ART&CRAFT forum

子供の造形教室/蓼科工房/テキスタイル作品展/イギリス手紡ぎ研修旅行/季刊美術誌「工芸」/他

『ラウハラ バスケット』 高宮紀子

2017-02-21 12:55:59 | 高宮紀子
◆ラウハラの帽子(金子氏作)
 
◆ラウハラで作ってみたもの


2003年1月10日発行のART&CRAFT FORUM 27号に掲載した記事を改めて下記します。

民具かご、作品としてのかご 13
 『ラウハラ バスケット』 高宮紀子

 2002年10月の半ばから約1ヶ月、ハワイにワークショップに行ってきました。ハワイ島のアートファンデーションが招待してくれて、バスケタリーのワークショップを行ってきました。滞在の中心になったのはハワイ島のコナという所です。お昼は太陽が照り付けて暑いのですが、朝夕は涼しくすごし易い所です。

 コナはコーヒー豆の生産で有名です。もともとのコーヒーの樹は南米から鑑賞用として輸入されたのですが、ハワイの気候と溶岩を含む水はけの良い土に適応して早く大きく成長することがわかり、コーヒー農園が作られました。コナのコーヒー産業の歩みはこの地の日本人移民の歴史でもあります。多くの日本人労働者が移り住みました。彼らは粘り強く、また斬新な工夫を考え出して、それまで沈みかけていたコーヒー産業を盛り返し、質の良い豆を生産していきました。現在もたくさんの日系人が住んでいます。

 ハワイにはローカルピーポーの他、種々の人種が住んでいます。主にアメリカ本土から来た白人や日系人を含むアジア人、南米や東南アジアなど世界中からといってもいいぐらい人種が多い所で、複雑だけど面白い所でもあります。いろいろな所から来たのは人間だけではありません。植物は特に顕著です。最初にポリネシア人が持ってきた繊維植物や食物など、その後にも経済植物がどんどん輸入されました。いまやアジアや南米、オーストラリア、メキシコ原産の植物がハワイの特徴的な植物として知られる程になっています。ハワイの自然も混在という特徴を持っています。

 ハワイでは見ておきたいと思うことが一つありました。数年前、オアフの友人にラウハラと呼ばれる、かごを編む素材を送ってもらいました。ラウハラはハラと呼ばれる樹の葉(ラウ)、という意味です。ハウは、パンダナス、スクリューパインとも呼ばれ、ラテン名をPandanus tectoriusといいます。葉の生え方が違うもの、葉の大きさや色が違うもの、樹木の背丈が違うもの、海側に生えるもの、山に生えるもの、いろいろな種類があるようです。この葉を細く裂いて、マットやかご類、帽子を作ります。今回の訪問でラウハラウイーバーに是非会ってみたいと思っていたのです。

 ハラ以外にも昔からココヤシの葉、軸、繊維、マカロアという草の茎、ハウという植物の繊維、さとうきびの茎など、いろいろな植物を使って編組品を作っていたのですが、材料の植物が少なくなってしまって物もあり、今や博物館に行って見た方がいいぐらい無くなってしまいました。唯一、ラウハラを利用した帽子やかご、マット類が今も多く作られています。たいがいシンプルな組みで作られているのですが、中でも複雑な組みで作られているのが帽子で、頭の上からブリムにいたるまで、様ざまなアジロ組みが使われています。歴史的に見ると帽子は新しく、どうもアメリカ人の注文で作るようになったようです。当時はいろいろな素材で帽子が作られたのですが、ハラを使った組みの帽子をローカルピーポーに習って日系人が作るようになり、持ち前の器用さも手伝って、それまでには無かった形のかごや小物類を作り、土産物を開発していったようです。

 お世話になったアートファンデーションのメンバーの中にも、日系人のラウハラウイーバーがいて、会うことがきました。一枚目の写真の帽子は、その時お会いした金子エドさんという人が作った帽子で、今や少なくなってしまった赤っぽいラウハラで編んだ物です。彼の技術は高く、おそらくラウハラウイーバーの中でトップ5に入るのではと思います。二枚目の写真、右側の亀はその金子さんに教わって作った物です。少し膨らんでいるのでは、中にテッシュペーパーを詰めたからです。

 教えてもらった時に、同じ組み組織でも、私の普段している作業とは少し違うということがわかりました。同じ結果になるのですが、組みの材を動かす方法が違うのです。以前ハワイへ行った時に見たマットの作り方で経験しているはずでしたが、そのことがもっと顕著にわかったのが、かごの作り方を見た時でした。組みの組織を作る時、上になる材を折り返し、新しい材を入れていくという方法なのですが、どちらかというと織り編みに近い作業になります。この操作のおかげでテープ状の素材で密に組むことができるのです。  
 
 また、かごを作る手順も少し違っています。底から編み始めるのではなく、縁から組み始めます。まず平面に組み、ワイヤーの輪をはめて折り、底まで二重に組んでいくのです。もちろん、底から組み始めるかごもあるのですが、縁から編む方が丈夫だということでした。同じ組むという作業ですが、こういう解釈もあったんだなと改めて思いました。

 オアフのワークショップを終えた後、友人に何年ぶりかで会うことができました。ラウハラの話をしていたら、じゃあ、一緒に編むか、と言われて夜中までかごを編みました。二枚目の写真の右側がその時に作ったラウハラのかごです。小さいもので底から組んで縁で終わっています。仕上がったのですが、ラウハラのテープがずいぶんと長く残ってしまいました。友人がそれを見て、「そんな時はラウハラを切らずに、余っている分で薔薇や星などのデコレーションを作るのよ」とアドバイス。そこで私も全部使いきってしまおうと思い、できあがったかごの組織の上に残った材で組んでいきました。時々、材がぶつかったりするとお互いに折ったり、移動させたりしながら、行く道を探すわけです。ずいぶんと時間がかかり、日付が変わる時刻になってしまいましたが飽きません。作品というまでには到りませんでしたが、楽しい実験でした。