AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

中髎穴刺針の適応症(北小路博司氏の研究)と追試した印象

2024-05-31 | 泌尿・生殖器症状

※令和6年4月11日付けで、カマタ様から当院に11000円のお振込がありました。おそらくCDテキスト代金だと思いますが、カマタ様の住所・電話が分からず、CDをお送りすることができない状況となっています。恐れ入りますが、Eメールにて住所・電話をお知らせください。早急に商品をお送りします。

1.八髎穴の適応

針灸治療において、八髎穴では、次髎穴と中髎穴の使用頻度が高い。一般的に仙骨神経叢の構成はL4~S4脊髄神経前枝からなるので、この代表刺激点としてはS2後仙骨孔部に位置する次髎を使うことが多い。また骨盤神経(副交感神経)と陰部神経(体性神経)は、ともにS2~S4を起始としているので、代表刺激点としてS3後仙骨孔部にある中髎を使うことが多い。
ざっくりいうならば、整形外科疾患である坐骨神経痛には次髎を用い、泌尿生殖器科や婦人科疾患には中髎を使うことが多いといえる。

※ただし木下晴都著「坐骨神経痛と針灸」には、多数の座骨神経痛で来院した患者に対し、腰殿仙骨部で座骨神経痛治療に使用することの多いと思える経穴を10穴程度選穴して治療効果を検討した。その結果、①浅刺よりも深刺が効果あったこと、②どの穴も大なり小なり効果があったが、次髎だけは悪化した、との結果だった。次髎に深刺置針をすると、かえって坐骨神経痛が悪化することがあると記されているが、その機序についての考察までは記していない。  

ところで中髎に刺針して、骨盤神経や陰部神経を刺激するとしても、実際にはどのような疾患に対し、どの程度の効果が期待できるのか、という疑問は以前からあったのだが、どれも自分の臨床経験で語られてきたに過ぎなかった。

この問に対して、北小路博司氏(明治鍼灸大学)は、一連の精力的な研究を継続して行い、かなりの回答を与えてくれた。この内容を総括的にみるには、「鍼灸臨床の科学」医歯薬出版刊の、<泌尿・生殖器系障害に対する鍼灸治療>が適していると思う。その結果をかいつまんで紹介し、若干の解説を加える。

 

2.中髎の解剖学的特徴

仙髄排尿中枢(S2~S4)に位置する。これらは骨盤神経(副交感神経)、陰部神経(体性神経、自律神経系)の起始する部位で、膀胱、尿道(外尿道括約筋)、および性機能に深く関係している。

 

3.中髎の刺針と刺激方法

第3後仙骨孔に入れるのではなく、第3仙骨孔付近の仙骨後面の骨膜を刺激する。

※上記の刺針を北小路博司氏が提示したヘリカルCTで見ると、確かに仙骨前面に沿うように刺入されている。内臓にまで刺入されていないことも確認できるが、沿うように刺入することは意外に難しく、できるだけ仙骨骨膜をこするように刺激することでもよいだろう。


4.中髎刺針の臨床成績  

1)切迫性尿失禁

神経因性の過活動性膀胱患者の
最大尿期時膀胱容量が増加傾向。切迫性尿失禁患者の60%が、尿失禁の消失ないし改善した。中髎刺針は膀胱容量を増加させる傾向がある。 無抑制収縮を抑制させる傾向がある。

2)前立腺肥大症(第Ⅰ期)

前立腺肥大症第Ⅰ期に対して、週1回の中髎刺針を行い、平均6回あまり施術した。夜間の排尿回数減少、および昼間排尿間隔の延長がみられた。ただし治療終了後は元に戻る傾向があった。

3)排尿筋、外尿道括約筋協調不全 

神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能正常、尿道機能は過活動)で、主訴は排尿困難。6例中、4例で排尿困難が消失、1例は改善した。初発尿意、最大尿意および膀胱コンプライアンスは不変。残尿量の減少も5例でみられた。

4)低緊張性膀胱による排尿困難

神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能が低活動、尿道機能正常)で、主訴は排尿困難。
の者。7例中、1例に排尿困難の軽減がみられた。中髎の鍼治療によって、排尿筋の収縮力を高めることはできなかった。

5)勃起障害

心因性9例、内分泌性8例、静脈性3例、糖尿病性2例、神経因性1例、前立腺症1例の計26例。早朝勃起は全症例に対して改善。性交時の状態は65%が改善(心因性33%、内分泌性88%、静脈性100%、糖尿病性50%、それぞれ改善したが、神経因性その他は不変)。心因性インポテンツが、他の原因によるインポテンツと比べ、予想外に有効率が低い。
註:これはバイアグラと同様の傾向である。


6)Ⅰ型夜尿症(膀胱内圧上昇時にも、浅い睡眠に移行するも覚醒に至らないタイプ)

※Ⅱa型は脳波上、覚醒反応が生ぜず、深い睡眠のまま夜尿する。Ⅱb型は膀胱に生じる無抑制収縮を原因とした膀胱機能障害であり、深い睡眠のまま夜尿する。
薬物療法無効の8例。週1回施術で平均5回強治療。夜尿出現率が10%以上改善した者は4例、10%以下の無効例は4例だった。有効例はすべて初発尿意(膀胱にどの程度の尿が溜まったら尿意として自覚するか)が改善した。機能性膀胱容量の増大と初発尿意の延長が、夜尿症の改善に関係あるらしい。

※最新の知見では、夜尿と睡眠の浅深は無関係であることが分かった。つまり上記成績は、Ⅰ型夜尿症に限定する必要はないであろう。 

 

5.中髎刺針の総括

中髎穴刺針には、つぎのような作用がある。

1)膀胱括約筋緊張を緩める →膀胱容量を増加するので、尿意を減らし排尿回数を減らす。
2)膀胱容量が拡大するので、夜尿が発生する時刻を遅らせる。
3)尿道外括約筋の緊張を緩める →外尿道括約筋の過緊張を緩めることで排尿困難を改善。
4)勃起障害を改善。だたし心因性の勃起には有効率が低い。

※このブログを発表したのは、2006年11月のことだった。あれから約15年経過した。この間、泌尿器疾患患者を扱う機会も百症例以上あったとは思う。これらの患者に対して中国鍼で中髎から斜刺をしてみたのだが、残念ながら、あまり有効だったとの感触は得られなかった。現在、中髎刺針しながらハコ灸を追加したり、陰部神経刺針パルスをしたり、手を変え品をかえつつ、有効性を高める努力を継続中である。以前、迷走神経は口から胃にかけての領域に副交感神経作用をもたすとされていたが、最近になった迷走神経の枝は大腸まで達していることが明らかになった。骨盤内蔵を副交感神経支配するのはS2~S4の骨盤神経である。


6.中髎刺激の印象

中髎水平刺の意図は、陰部神経・骨盤神経・仙骨神経を刺激することである。私は原法に従って十年近く実践してきてきたが、この治療方法は万能ではないことも分かってきた。陰部神経刺激であれば陰部神経刺針(座骨結節と上後腸骨棘を結んだ中点から、一横指座骨結節寄りから直刺2~3寸)を行った方が、症状部に響かせることができる。仙骨神経叢に響かせるのは、坐骨神経ブロック点刺針からの方が有利である(骨盤神経叢は響かせることができない)。

①馬尾性間欠性跛行症に対して、持続歩行可能な時間が延びることが多かった。しかしこの効果持続期間は1週間程度であり、繰り返して治療しても治るということはない。1週間から2週間に1度の鍼灸施術で、症状をコントロールできるのがせいぜいである。治療を中止すると元の状態に戻ってしまうことが非常に多い。

②中髎水平刺ではなく、3寸針で8㎝ほど中髎深刺すると、陰部神経支配領域に響きを与えることができるので、従来の陰部神経刺針よりも有効となるかもしれない。(第3仙骨孔を貫通させるのは、初心者には難しいだろうが)

③肛門痛に対しては、陰部神経や中髎直刺よりも、会陽からの深刺の方が効果あるようだ。会陽から直刺深刺し、肛門挙筋も同時に刺激するような治療が効果的ではないかという発想が生まれた。現在、肛門奧の痛みをもつ一人の患者に対して、ジャックナイフ位にて行う会陽深刺と会陽から5㎝下のほぼ肛門の高さからの刺針の効果を検討中である。アルコック管刺針や内閉鎖筋刺針も肛門症状に対しても。試みてはいるが、大した効果はあがっていない。

 

④陰茎・陰嚢痛の痛みに対する治療は、いろいろやってはみているが、いまのところよい治療法が見つかっていない。

⑤切迫性尿失禁については、座位で2壮の中髎のせんねん灸を行い、大幅に症状改善した例があった(自験例)。

⑥頻尿については何例か八髎穴に施灸したが、治療効果はあがっていない。夜尿については治験がない。

 

 

 

 

 


百会の治効と導出静脈 ver.1.3

2024-05-30 | 経穴の意味

百会穴は代表的な経穴の一つで、針灸師の間でもその重要性が指摘されている。ところが重要視すべき根拠は、経絡学説以外には、あまり明確に認識されていないようである。
この原稿では、代田文誌先生の考え方を紹介するとともに、その背後にある現代の理論を説明する。


1.導出静脈の機能に関する代田文誌先生の見解

百会ならびに通天は、頭頂孔付近(百会付近で、正中から両側外方約1㎝)に位置する。頭頂孔は頭蓋の外側にある浅側頭静脈と頭蓋の内側にある上矢状洞を連絡する導血管の通路に相当する。したがって頭蓋内の鬱血、静脈血の環流の妨げがあると、頭蓋の外側に静脈血が流れ、環流をはかるようになる。
代田文誌氏は、このような見解に立って、百会・通天に刺針施灸または瀉血すると、この部分の血行を促進し、したがって頭蓋内の鬱血を除くと考えた。なかんずく、この部位の瀉血が頭痛、片頭痛、脳充血の症状を即座に好転せしむる。
以上の記述は、石川太刀雄「内臓体壁反射」より抜粋したものであるが、本書が出版されたのは1962年なので、再検討すべき課題である。
なお同様の内容は代田文雑誌著「鍼灸臨床録」にも書かれている。鍼灸臨床録は、代田文誌が残した学術的傾向の強い論文集である。石川太刀雄が鍼灸に深く関係する著書を出版した後、いろいろな針灸師から「○○はどうやって治療するのか?」とする質問を受けたそうだ。臨床医でない石川はその質問に答えず、なによりも即物的な回答を求める針灸師を嫌うようになった。石川が交友をもった針灸師は、代田文誌のみだったという話である。

 

※清濁合わせもった石川太刀雄

石川太刀雄といえば、鍼灸界では内臓体壁反射や皮電計で広く知られているが、第二次世界大戦中には陸軍731部隊に所属し、現地人(中国人、ロシア人など)を使った生体実験をしたことでも知られている。このことを私が初めて知ったのは森村誠一著「悪魔の飽食」で、その中に石川太刀雄の名前が出ていたので驚いたものである。非人道的な実験をしつつも、実際に貴重な生データを得られたのは事実だった。敗戦後、731部隊のメンバーは当然ながら戦争犯罪人になるところ、データをアメリが側に提供すれば罪に問わないとする司法取引に応じて、実際に罪に問われることがなかった。
石川が亡くなったのは1973年だった。私が30才頃、医道の日本誌のバックナンバーを見ていて偶然に石川太刀雄死去の記事を発見した。記事のタイトルは「清濁合わせもつ人 石川太刀雄」だったことを覚えている。

 

 

 2.導出静脈付近の解剖

脳硬膜下で、かつ左右の脳硬膜が合わさる部分の大きな間隙を硬膜静脈洞とよび、脳を通ってきた静脈血を集めて内頸静脈に送る役割がある。
硬膜静脈洞で、大脳鎌上縁のものを、上矢状静脈洞とよぶ。頭蓋骨の円錐部にはいくつかの小孔が開口している。その代表が頭頂孔である。頭頂導出静脈は頭頂孔を通って、上矢状静脈洞と浅側頭静脈などの頭皮の静脈と交通している。すなわち導出静脈を仲介として、頭蓋内と頭蓋外の静脈血が貫通している。頭頂孔は、百会~通天付近に複数ある。頭頂導出静脈が出る部はほぼ百会の位置に相当するといえるが。同様の構造をもつものに、乳突導出静脈部の風池、後頭導出静脈部の強間などがある。さらに眼角静脈~眼静脈部の睛明もこの類になる。

 

 

 

 .導出静脈の血流方向の変化

頭部の静脈には弁がないこともあり、上述した静脈の血流方向は変化することが分かってきた。この現象を「選択的脳冷却」とよび、現代医学の一研究分野となっている。


1)ヒトが高体温になると、顔面・頭皮の静脈血が、眼角・眼静脈、導出静脈経由で頭蓋内に流れ、脳の冷却に寄与している(反対に低体温時になると、脳から皮膚へと流れを変える)。頭蓋内が高温になると、頭や額から発汗する。これが蒸発する際に、気化熱を奪う。高体温時に、額を濡れタオルで冷やすというのは合理性がある。

2)眼窩の奥に位置する海綿静脈洞が、脳核心温度を下げるため、ラジエータとしての役割を果たしている(正確には、下鼻甲介部に分布している海綿静脈洞が、呼吸気流で冷却され、冷却された静脈血が海綿静脈洞に集まる)
とする見解がある。

3)他にとして、換気量の増加は脳核心温度を下げる作用がある。これは上気道粘膜での水の蒸発による冷却効果である。イヌなどは暑い時、口をあけて大きく呼吸するのも、この機序を利用して脳内温度を低下させている。


4.脳の過熱防止機構と百会等への刺激

ヒトは、日中は脳の活動も盛んであり、徐々に脳の深部温度が高くなる。起床後、16時間ほど経過すると、脳の深部温が過熱した状態になり、過熱から脳を守る意味で眠気を感じる。入眠開始当初のノンレム睡眠に、脳の核心温と体温を強く下げる役割があることが知られている。
脳核心温度の上昇は、酷暑時や発熱時だけでなく、脳の活動過剰(知的活動、精神的ストレス)などでも生じやすいであろう。臨床的には、頭痛や不眠等の愁訴に対して、脳の核心温を下げることは治療になり得る。

冒頭に紹介した代田文誌の考察は、頭蓋内の静脈血の充満状態を、頭蓋外に放出することで減圧を図るとする考えのようだが、現代医学的研究は、脳の冷却におかれているようだ。

 

5.余談:医学生、北杜夫が受けた口頭試問

故、北杜夫は医師で小説家として有名だった。北杜夫が医学生だった頃、担当教官から次のような質問をされたという場面が載っていた。
「導出静脈の血流は、普段頭蓋内から頭蓋外に流れるのか?それとも頭蓋外から頭蓋内に流れるのか?」
北杜夫が、とまどいつつ「頭蓋内から頭蓋外に流れる」と返答した。
教官は、「本当にそれでよいか?」と問いただすと、北は「いや、頭蓋外から頭蓋内に」と回答を変えた。
すると再び教官は、「本当にそれでよいのだな」と問いだたすと、北は、「いや反対に・・・」とまたもや答えを訂正したという。


仙椎一行の圧痛硬結の意味

2024-05-30 | 腰背痛

1.腰殿痛を訴える一部の患者に、触診すると仙椎棘突起傍に圧痛硬結をみることがある。患者の大部分は、自分自身でその反応に気づかない。しかし腰椎や下部胸椎や腰椎の棘突起傍に刺針してもあまり腰殿痛は改善せず、仙椎棘突起傍に刺針して、初めて腰が伸びたり、上体の前方屈曲が可能になる者が結構多く、下部胸椎や腰椎の一行と併せ、仙椎一行(棘突起傍0.3~0.5寸)の圧痛硬結に刺針することは非常に効果がある。

 

.仙椎一行の皮下にある筋は、表層も深層も多裂筋である。多裂筋や回旋筋は短いので、脊椎捻挫の際にモロに損傷を受けやすい。これに対し、起立筋などの長い筋は筋伸縮に余裕があるので衝撃を逃がすことでダメージを受けにくいのだという。腰部表層には、浅層ファッシア(浅層腰仙筋膜)が発達し、サポーターのようにて腰を保護している。したがって、腰部一行刺針で直刺すれば多裂筋、水平刺すれば浅層ファッシアに対する治療ということになる。

 

3.多裂筋のトリガーポイント
トラベルとシモンズの「トリガーポイントマニュアル」によると、仙骨部でS1やS4の高さの多裂筋のTPsは、まさにその部分の痛みが出現すように図示されている。


4.「椎間関節性腰痛」の顛末
30年ほど前、針灸師の間で、神経根症状のない腰殿部痛の大部分は、筋筋膜性腰痛(ほとんどは起立筋性や腰方形筋性の)と診断がつけられていたと思う。それが「椎間関節性腰痛」という病態が認識され出してから、胸腰椎棘突起直側に圧痛点を見いだせるものは椎間関節性腰痛と診断され、こうした圧痛が発見できないものには筋筋膜性腰痛とのベッドサイド的診断が行われてきたように考える。

それは椎間関節の捻挫→滑膜や周囲筋の筋損傷→脊髄神経後枝内側枝の興奮→背部一行の圧痛という機序で説明された。このような病態に対し、私は脊髄神経後枝内側枝の鎮痛目的で背部一行刺針を行い、まずまずの成果をあげてきた。一方、椎間関節にモロに針先をぶつけて刺激する方法も考案され、治療効果に優れていると記した報告も多々あった。この方法を試してみると、結構深刺になり、また確かに骨にはぶつかるが、椎間関節に刺入できているか否か判定しづらかった。さらに非常に強刺激な針になることがわかったので、使う機会は減っていった。というのも一行の針で満足できる効果が得られていたからでもあった。 
 

実際的に腰痛症の8割前後の患者に腰背部一行の圧痛が発見できるので、これをもって腰痛症の8割は椎間関節症だと考えたこともあった。しかし、これでは仙椎棘突起一行の圧痛を説明できない。仙椎は癒合しており、椎間関節は存在しないからである。すると痛みの原因として考えられるのは、背部一行にある筋自体の問題であって、前述したような多裂筋の問題に落ち着くのである。

 

 


筋々膜性腰痛の針灸治療(上) 横突棘筋性の腰痛 ver.1.4

2024-05-29 | 腰背痛

1.概念

背腰部の過伸展や捻転→筋々膜のトリガー活性化→脊髄神経後枝が筋膜を貫く部位で刺激されて枝興奮。なお腰背筋の代表といえるのは脊柱起立筋だが、この筋は脊柱を支え、固定するための能が中心で、寝ている時以外は常に緊張状態にあることが知られるようになった。筋筋膜性腰痛の関係は密接でない。
 

不正動作ににより突発的に生ずる痛みは、大腰筋・腰方形筋・横突棘筋(=短背筋)の問題らしい。これら筋群は、腰椎に直接付着しているという共通性がある。

2.横突棘筋の筋々膜性痛

1)短背筋の構造 

棘突起外方5分で背腰部督脈に伴走するラインを背部一行線(または夾脊)とよぶ。この部には半棘筋・多裂筋・長、短の回旋筋があり、横突棘筋(または短背筋)と総称する。腰椎-仙椎においては、横突棘筋のうち多裂筋が発達している。多裂筋も横突起と棘突起を結ぶ筋であるが、比較的筋長が長いので、回旋作用よりも屈伸作用が主体となり、腰仙椎部分で発達している。基本的に横突起を起始とし、それより上位の棘突起を停止とする筋。靴ヒモ様の構造になっている。すべて脊髄神経後枝支配。

 

 

 

 

2)横突棘筋の脆弱性

腰椎と異なり、胸椎においては椎間関刻面の構造上、左右回旋ができるが、前後屈はできないという特徴がある。なお胸を左右に回旋させる作用がある横突棘筋は、半棘筋と長、短回旋筋である。

上体を左右に回旋する時、上下に隣接する胸椎は、半棘筋・長・短回旋筋の作用で少しずつ回旋るが、腰椎以下はし、左右回旋運動できないが、前後屈はできるという特徴があるので、回旋運はTh12-L1間でスムーズに流れず、強い力学的ストレスが椎間関節に加わることになる。結果椎間関節症を起こしやすい。またこの椎体間の不正な動きは、半棘筋・長・短回旋筋を無理に伸張させる動きとなるので、同筋群の筋々膜性腰痛も引き起こしやすい。

※短背筋は短い、すなわち起始と停止の距離が短いので、椎体間の不正な動きの衝撃を受け流すことが難しく、筋にダメージを受けやすい。その逆に起立筋(棘筋、最長筋、腸肋骨筋)は筋長が長いので上手に衝撃を逃がしやすい。

3)横突棘筋性筋々膜性腰痛の所見と針灸治療

胸椎部一行線上の短背筋群に圧痛出現する。この圧痛点下にある障害筋中2~3㎝刺入。置針5~10分。なおTh12-L1間の椎間関節性腰痛は高頻度に起こり、これをメニュエ症候群(旧称メイン症候群)とよぶ。

 
3.とくに多裂筋性腰痛について

1)多裂筋の脆弱性

胸椎範囲の短背筋群の障害筋は、半棘筋・長・短回旋筋が代表的なのに対し、腰椎範囲の短背筋代表的障害筋は多裂筋である。なお多裂筋が発達してる一方、棘筋はないか、あっても薄い状態になっている。多裂筋は腰椎の前後屈運動を行う機能があるので、腰仙部で発している。多裂筋性腰痛は、上体の回旋動作で発症するのではなく、上体の前屈や再伸展動作で症しやすい。


寝ている時は何でもないのに、寝床から上半身を起こす動作で、急に腰痛を自覚する場合がある重症では継続して痛むが、軽症の場合では昼頃になると自然と腰痛消失し、翌朝は同じような腰が再び出現する。これは不良な就寝姿勢とくに軟らかすぎるマットにより殿が深く沈むことで腰前彎の増強→多裂筋緊張増強となっている状態である。
この状態は、仰臥位で腰部に手を差し入れるようにすると腰が浮き上がっていることで確認できる仰臥位で、両手で膝を抱えるようにして、背中を丸めるような姿勢をすると多裂筋伸張体操とな(=ウィリアム体操)。

 

 

2)レ・ネ・カリエの「腰痛三角」刺針

脊柱起立筋は、腰部を過ぎて仙骨まで走行しているが、仙骨部は腱構造となって先細りしている起立筋の筋収縮は、この先細り部に加わる力が非常に大きいので、筋筋膜性の障害が起きやすい。第5腰椎棘突起、第1仙椎棘突起、上後腸骨棘の3点を結んだ領域に腰痛が起こりやすいことら、フランス人医師であるカリエはこの部を「腰痛三角」とよんだ。これも多裂筋緊張を診ていると考える。


伏臥位にて、腰痛三角部中央部から直刺して、針先を多裂筋中に入れる。直刺深刺すると多裂筋刺針になる。

腰痛三角からの刺針は、水平刺する見解もある。この理由は胸腰筋膜(=腰仙骨筋膜)の一端を形成しているのがこの領域になるからである。胸腰筋膜とは、腰仙部の表層の解剖学図で、白く示されている浅筋膜(=浅層ファッシア)の領域で、表層筋や脊椎をつなぎ合わせている部分で、この場合、浅層ということで水平刺するのがよい(そういう風に教わった)。そして両脚の膝関節を10回程度、交互に屈曲(足をバタバタさせる)させる。また立位上体前屈位で腰痛三角から水平刺し、上体を前屈と再伸展を数回繰り返す方法も考案された。後者の場合、前屈可能な角度が増してくることを確認できる。これら2つの方法は、現在の患者の体位により使い分けるのがよい。

 

 

 

3)小腸兪と関元兪について

代田文誌著「鍼灸治療基礎学」では、小腸兪をL5棘突起外方1.5寸を取穴しているので、カリエの腰痛三角中央は、小腸兪一行に相当している(現在の標準的な小腸兪位置は、S1仙骨の外方1.5寸になってしまった)。一方、関元兪はL5棘突起下外方1.5寸に取ることに決まったので腰痛三角の中心は関元兪一行といえる。ただし沢田健は、L5棘突起外方1.5寸の部の小腸兪をリウマチの熱をとるツボと考えていた(煙にまかれたような話だが)。その意味するところを代田文彦先生に質問したが、全身的症状に対しては、いちいち疼痛部に針灸すると大変な労力となるので、痛みの中心路である脊髄、その中で上肢に関係深い頸膨大部として大椎穴を、下肢に関係深い腰膨大部として小腸兪に施術するという考え方があると教えていただいた。


 


鼠径部周囲穴の由来の考察 ver.2.0

2024-05-28 | 経穴の意味

 

1.曲骨(任)、横骨(腎)

「曲骨」(任)は恥骨結合の直上にとる。本穴は恥骨上縁で弯曲した処なので曲骨と命名した。

横骨は恥骨の意味であるとともに、腎経の穴名でもある。骨度法では、横骨長は骨度法では6.5寸と定められている。横骨とは現代でいう恥骨のことだが、これを恥骨結節両端間の距離とすることは無理があるので、おそらく恥骨上枝の左右外端の間の長さを意味するのだろう。
なお横骨長には < むご(6.5寸)い横骨 > という語呂がある。

「横骨」(腎)は腹直筋上であるが、曲骨は白線上にある。白線とは筋を包む結合識で、外腹斜筋や内腹斜筋、腹横筋それぞれの腱のつながりである。筋ではなく腱なので刺針時には抵抗を感じるのを避け、曲骨の代用として横骨に刺針するという使い方もある。神経は陰茎背神経(陰部神経の枝)なので、膀胱炎やEDで使われることが多い。もっとも曲骨から刺針してペニスに響かせてもEDが治る訳ではない(尿道炎の鎮痛には効いたことがある)。曲骨の灸(毎日7壮以上)は慢性反復性膀胱炎に適応がある。抗生物質内服をいつまでも続ける訳にはいかないが、服薬中止すると症状が再発しやすいが、施灸を継続すると症状再発がない。曲骨の灸3壮では再発し、7壮に増やしてから症状が治まったという経験がある。


.衝門(脾)

上前腸骨棘と恥骨結節外端の結ぶのは鼠径靱帯で、このほぼ中央に「衝門」(脾)をとる。「衝門」は大腿動脈拍動部でもあるので取穴上の基準点になる。理論的には下肢の血流改善の目的での治療点となるだろう。下肢閉塞性動脈硬化症では衝門の拍動が減弱することがある。


3.気衝(胃)


「気衝」は”衝”の文字がついてはいるが動脈拍動部ではない。下肢から上行してきた胃経には勢いがあり、
髀関穴で直角に折れ曲がり、気衝で再び折れ曲がって、下腹部を上行する。経絡がぶつかって流れが急変するという意味で、”衝”の文字がつけられたのだろう。すなわち衝突の”衝”である。

 

4.髀関(胃)

”髀”は大腿の意味。学校協会教科書では「上前腸骨棘の下方、縫工筋と大腿筋膜張筋の間、陥凹部」とある。このあたりの解剖学的要所は、下前腸骨棘であり、この部は大腿直筋の起始部でもある。髀関は私は、ここを取穴している。



6.急脈(奇)

急脈とは、水なし川状態にあったものが、急激に流水量が増した状態のようなもので、勃起状態(出現する陰茎海綿体の充血)を示すのだろう。私が数十年前に針灸学生だった頃、急脈は奇穴だったが、最近になり肝経所属になったことを知って非常に驚いた。鼠径部で曲骨の外2.5寸。気衝のわずが5分(≒1㎝)外方になる。
<医心方>によれば「急脈の別名を羊矢(ようし)、陰部の腹と股が相接するところ」とある。羊矢穴周辺が羊のようにニオイがきつい(なまぐさい)ことを例えたものである。羊はもともと生臭い家畜であり、木を三つ合わせて「森」になったように、羊が三つ合わさるとなまぐさいという意味になる。部位的にアポクリン腺がある部なので腋の下と同じようなニオイとなる。羊矢の「矢」は、クサビ型(V字形)を意味し、左右の鼠径部が合わさるところを矢に例えた。

羊矢がニオイがきついことは、膻中穴もニオイがきついことを示すものである。膻は羊+亶からなり、亶はこってりした状態を示す。要するに「膻」のように生臭いという意味になる。これはおそらく乳頭からこぼれた母乳が両乳間に位置する膻中あたりに溜まり、それが発酵腐敗して羊のようなニオイとなったものだろう。
 

7.居髎(きょりょう)(胆)

居髎と環跳については、以前にも書いた記事があるので参照のこと。

居髎と環跳の位置と臨床運用  ver.1.1
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/7238c899cf40bfc3b09499a44a5f6a61

私は居髎を<こりょう>と習ったのに、いつのまにか<きょりょう>に変わってしまった。「居」はしゃがむ姿勢、「髎」は骨の陥凹部。膝を屈してできた陥凹部に取穴することから。これは和式トイレでの排便姿勢になる。上前腸骨棘の内縁で、鼠径溝外端、縫工筋の上前腸骨棘起始部にとる。直下に大腿外側側神経が縦走している。なお蹲踞姿勢とは下写真のような姿勢で相撲や剣道などで対戦前の儀礼姿勢になる。
            

 

8.環跳(胆)

側臥位、上になった側の股を関してできる鼠径溝の外端。「環」は丸いことで股関節回転軸を意味。「跳」はジャンプすることで、ジャンプ時に股関節は大きく動くことから。
居髎と環跳は、ともに股関節を強く屈曲した状態で取穴するのだが、居髎は股関節を屈曲させた上で、さらに外転させた姿勢で取穴することになる。


急性足関節捻挫には局所強刺激単刺+テーピング ver 1.6

2024-05-22 | 下肢症状

1.捻挫の概念

関節捻挫とは、関節が一瞬ずれ、次の瞬間には元に戻るという状況である。関節が元に戻った後に来院するので、関節包や靱帯など、関節支持組織の損傷ということになる。足関節に好発する。
※今回は、急性足関節捻挫を説明し、次回は慢性足関節捻挫をとりあげる。

2.捻挫の好発部位

1)足関節外側捻挫(内反捻挫)


足関節の靱帯損傷は、外果縁(前距腓靱帯、踵腓靱帯)、と内果縁(三角靱帯)に起こりやすい。足関節の外側靱帯には前距腓靱帯・踵腓靱帯・後距腓靭帯がある。これらの靱帯損傷を総称して外側靭帯損傷とよぶが、外側捻挫はとくに前距腓靱帯損傷が多い。
2度(詳細後述)以上の重度の靭帯損傷があると、前距腓靭帯+踵腓靭帯損傷の形となることが多い。



2)二分靱帯捻挫


踵骨から舟状骨に、また踵骨から立方骨に靱帯が分かれしてついているので、この二つの靭帯を合わせて二分靭帯とよぶ。二分靭帯捻挫は、外側捻挫とほぼ同様の機序で発症する。二分靱帯はまれに剥離骨折を生ずることもある。

日常診療においては、足関節捻挫の最多好発部位である前距腓靭帯と部位が近いので、見逃しやすく、正確な触診による圧痛点(外果のやや前方の圧痛)の把握が診断に重要である。二分靱帯捻挫は、後遺症なく治るとされている。


3)足関節内側捻挫(外反捻挫)


足関節の外反捻挫は、前記の内反捻挫と比べて少ない。足の内果と足根骨は4本の靱帯で結合され、これを総称して三角靱帯と称する(4つの靱帯個々の名称は記憶する必要なし)。

三角靱帯は強靱なので、大きな捻挫を起こすことは稀である。一方、強力な力を受けた場合は、剥離骨折を生じることもある。

 
3.捻挫の自然経過と治癒過程

1)炎症過程(急性期) 
捻挫では関節包靱帯を損傷し、関節包靱帯の内面の滑膜層に炎症性の腫脹が発生する。腫脹の中身は滑膜層からの分泌物で、これが関節包の中に充満すると関節の可動範囲が狭まり、疼痛が発生する。
関節包靱帯やそれを補強する側副靱帯などが部分断裂を起こすと、その部分より出血を生じ、見た目にも青黒く皮下出血斑が広がっているのが確認できる。そのため、いち早いRICE処置が必要となる。


2)消炎期(治癒期)

3~4日の急性期が終わると、腫れも落ち着き、各組織が移動を始めて新しい組織を生み出す準備を開始し、組織修復が始まる。この頃になると、最初の炎症期のような激しい痛みはなくなる。この組織修復の原動力となるものは腱に含まれるコラーゲンであるという。


3)再生期(修復期)

腫れが引き、治癒の準備ができると組織は再生と修復を始める。筋肉や腱、靭帯などの組織は、受傷後3~4日して瘢痕組織を形成してしばらくの間、補強され、数ヶ月後にはほとんど元の組織に回復する。この瘢痕が存在する時期は、捻挫を再発しやすい時期でもある。この時期に捻挫を繰り返して瘢痕組織を傷つけると、捻挫が慢性化してしまう。
また受傷後の毛細血管はケガから2~3日で修復を開始し、新しい血管を形成していく。この段階は約4ヶ月も続くことがある。
新しい組織が強い構造(ケガの前の正常な構造配列)を形成するためには、ある程度のストレス(運動)が必要なことから、適切なリハビリが重要になる。


4.重症度分類と処置法

1)第1度

病態:靱帯断裂を伴わない軽度または微小な捻挫。

症状:ある程度の腫脹を伴う軽度の圧痛。
治療:安静とサポーター

2)第2度

病態:不完全または部分断裂を伴う中程度の捻挫

症状:明らかな腫脹、斑状出血、歩行困難
治療:膝下歩行、3週間のギブス固定

3)第3度

病態:完全な靱帯断裂

症状:腫脹、足関節不安定性、歩行不能
治療:ギブス固定または手術


5.針灸治療


1)針灸の適応とテーピング固定


針灸治療は第1度捻挫に著効する。第2度にもある程度適応がある。第3度には適応がない。要するに痛いながらも何とか歩けるものが適応になる。針灸治療自体は鎮痛消炎目的で行うので、ごく軽い捻挫を除き、治療院でも関節固定を行うべきである。とはいっても捻挫の固定は整形外科や整骨院が本業とするところなので、針灸院レベルではテーピング固定(伸縮性のないテープを使用)を行う程度となる。逆にいえば、テーピング固定しても歩行困難な患者は針灸適応外といえる。針灸治療だけで固定をしない場合、痛み自体は間もなく消退するが、靱帯がゆるんだまま炎症が治まった状態(これを慢性捻挫とよぶ)に移行しやすい。慢性捻挫では、一定の負荷の持続で、関節部が腫脹し痛みを訴える。また捻挫を起こしやすくなる。



2)針灸治療法


現代医学においても、打撲・捻挫などの外傷の時に、圧痛点に局所麻酔を打つと治癒が促進されることが知られている。痛みを放置した状態→反射的に筋肉の緊張が強くなる→交感神経の緊張が続き、腫れや血行障害が続く、ということで局麻注射は痛みの悪循環を遮断する意味がある。
   
圧痛点に針灸治療を行う意義も同様で、鎮痛→筋緊張緩和→交感神経緊張緩和→血行促進→自然治癒力増強という機序が作用する。

代田文彦は、「捻挫時の圧痛点刺針は、骨膜に至るまで深刺した方がよく、その理由として骨膜は広汎に響きを与えられるので、刺針効果の及ぶ範囲が広くなる」と話していた。針灸治療自体は容易で、捻挫部の圧痛点を数カ所みつけ、そこに強刺激の単刺法を行う。結果として阿是穴治療になることが多い。
刺針時の患者体位としては、捻挫部を広げて靱帯伸張させて刺針すると針が骨間の凹みの底に至りやすくなり、針の響きも広範囲になる。

 


3)第Ⅰ度の急性足関節内反捻挫の局所治療奏功例(2022.8.9 柏原修一氏報告)

患者:64歳、男

主訴:右足首の内反捻挫。

現病歴:2022.8/6に趣味のランニング中に道路の凹凸に足をとられて右足首の内反捻挫。

所見:内出血、発赤、熱感、腫脹なし。内反動作で右外果下部に動作痛および圧痛。重症度分類はⅠ度と推定。

治療:第5期針灸奮起の会 「下肢症状の治療技術」に基づきⅠ度の急性捻挫と診断し、右外果下の圧痛点5カ所に寸3-1で単刺。半米粒大の艾炷2壮を9分透熱灸。その後キネシオテープ3枚で固定。通常歩行動作で痛みのないことを確認。

考察:本症例は受傷後3日目の軽度急性捻挫と診断し、単刺と9分灸で消炎措置を行い、キネシオテープで固定して様子をみてもらうこととしました。本症例は、Ⅰ度の足  関節内反捻挫といことで、鍼灸はよく奏功するが、ここで必要となるのが、捻挫の重症度区分を見分ける知識である。Ⅰ度であれば歩ける。Ⅱ度であれば立てるが歩けない。Ⅲ度では立つこともできないという区分が役立つだろう。


こむら返りの病態生理と対応 ver.1.1

2024-05-21 | 下肢症状

1.こむらがえりとは

こむら(=腓)返り」とはふくらはぎが、つ(=攣)ること。腓腹筋痙攣 cramp in the calf で、これは有痛性筋痙攣の一種。腓腹筋に起こることが多いが、大腿、前脛骨筋、足指、足裏にも起こる。
 

2.病態生理

近年の研究では、“こむら返り”は、筋肉そのものではなく筋紡錘や腱紡錘(ゴルジ腱器官)がトラブルを起こした結果、発症するものと考えられるようになった。
  
1)運動時に起こるこむら返り
    
筋が伸びるとその中にある筋紡錘も伸びる。すると「筋が引っぱられた」との信号を中枢に送る。すると脳は「これ以上伸びると危険なので縮め」との指令を出し、運動ニューロンを介して筋が縮む。
運動をしている最中や運動の直後に、こうした状態になりやすい。筋紡錘の機能が過剰亢進すると筋肉が収縮し続けるので、こむら返りをきたす。
 
事例:かつて95才男性が当院に来院していた。ゴルフマニアで冬でも週1~2回はコースを回るのを生き甲斐としている。しかし最近気温が下がったせいか、プレイ途中でふくらはぎが痙攣し、どうしても途中棄権してしまうと訴えた。私はとりあえず痙攣しそうな処に、痙攣する前に円皮針を貼るよう指導した。すると次回来院時に言うには、以降ふくらはぎの痙攣はなくなり最後までコースを回れたと非常に感謝された。本患者は円皮針を外すことなく、次々に追加して貼ったので、ついに片側の下肢だかで数十個貼っている状態となった。風呂に入るのなで自然にとれるまで貼っておくと話していた(風呂で足裏に針が刺さるというので家族には不評だった)。
 

2)睡眠時に生ずるこむら返り
    
腱紡錘は、主に筋の縮みを感知するセンサー。筋が縮むと、腱紡錘はその縮みを感知。それを中枢に伝達。脳は「腱に負担がかかり過ぎになりそうになると、筋肉や腱を守るために、「これ以上縮むな」との指令を出す。
ところで、<こむら返りとは骨格筋が強烈に縮む>ことである。脳は「これ以上縮むな」という命令を出しているのだが、腱紡錘の機能低下により、筋紡錘は勿論、腱紡錘も緩む方向に誘導できず、筋収縮を止められない。この結果としてこむら返りが生ずる。

 

図1:一つの筋中に筋線維は多数あり、筋紡錘もこれに並列に並んでいる。筋紡錘自体は、筋収縮する機能はなく、筋の伸張程度をモニターしている。筋線維が伸長すると「引っぱられた」との情報を得る。
図2:腱紡錘は筋腱移行部に直列で存在する。筋線維が収縮すると、腱紡錘は「引っぱられた」との情報を得る。この時、筋紡錘は無反応。

 

3.腱紡錘の働きが鈍る原因

こむら返りは、激しい運動中でも起こるが、安静にしていて起こることの方が多い。とくに睡眠中にこむら返りが起こると、痛くて目が覚めるほどになる。安静時にこむら返りが起こるのは、腱紡錘の働きが鈍るのが原因である。ではなぜ働きが鈍化するのだろうか。
  
1)睡眠中

睡眠中は、筋肉の弛緩が長時間続く。これは腱紡錘への刺激がない状態が長時間続くということでもある。すると腱紡錘が休眠してしまい、腱が引っ張られたことを感知できなくなる。その結果、筋肉の収縮を抑制せずに、筋肉が収縮したままの状態になる。

2)
電解質の異常
筋肉の収縮の調節にかかわるのがMgとCa。不足すると神経伝達に支障が生じ、腱紡錘の働きも鈍くなり足がつる。これはスポーツ中に脚がつるなどの場合の原因になるが、加齢や疲労、脱水、冷えなどによってもミネラルバランスはくずれ、同様の機序で足がつる。高齢者では咽の渇きを感じにくいので脱水に注意する。
  
3)冷え
布団から足が出ていたりして足が冷えると、血流が滞るので、これも足がつる原因になる。
   
4)器質的疾患
脊髄疾患:脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア
代謝疾患:糖尿病、腎臓病、肝臓病     ←入院で輸液が必要になる程度の電解質異常がある場合
血管疾患:閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤
 

4.つった時の対処法
  
1)筋収縮が生じた筋肉を他動的に伸ばすことで、ゴルジ腱器官を刺激。腓腹筋痙攣発作時には、経験的に発作が治まるまで母趾を強く背屈させて腓腹筋ストレッチをすることが有効である。夜間の発作の最中この動作をするのは、起き上がらねばならないので面倒である。しかし患側の足母指のMP関節を強く背屈させて、腓腹筋だけでなく長拇趾屈筋・総趾屈筋のストレッチをするようにすれば仰臥位のままできる。ちなみに長拇趾屈筋は、バレリーナがつま先立ちをするために鍛えるべき筋として知られている。



 

2)手足、とくに足の保温につとめる。具体的には腓腹筋部に保温のためのサポーターを施す。

3)芍薬甘草湯:
つったときに頓服的に服用する。ただし事前に服用しても効果あり。 効果発現まで平均6分。効果持続時間は4~6時間。内臓平滑筋痙攣も適応になる。
 

5.深腓骨神経ブロック(局麻注射)
   
高山瑩・伊藤博志は、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局麻注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少すると発表した。一度行えば数カ月間、効果が持続する。なお中封からの深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝ブロックよりも効果は劣った。
(「腰痛などを伴っているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1):126--130.2002)

※この神経ブロックは、原理的に足母指を強力に背屈させるのと同じだが、持続作用があるらしい。太衝に円皮針を置いても効果あるだろうか?

6.腱紡錘の反応性鈍化が原因だとすれば、腓腹筋がアキレス腱に移行する部である承山あたりの刺激が有効となるかもしれない。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


へバーデン結節の治療 ver.1.4

2024-05-18 | 上肢症状

1.病態
 
1)手指のDIP関節にみる変形性関節症。DIP関節基底部背側中央の伸筋腱付着部を挟んで、2つのコブ(結節性隆起)があるように見える。これは関節の炎症により関節包がゆるみ、摩耗した骨が周囲に骨棘を増生させて骨性の膨隆が生じる結果である。屈曲方向に曲がりはじめる。

 


2)ヘバーデン結節の症状は主に運動時痛だが、初期にはDIP関節が左右対称性に赤く腫脹し、自発痛を伴うことがある。 一方、3ヶ月が経過し、ある程度変形が進んで関節の動きが悪くなると、痛みがなくなる者が多いとされる。しかしいつまでも痛みが去らない者もおり、通院しても痛み止めや湿布を処方するばかりで、医者は頼りにならず、針灸で何とかならないかと来院する。

※ヘバーデン結節の語呂
①「女は40でへばる」 ヘバーデン結節は、女性の中年以降(40才)に多発する。
②指を上に向けて「ヘブン(天国)」。DIPはヘバーデン結節、PIPはブシャール結節


2.腱付着部症としてのヘバーデン結節

ヘバーデン結節部の圧痛点を探ると、DIP関節の2つのコブの間にあることが最も多く、他に左右側面に、そして時にはDIP関節掌側面中央にみることもある。時計の文字盤でいうと12時、3時、6時、9時以外の圧痛点は、あまりない。すなわち圧痛点は、いずれも腱や靱帯部分になる。

2つのコブの意味は、背側側腱付着部組織は隆起し、腱の骨付着部症がある。これは腱付着部  に微細な損傷をうけ、その修復機転としての軟骨化生、瘢痕性肥厚、石灰沈着、骨棘形成などが  発生している状態だとされるが、コブそのものに圧痛はないことが興味深い。痛みの正体は、変形に由来する関節包からくるのではなく、腱付着部症なのではないかとのの見方もできる。(辻田祐二良ほか:いわゆる「指曲がり症」(ヘバーデン結節)発症メカニズム、産業医学、1988)

腱付着部痛は次の機序で進展する。
指のDIP関節の変形
→関節包痛および関節変形にともなう腱痛(指背側にある指伸筋腱、指腹側にある浅・深指屈筋腱、 関節側面にある側副靱帯)付着部痛
→指の屈伸で痛む 
→痛むので指の屈伸運動をしなくなる。
→たまに屈伸運動する際には、以前よりも強い痛みを感ずる。


3.局所針灸治療

へバーデン結節の痛みは、筋腱付着部症と関節包の痛みの2種類あるが、腱付着部症の痛みが 主体になると考えられる。一般に施術直後は減痛できるが、持続作用は一両日なので自宅施灸を毎日行わせる。

1)DIP関節基部背面の左右に、2つのこぶ(へバーデン結節)が出現する。その中点に指伸筋腱が走行しており、鍉針でさぐって圧痛がある部に糸状灸。指伸筋腱の末節骨停止部に圧痛あれば、この部にも糸状灸。施術は、DIPとPIPとも屈曲させた状態で行うと、指伸筋腱が緊張するので、効果増大が期待できる。  
2)DIP関節側面の側副靱帯停止部に細針にて浅く刺針。その状態でDIP屈伸運動実施。
3)DIP関節側面の側副靱帯部に圧痛あれば糸状灸を行う。

   

4.遠隔針灸治療
  
指の背面にある指伸筋腱、および指腹側にある浅・深指屈筋腱に続く筋収縮をゆるめる目的で行う。これはⅠb抑制に相当する。すなわち腱を刺激すると腱の続く筋緊張が緩むと言う生理的現象を利用する。余分な筋収縮がなくなると、腱をひっぱる力も弱くなるので関が屈曲しやすくなる。
浅指屈筋腱(第2~第5指のPIP屈曲)と深指屈筋腱(第2~第5指のDIP屈曲)に続く浅指屈筋と深指屈筋は、下図の位置にある。浅指屈筋と深指屈筋に対する刺針は、手根管症状群と同様になる。ヘバーデン結節のPIP関節掌側面中央の痛みに対しては、浅指屈筋に対する刺針になり、郄門あたりから深刺する。

 

指伸筋腱の延長上にある指指筋に対する施術は、三焦経の四瀆(前腕中央)および三陽絡(四瀆の下方1寸)になる。手関節を背屈させた肢位で行うとよい。

 

 

5.手技療法   

1)指コロ指圧ローラー 

指伸筋腱、指屈筋腱、指でつまんでこするように上下にすべらせるような、商品名「指コロ指圧ローラー」(富永喜代医師考案)で刺激する。本製品はアマゾンで千数百円で入手できる。

2)指元圧迫しつつ指屈伸運動(Flexor Tendon Gliging Exercise)

代田文誌は、バネ指に対し、手首を締めつけるように押圧しつつ、指を屈伸運動させることがバネ指に効果あると発表した。これを追試してみると、ある程度の効果は認めるも、驚くほどの効き目はなかった。それでも患者が自宅で行わせるには適したものだった。筆者は文誌のやり方にヒントを得て、結節ができている腱の延長上にある前腕筋に刺入し、指の屈伸運動を行わせることを考案した。この効果は優秀で、現在でも筆者の得意とする治療方法となっている。

バネ指の針灸治療 ver3.3(2022.6/10)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e5b5616ff27ed725e4841034d9eee012

これと同じような考え方をヘバーデン結節の治療に応用できないかと考えた。
ヘバーデン結節のある指腹と指背の根元を、もう片方の母指と示指ではさむよう強圧しつつ、指の屈伸運動を行わせる。
これは昨夜、寝ている最中に思いついたばかりである。

上記原稿を書いた6日後に、ヘバーデン結節で来院中の患者が来院した。

症例 (50才、女性)
主訴:右小指ヘバーデン結節による痛み、左示指にもヘバーデン結節あり。
現病歴:当院初診(令和5年8月下旬)2~3ヶ月前に上記ヘバーデン結節による痛みを訴えて来院。
右小指ヘバーデン結節の圧痛点は、PIP関節背面中央(指伸筋腱上)、PIP関節掌側中央(指屈筋腱上)、左右の側副靱帯中央の4カ所にあり。左示指の圧痛点は背面、左右側面の3カ所にあるが、掌面にはない。ヘバーデン結節自体は存在するが、目立った隆起にはなっていない。

当初、本患者のPIP関節圧痛点に対して、ゴマ灸それぞれ2壮を行い、関連症状と思えるテニス様症状に対して、短橈側手根屈筋(手三里のやや尺側)に運動針を行った。自宅施灸を行わせ1~2週間に1度施術を行い、6ヶ月ほど経過した。
本日(令和6年2月24日)、次の方法で治療を試みた。治療直後効果は不明だが、③を自宅にて1回20回指の屈伸を1日2回以上をやってもらうことにした。
 ①局所へこゴマ灸、それぞれ1壮
 ②浅指伸筋(郄門の内方で心経上)へ運動針
 ③基節骨圧迫による患指屈伸運動


この原稿を書いている時点で、このエクササイズは私が考案したつもりでいたが、実際はすでにリハ分野では知られている方法で、Flexor Tendon Gliging Exercise (屈筋腱滑走訓練)という。腱の滑走は、現代のリハ訓練で重要視されている。指の屈筋腱には、浅指屈筋腱と深指屈筋腱の2つがあり、これらは腱内でまとめられ、その下の骨あたり押さえつけられている。関節の動きを生み出すには、腱は腱鞘内で個別に滑る必要がある(差動滑走)。腱の滑りが抑制されると、関節の可動域、筋力の低下、協調性の低下、手を使う能力の低下に影響を与えるようになる。適応症は手根管症候群だが、バネ指やヘバーデン結節にも有効だと思えた。

治療経過と効果

主訴がヘバーデン結節に伴う示指と小指の痛みに対し、治療院内で指導し、自宅でも1日4回、1回20回の指の屈伸運動を行わせた。患者は頑張ってこの運動法を忠実に実施した。当初この運動効果は判然としなかったが、3ヶ月経った頃にはっきりと治療効果が現れた。患者自身の口から、「ずいぶん痛みが減った」と回答した。
本患者は、その後も指の屈伸運動を続け、さらに1ヶ月後は痛みがほぼ消失。私が関節部を触診しても、どこにヘバーデン結節があるのか圧痛点が確認できないまでになった。

別の患者で、変形性膝関節症およびオペ後遺症(下腹部痛・肋間神経痛)を訴える者がいて、あるときヘバーデン結節の痛みを訴えた時があった。これは程度が軽かったこともあり、一回の上記運動法で痛み消失したこともあった。
 


ドレス色と静脈色の錯覚 ver,1,1

2024-05-14 | 雑件

1.ドレスの色の錯覚

015年頃、「写真のドレスの色は何色か?」ということで世間を大いに賑わせた。問題となった写真を見ると、私には黄色+白色に見え、それ以外に見えようがなかった。しかし人によっては青色+黒色にも見え、実物のドレスの色も青色+黒色だという。

この謎現象について、非常に理解しやすい絵を発見したので、転載した。

 

上段の2枚の絵は、左の女の子が青+黒の服を着ていて、右の子は黄+白の服を着ているかに見える。しかし左図の黒色部分と右図の黄色部分は、実は同色である。四角で囲んだ色はどれも同じなのである。

下段の2枚の絵は、上段の図を反転させたものである。つまり補色になっている。青色の補色は黄色、赤色の補色は緑色といった具合に。上の絵で上段のドレスの青色が下段では黄色に変化しているのがわかる。上段の黒色は下段では灰色となるが、背景が濃い灰色なので相対的に白色と認識されるようだ。

2.静脈色の錯覚

これだけの話ならば、改めて本ブログで取り上げるような話ではない。ところがである。

昔から医学書では静脈が青色で示されているのが常識だったが、
青く見える静脈は実は灰色だったということが判明してきた。人間の静脈は肌の色との対比による目の錯覚で青く見えているのであって、静脈の画像を物理的に確認しても、静脈の色は青ではなくむしろ灰色に近いという。(立命館大学文学部の北岡明佳教授による)


3.「
ドレス色の錯覚」の後日談(令和6年5月14日ニュース)

ドレスの色云々は、単純に面白いトピックだったので世界的なニュースとなった。
このドレスは、スコットランドに住むジョンストン夫妻の結婚式の際に使用するため、娘の母が贈ったものだった(それにしては
カジュアルすぎるが)。その後、夫婦になって11年間、この新郎は家庭内暴力を行い、殺人未遂の疑いで起訴されたことで、「ああ、あの人が・・・」ということになった。つまらないことで二度目のニュースとなってしまった。

 


腕神経叢刺激ポイント ver.1.1

2024-05-14 | 頸肩腕症状

腕神経叢刺激には、側頸部から行う天鼎刺激と上背部から行う肩中兪の2つがある。一見すると天鼎の方が高く、肩中兪は低い位置にあるように考えが地だが、実際にはほぼ同じ高さにでる。

1.肩中兪

1)肩中兪深刺の適応

   
肩中兪(C7棘突起外方2寸)深刺では第1肋間(第1肋骨と第2肋骨間)に刺入できる。この刺針の適応は、頸部交感神経節刺激の他に、腕神経支配領域の症状に対する治療としての使い道がある。

     
腕神経叢はC5~Th1神経前枝からなるが、腕神経叢から起こり、中府・雲門あたりの大胸筋部痛、肩甲間部痛、後方四角腔部痛に対して、効果あることが多い。一方、肘を越える前腕~手指症状は、腕神経叢部の前・中斜角筋刺針の方が効果がある感触である。このような前腕~手指症状がある場合、患側上の側臥位で、肩中兪深刺と天鼎から前・中斜角筋刺針(これも腕神経叢の傍神経刺)を併用する方が多くなった。

 上記神経枝で、小後頭神経と大耳介神経は知覚枝のみである。他の神経枝は運動枝のみなので痛むことはない。


2)傍神経刺としての肩中兪

     
木下晴都氏の肋間神経痛に対する傍神経刺は、棘突起の外方3㎝からやや脊柱方向に10°傾けて4㎝ほど刺入すると記載されている。追試してみると良好な結果を得られたのだが、誤ると気胸になるかもしれない危険性がある処である。

木下の治療理論は、間神経に接触する外肋間筋を緩ることを治療根拠としているようだが、これは危ない針になりかねない。フェリックス・マンは「鍼の科学」の中で、突起端にぶつけると、神経根刺激と同様な響きが得られると記しており、横突起付近は筋の重積が密であることから筋膜癒着が症状の本態なのではないかと予想した。要するに、棘突起外方3㎝ではなく、棘突起外方2㎝(すなわち外方1寸)から深刺して横突起付近の筋膜に響かせることが重要になるのだろう。

 

3.天鼎(中国式)

中国式天鼎は、腕神経叢刺激点と同じ位置になる。刺針すると強い針響を上肢や肩部に送ることも可能である。ただし強い響きを与えることが治療効果と直接結びつくことがなく、筋の絞扼症状としての腕神経叢興奮は、筋緊張を緩めることの方が本質的になるだろう。

※学校協会編の天鼎は、喉頭隆起外方3寸、下顎角下方1寸、胸鎖乳突筋前縁に扶突をとり、その後下方1寸で胸鎖乳突筋後縁になる。


1)腕神経叢直接刺激点としての中国天鼎

頸椎側線中央にある横突起の並びで、C6C7横突起を触知し、その内縁に刺針する。針は前斜角筋と中斜角筋の間を通過して、腕神経叢を刺激できる。

2)傍神経刺としての中国天鼎 

 頸を前面からみると、胸鎖乳突筋→前斜角筋→腕神経叢→中斜角筋の順に層をなしている。腕神経叢傍神経刺とは、C6の高さで胸鎖乳突筋外縁を刺針点とし、同じ高さの棘突起方向に刺針する。針は前斜角筋→中斜角筋と刺入する。途中で間接的に腕神経叢に影響を与える。こちらの方が穏和な刺激感になる。

同様の企図をもつものに木下晴都の扶突からの腕神経叢傍神経枝がある。扶突は、C4(甲状軟骨の高さ一致)する。C4は頸神経叢の高さになるので、腕神経叢を狙うには高位すぎるため、本稿では腕神経叢傍神経刺として天鼎(C6で輪状軟骨の高さ)を用いることにした。

※扶突の語源
「扶」には、手を揃えて助けるという意味がある。それが発展して4本指(示指から小指)を揃えて伸ばす意味となり、骨度法ではこれを3寸とした。

「突」とは甲状軟骨のでっぱりを意味するので、そこから3寸離れた部位を扶突とした。


椅座位で生ずる右大腿後側痛に、大殿筋トリガーポイント刺鍼が有効な例(85歳、女性)Ver.1.2

2024-05-11 | 腰下肢症状

1.症例(85歳、女性)

主訴:右大腿後側痛

現病歴:
当院初診15日ほど前から、思い当たる理由なく、右大腿後側痛が出現した。仰臥位時や立位、歩行時には痛まないが、椅子に座ると痛み出現し、我慢できないという。


理学所見:
症状部である大腿後側中央の殷門穴あたりに強い圧痛あり。坐骨神経ブロック点の圧痛なし。下腿から足部にかけての圧痛も目立たなかった。

当初の診断:
痛みが下腿にないこと、坐骨神経ブロック点すなわち梨状筋にも圧痛ないことから、ハムストリング筋の限局的なトリガーポイント陽性と判断。


初期の鍼灸治療:
側臥位で坐骨神経ブロック点・殷門・下腿坐骨神経走行沿いの経穴に刺鍼するも効果もないので、殷門付近の局所集中置鍼を行い、筋の完全弛緩目的で20~40分ほど置鍼してみたが、治療効果は術後1時間程度しか保てなかった。同治療を繰り返すと、徐々に効いてくるのではないかとも思って、1ヶ月間に20回この治療を行うも前進はみられなかった。


2.大殿筋トリガーへの針灸治療として

「痛みを再現する動作をさせて反応点を見出し、刺激する」という鉄則を思い出した。

ベッドに座らせると、やはり大腿後側でベッドに押し付けられる部が痛むというので、その姿勢のままやや患側殿部をベッドから浮き上がらせた姿勢をとらせ、大腿後側に指を差し込んで圧痛を診てみた。すると圧痛は大腿後側になく、承扶(殿部と大腿後側の境界)あたりにあった。要するに大腿後側痛は放散痛部位にすぎないらしかった。

承扶の圧痛を発現させた肢位で刺鍼することは難しいので、側臥位で再び承扶を押圧してみると圧痛はなくなっており、仙骨外縁に新たな圧痛を発見できた。
この仙骨外縁は梨状筋症候群で、しばしば圧痛をみることが多いが、今回の仙骨外縁の圧痛は単に下向きの力で押圧しただけでは発見できず、大殿筋起始部から仙骨外縁を強く押し付けるようにして初めて強い圧痛点反応となって把握できた。針も大殿筋起始から仙骨外縁にぶつけるように刺鍼し、やっと持続効果を得ることができた。


 

3.同様の症例に遭遇(62才、女性)

数年後62才女性で、3週間前から両側の下殿部が痛むとのことで来院。近くの整形を受診して座骨神経痛といわれ、湿布を渡されたが効果なかったという。
この時は、当方も経験を積んでいたので、直ちに大殿筋のトリガー活性症状であると診断できた。ただし仙腸関節部の圧痛も強く、仙腸関節機能障害も合併しているかと思えた。治療は、側臥位にて仙腸関節運動針を行い、側臥位で承扶あたりの圧痛点に中国針を手技針した。
これで症状は少し改善した。
大殿筋が緊張して収縮して痛むのだがら、大殿筋を伸張して施術するため、立位出できるだけ深く前屈する姿勢をさせた状態で、承扶あたりの圧痛点に軽い手技針を実施し、症状はさらに改善。承扶に置針した状態で静かに数歩歩行させるという運動針を行って抜針。これでほぼ症状消失した。

本症例を通して気づいたことは、2つある。
1)仙腸関節の圧痛は、仙腸関節機能障害だけでなく、大殿筋トリガー活性でも生ずること。このことは、上図を見れば、その通りの状況である。すなわち大殿筋のトリガーポイントは3箇所あり、①仙骨との付着部付近の中央(=仙腸関節部)、②座骨結節の後方付近(=承扶)、③尾骨下部付近(会陽)、であるという。
本例は、②の承扶に最大疼痛部があった。

2)大殿筋収縮している際の伸張痛は単に承扶に刺針するよりも立位前屈で行うと効果的であること。その立位前屈も、両手掌をベッドにおいて上体を支えるよりも、ベッド等を使わず、手を自分の下肢の方にもていき、深く前屈させた方が有効であることも実感した。後者の体位の方が、大殿筋を強く伸張されるからであろう。

 

 


肩中兪刺針の針響 ver.1.2

2024-05-11 | 頸肩腕症状

1.肩中兪刺針は腕神経雄に影響を与える
(鈴木由紀子:腕神経叢の圧迫に肩中兪「疾患別百科 頚肩腕痛」、医道の日本社、2001.3.25)

取穴:座位。大椎穴(C7T1棘突起間に大椎をとり、その外側2寸。

  ※定喘:大椎の外方1㎝、治喘:大椎の直側(外方0.5㎝)   

刺針:2寸4番針にて直刺4㎝。(椎体の外側を深刺する)


考察:
肩中兪の直刺深刺は解剖学的は腕神経叢に直接命中するのではなく、僧帽筋→肩甲挙筋→中後斜角筋→前斜角筋と貫く。腕神経叢は、前斜角筋と中斜角筋に挟まれた形で存在するので、肩中兪の針は間接的に腕神経叢に影響を与える。


.新針法の肩中兪刺針の針響
(長尾正人「弾発指から上肢の神経痛・五十肩まで」医道の日本、平成11年12月号より)
 
刺針法やや上方からの深刺→肩関節部へ針響(肩甲上神経刺激)                  

ほぼ中央からの深刺→上肢へ針響(橈骨・正中・尺骨神経刺激)            
やや下方からの深刺→肩甲間部のコリに効果(胸神経後枝刺激か?)           

※上2者は、腕神経叢刺激だろうか。括弧内の神経は筆者推定。  


3.肩中兪刺針の私的見解(似田)

 
坐位で2寸4番針にてやや脊柱側に向けて10°の角度で直刺4㎝。椎体の外側を擦るように 入。深刺すると斜角筋・腕神経叢刺激になり、星状神経節にも影響を与えるのだろう。したがって頸椎神経根症、前斜角筋症候群に適応があるのは勿論、頸部交感神経節刺激という点から、バレリュー症候群、気管支喘息、などにも適応がある。

肩中兪から斜角筋に刺針し、さらに少々深さを増すようにすると肩甲間部に響くようだ。

 

長尾氏は、肩中兪から下方に深刺すると 肩甲間部のコリに効果あると記しているが、これを肩甲間部に響きが得られるというように解釈し、その針響の起こる理由を考えてみた。胸神経後枝を刺激するとも考えたが、あまりに深刺になるので無理があった。
 
しかし前斜角筋のトリガーポイントを考えると、この疑問は氷解したようだ。斜角筋トリガー活性時、放散痛は肩甲間部にも出現するということだ。さらには甲間部以外にも、上肢に響いたり、肩関節部にも響くようだ。針の方向によって意図的に針響方向を変えるのは難しいが、被験者の痛み閾値が低下している部分(すなわち患部)に響くということだろう。


先に紹介した鈴木由紀子氏の考察は、当時はまだトリガーポイントという考え方が普及する以前の頃のもので、やむを得ない。

 5.代田文誌の治喘刺針の針響報告
(「針灸臨床ノート」第4集、医道の日本社刊、昭和50年6月30日)

肩中兪についての上記文章を書き終えた後、同じようなことを代田文誌先生が書き残していたことを想い出した。治喘の穴」とのタイトルで、「快速針刺激法」にでている治喘穴についてであった。治喘穴との名称は、これまでわが国では知られていなかった。文誌が、これまで治喘穴を大杼一行として用いていたものだった。「快速針刺激法」の記載は次の通り。

取穴:C7棘突起とTh1棘突起間に大椎をとり、その2~3分傍ら。骨縁。
主治:喘息、咳嗽、脊柱両側の痛み、後頭部の痛み。
針法:直刺1~1.5寸
針感:しびれて腫れぼったい感じが、下方に伝わり、背部または腰部に達する。

文誌自身の体験:昭和46年12月初旬に流感となった。葛根湯を飲んだり、身柱や風門に灸したがよくならず、やや慢性して咽痛や咳が出はじめ、夜中に咳がでて呼吸困難を感じるほどになり、布団の上に座っていなければならぬほどになった。
そこで自分で治喘と思えるところに針を打ってみたら、やや楽になったので、息子の文彦(代田文彦先生)に「快速針刺激法」の通り、治喘の針をしてもらった。
針尖を脊柱に沿って下方に向け、約1寸5分ほど刺入してもらった。すると脊柱に並行して下方に5寸jほどひびいていったが、針を抜いて更に直刺1寸ほどしてもらったら、針のひびきは、頸の方から咽の方に達した。すると間もなく咽が楽になり、咳が鎮まってきて、体を横にして眠ることができた。(以下略)

似田の見解:感冒は通常、発病後5日前後までは進行期(=副交感神経優位状態)であり、その後に回復期(=交感神経優位状態)に変化して発病7~10日程度で治癒する。副交感神経優位の症状とは、鼻水・発熱・だるさ・食欲不振などで、交感神経優位症状とは硬い黄色の鼻水出現であるが、この交感神経優位段階では元気を回復しており、日常生活ができるまでになっている。
しかし患者の中には7~10日どころか、数週間もカゼをひいている、カゼが抜けないという者がいる。これは、なかなか交感神経優位状態に移行できない者なのだろうと筆者は考えている。この時のカゼの治療は、交感神経を優位にするような施術を行う。具体的には「身体に活をいれる治療」で、座位にての強刺激の施灸がよい。

治喘から深刺しても斜角筋に達しないが、この部の筋(長短回旋筋など)状態が過敏状態となっていたので斜角筋に影響を与え、併せて交感神経優位に導いたとものと解釈した。

 

 


後頸痛に対する針灸治療の総括 ver.1.4

2024-05-06 | 頸肩腕症状

シンプルに私の行っている後頸痛の針灸治療を整理してみた。

2018.9.7で「本稿での後頸部の経穴位置と刺激目標」ブログ(以下)を発表した。今回はそれから6年経た現在の進捗状況である。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/813c479992742718841d4e2777582ff0

 

1.胸椎・腰椎部筋の構造と針灸治療方法のおさらい
     まずは背腰部固有背筋を整理し、頸部の固有背筋と比較する。

起始・停止とも背部にある筋を固有背筋とよび、脊髄神経後枝支配である。胸椎と腰椎における固有背筋の構造は、浅層には起立筋があり、棘筋・最長筋、腸肋筋に細分化される。深層には横突棘筋があり、半棘筋・多裂筋・回旋筋(長短)に細分化される。
   

頸椎では頭・頸半棘筋が、胸椎は長・短回旋筋が、腰仙椎では多裂筋が発達している。横突棘筋の機能は、上下椎体間の静的安定を保つ役割と、脊柱運動(前後屈や左右回旋)の際、生理的範囲を越えた動きをないよう捻挫しないよう制限をかける役割がある。脊柱を動かす筋は、棘筋・最長筋、腸肋筋といった浅層筋であるが、これらは背腰痛を起こすような障害はあまり起こさないので、針灸治療上は考慮する意義は薄い。つまり腰痛の治療穴として代表的とされる腎兪や大腸兪は、実際には治療穴として使う機会はあまりない。
   

背腰痛の針灸臨床の場合、症状部の撮痛の発見→脊髄神経後枝興奮エリアの把握→後枝が脊椎傍から出る部への刺針→症状改善という一本道の考え方で成功することが多いので、これは針灸治療定理の一つとなる。背部部一行からの深刺が効く訳は、背腰痛の大部分は、横突棘筋の過緊張が真因だからだろう。

2.頸椎の筋の構造

※上図は以前に筆者が創案したものだが、長らく「脳戸」を「脳空」と誤って記載していた。ここにお詫びとともに訂正させていただきます。
脳戸の外方1.3寸に玉枕、脳戸の外方2寸に脳空がある。
脳戸(督)-玉枕(膀)-脳空(胆)と横並びになる。語呂は、脳(脳戸)のマクラ(玉枕)はからっぽ(脳空)。

頸椎では起立筋に代わり後頭下筋と板状筋が存在している。横突棘筋は胸椎~腰椎と同じように頸椎でも存在している。

1)後頭下筋の機能と刺激点

①後頭下筋は、後頭骨-C2間にある。その主作用は頭の前後屈運動の際、頸椎アラインメントからの逸脱防止がその役割になるが、うがいをする際は、後頭下筋の最大屈曲(25°)、顎をひく際は最大伸展(10°)が必要となり、これは後頭下筋の仕事になる。

②下頭斜筋を除く後頭下筋3種は、後頭骨下項線に停止がある。その代表刺激点は上天柱穴である。天柱刺針では大後頭直筋の下方に入ってしまうので、後頭下筋群に対する治療穴としては 適切な治療穴とはいえない。
C1C2棘突起間の外方1.3寸に天柱穴をとり、その上1寸で後頭骨-C1間に上天柱をとる。上天柱から直刺すると、僧帽筋→頭半棘筋→大後頭直筋と入る。なお僧帽筋は肩甲上部を挙上(肩をすくめる動作)する機能なので、頸部筋としての作用はない。

2)頭半棘筋と刺激点

①頭の前後屈運動の主体となるのは後頭下筋の浅層にある頭半棘筋で、頭半棘筋は頭の重量支持の大黒柱なので太く発達している。

②頭半棘筋の停止は、後頭骨上項線にあるので、治療点としては上天柱のさらに上方の下玉枕になる。ちなみに上項線中央にある外後頭隆起の直上に脳戸穴があり、脳戸の外方1.3寸に玉枕穴がある。脳戸の外方2寸には脳空穴がある。

③後頭下筋は、C1後枝(=後頭下神経)により運動支配を受ける、後頭下神経は知覚成分をもたないので、筋痛を生ずることはない。しかし後頭下筋と頭半棘筋の間をC2後枝(=大後頭神経)が通過して後頭に向かう部なので、後頭下筋の筋コリは大後頭神経痛のワレーの圧痛点になる。

大後頭神経痛の原因の大部分は、頭半棘筋の神経絞扼が原因となる。治療穴は下玉枕または上天柱になる。

 


3)頭半棘筋への効果的な刺針体位


腹臥位で大後頭直筋に刺入するよりも、この筋を伸張させた肢位で刺針すると奏功しやすい。

通常は下図の方法で行うが、この時患者の頭は術者の心窩部に当てる。

下玉枕ともなると、頭半棘筋の直下に頭蓋骨があるだけなので、直刺ではなく斜刺がよい。たとえば左下玉枕を刺入点とすれば、右下玉枕方向に斜刺する。

術者が女性で患者の頭が胸に当たることが気になる場合、下図の方法を使うこともできる。ただし下図では運動針を併用できなくなる。

 

4)頭の左右回旋運動と筋

①頭蓋骨を左右に回旋する主動作筋は、頭板状筋である。頭板状筋は、中部頸椎棘突起と乳様突起を結ぶ筋で、後頸部において頭部回旋の主役である。k頸椎全体での回旋ROMは左右それぞれ60°であるが、うち45°はC1-C2間で行われる。この左右回旋の主動作筋は、おそらく頭板状筋ではないだろうか?

②頭板状筋を刺激するベストポイントは下風池穴になる。風池穴でもよいが、頭板状筋筋腹を刺激するには下風池の方が適している。
ちなみに風池から深刺しても上頭斜筋に刺入できない。なぜなら上頭斜筋はあまりに深い位置にあるため。

 

※下風池はあまり聞きなれない穴名かもしれないが、芹沢勝助は耳鳴時に圧痛がみられるポイントとして本穴を紹介していた。ただし芹沢は、天柱と風池を一辺とした正三角形の頂点と記していた。一側の頭板状筋の緊張も後頭下筋と同じように一側の内耳機能を亢進させる。この左右差のコリの程度の違いが内耳症状を生ずるらしい。


5)頭半棘筋への効果的な刺針体位

頭半棘筋は頭部回旋の主役なので、過緊張している頭半棘筋を伸張させるような動きで痛みを生ずる。治療は、本筋を伸張肢位にして下風池に実施するとよい。


3.頚部横突棘筋の機能と頸椎一行刺針

深層にある固有背筋の役割は、頸椎重量の静的状態を維持する。また頸椎回旋運動での頸椎に加わる衝撃を緩和させることにある。この役割は、胸椎・腰椎にある横突棘筋と同じものである。もしも横突棘筋がないとすれば、脊椎捻挫が多発することになるだろう。

 

1)頭半棘筋への刺針

頸椎一行線の圧痛の好発部位は、頭蓋骨-C1間では下玉枕で、C7-Th1間では大椎一行(別称は定喘・治喘)が代表である。これらの穴は、頭蓋骨-頸椎、そして頸椎-胸椎といった異なった構造物のつなぎ目になるので構造的に脆弱である。
棘突起傍にあるにある横突棘筋のコリ→脊髄神経後枝興奮→腰殿痛症状という病理変化となる。

①下玉枕:上天柱と玉枕の中点。直下に頭半棘筋がある。
②定喘(教科書):C7棘突起下に大椎をとり、その外方5分
③治喘:大椎の外方1寸

頭半棘筋の下方には頸半棘筋と胸半棘筋があり、これら3筋が協力して頭蓋骨の引き上げ、顔を正面に向かせている。いわゆる寝違え時、後頸部だけでなく、Th3~Th7の高さの頸・胸半棘筋に刺入して、頸を動かす運動針を行うことが効果的なのは、この理由によるものだろう。

 


2)C3~Th7一行刺針

この高さにある横突棘筋に刺針する。これは脊髄神経後枝刺激になる。C1後枝とC2後枝は上行性に分布するが、C3以下の脊髄神経後枝は、すべて神経根から外下方45°方向に伸びる。なおこの反応は撮痛点としても把握できる。症状部から内上方45°方向の棘突起との交点にある背部一行線が取穴部位となり、そこから横突棘筋まで深刺する。

 

C3以下の後枝は、神経根から下外方に走行している。とくに後枝皮膚知覚枝は、症状部から脊髄神経後枝走行を斜め上方45°を下行しているので、後頸部~肩背部に、圧痛硬結もしくは撮痛部を発見できたら、その部位から逆に斜上方45°方向と背部一行(棘突起外方5分)上の交点が治療点となる。頸椎一行の圧痛点に深刺すると症状を緩和できることが多い。

施術の際は、側臥位で顔を下に向かせるように指示すると、頸椎の前弯が減少して頸椎一行の圧痛を触知しやすくなる。

     

3)頸板状筋

頸椎回旋は、その3/4が頭板状筋の収縮により左右回旋45°がC1-C2間で行われる。C2-C7間で、それぞれ上下の頸椎間で少しずつ回旋し、それが積み重ねた結果、15°の回旋運動になり、頸椎全体のしての左右回旋はそれぞれ60°が正常ROMである。C2-C7の回旋主動作筋は、頸板状筋になる。
ただし頸板状筋の障害で頸痛を起こすのではなく、回旋し過ぎぬようブレーキをかけているのが横突棘筋で、本筋が過伸張されて頸痛を起こしている。症状部は頸半棘筋にあったとしても、それは頸神経後枝の神経痛によるものであって、神経痛をもたらしているのは頸部一行深部筋であり、頸部一行への深刺が効果的になる。