AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

腕神経叢刺針部位の検討 ver.1.3

2025-01-29 | 頸肩腕症状

上肢に神経痛様の痛みがある場合、腕神経叢の興奮を疑い、腕神経叢への刺針を行うことになる。これには腕神経叢直接刺激と、前斜角筋に刺針して間接的に腕神経叢に影響を与える方法がある。これらの刺激と、よく似たものが現代医学的にも、いくつか知られているので、比較検討してみた。 

1.腕神経叢ブロック鎖骨上法

神経ブロックでは、腕神経叢ブロック鎖骨上法が、針灸で行う腕神経叢刺に類似のものであろう。鎖骨左右中の中点、上下の骨幅の中点から上方1.5㎝から刺入するもので、腕神経叢を直接刺激する。本法は直下に肺尖があるので、深刺することはできないという意味で危険性がある。

2.モーレー Morley  点

腕神経叢ブロック鎖骨上法の部位より、わずかに内側にあるのはモーレー点であり、鎖骨上縁の前斜角筋部を直接圧迫するものである。胸鎖乳突筋鎖骨枝の外縁で鎖骨上縁。モーレー点を直刺すると、前斜角筋に命中し、その深部にある腕神経叢を刺激でき、上肢に響きを与えることができる。この刺針法は、現在私が常用している方法となっている。仰臥位、側臥位、座位いずれでも刺針可能だが、仰臥位での施術が響かせやすく、かつ安定している。この施術点は臨床上、後述する中国式天鼎と同一だといえるかもしれない。

 

3.エルブ  Erb  点

モーレー点の、少し上方にはエルブ点がある。頚部が伸展され,肩甲部が下方に牽引されると、上位型麻痺(C5C6神経=エルブ麻痺)が起こり、上肢が挙上位のまま牽引されると下位型麻痺(=クルンプケ)麻痺となる。エルブ麻痺は分娩時に新生児の肩が産道にぶつかって生じやすいので、とくに分娩麻痺との別称をもつ。なおオートバイ事故など強大な外力が加わると全型麻痺となる。エルブ麻痺では、手首から先は動くが肩や肘が動かない。C5神経麻痺では肩の挙上困難(三角筋麻痺)、C6神経麻痺では前腕屈曲困難(上腕二頭筋麻痺)を生じるためである。エルブ麻痺などの頸神経損傷は、強い力が短時間に加わった結果、すなわち急性症という特徴がある。 
 エルブ点は、仰臥位、治療側の反対に顔を向かせる。鎖骨内側1/3で、鎖骨上縁から3㎝上方の頸側にある。上肢の小指側の痛み、シビレに対しては鎖骨上縁を刺入点とし、
母指側の痛み、シビレであれば鎖骨上縁から1.5cm~2cmを刺入点とする。

 

 4.天鼎の位置(日本式と中国式)

腕神経叢刺を行う経穴といえば中国式天鼎を思い浮かべるのだが、日本製天鼎と比較してみたい。 

1)日本式天鼎

東洋療法学校協会の経穴教科書の天鼎は、「喉頭隆起の高さで胸鎖乳突筋前縁に扶突をとり、扶突の高さで胸鎖乳突筋後縁にそって下方1寸の部」としている。喉頭隆起の高さは、C4,C5棘突起(仰臥位時でマクラを使用しない時)なので、天鼎の高さはC5,6棘突起ぐらいになってしまう。腕神経叢を刺激するのであれば、高すぎる部位である。
2)中国式天鼎
甲状軟骨と胸鎖関節の中点の高さで、胸鎖乳突筋後縁から下方1寸にとる。だいたいエルブ点より2㎝下方(エルブ点とクルンプケ点の中点あたり)になると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


第10回針灸奮起の会実技セミナー  現代針灸からみた「秘法一本針伝書」 のご案内

2025-01-29 | 講習会・勉強会・懇親会

A.本セミナー参加のお誘い
 
「秘法一本針伝書」は、柳谷素霊自身の臨床経験から導かれた針灸局所治療を紹介している。実際の臨床では、他に古典理論に基づく本治法を行った。本書のような局所治療法は、現代針灸派にとっても興味深いが、類書と同様、本書も治療法の根拠を示していない。ゆえに針灸初心者は、素霊がどうしてこのような治をするのか理解できないだろうが、一定の針灸臨床経験があり、自分のやり方を確立してい者にとっては、素霊の方法と比較することで、いろいろな点を発見できるだろう。要するに者によって本書の価値は変化するのである。とはいえ古い書なので現代針灸的観点からすれば納得でない点も多々あった。素霊の示した治療法は二十症状に対するものに過ぎず、余りにも少ない。そのため最小限と思える☆印の症状を付け加え、私の見解を付け加えることにした。 


B.セミナーの要項


1.会場:
国立市中1丁目集会所:東京都国立市中1丁目10-34       
   JR中央線国立駅、南口下車徒歩3分

2.開催時間 午後4時~6時30分頃 ※これまでより1時間30分、開始時刻を早めました。ご注意ください。
3.日程(基本的に第2第4日曜) 残席は1月29日現在の状況です。
 第一回 3月9日(日曜)  B.腰下肢        残席3
 第二回 3月23日(日曜)   C.膝痛・肩背・上肢     残席3
 第三回 4月13日(日曜)   D.体幹内臓     残席4
 第四回 4月27日(日曜)   A.五官科①     残席5
 第五回 5月18日(日曜)   A.五官科②  残席6名
    ※各回とも開催日の1週間前くらいには、テキスト完成予定です。事前に調べておきたい方は、「テキストPDF希望」と記したメールを下さい。

4.定員:各回とも12名(定員になり次第〆切)
5.会費:一般8000円 学生7000円 見学(各回2名以内)4000円 当日払い。領収書発行します。
6.お持ちいただくもの 
 ①柳谷素霊著「秘法一本針伝書」
  お持ちでない方はPDFを送りしますので、「秘法一針伝書PDF希望」と書いたEメールを下さい。(無料)
 ②各回オリジナルカラーテキストを配布。針灸実技用の道具類も支給。
 ③筆記用具はご持参ください。
7.懇親会
  講習会後、駅前の居酒屋にて懇親会実施。 飲食費は3000~3500円程度(当日受付)
8.参加お申し込み方法
      参加御希望の方は、①参加希望会のテーマと開催予定日、②氏名、③住所、④電話、⑤Eメールアドレスを、Eメールまたは電話でお伝えください。折り返しご連絡を差し    上げます。お申し込み〆切は各回とも開催前日午後3時頃までとします。ただし参加者12名に達した場合、その時点で受付終了します。なお各回ごとに見学者は2名以内        限定です。
  連絡先:あんご針灸院 似田 敦(にただあつし) 
   電話042(576)4418 
   メールアドレス nitadakai825@jcom.zaq.ne.jp

 

C.セミナーの名用概要  ( )内はテキストページ数
  ☆の症状は、一本針伝書になく、私が独自に取り上げた治療法になる。

A.五官科(22ページ)

 第1章      上歯痛の針(客主人)
 第2章      下歯痛の針(頬車)
 第3章     ☆顎関節症(下関、頬車)、舌痛(上廉泉)、歯肉痛(歯肉局所)
 第4章      鼻病一切の針(印堂)
 第5章         耳中疼痛の針(完骨)
 第6章      耳鳴の針(頬車)
 第7章       眼疾一切の針(風池)
 第8章       咽の病の針(合谷)

B.腰下肢痛(10ページ)

 第9章   下肢後側痛の針(外大腸兪・坐骨神経ブロック点)<座骨神経痛>
 第10章   下肢外側の病の針(環跳) 、☆下肢内側の病の針(陰包)
 第11章   下肢前側の病の針(居髎)
 第12章  ☆腰重と下肢不定症状の針(仙腸関節刺針)<仙腸関節機能障害>
 
C.膝関節痛・肩関節痛・肩甲上部コリ・肩甲間部コリ(10ページ)
 第13章  ☆膝痛の針(膝眼、鶴頂、委中)
    第14章   五十肩外転制限の針(肩髃、肩髎、肩井斜刺)
 第15章  ☆結帯動作制限の針(天宗と肩貞) と結髪動作制限の針(膏肓水平刺と臑兪)
 第16章   肩甲間部のコリの針(缺盆) 
 第17章   肩甲上部のコリの針(肩井移動穴) 

D.体幹内臓症状(13ページ)

 第18章   排尿痛の針(中極・関元)
 第19章  便秘の針(左四満外方5分)
 第20章  上実下虚の針(崑崙)
 第21章  五臓六腑の針(華陀針法)

 

※参考:今回セミナーの元ネタとなった「AN現代針灸治療」ブログ

第1 上歯痛の鍼(客主人) 
第2 下歯痛の鍼(頬車)
   ①2022/09/31:歯のくいしばりに対して顎二腹筋後腹への運動針が有効な例
   ②2023/01/17:顎関節症の針灸治療 改訂2版
   ③2023/05/23:歯周病に対する局所刺針の方法と女膝の灸 ver.1.8
   ④2024/07/13:上歯痛の針灸治療ver.2.0
   ⑤2024/08/01:下歯痛の針灸治療ver.1.2        
   ⑥2024/08/06:三叉神経第Ⅲ枝関連の顔面骨孔への刺針 
   ⑦2014/09/14:舌痛症の針灸治療 ver.1.2
第3 鼻病一切の鍼(印堂) 
   ①2017/07/19:嗅覚障害の針灸治療
   ②2002/12/06:慢性副鼻腔炎の針灸に上星の灸とマイクロライド長期投与
   ③2022/12/14:慢性副鼻腔炎と花粉症 ver.1.3    
第4 耳鳴の鍼(頬車) 
第5 耳中疼痛の鍼(完骨) 
   ①2006/03/15:耳鳴治療と舌咽神経ブロック針
   ②2010/07/16:顎関節症由来の耳鳴りに対する針灸①
   ③2013/07/24:耳鳴りの治療改訂版 その2
  ④2015/01/30:新・耳鳴の針灸治療 鼓室神経刺激と顔面神経下顎縁枝刺激 ver.1.1
   ⑤2017/10/10:耳鳴りの針灸治療まとめ2017年版
   ⑥2021/09/20:質問紙を使った耳鳴分析と鍼灸の奏功例 ver.1.1
   ⑦2023/02/11:難聴・耳鳴りに対する側頸部治療穴の理解 ver.1.2
第6 眼疾一切の鍼(風池) 
   ①2011/11/09:緊張性頭痛に対するトリガーポイント治療の整理 その3
   ②2012/10/14:緊張性頭痛治療に効果的な天柱・上天柱の刺針体位 ver.1.2
   ③2015/01/14:調節性眼精疲労に対する針灸治療の考察
   ④2021/01/08:眼窩内刺針が刺激対象とするもの ver.2.2
   ⑤2021/10/08:眼精疲労の鑑別と針灸治療
   ⑥2023/01/20:私の行っている眼窩内刺針の方法 ver.1.5
第7 喉の病の鍼(合谷)
   ①2015/03/17:大椎・治喘・定喘の効能
   ②2021/07/26:咽頭・喉頭症状に対する現代鍼灸
   ③2021/09/09:咽喉異常感症(咽頭神経症)の針灸治療・手技療法ver.2.0
   ④2023/01/13:咳嗽の針灸治療
   ⑤2023/08/18:喉頭症状に対する前頸部の針灸治療点の整理 ver.1.1
第10 下肢後側痛の鍼(外大腸兪・坐骨神経ブロック点)
   ①2006/03/10:腰下肢症状の診断
   ②2020/10/11:腰部神経根症に対する大腰筋刺針と坐骨神経刺針ver.1.3
   ③2021/03/03:「秘法一本鍼伝書」②<下肢後側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討ver.1.1
   ④2023/12/19:居髎と環跳の位置と臨床運用
第11 下肢外側の病の鍼(環跳) (「下肢内側の病の鍼」含む)
   ①2006/07/11:殿部~下肢外側痛の病態と針灸治療(とくに小殿筋筋痛症)
   ②2017/05/05:殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛
   ③2018/08/13:「秘法一本鍼伝書」③<下肢外側の病の鍼>の現代鍼灸からの検討
   ④2019/06/08:大腿外側痛の病態把握と針灸治療
   ⑤2021/07/11:<下肢内側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討 ver.2.1
第12 下肢前側の病の鍼(居髎) 
   ①2010/12/28:股関節部痛に対する小殿筋深刺と、大腿直筋刺針の工夫 ver.1.2
   ②2015/08/23:変形性股関節症の針灸臨床 ver 1.5
   ③2018/06/04:大腰筋性腰痛の症状と鍼治療 ver.1.1
   ④2019/03/18:「秘法一本針伝書」①<下肢前側の病の鍼>の現代鍼灸からの検討ver.1.1
第16 四十腕五十肩の鍼(肩髃、肩髎) 
   ①2006/03/11:肩関節痛に対する巨骨斜刺+肩前斜刺
   ②2012/10/09:五十肩で上腕外側痛を生じる理由と治療法
   ③2013/05/12:肩関節痛に対する肩髃から肩髎への透刺(柳谷素霊の方法)
   ④2018/08/21:「秘法一本鍼伝書」⑤<上肢外側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討ver.1.2
   ⑤2018/08/21:「秘法一本鍼伝書」⑥<上肢内側痛の鍼>の現代鍼灸からの検討
   ⑥2022/01/07:五十肩の鍼灸治療を苦手とする理由ver.1.1
   ⑦2024/05/11:肩中兪刺針の針響 ver.1.2
   ⑧2024/07/26:肩関節外転制限の針灸治療法ver.2.0
   ⑨2024/07/27:結髪・結帯制限の針灸治療理論
   ⑩2024/07/28:結髪・結帯制限の針灸治療技法
第17 肩甲間部のコリの鍼(缺盆) 
第18 肩甲上部のコリの鍼(肩井移動穴)
   ①2006/06/09:頸神経叢刺激点としての天窓
   ②2006/06/09:腕神経叢刺激点としての天鼎・肩中兪
   ③2024/05/11:肩中兪刺針の針響 ver.1.2
   ④2010/07/15:肩甲骨上角のコリに肩外兪運動針、肩甲骨部~肩甲上部のコリに附分斜刺
   ⑤2012/10/10:肩甲骨裏面に自覚するコリの正体と刺針法 ver.2.0
   ⑥2017/02/07:肩甲上部と側頸部のコリへの解剖学的針灸と坂井流横刺
   ⑦2022/02/15:膏肓穴についてver.1.2
   ⑧2024/11/01:柳谷素霊著、「秘法一本針伝書」肩甲間部のコリの針の考察ver.1.4
第13 急性淋病の鍼(中極・関元)p 32  
   ①2023/08/14:切迫性尿失禁が中髎の灸1回で改善した自験例(69才、男)
   ②2023/11/25 :尿路結石の疝痛は、側臥位での外志室深刺が効く理由 ver.1.1
   ③2024/11/03:「秘法一本鍼伝書」にみる急性淋病の針治療について
第14 実証便秘の鍼(左四満外方5分)p 34
          ※臍下2寸に石門をとり、外方5分に四満をとる。
第15 虚証便秘の鍼(左四満外方5分)p 36
   ①2013/09/08:痙攣性便秘と各種下痢に対する針灸治療
   ②2024/11/05:成書にみる便秘の局所治療穴
第19 上実下虚証の鍼(崑崙)
   ①2017/02/24:冷え性に対する針灸治療ver.3.3
   ②2022/12/15:足冷の針灸治療理論とテクニックver.1.1
   ③2024/11/19:柳谷素霊「秘法一本針伝書:上実下虚の針の考察
第20 五臓六腑の鍼(華陀鍼法)(脊柱棘突起外方5分
   ①2011/01/09:膻中穴圧痛の古典的意味と現代医学的意味 ver.1.2
   ②2018/05/25:腹診に関する現代医学的解釈 ver.2.0
   ③2019/12/10:心下痞硬・胸脇苦満の病態生理と針灸治療
   ④2020/12/10:柳谷素霊の「五臓六腑の針」と私の刺針技法の比較
   ⑤2023/08/30:胃倉・魂門の刺針目標
   ⑥2023/10/04:柳谷素霊著「秘法一本鍼伝書」五臓六腑の鍼の解説 ver.3.0
第8  上肢外側痛の鍼(肩髃)p22  →「四十腕五十肩の鍼」参照
第9  上肢内側痛の鍼(肩貞)p24   →「四十腕五十肩の鍼」参照


坂井豊作著<鍼術秘要 中の巻>現代文訳と解説

2025-01-16 | 古典概念の現代的解釈

  2024年12月23日<鍼術秘要 上之巻>当ブログで現代文訳をしてみた。今回は、引き続き<中之巻>の現代文訳を試みた。

<針術秘要 上の巻>ブログ
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/preview20?eid=3c8fcd917865f6c0e1957f83c629908b&t=1737037410507

要点
①坂井豊作は、上巻の冒頭で、五臓六腑の中で肝が最も重要だと記しているが、実際の針灸臨床の話になると肝の話はまったく出てこなくなった。理論家ではなく根っからの臨床家なのだろう。経絡走行の話は出てくるが、経穴の話も少数しか出てこないのにも驚く。
②中巻では疾病ごとに治療法を示しているが、どれもやり方は共通している。症状に肝経する経絡を定め、凝って痛む処をつまみ、筋に沿って何本も横刺するという方法につきるようだ。経絡の走行といっても、並行に走行している経は何本もあるわけで、それらについても反応点には斜刺べきだと記しているのは、治療効果にこだわる臨床家のやり方だといえるだろう。横刺する方向は、経絡走行にこだわっていない。やりやすい方向に斜刺すればよいらしい。
③もっぱら症状に対する針灸治療法について記しているが、症状が起きている根本原因については、考えが及んでいない。これは江戸時代当時のものとしては、やむを得ないことだろう。下手に考えが及びすぎて、東洋医学理論につかりすぎても困ったことになる。
④図が非常に多いので、理解しやすいだろう。
⑤歯周病(歯槽膿漏)は、江戸時代には走馬牙疳ということは初耳であった。口臭が強い病という意味らしい。走馬牙疳との単語は中国語にもあった。

 

1.疝痛の針

疝痛(差し込むような腹痛)に針するには、まず耳の後ろで、胸鎖乳突筋を四指でつかみ、斜めに浅く刺す。また4~5分ばかり間隔を開けて、3~4針ばかりく浅く斜めに刺すようにする。これは手の少陽三焦経の流れである。刺すような痛みがある場合、腹に関連した首肩の経絡を刺してもよい。

背中には一行二行三行の線が併走しているが、これらには座位で刺す。臍から上に症状が強い場合、針は第2腰椎両側の上部に刺す。臍から下に症状が強い場合、第2腰椎両側の下部を刺すのが常である。

 

首の針は、深く直刺してはならない。首には禁穴はあるから、気を付けて針先を接触させることのないようにする。【図11】

 

 腰部に刺す際、腸骨にぶつかって針先が曲がる恐れがあるような時は、図12のよう下から上方向に刺すのがよい。章門も下方に刺すことが普通だが、腸骨に針がぶつかる時は、下から上に向けて刺すべきである。【図12】

 

2.陰嚢腫痛の針

陰囊が腫れて痛む者には、首の両筋、両肩、背中の両側二行三行に定められたやり方で刺し、大腿内側上際の経絡を、臍の内面に向かって、その絡に沿って上より順番に刺すべし。(図15) 大腿内側では、足の太陰脾経だけでなく、足の少陰腎経と足の厥陰肝経も前後にあるから、それらの経にも沿うように刺すべきである。

 

股の根元より胆経に沿って膝蓋骨の少し後の方に向かい、またその経絡上にある足三里の筋溝を、上から下に足くるぶしの方に向かい、図のように刺すとよい。この足の少陽胆経の両傍に足の太陽経と足の陽明胃経とがある。陰嚢が疝痛・腫脹する者は、疝痛専門診療科で方剤を選んだ方がよい。


                   

足の外側に、図14のように太陽膀胱経、少陽胆経、陽明胃経の3経あって、その少陽胆経を股の根元のところを、少し後ろの方へ斜めにして、膝の外側のところまで、その経に沿って、5~6針するのが普通だが、その前後の膀胱経も胃経もつかんでみて、凝った絡あれば、凝りのある絡に沿って刺すべきである。


股の外側にある少陽胆経を刺し終えて、次にその経を追って膝から外踝の上際まで刺すこと、たいてい4~5針ほど刺すようになる
下腿前面で膝から下に向かい、足外果の上際までを少し後方へ斜めに4~5本ばかり刺すのが普通だが、このところにもその前後の膀胱経や胃経にコリがあれば、その凝った経絡に沿って刺すべきである。【図16】

 

 

この図では針を左右交えて刺しているが、必ずこのように刺さねばならないということではない。上に述べたように、少陽胆経を少し後ろのほうへ斜めにして、下の法へ向かってさすことが通常である、前後の経絡にコリがある時は、その経絡に沿って刺そうとして、このように交差した図になる。(図15)

下肢の内側には足の厥陰肝経、太陰脾経、少陰腎経などがあって。前図のように、つまんで、太陰脾経をとり、また上から少し後の法へ斜に刺すことが常套法であるが、その前後の肝経、腎経などの経絡にコリがあれば、そのコリのある経絡に沿って大腿の根元から内くるぶしあたりまで刺すべきである。針数も前に述べたやり方通りにするのがよい。

 

 

 

3.腰痛の針と方剤

腰痛は多い疾患で、差し込むような痛みで発症する。他の症から腰痛となる者もいるが、針術は異なるものではない。
その針は、首の両傍の筋、両肩、背中の二行三行などに刺すことになるが、下部の病だから臍の後に当たる第2腰椎より上を少なく刺し、第2腰椎より下を多く刺す。
腰臀部筋の痛む者があるが、臀の肉は厚いから針を刺すといっても、他の経には効果を得ることはできない。そうしたわけでこの部には針数を少なくし、やはり第2腰椎より臀部の上際までの経絡に多数刺すべきである。
それより両脚の股の内外ともにすでに記したように、上から膝までを刺した図をすでに示した。
その内外経を刺すにも、前述したように四指でつまんで、凝りの甚だしい経絡に多く刺し、凝りのない経絡には少なく刺すのがよい。これより膝以下の経絡を、内外ともに指定したように刺すべきである。

 

4.頭痛針及方剤 附梅毒頭痛

頭瘟(頭のボーッとした感じ)の針は頭痛の針の方法に準ずる。
頭痛症で、桂枝湯、麻黄湯、葛根湯などの外感から発するような場合は、もっぱら湯薬で治療すべきなのだが、針術を併用してもよい。その他の頭痛も、湯薬と併用すべきである。
その方法は、頚の髪際の辺りから大椎のところまでを、椎骨の際より、左右へ斜めに図のように刺すこと、各3針ばかりすることが常套法であるが、症状によっては、脊椎の両傍のコリのスジを耳の方から図18のように脊椎に向け、少し斜めに刺すべきである。それより両耳の後へ絡をすでに示した方法で刺し、次に両肩と左右の背中の二行を、第2腰椎あたりまで刺すようにする(図18)

 

頭部の丹毒の針と方剤
頭部の丹毒の針術は、頭痛の針の方法に準ずる。

 

5.かすみ目の針術

眼がかすんで、雲霧の中にいるような状態では、まず風池と風府の二穴を刺す(図19)。この2穴を刺すには、上から下へ刺し、あるいは上の右、または左の方からこの穴に向かって、少し斜めに刺し、あるいは右または左の傍からこの穴に向かって、横に刺すこともある。
どこから刺す場合であっても、随分浅くして、針先の頭骨に命中しないように刺すべきである。

それより上腕の外側を肩の曲がりのところまで、背の方から1~2寸ばかり下をつかんでみると、筋溝があって、ゴリゴリとて指頭に反応を捉えることができる。これは手の少陽三焦経である。

この一二寸ばかりのところから、少し前方へ斜めにして下に向かい刺すこと3~4針ばかり施す。その三四針ばかりの間は大抵3~4寸ほどの間になる。それよりこの経に沿って、肘から先の1~2寸ばかりのところにから手首に向かい、三四寸ばかりの間を、下に向けて三四針ほどする。

督脈で額の髪際より項の髪際までを一尺二寸として、項の髪際から上1寸のところに風府の穴がある。
風池の穴をとるには、風府の穴の通りの横に、耳の下の脳空穴の後にあって、指で押せば耳へ響くところである。

             

 

6.歯痛の針 附走馬牙疳(=歯周病)

 歯の痛みに針するには、首の両傍の胸鎖乳突筋を刺し、それから肩を刺し、上腕外側の経を刺すこと。もし左側の歯痛がある者は、左の経を多く刺し、右側の歯痛がある者は、右の経を多く刺すべきである。あるいは背部の二行を刺してもよい。
 走馬牙疳(そうまげかん。歯がくさくなる病。現代でいう歯周病)の針は、上述したような針を施し、かつ背部二行の通りを肩から腰までと三行とを刺し、次に股の外経(図もすでに上述した)を刺すことはすでに説明した。

 馬牙疳(=歯周病)に針して、その刺した経、あるいは一身に痛みが出ることが時々ある。これは驚くことではない。まさに治そうちして眩暈が出ている状態である。

歯痛に針術を施すことは、大抵一度刺して、急激にその痛みが治する者が多いが、十人に1~2人は2~3日刺さなければ、治らないこともある。一度針して治る者といっても、服薬しないと再び痛みが出る者も、また十人に1~2人はある。
しかしながら2~3日刺してもも、治せない者においては、服薬させるのがよい。

 


7.口中腫痛と舌病の針

口中が腫れて痛む、あるは舌がはれてただれる者に針することは、軽症では歯痛と同様に扱う。重症の場合、走馬牙疳のように治療する。

耳痛の針そして梅毒聾        
※梅毒の自覚症状は粘膜のただれ、脱毛など皮膚症状が有名だが、眼や耳(内耳)に病変が出現することもある。これを「眼梅毒」「耳(内耳)梅毒」とよぶ。感染の早期から、潜伏期間を経た晩期いずれも起こりうる。

上気しての耳鳴、耳腫れ、耳痛、あるいは梅毒により、耳が聞こえない者は、耳下の胸鎖乳突筋と両肩とを刺し、右が痛む者は右の方に多く刺し、左が痛む者は左の方に多く刺す。これより背中の二行の通りを肩から腰までを、みな指示通りに刺すべきである。
もし股の内または外の経にコリがあれば、ことごとく刺すべきである。



8.怔忡そして胸悸の針(附頭眩驚悸)

※怔仲(せいちゅう)とは体を動かすことでひどくなる動悸のこと胸悸とは、、胸がキュッとしめつけられること。頭眩とは頭に感ずるめまい、驚悸とは、驚いて動悸すること。

驚悸(驚いて胸がドキドキする)の針は、ともに両耳下の胸鎖乳突筋と両肩と両上腕の肩の曲がりの所から、手首までを規程のように刺し、この上腕の両側に手の陽明大腸軽と手の太陽小腸軽がある。いずれの経でっも凝った絡あれば、みな指示したように刺すべきである。
次に両上腕の前のほうの脇で、手の厥陰心包経を、(後に示す図あり)また手首まで8~9針から12~13針ばかり刺す。また手首まで8~9針から12~13針ほど刺す。この経の両傍に手の少陰心経と手の太陰肺経とがある。いずれも凝った絡があれば、ことごとく刺すべきである。(図後に示した。)次に背の両二行を、肩から腰までと両三行とを皆指定通りにさすべし。

 

9.癆瘵の針       

 勞瘵(ろうさい)は労咳ともいう。現代でいう肺結核のこと。癆瘵は非常に難病で、治するものは十人に一人のみである。そうであっても病因を究明し、脈の虚実を診察し、方剤がこの疾病に適し、保護を慎重に行い、その上で針術を併用する時は、たいてい12人中、5~6人を治せるだろう。その針術を施す方法は、両耳下の筋ン、首の両筋、両肩、両手の内外経、背中の左右二行、三行、両足の内外経などを、ことごと規定したように 刺すのがよい。
軽症であれば2~3ヶ月間針すれば、必ず好転のきざしがみられるものである。重症の場合、半年あるいは一年の間針すれば、大いに効果あるものである。


10.婦人血塊の針

婦人の血塊症(子宮から血の塊が出る)は、腕のよい針医だとしても、強い薬を与えるのを躊躇する。または薬を与えた場合でも、ただちに効かせるのが難しい場合には、針を併用して大いに効果がある。
その針法は、両耳下の胸鎖乳突筋、両肩、左右の背中の二行を、肩から腰までの諸経を刺すべきである。もし足が痙攣して痛む者は、大腿内側の太陰脾経と、外またの少陽胆経とを刺す。ここに経を刺すが、しっかりと筋をつかんで、凝った絡に刺すべきである。
もし手が痙攣した痛む者は、上腕の少陽三焦経と、脇下の前方の経、あるいは腋下の後方の経、腋下の前後の経を(取る図を後に示す)上から手首まで刺すこと、指示のに従って実施する。
また、婦人の少腹の右または左に塊があって、時々上下にあるいは左右に動く場合、
気分が悪く、腹痛・上気・頭痛など、一般には血の道と称する症状のようで、月経期に発症する症状のある者は、前に記した血塊の針のように刺すのがよい。


11.婦人血欝の針

婦人の血欝(=血行不良)の針は、両耳下の胸鎖乳突筋、両肩、両上内外の経、背の左右二行三行を肩から腰に施術する。両足の内外の経などをことごとく定められたやり方で刺すのがよい。
しかしながらこの症状では、針による瞑眩が出現して、人によっては一升もしくは二升の吐血や下血することもある。これは病に効ある兆候だから、驚くべきことではない。その術を施すには、軽症であれ一ヶ月ばかり刺すが、重症であれば2~3ヶ月刺さないと治らない。


 


腓腹筋外側頭の痛む患者の針灸治療   ver.1.2

2025-01-16 | 下肢症状

1.腓腹筋外側頭部が痛む患者

腰殿部に症状はないのに、正座時に腓腹筋外側頭部が痛むという患者の治療を何例か経験した。正座しても膝関節痛はないのだが、この部が痛むという。この部は腓腹筋外側頭のトリガーポイントであろう。

 

 

2.腓腹筋外側頭部が痛む患者の針灸治療

膝窩部の痛みに対しては、伏臥位にて委中附近の症状部に刺針するのが一般的だろうが、この方法では改善できない。膝を90度屈曲位にして出現する痛む局部の硬結に刺針すると、比較的簡単に膝窩痛がとれる。このことは本ブログで報告済である。
※膝窩部の痛みで、そこに筋緊張が確認できる場合、これを「膝窩筋腱炎」という名称をネットで与えることを知った。

腓腹筋外側頭部痛の場合も同様に、膝屈曲位で腓腹筋外側頭部の症状部に、寸6#2程度で軽い手技針を施すと、治療直後から改善することが多い。

3.小殿筋トリガーポイントの放散痛部位ではないのか?

最近、59歳女性の患者を治療する機会があった。多愁訴だが、その一つに「膝の裏にモノがはさまっているようだ」との訴えがあった。膝窩を診察すると、ベーカー嚢腫はなく、圧痛点も少ないので膝窩筋腱炎ではなく、坐骨神経痛にも該当しなかった。委中周りのシコリに刺針しても治療無効だった。そこで腓腹筋外側頭部の筋痛として捉え、尻と下腿の間にマクラを挟んだ状態で正座させ、腓腹筋外側頭の圧痛点に刺針し、症状軽減した。なお、通常の正座位ではなく、膝裏にマクラを挟んだのは、正座をしても膝痛となるのではなく、腓腹筋への刺針をしやすくするための工夫である。

ただ、来院する度にこのような治療をしているわけで、症状をもたらしている根本があるのではないか、と思った。本患者は外臀部のコリも強く訴えていることから、小殿筋トリガーの放散痛として腓腹筋外側頭部の異物感が生じているのではいだろうか? 本患者にしても小殿筋に強度の筋硬結をみたので、横座り位で居髎に深刺を併用している。

小殿筋と中殿筋への刺針は、私オリジナルの横座り位からの居髎深刺を行うことで、治療の手応えを感じた。(側臥位で居髎深刺ではシコリに当たらなかった)。小殿筋のコリと腓腹筋のコリの間には相関性があるのかもしれない。なお中殿筋TPと小殿筋TPは、いずれも臀下肢部に出現するが、中殿筋の放散痛は膝関節より上に出現し、小殿筋の放散痛は、膝関節を越えて下肢に出現するという区別がある。ただし実際の治療にあたっては、横座り位で、3寸#10番くらいの針で、居髎から直刺して深部にある筋硬結に当てることが重要であり、中殿筋と小殿筋の鑑別はたいして重要な要素とはならないだろう。
居髎の取穴:上前腸骨棘と大転子を結んだ線を3等分し、上前腸骨棘側から1/3の処。

大腿外側痛の病態把握と針灸治療 2019.6.8 ブロク
小殿筋刺針の技法
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/03c8b1fc1f9c88bc3814afbb3daad2a8

 

5.腓骨頭直下の痛みは膝窩筋の放散痛由来か?

右足の最近腓骨頭直下で、陽陵泉の下方1寸あたりが、膝の曲げ伸ばしの際に痛むという患者が、立て続けに2名来院した。トレーニングやりすぎが原因だという。
局所を触診しても圧痛硬結がなく、試しに刺針して足関節の自動運動をやらせてみたが、やはりこの部痛みは改善しなかった。
そこで、小殿筋放散痛、梨状筋の放散痛を考え、居髎と坐骨神経ブロック点に刺針し、症状部に響かせてみた。そして膝の自動運動をやらせてみると、やや有効だった。
しかしもっとスパッと治療できるのではないかと考え、正座位で上述の腓腹筋外側頭の圧痛をみると非常に痛がった。そこで正座位で尻と下腿の間にマクラを挟んだ状態で、腓腹筋外側頭を触診すると明確な圧痛点を発見し、手技針してみると、先ほどよりも膝の曲げ伸ばしが楽にできるようだった。そこでさらに、立膝位で、委中あたりの圧痛を探ると強い圧痛があったので、そこにも刺針した。
以上の経過から、患者の訴える腓骨筋外側頭の痛みは、実は膝窩筋の放散痛だったのではないかと理解した。