AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

変形性膝関節症に対する膝蓋骨ストレッチの意義 ver,1.2

2023-05-25 | 膝痛

1.私の膝OA治療の要点

膝痛患者に対し、仰臥位で股関節を屈曲、膝をできるだけ屈曲させた姿勢にさせ、膝蓋上縁すなわち大腿四頭筋の停止部の圧痛を探る、そして圧痛あれば、圧痛点(=鶴頂穴)に単刺または直接灸3壮程度を行うことで、痛みが改善することが多かった。
この治療理論は、Ⅰb抑制を利用して大腿四頭筋をゆるめるというものだった。ちなみにⅠb抑制とは、筋が外力によって急激に引き伸ばされた際、筋断裂を防ぐための防御機能であって、受容器は。その筋の腱紡錘にある。すなわち四頭筋を緊張状態にして、鶴頂を刺激すると、さらに四頭筋が緊張したので、このままでは筋断裂すると身体が解釈して四頭筋緊張を緩めることになる。

また内・外膝眼に圧痛を認めた場合には、立位で内・外膝蓋に直刺2~3㎝程度の単刺をして関節包刺激をしている。立位にして施術する理由は、立位にすると四頭筋収縮にともない、膝蓋骨位置が高くなり、内・外膝蓋の陥凹に刺針しやすくなると同時に、膝関節包も緊張状態になって、刺針有効性が増大すると予想するため。

ところで最近、61才女性(看護師)の変形性膝関節症の治療を行っている。だいたい週1回ペースで行い、上記の鶴頂灸と立位で内外膝眼刺針で関節包刺激を行うことが多かった。今回は今ひとつ膝痛の治療効果があがらないので、最近覚えた徒手矯正手技を加えてみると、1週間後再来した折、あれは効いたからもう一度やって欲しいといわれたので、その手技を紹介したい。


2.膝蓋骨ストレッチ

1)ためしてガッテンの方法

四頭筋が過緊張して膝蓋骨が可動しづらくなっているのであれば、施術者が膝蓋骨を積極的に上下左右に動かすことで四頭筋を緩める方が、より直接的かもしれない。膝蓋骨-大腿骨の滑走しやすさのきっかけをつくることにもなるだろう。NHKためしてガッテンでは次の内容が放映された。

①膝を完全伸展させてから脱力。膝蓋骨が水平方向に動くことを確認。
②膝蓋骨縁に両手の親指を重ね、膝蓋骨のヘリを押す(上下左右、斜めなど8方向) 。押す時間は1か所につき5秒程度。
③1回のストレッチは3分まで。1日2回が目安

 

 

このような手技療法は、整体治療としてYoutubeなどで知ることができ、これにも種々のバリエーションがある。一般人向けの紹介動画だからか「このような症状の時には、このようにして治す」というパターンが多く、背後にある治療理論についての説明はほとんどないのが残念なところ。もっとも、現在の針灸の発表スタイルも同じようなものだろう。最低でも「なるほど、そういうことか」と共感できるレベルであって欲しいものだ。

 

3.膝蓋骨圧迫テストの意味

実はこの手技の膝蓋骨を押圧しつつ上下に動かす動作は、膝蓋骨圧迫テストと同じことをしているように見受けられた。膝蓋骨圧迫テストの場合、膝蓋骨を動かすことで、患者の感ずる痛みの有無や検査者の指頭に感ずるざらつきを調べている。異常があれば大腿膝蓋関節の異常ありと判断する。かつて膝蓋骨骨膜と大腿骨骨膜をこすりつけた際の痛みだから、大腿膝蓋関節症とくに大腿膝蓋関節の摩耗と判断した。



確かに検者の指頭にかんずるザラツキは、大腿膝蓋関節の摩耗を示すものだが、この関節部に知覚はない。骨膜はなく関節包もないから痛みは感じることはないのであっる。ではなぜ患者は痛みを感ずるのかといえば、周囲筋筋膜の伸張痛による痛みといえる。従って、膝蓋骨圧迫テスト時に患者の発する痛みは針灸で軽減できるといえるのである。NHKで紹介された膝蓋骨を上下に動かす運動は、大腿四頭筋の伸張運動のことで、四頭筋を動かすことで関節包内膜の滑液包から関節滑液の分泌を活発化させることで、ザラツキにも良い影響を与えることができるだろう。

 

4.パテラセッティングは、本当に大腿四頭筋筋力増強法として作用しているのだろうか?

パテラセッティングとよばれる大腿四頭筋筋力増強テストが知られている。 パテラ Pateraとは膝蓋骨のことで、タオルを丸めたタオルなどを膝裏に置き、このタオルを押しつけるような力を加えるものである。1回15~20回、これを1日2~3セット実施させる。簡単な訓練法なので自宅で行わせるのに適している。しかしこの運動は、本当に四頭筋強化に役立つか疑問を感じている。

膝裏のタオルを押しつけるのは大腿四頭筋の拮抗筋であるハムストリング筋を緊張させる運動なので、これは運動学でいうⅠa抑制に相当するのではないだろうか。すなわちこの運動は大腿四頭筋の緊張をゆるめるという、本来の意図とは真逆になってしまう。四頭筋増強運動にするには、膝裏でタオルを押しつける運動ではなく、膝を伸ばす運動にすべきだろう。

膝OAに対しては、四頭筋強化運動を行うのが常識となっているのだが、それについても疑問が残る。私は仰臥位膝屈曲位にて、膝蓋骨上縁の鶴頂穴(大腿四頭筋停止部)に刺針することで、四頭筋緊張を緩めるⅠb抑制を行うことで膝痛治療を行い、即効的な鎮痛効果をあげている。四頭筋強化が治療にこうかあるのではなく、四頭筋の緊張を緩和(=コリをとる)ことが治療になるのではないかと考えている。

 

 

 


経穴名からみた五神の理解

2023-05-19 | 古典概念の現代的解釈

五神の意味をツボ名を手がかりとして昔の中国人が考えた内容を調べてみることにした。なお五神とは五行色体表の一項目で、神・魄・魂・意・志の精神のことをさす。いろいろな見解がある中で、シンプルであることを心がけた。

1.「神」の名がつけられた経穴   
古代中国人が考えた「神」はエホバのような人間を超越した絶対的存在ではなく、万物のもつ非物質的側面をさしている。

1)脳
大脳皮質機能と関係し、人間を人間としての理知的存在ならしめている。
①神庭(督):前頭部、前額髪際。脳は元神の府であり、「庭」は門庭(前庭)
②本神(胆):前頭部、神庭穴の傍。脳は人の根本。
 
2)心

心臓の前壁には神堂と神蔵はあり、心臓の後壁の肩甲背部には神堂がある。現代 いう心臓のポンプ機能と同じ。
古典では<心は神を宿す>と記している。これは心拍に変化をもたらすような感(喜怒哀楽)は、「こころ」により行われるとする意味だろう。
①神堂(膀):肩甲間部、心兪の傍。心の精神である「神」を蔵する部。
                 「神堂」は心兪の外方にあって膀胱経背部兪穴の一つになる・
②神蔵(腎):前胸部で紫宮の傍。霊墟の上にあり、神霊(心)を守る。
③神封(腎):前胸部で膻中外方。「神」=心、「封」=境界線。
④神門(心):手関節部。心経の原穴。「心」の臓に関係する。
 
3)先天の気=遺伝子

①神闕(任):臍部。臍は神の出門であるとされる。へその緒を伝い、胎児は滋養され、親から神(=先天の気、遺伝子)が伝わる。


2.「魄」「魂」「意」「志」の名がつけれた経穴

五臓に対応して一穴づつあり、背部兪穴とよばれる。背部兪穴は背部膀胱経上にあるが、それぞれ独立して五臓と関係し、その診察と治療に用いられる。 五臓兪穴の外方1.5寸にある背部膀胱経二行線上には、それぞれの内臓が蔵する 神(精神要素)の名称がつけれた経穴が並んでいる。
 

1)五神名のついた膀胱経二行線にある経穴
① 肺:魄戸(膀) 
 肺兪の傍にあり肺は魄を蔵する。呼吸停止(気が動かなくなる)して魂がなくなると、白骨死体だけが残る。魄の解字は白+鬼で魂を失った白骨死体。
②心:神堂(膀)
 心兪の傍にあり、心の精神である神を蔵する部。
③肝:魂門(膀) 
 魂とは、気を主どるものである。魂は死ぬと雲の上にのぼる。
④脾:意舎(膀)
 脾兪の傍にあり、脾の精神エネルギーを蔵する。
⑤腎:志室(膀)
    腎兪の傍にあり、腎の精神エネルギーを蔵する部


2)魄・魂・意・志の考察        

  「意」は音+心臓の合成文字で、行動や選択をする際の元となる内的な心の動きを示す。「志」は心臓の上に「之」(=向かい行く)がのった漢字で、心の向かうところ、心の目指すところという意味になる。一方、神・魄・魂は、よく知られている言葉ではあるが、いろいろな意味に使われていて、逆にイメージ漠然としたものになっている。
 
①魂

 生者は当然ながら「気」を有している。死ぬと気が失われるので、動かなくなり五官も働かなくなる。この気を主どるのが「魂」で、魂は雲+鬼の合成したものである。通常ならば魂は雲の上へとのぼって「神」なるのだが、天に上がれず、地をさまよう状況になれば鬼となる。
魂が強くなると、怒りっぽくなるという。これは雲が多い→悪天候→風雨がまるとの自然観察から生まれた考え方だと思われた。
   
②鬼

鬼の正体は判然とせず、「目に見えない何か」ということになる。「鬼」はグロテスクな頭部を持つ人という象形文字。右側のムの字は古字(現在使われなくなった字)で、モノを囲むとのが元の解釈で、そこから私という意味に転じた。人は死ぬと鬼になるとされているが、生前の人とは異なる姿形ということになる。人が死ぬと鬼籍に入るとは、生者の籍から離れ、死んだ人の名簿に入るという意味になる。強い者や大きい者の接頭語として鬼編集長、鬼軍曹などのように、鬼○○という表現があるが、これはわが国独特の表現である。赤い皮膚をして角があり、金棒をもつというのも我が国固有のイメージ。

 

 

③魄

人が死ぬと魂と魄に分かれる。魂は雲の上へとのぼって神となり、魄は白骨死体となり地に留まる。魄は白+鬼の合成した漢字である。白とは白骨死体のことだが、魄もは物質とての白骨死体そのものをさす。魄には、人間の外観、骨組み、生まれながらに持ている身体の設計図という意味もある。

一方、道教でいう「魄」は上述の意味とはかなり異なる。肉体を支配する感である喜び、怒り、哀しみ、懼れ、愛、惡しみ、欲望の7つをまとめて七魄と呼び、これらは肉体を支配する感情とした。通常であれば「魂」が制御しているのでこらの感情はあからさまに表に出ることはないが、魂が消失した状況下の「魄」は制御不能な感情を意味する。


3.「霊」の名がつけられた経穴

五行色体表の「五神」にはないが、魂とよく似た言葉に「霊」があり、霊の名がつられた経穴も3穴みられた。経穴における魂と霊の相違点はどういうものかを探った。  
①霊墟(腎):「霊」は死者の魂のこと。「墟」は土で盛られた高い山。
霊墟は前胸部の山のような高いところにあるため。       
       秦の始皇帝が築いた運河。現在の中国の桂林市興安県に現存。
②霊台(督):「霊」は死者の魂のこと。「台」は高く平らな場所。物見台、天文台。        
      この穴位の前面は心臓であり、心臓疾患を治療する。

③霊道(心):前腕の心経上になる。死ねば魂は天に上って神になるという。

   

「魂」は死者の中だけでなく、生者の中の精神的要素を示す場合がある。この場合、”三つ子の魂百まで”(幼いころの性格や気質は大人になっても続く)という表現や、気力や心の活力いった意味にも使われる。
一方の「霊」は、死者の魂といった限定した意味で使われる。とくに死体を埋葬た墓が、霊のいる処とのイメージが強い。これまで死ぬと魂魂に分離する   記した手前、死者の魂という表現は矛盾した表現である。しかしながら病院などで死体を一時保管する部屋を霊安室、死体埋葬所を霊園と呼んだりすることは、間違った言葉の使い方だと騒ぎたてるのも野暮というものだろう


グロインペインと針灸治療 ver.2.0

2023-05-13 | 腰下肢症状

グロインペイン症候群 groin pain  syndrome とは鼠径部痛症候群の英語名で、  groinとは「股間」のこと。

グロインペインはスポーツとくにサッカー選手に多く、ランニングやボールを蹴る動作で出現する。変形性股関節症では外殿部痛とともに鼠径部痛を訴えることがある。その一方で鼠径部痛の原因追求が難しい場合も少なくない。アスリートの鼠径部周囲に出現する慢性障害ということになるが、真の原因を特定しにくい。キック動作やランニングやなどの繰り返しの運動によって、鼠径部、股関節周辺、骨盤に機械的ストレスが  加わって痛みとなる。1~2ヶ月の安静で改善することが多いが、緊張が高い鼠径部の筋への押  圧刺激やストレッチだけでは改善しないこともある。

 

1.ドーハ分類

世界中の股関節専門家が2014年11月カタールのドーハにて提唱したgroin painの分類。

 

2.上前腸骨棘周囲の痛み(足のつけねの痛み)
   
股関節周囲の疼痛,ひっかかり、クリック可動域制限(外転、屈曲)など。股関節外旋筋には中殿筋と小殿筋があるが、小殿筋は大転子の前方に停止している。一方、大腿直筋の起始は右図のように3つに分岐していて、大腿直筋第3頭が小殿筋と連結している。
このことから外殿部痛を生ずる小殿筋の緊張は大腿直筋緊張に連動し、鼠径部とくに足のつけ根の痛みを生ずることが判明した。
  

 

針治療は、臥位にて小殿筋刺針および大腿直筋起始(髀関穴)に、対する刺針が効果的となる。髀関は下前腸骨棘で、縫工筋と大腿筋膜張筋の間にとる。下前腸骨棘は上前腸骨棘の下方1寸内方1寸の処にある。

 

3.鼠径部の痛み

変股症では、鼠径靱帯外1/3の処(=外衝門)にある腸骨神経ブロック点に圧痛をみる。この圧痛は腸骨筋の緊張を意味している。腸骨筋は、鼠径靱帯下を横断して大腿骨小転子に停止しているので、股関節と腸骨筋の間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい。とくに腸腰筋が短縮している時、鼠径部痛をきたすことがある。        
鼠径部から腸骨筋に刺入するには、股関節にぶつかるまで深刺し、癒着を剥がすように局麻剤を注入するが、かなり力を入れないと剥がれなかった(木村裕明医師)という。これは腸腰筋膜下ブロックとよばれる方法である。(下図×印)   

つまり腸骨筋は、股関節との間で摩擦されて炎症や癒着が起こりやすい。とくに腸腰筋が短縮している時、鼠径部痛をきたすことがある。

 

 

 

4.恥骨外縁の痛み

股関節内転筋の主動作筋で恥骨外端から起始している。パトリックテストの肢位をすると、隆起してつまみやすくなる。股関節外転不十分な者に対して、陰廉や足五里から刺針して長内転筋を弛めると、外転角が増す(あぐらがかけるようになる)ことが多い。大腿内側に刺針する時、患側下の側臥位で健側の膝を立てた肢位で行うと、経穴上鍼響きを与えやすいようだ。治療ポイントは主に長内転筋で、足五里や陰廉など。

  

 

 



 



  




 

 

 

 


水の動態に関する手足の経穴と経絡の考察 ver.1.1

2023-05-12 | 古典概念の現代的解釈

経絡はしばしば川の流れに例えられるが、それは初学者に向けての大ざっぱな紹介にすぎないものたっだ。肘から先、膝から先には五兪主病といった井榮兪経合の性質をもつツボがあることも教わったが、あまりにも画一的であり単なる古典的修辞だとして真剣には学んでこなかった。

なお私は過去に五兪穴について調べたことがあって、これを本ブログに載せているのでご覧いただきたい。

五兪穴のイメージ(ニーダムの見解を中心に)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/5566d414c785a766265f459e87fc2efd

ではどのようなアプローチをすれば経絡経穴について建設的な発見が得られるのだろうか。今回私は、354穴の正穴名の語源を調べたり想像したりもして、手足の水流に関係している経穴名をピッアップし、続いて水の流れの動態変化を調べるため、経絡ごとにこれらの経穴の関連づけを行うことにした。その結果、次のことがわかった。

①水流に関係した経穴があったのは十二正経の中の四本の経絡に限定された。
②その四つの経絡とは次の通り。(  )内は水流動態に関係した経穴数。
三焦経(4)、肺経(4)、腎経(5)、心包経(2)
※一見するとこの経穴数は少ないように感じられるかもしれないが、合谷や後渓というような、単なる地形を示すツボは含まれていない。また水路ではなく一般的な水に関係する穴(例:水分、水溝)なども省略した。体幹部にある穴も含まれない。たとえば腎経の中注穴(臍の外方5分下方1.3寸)は、一見すると水を注いているイメージだが、「中注の内側には胞宮や精巣があり、腎気が集まるところで、中注から胞中(子宮)へ腎気注がれる」といのがツボ名の解釈であって、今回のテーマ「水路」とは無関係である。


1.三焦経


水路といってまず思い浮かべるのは三焦経である。三焦は決瀆の官(運河開発管者)すなわち三焦経は水質代謝の通路。「決」は堰(せき)の扉を開いて水を開通せること、「瀆」には汚れを流すドブという意味があるも、四瀆は中国の4本の大河を意味している。四瀆の意味を総合して考察すると、汚物を流すための大河ということ。すなわち決瀆とは、体内の水の代謝(水を巡らせ汚水を流す)するという意味になるだろう。

☆「堰」といえば中国2200年前の歴史的利水工事となった中国四川省の都市、都江堰(とこうえん)が有名で世界遺産にもなっている。それまで四川盆地を流れる大河は洪水や干ばつで人々を困らせていた。そこで李冰(りひう)は8年の工期を経て、川を本流と支流にわけ、それぞれに堰築き、水量を調節するような堰を完成させた。以降、成都は肥沃な土地としてよみがえり、天府と称されるまでになった。ちなみに都江堰は道教発祥の地である。

1)三焦経の経穴
①液門:液とは少量の水。
②四瀆:a.「瀆」=汚水を流すドブや溝。
    b. 四瀆は中国の四大河(長江、黄河、淮水、済水)をさす。
③消濼:濼=水たまり。水流が消えて水溜まりになる。
④陽池:手関節背面を背屈してできる中央の陥凹を池にたとえた。
 
2)三焦経の水の動態

少しの水(液門)が池(陽池)となり、大河(四瀆)となるが、やがて流れはなくなり水溜まり(消濼)になる。
  
2.肺経

1)肺経の経穴

①尺沢:沢は水の集まる処。
②列缺:肺経の列から分かれて欠けるの意味。
③経渠:渠=人工の水路。現在では暗渠との単語が使用されている。水路に蓋をしものを暗渠という。暗渠は土地の有効活用であり都市に多くみられる。  
④太淵:淵=河川の流れが緩やかで深い場所。経暗渠から分かれ出る。

 
2)肺経の水の動態

沢の水(尺沢)から流れ出て、途中一部は支流(列缺)になって分岐。本流は人工的な水路(経渠)に入り、最終的には流れがゆるやかになり、大きく深い淵(太淵)に至る。
 
3.腎経  

1)腎経の経穴

①湧泉:泉のように水が湧き出る。
②太渓:湧泉から流れ出た水が(太渓)の処で一つに集まり、大きな渓流となる。
③水泉:水が深いところから溢れ出てくる。
④照海:「照」は<光り輝く>のほかに<広い>との意味もある。たとえば照合は、広く比較することである。海は平らで水がたまるような凹んだ処。すなわち照海は水が溜まる広い凹みをいう。足内果下は、皮下組織が薄く、やや凹んで平らな部なので、照海となづけたのだろう。あるいは浅く広い水溜まりが波風なく鏡のようは状態だったことで太陽光が反射して「照」の文字がつけられたのだろうか。
 
⑤復溜:ふたたび流れてくるの意味。水の流れは太谿→大鐘→水泉→照海と、内果の平らな処をグルリと回った後、再びこの部へと上行する。
 
2)腎経の水の動態



湧泉から湧き出た水が集まり大きな渓流(太渓)となり、水深の深い処から溢れて(水泉)、足の内果下の平たい処を一巡して広い凹み(照海)に入った後、再び上行(復溜)する。
※復溜穴の由来を調べていくうちに、足内果下あたりで腎経がグルリと回っている理由が理解できる。これは水が渦巻きのように回転していることを示すものだろう。用を足した後のトイレの水流を起想させる。

 

4.心包経

1)心包経の経穴

①天池:肋間のくぼみのような池。
②天泉:天池から、心包経の気が泉のように流れ入る処。
 
2)心包経の水の動態

肋間に溜まった池の水(天池)が、上腕二頭筋筋溝(天泉)に流入。