを妨げ、6秒で大腿屈曲運動を行う。運動終了時には30秒間その状態で静止する。

 

 

3.現代針灸における遠隔取穴理論


これまで現代針灸は遠隔治療穴に価値を見いだせなかった。しかしながら近年、経絡に代わりアナトミートレインという考え方が台頭してきた。アナトミートレインとは筋膜連動線のことで、身体には12のラインがあるという。その走行は全体的に経絡走行と実によく似ていて、針灸師の誰しもが「なるほど」と納得されられよう。

問題はそこから先で、このアナトミートレインをどのように臨床に応用するか、より具体的には体幹症状に対して四肢のツボを選穴する根拠が知りたい。

そこで利用できるのがPNFを使った押圧と運動針法である。ここでは腰痛を例にとって説明する。腰痛患者をベッドに仰臥位で下肢伸展させる。その状態で患側下肢を挙上させた時、ある一定以上で腰痛が出現することを確認してもらい、それを患者に確認させておく。次に崑崙を押圧しつつふたたび片脚挙上させると、さきほどよりも高く挙上できる(できればこの時、術者は患者のふくらはぎを自分自身の肩で支え、下向きの力を加えるように支持する=PNFホールドリラックス)患者に脚を下ろす場合、崑崙穴に浅刺して三度片脚挙上させ、崑崙の針が有効だったことを確認できる。  

 

想像を逞しくすれば、遠隔穴刺激が有効となる状件とは、症状部と遠隔部ともに筋緊張状態にさせることが重要で、そのための姿勢としては、平田内蔵吉(平田十に反応帯で有名)や肥田春充らが提唱した身体操練姿勢が関係してくるのかと思っている。