AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

アトピー性皮膚炎に高温の温熱刺激は有効か?Ver1.3

2017-05-21 | 皮膚科症状

高熱に加熱した器具を、数秒間皮膚にあてるという治療は民間療法として以前から知られていた。熱した金属のコテで皮膚を軽く叩く平田内蔵吉(くらきち)の平田心療法、線香を金属の筒に入れ、皮膚を擦過する伊藤金逸のイトオテルミーなどである。これらは、独自の道具を購入する必要があることや、熱した道具で皮膚を擦する動作を数十分繰り返し行うという手間のかかる施術であったことで、広く普及するには至らなかった。

しかしこの度、アトピー性皮膚炎に特化したこと、誰でも手軽にできること、大したお金もかからないことなど、実施のハードルが低い方法が考案された。以下に紹介する「カユキモチー」や「ペットボトル温灸」は、従来の知熱灸と原理的には同じような刺激となるが、簡便性に勝れている。

 

1.アトピー性皮膚炎のかゆみに、「カユキモチー」
 
平成28年2月28日放送東京MXテレビ放送の、「ナイトスクープ」において、”ある人にしか伝わらない謎の快感”という題目で、アトピー性皮膚炎の者の皮膚に、熱水の入った小袋を布でくるんだものをつけると、非常に気持ちよいという内容を放送していた。報告者は近藤滋氏。その内容を以下にまとめる。


①ウイダーインゼリーのような容器(ピースパック=アルミをコーティングしたプラスチック製容器)の中に水を入れ、電子レンジで温めて熱水にする。この時、容器内は水で満杯にする(もし空気が残っていると、電子レンジ内で空気が膨張して爆発する。)

電子レンジのワット数によっても異なるが2分~5分で、70°~80°になるまで加熱する。

※本ブログを見た、カユキモチー発案者の近藤滋氏から直々にメールが届いた。パウチの袋で、アルミ材質のものは電子レンジに入れると、火花が出てNGである旨。アルミが使われていないスポーツ飲料(アクエリアス)等ならOKであるとの内容だった。

カユキモチーの作り方(近藤滋氏)

http://ameblo.jp/kayu-kimochie/


②その容器をフリースでくるみ、ガーゼ袋に入れる。痒いところに当てる。健常者であれば単に熱く感じるだけだが、アトピー者は、次第に熱さが増す→うっとりするほど痒く気持ちよくなる→熱くなる、との過程をたどるので、熱く感じたら直ちに容器を取り除くようにするというもの。なおこの熱水を入れた容器のことを、報告者はカユキモチーと名付けた。


③報告者自身がアトピーなので、転地療法と自然食品、それにカユキモチーにより克服した。皮膚の状態が正常になるにつれ、上記方法では、単に熱く感じるだけで、気持ちよい感覚はなくるとのこと。


 

2.ペットボトル温灸

若林理砂(針灸師)は、容量約300CC入りのペットボトルに、100CC水を入れておき、それから沸騰した湯を200CC徐々に入れて、湯温を70~80°にしておく。これを「ペットボトル温灸」と称した。刺激すべき部位にペットボトル温灸を当て続けると次第に熱くなるので、熱さに我慢できなくなったら皮膚から離すようにする。この動作を数回繰り返す。適温とする温度は、カユキモチーと同じになることが興味深い。

ペットボトル容器を使うというアイデアはナイスだが、実際に皮膚をこすってみると、ペットボトルと皮膚との間の接触部分が小さく、熱をじんわりと与え続けつつ滑らすのは難しかった。

 


3.アイロンによる加熱

三井とめ子創案。タオルなどを患者の体に置き、その上からアイロンをかけるように注熱する。次第に局所に熱さを感じ「アチチ」と体を逃げるくらいに熱くなるまで続ける。刺激の強さは患者の状態を見て施術者が調節し、およそ1時間かけて全身に施術することが基本。特別の道具を使わず、使い勝手もよいことなど、優れたアイデアである。ノンコードレスアイロンを使うと使い回しもよい。いずれにせよ、自分一人でできる範囲は限られるので、家族や友人にやってもらう必要があるだろう。

 
4.熱いシャワー療法の利点と欠点
   
アトピーで痒いところに、熱いシャワーを浴びせるという方法は、以前からネット上で有名な方法だった。このシャワーの温度は本人が適温だと感じるものだが、45°~50℃となる。この方法も、非常な快感を得ることができるという。

 しかし熱い湯が皮脂を落とす。皮膚バリアーがなくなるので、皮膚がカサカサになり、有害であるという見解もある。前述のカユキモチーやペットボトル温灸、アイロンによる加熱では、このような欠点は見あたらないことになる。 


5.ヒートショックプロテイン(高温熱治療の理論)

 
皮膚に対する熱刺激は、なぜアトピー性皮膚炎に有効なのだろうか。これは熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein、HSP:ヒートショックプロテイン)が関係しているらしい。細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に、細胞を保護するタンパク質の一種ので、ストレスタンパク質とも呼ばれる。

      
ヒートショックプロテインがダメージを受けた傷や異常細胞の修復を行ったり免疫力を高めてくれることで、肌の荒れが治まるという傷ついた細胞を修復する機能がある。皮膚への加熱で、なぜ至上の快感が得られるのは、β-エンドルフィンが関係しているともいわれる。
 
西村淳著の実録小説「南極料理人」の中で、しなびた野菜を50℃の湯で洗うと、シャキッとするという内容を発見した。なお50℃の湯とは、指を3秒間触れることのできる程度の熱さだという。

この機序を著者の西村は説明できなかったが、平山一政氏(スチーミング調理技術研究会代表)は次のように説明づけた。野菜の新収穫後の野菜の細胞の水分は少しずつ失われていくが、少しでも乾燥するのを防ぐため、野菜表面の気孔は閉じた状態になる。これが”しなびた状態”である。この状態であっても50℃の温水に入れると、ヒートショックで葉の表面の気孔が開き、失われていた水分が瞬時に吸収されてシャキッとした収穫直後のような状態に戻る。同様の現象は、アサリの砂抜きにも応用できる。あさりはの塩水につけて最低2~3時間寝かせて砂抜きしないと食べれられないというのが従来の常識だった。れも50℃の温水に5分~15分ほど漬けておくだけでお湯が濁るほど砂が出て食べられる状態になるという。この現象について平山氏は次のように説明している。アサリを
50度のお湯に入れると、ヒートショックを受けて身を守ろうとする。すると水分を最大限に吸収し身を殻から押し出してくる。付着した異物や汚れを排除しようとする挙動だと考えらる。

 


   


殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛

2017-05-05 | 腰下肢症状

筆者は、2011年3月28日に「梨状筋症候群の針灸治療」とするブログを発表したが、内容的に古くなったので、「殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛」とのタイトルに変更して内容を刷新することにした。ブログ「梨状筋症候群の針灸治療」は削除した。


1.殿部深部筋筋膜症と坐骨神経痛 

これまで緊張した梨状筋が、坐骨神経を圧迫刺激し、坐骨神経痛を現す病態を梨状筋症候群 とよばれてきた。しかし臀部で坐骨神経を圧迫しても坐骨神経の知覚成分は上行性なので下肢痛 をもたらさない。ゆえに梨状筋下あたりの坐骨神経周囲の筋膜(fascisa)の緊張が、下肢への放 散痛をもたらしたと考える方が、実際的である。
   
2.梨状筋症候群

1)骨盤外旋筋と梨状筋症候群

骨盤深層には梨状筋・内閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋・外閉鎖筋という6個の 股関節外旋筋がある。これらは股関節骨頭を安定させる働きがある。
これらの筋膜症により坐骨神経の下肢症状をもたらすものは、梨状筋が有名である。これは梨状筋筋膜症による症状である。

※梨状筋:骨盤部深部筋の一つ。第1~第4仙骨孔を起始とし大転子に停止。仙骨神経叢支配。股関節外旋作用。

 


2)梨状筋症候群の診断

本診断をつけるには、神経根症状がないこと、腰痛がなく臀下肢症状のみのこと、Kボンネットテスト陽性などの観点から本診断名をつける。 

※K.ボンネットテスト Katayama's Bonnet test
方法:患側の股関節と膝関節を屈曲させ、つぎに患側の足関節を健側下肢の外側に移動させ、さらに膝関節部を押さえて健側方向に圧迫(内転)させる。このとき坐骨神経に沿った疼痛の誘発が認められるものを陽性とする。

意義:坐骨神経痛でも、根症状がない場合、本テスト陽性であれば梨状筋症候群を疑う。
    
注意:K.ボンネットは梨状筋症候群のテストだが、ボンネットテストは腰部神経根テスト。

 

 

3)坐骨神経ブロック点刺針(梨状筋刺激を介して)

針治療では、3寸針をつかって梨状筋中に直刺置針(5~10分間)を行い、筋膜症の過敏性を緩和せしめるようにする。非常に効果的な方法である。梨状筋に刺針すると電撃様針響が下肢に得られることがあるが、これが梨状筋中に針が入っていることの指標になるが、こうした針響が得られなくても、治療効果は大差ないという。
    
位置:側腹位にて、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から3㎝下した点を取穴。
  
刺針:2.5寸#5~7針を用いて直刺2寸前後。針は、大殿筋→梨状筋と刺入。
   

 

 

3.内閉鎖筋の坐骨神経と陰部神経刺激

1)内閉鎖筋の解剖学的特性 

梨状筋緊張はその深部を縦走する坐骨神経を刺激するが、内閉鎖筋緊張は、坐骨神経を下から押し上げるストレスを生ずる。内閉鎖筋は、閉鎖孔を起始として大腿骨頭の内側を停止とするが、その走行は坐骨結節を越える部分で大きく折れ曲がっていて立ち座りの際に力学的ストレスを受けやすい。

 

2)内閉鎖筋緊張の診断

内閉鎖筋の緊張の有無を調べるには、被験者を側腹位にさせ、坐骨結節の裏側を強く触診するようにする。非根性坐骨神経痛や泌尿器症状があれば本筋過緊張を一応疑ってみる。

 

 

3)陰部神経刺針(内閉鎖筋刺針)
 
陰部神経刺針を行うと、当然ながら陰部に針響を与える場合が多いが、この刺針では小坐骨孔を通過する辺りで、内閉鎖筋を同時に刺激していることになる。内閉鎖筋の緊張は、骨盤内臓症状(仙骨部痛、尾骨痛、直腸肛門痛、括約筋不全、排便障害、下腹部症状泌尿器症状)をもたら可能性があるとされている。


 

これに該当すると思われる患者愁訴の一例を、ネットで発見したので以下に引用する。

40歳代の主婦。右の外陰部から肛門の辺りにビリビリとした痛みがあるのと椅子に座ると右の坐骨がジーンと痛くなり太ももの裏側にも痛みがあるので整形外科を受診。骨盤と背骨のレントゲンを撮り、骨には異常が無く梨状筋症候群だろうと診断された。殿部で神経が枝分かれしいるので陰部の方にも症状が出ているとの事。外陰部の痛みということもあり、婦人科も受診。視診でも異常がな無く子宮や卵巣も正常である事から陰部神経痛だと診断。現在整形外科でもらった鎮痛剤と筋肉を柔らかくする薬を服用するも、痛みが取れない。