高熱に加熱した器具を、数秒間皮膚にあてるという治療は民間療法として以前から知られていた。熱した金属のコテで皮膚を軽く叩く平田内蔵吉(くらきち)の平田心療法、線香を金属の筒に入れ、皮膚を擦過する伊藤金逸のイトオテルミーなどである。これらは、独自の道具を購入する必要があることや、熱した道具で皮膚を擦する動作を数十分繰り返し行うという手間のかかる施術であったことで、広く普及するには至らなかった。
しかしこの度、アトピー性皮膚炎に特化したこと、誰でも手軽にできること、大したお金もかからないことなど、実施のハードルが低い方法が考案された。以下に紹介する「カユキモチー」や「ペットボトル温灸」は、従来の知熱灸と原理的には同じような刺激となるが、簡便性に勝れている。
1.アトピー性皮膚炎のかゆみに、「カユキモチー」
平成28年2月28日放送東京MXテレビ放送の、「ナイトスクープ」において、”ある人にしか伝わらない謎の快感”という題目で、アトピー性皮膚炎の者の皮膚に、熱水の入った小袋を布でくるんだものをつけると、非常に気持ちよいという内容を放送していた。報告者は近藤滋氏。その内容を以下にまとめる。
①ウイダーインゼリーのような容器(ピースパック=アルミをコーティングしたプラスチック製容器)の中に水を入れ、電子レンジで温めて熱水にする。この時、容器内は水で満杯にする(もし空気が残っていると、電子レンジ内で空気が膨張して爆発する。)
電子レンジのワット数によっても異なるが2分~5分で、70°~80°になるまで加熱する。
※本ブログを見た、カユキモチー発案者の近藤滋氏から直々にメールが届いた。パウチの袋で、アルミ材質のものは電子レンジに入れると、火花が出てNGである旨。アルミが使われていないスポーツ飲料(アクエリアス)等ならOKであるとの内容だった。
カユキモチーの作り方(近藤滋氏)
http://ameblo.jp/kayu-kimochie/
②その容器をフリースでくるみ、ガーゼ袋に入れる。痒いところに当てる。健常者であれば単に熱く感じるだけだが、アトピー者は、次第に熱さが増す→うっとりするほど痒く気持ちよくなる→熱くなる、との過程をたどるので、熱く感じたら直ちに容器を取り除くようにするというもの。なおこの熱水を入れた容器のことを、報告者はカユキモチーと名付けた。
③報告者自身がアトピーなので、転地療法と自然食品、それにカユキモチーにより克服した。皮膚の状態が正常になるにつれ、上記方法では、単に熱く感じるだけで、気持ちよい感覚はなくるとのこと。
2.ペットボトル温灸
若林理砂(針灸師)は、容量約300CC入りのペットボトルに、100CC水を入れておき、それから沸騰した湯を200CC徐々に入れて、湯温を70~80°にしておく。これを「ペットボトル温灸」と称した。刺激すべき部位にペットボトル温灸を当て続けると次第に熱くなるので、熱さに我慢できなくなったら皮膚から離すようにする。この動作を数回繰り返す。適温とする温度は、カユキモチーと同じになることが興味深い。
ペットボトル容器を使うというアイデアはナイスだが、実際に皮膚をこすってみると、ペットボトルと皮膚との間の接触部分が小さく、熱をじんわりと与え続けつつ滑らすのは難しかった。
3.アイロンによる加熱
三井とめ子創案。タオルなどを患者の体に置き、その上からアイロンをかけるように注熱する。次第に局所に熱さを感じ「アチチ」と体を逃げるくらいに熱くなるまで続ける。刺激の強さは患者の状態を見て施術者が調節し、およそ1時間かけて全身に施術することが基本。特別の道具を使わず、使い勝手もよいことなど、優れたアイデアである。ノンコードレスアイロンを使うと使い回しもよい。いずれにせよ、自分一人でできる範囲は限られるので、家族や友人にやってもらう必要があるだろう。
4.熱いシャワー療法の利点と欠点
アトピーで痒いところに、熱いシャワーを浴びせるという方法は、以前からネット上で有名な方法だった。このシャワーの温度は本人が適温だと感じるものだが、45°~50℃となる。この方法も、非常な快感を得ることができるという。
しかし熱い湯が皮脂を落とす。皮膚バリアーがなくなるので、皮膚がカサカサになり、有害であるという見解もある。前述のカユキモチーやペットボトル温灸、アイロンによる加熱では、このような欠点は見あたらないことになる。
5.ヒートショックプロテイン(高温熱治療の理論)
皮膚に対する熱刺激は、なぜアトピー性皮膚炎に有効なのだろうか。これは熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein、HSP:ヒートショックプロテイン)が関係しているらしい。細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に、細胞を保護するタンパク質の一種ので、ストレスタンパク質とも呼ばれる。
ヒートショックプロテインがダメージを受けた傷や異常細胞の修復を行ったり免疫力を高めてくれることで、肌の荒れが治まるという傷ついた細胞を修復する機能がある。皮膚への加熱で、なぜ至上の快感が得られるのは、β-エンドルフィンが関係しているともいわれる。
西村淳著の実録小説「南極料理人」の中で、しなびた野菜を50℃の湯で洗うと、シャキッとするという内容を発見した。なお50℃の湯とは、指を3秒間触れることのできる程度の熱さだという。
この機序を著者の西村は説明できなかったが、平山一政氏(スチーミング調理技術研究会代表)は次のように説明づけた。野菜の新収穫後の野菜の細胞の水分は少しずつ失われていくが、少しでも乾燥するのを防ぐため、野菜表面の気孔は閉じた状態になる。これが”しなびた状態”である。この状態であっても50℃の温水に入れると、ヒートショックで葉の表面の気孔が開き、失われていた水分が瞬時に吸収されてシャキッとした収穫直後のような状態に戻る。同様の現象は、アサリの砂抜きにも応用できる。あさりはの塩水につけて最低2~3時間寝かせて砂抜きしないと食べれられないというのが従来の常識だった。れも50℃の温水に5分~15分ほど漬けておくだけでお湯が濁るほど砂が出て食べられる状態になるという。この現象について平山氏は次のように説明している。アサリを
50度のお湯に入れると、ヒートショックを受けて身を守ろうとする。すると水分を最大限に吸収し身を殻から押し出してくる。付着した異物や汚れを排除しようとする挙動だと考えらる。