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「三方向の組み」 高宮紀子

2017-01-27 11:19:07 | 高宮紀子
◆高宮紀子 「無題」 17×17×12cm 1997年 素材:苧麻

◆バナナの樹の皮のかご

2002年10月10日発行のART&CRAFT FORUM 26号に掲載した記事を改めて下記します。

民具のかご、作品としてのかご 12   
 「三方向の組み」 高宮紀子

 日本のかごで三方向の組みといえば、ムツメと呼ばれるもので、組織の穴の形が六角形をしています。軽く目が大きいのに構造が丈夫で、大きなものや、物を乾かすためのかごなどが作られます。きっと皆さんもご覧になったことがあるか、またはお持ちのかごがそうかもしれません。かごばかりでなく、竹で平面に組んで干し魚の下に敷いたりします。そっくりな組織のプラスチック製のものもあるほどです。

 三方向の組みにはバリエーションがあります。一枚目の写真はその一つで、ムツメより複雑な組み方です。使う材の厚みがありすぎると、うまく組めないのですが、平たいばねがあるものでしたら、こういう組織になります。このかごは確か東急ハンズの一日教室をやっていた時に、生徒さんが見せて下さったのものと思います。以前に写真で見たことはあったのですが、初めて実物を見たのがこれでした。

 同じ組織を紙で作ろうとしましたが、あまりにも複雑なため、まずかごの底をコピー機の上に置き、コピーをとりました。その上に紙バンドをおいて、それぞれの材の上下関係を写していったのを覚えています。1本の材が何本おきかで上に出たり、下にくぐったりするルールがこれでようやく分かりました。竹の技法では、てっせん編みと呼ばれています。てっせんの花に似ているからとありますが、英語では、マッド・ウイーブ(mad weave)とも呼ばれることがあります。マッドとは英語で気が狂うようなということですから、きっとトライした人が付けた名前だと思います。気分的には後者の方がぴったりですが、いずれにせよ、構造を現した名前ではありません。この技法は東南アジアを中心としてかごや大小のマットなどを作るのに使われています。現地の人がこの方法で編むのを映像で見たことがありますが、子供の時から編んでいるので、ほいほいとやっていました。

 さて、この組みにはまたバリエーションがあります。一番有名なのがセパタクロウのボールです。これはボールを蹴って競技するゲームに使用するラタン製のボールです。同じ三方向の材による組み組織ですが、写真の組織よりは複雑で、1本の材が何本かの材で構成され、それぞれが組まれています。お土産用のボールを手に入れ考え始めました。かごの底ですと平面ですからコピーがとれ、材の動きはわかるのですが、球になっているので、一本、一本、跡をたどっていかなくてはなりません。とりあえず材に番号を直接書きながら構造を見ていきました。すると1本の材が一周すると一つ隣りにずれることが分かりました。これは長い材で組んでいったことを意味しますが、どこから組んでいくのか全くわかりません。とりあえず、材同士の関係が一番わかりやすい所と同じ構造を作り、また同じ物を作って部分同士をつなげる方法で作ってみました。今考えるとこの方法はすごく効率が悪いのですが、悪戦苦闘しながら、なんとか継ぎ接ぎだらけ、セロテープでテカテカのボールを作り上げました。次に、セロテープでつながった同じ方向の材を新しい一本で取り換えていったのです。こんな泥臭い方法しか浮かばなかったのですが、その後、自分の作品作りの方法として活かせることになりました。なお、最近このボールの組み方について、陣内律子さんが、すばらしい方法を発表していらっしゃいます。(参考:バスケタリーニュース57号)

 それまで組みの作品を作るとき、必ず問題になっていたのが材の端でした。空間を包みこむ形にした場合、材が一周して同じ、または別の端同士が重なる場所が必ず出てきます。紙のような場合はいいのですが、樹皮を重なると材料の厚みが二倍になってしまいます。いっせいに重ねると、厚みだけでなく全体の形にも影響が出ます。そこで、全部の材を一筆書きのように1本でずらして組むことを考えました。材料の長さが限られているので、どうしても途中で継ぎますが、全部の材を同じ箇所で重ねるということは回避できました。でも形が変わっていたりするとゼロからは組めません。そこで予め作ろうとする組織を紙で作って(この時はばらばらの材で組み)そして、1本ずつ少し抜いては実際の材と取り換え、一周したらずらして次の材と取り換えていきました。つまり前述の泥臭い方法が活きたわけです。

この方法で樹皮の作品をいくつか作りましたが、ある時、繊維で組みができないかと思い始めました。ご存知の通り、組みはある程度素材に張りがないとうまく組めません。自由に曲がるような繊維では組めにくい。そこで繊維を1本に束ねて細い糸などで周りを巻き、長い太い材に仕立てます。そうやって土台の組織の材と取り替えていきます。全部組めたら、糸を根気欲外すのです。この方法で作ったのが次の作品です。素材はチョマの繊維を使いました。

 かごを作る技術は、素材の特性を生かした壁的な構造を楽に作る方法、または立体を作るためのすぐれた知恵なのですが、そのまま使っても自分の作品はできません。技術が生成された根本的なスタート地点にまで戻り、その技術を個人的な情況の中でもう一度生成するということが大切になってきます。最初から、こういうプロセスに喜びや楽しみを見出せる方もいらっしゃるかと思いますが、私の場合はある種の儀式が必要でした。いろいろな儀式がありましたが、先に述べた泥臭い方法や失敗がそのきっかけになったのは確かです。