1996年6月20日発行のART&CRAFT FORUM 4号に掲載した記事を改めて下記します。
木綿染め研究グループ報告
天然染料による下染めの比較検討(1)
-赤をより赤く染めるために-
富田和子
※ 実習担当者:大方悦子・太田晴美・工藤いづみ・近藤由巳・酒井和美・富田和子・久常久美子・矢部淑恵・米倉伸子
1. はじめに
1993年4月、東京テキスタイル研究所「草本糸染クラス」の卒業生を対象に、米倉さんの呼びかけにより「木綿染め研究グループ」が発足した。天然染料の場合、一般的に絹や羊毛に比べ木綿や麻は染着が悪く、濃く染めるためには苦労を要し敬遠しがちである。けれども木綿の持つ風合いが好きであり素材として捨てるわけにはいかない、と思った仲間が集まった。あえて染まりにくい木綿を取り上げ、草木で木綿の糸が堅牢に生き生きと染まり上がる方法を見つけるためのアプローチが始まった。
1年目は、今も草木で糸を染めている木綿の縞織物、館山唐桟の糸染め方法に習って行い、濃く染め上げることに専念した。
木綿を染めるということの感触を味わいながら、ともかく150色のサンプルが集まった。2年目は、唐桟の常温染法と従来の煮染法との比較をしながら、さらに藍とのふたがけを加えた。染色温度のほかに時間、回数、濃度などが検討され、その結果、木綿は染め重ねることが重要であること、藍が多くの色を提供してくれることを再確認した。そして、ここで問題になってくるのが赤色の染め方だった。
1年目、2年目を通してメンバーは各自知恵を絞った。前述の染色条件に加え抽出方法、様々な下染めによる有機媒染方法、糸の精練方法にも検討は及んだ。
3年目には欲を出し藍以外の染料によるふたがけと、海外に目を向けてインドネシアの木綿染めを勉強するに至った。ふたがけは染料の組み合わせと相性、媒染剤の扱い方、2色の色のバランスなど難しい点が多く未消化に終ってしまったが、インドネシアの木綿染めについては1995年9月に現地へ行き、情報とサンプルを持ち帰ることができ、それらと資料を頼りに検討し、実習したことをここでご報告したいと思う。
2.インドネシアの天然染料
赤道を挟んで13000もの島々からなるインドネシアは250余の民族が暮らし、それ以上の言語が話されているという。ここで作りだされる染織品は多種多様多彩である。その中でもバリ島の東に連なる東ヌサトゥンガラ州の島々ではイカット(木綿の経絣)が盛んに織られている。インドネシアには絹織物と綿織物があるが、この地域では木綿しか扱われていない。日常の中で自生の綿で糸を紡ぎ、絣を括り、糸を染め、布を織るといった一貫作業が母から娘へと受け継がれている様子を見ることができる。化学染料が普及した現在では天然染料と併用する地域もあるが、まだ身近に自生あるいは栽培された植物による糸染めも健在であった。海に囲まれた熱帯性気候のインドネシアには染料となる植物は豊富である。黄色はウコンやカユ・クーニン(黄色い木の意)で、また茶色はマングローブに総称されるヒルギ科やアカネ科の木々で染められる。藍は最も一般的かつ重要な染料で、キアイやナンバンコマツナギなどの藍が庭先に栽培され沈殿藍の製法で用いられている。織物を織っている各家の軒先や部屋の片隅には小さな瓶に建てられた藍液をよく見かけることができる。
3.インドネシアの赤染め
藍とともに重要な染料に赤色を染めるムンクドゥと呼ばれるアカネ科の樹木のヤエヤマアオキ(色素の主成分はモリンドン)がある。このムンクドゥもまた庭先や村の一角に栽培されていて、その木の根でオレンジ色~赤茶色までを染める。同じように赤色を染めるインド茜や西洋茜とは異なった独自の染め方があり、染め方とともに染め出される赤色も各島、村ごとに違った色合いが特色となっている。
《共通するムンクドゥの染め方の特徴》
○下染め…赤色の色素成分は直接木綿には染着しにくいため、クミリと呼ばれる木の実を擦りつぶし灰汗あるいは水に数種の樹皮や葉を加えた液と混ぜて下染めをしておく。
○抽出法…一般的には煮出すことはしない。ムンクドゥの根の皮を細かくつぶし水を加えて絞り染液を作る。色が無くなるまで何度もこれを繰り返す。
○染め方…糸を染液に数日間浸した後、充分日に干す。これを数回繰り返し加熱はしない。○媒染剤…明礬は用いず、ロバと呼ばれる二オイハイノキの樹皮と葉の乾燥したものを加えて染める。
4.木綿染め研究グループの試み
インドネシアの天然染料による木綿染めについて、現地に行ってみて特に印象に残ったことが幾つかあった。
○染める前に糸を精錬している様子のないこと。
○媒染剤には化学薬品を使わずに身の回りの自然から調達すること。
○赤を染めるために木の実で下染めすること。
○糸はかなり濃く染められていること(インドネシアで購入した布を洗ってみると、洗っても洗っても止めどなく色が落ち続けるにもかかわらず、布の色はもとのまま色褪せることはない。これはたぶん数か月間、数年間という充分な時間をかけ、濃い染液で繰り返し染め重ねているためではないかと思う)。
では研究グループでは何を勉強しょうか…。限られた時間の中で、入手できる材料の制約や自然条件の違いなどもあり、現地の染め方をそのままなぞってみても、今後への活かし方という点であまり意味はないと考えを巡らせた結果、今回は赤を染めるための下染めについて検討し、種実類を用いて実習してみることにした。
実習の諸条件については次のようなことが検討された。
1.木綿糸の種類について
製糸・紡績・撚糸・番手の状態により染まり具合に違いがあるのかどうか。インドネシアの手紡ぎ単糸と紡績単糸、日本の紡績単糸と綿コーマ糸などを染め比べてみたが、あまり濃度差はみられず、従来よりサンプル染めに使用していた綿コーマ糸を使うことにした。
2.精練の有無について
上記の方法を未精練と精練済の糸で比較すると末精練の方が濃く染まった。現地でも精練をしているのが見られないことや、かって「染織&」に掲載された『精練漂白による木綿の草木染め比較』(※)から末精錬の糸が最も濃く染まっていたことなどを考え合わせ、精錬はしないことにした。
3.染料について
ヤエヤマアオキは手に入りにくいので、今後引き続き手に入る染料であり、これまでメンバーも苦戦しながら染めていたインド茜で染めることにした。
4.染色温度について
現地では加熱をしない常温染めが一般的である。その理由ははっきりしないが、加熱するためにはエネルギーが必要になり不経済であることや熱帯性気候の高い気温と関係があるように推測する。グループでは2年間の経験と、今回は高温染めを必要とするインド茜を使用することから、今回は煮染法で行うことにした。
5.下染めについて
バリ島で入手したクミリで下染めされた糸をみると、たっぷりと油を含みベトついた手触りで糸の色は黄変している。実に含まれている油やタンパク質が重要なのではないかという見解が出て、次の4種類の下染めを実習することにした。
○タンニン酸…一般的に行われている有機媒染の常法として。
○ク ミ リ…現地から持ち帰ったもので、どんな感じかをつかむために。
○種 実 類…今後の参考のためにクミリの代用になりそうな<油+タンパク質>(豆類を含む)を豊富に含んでいるものとして7種類の染材を選んだ。
○油 脂 類…さらに天然油脂も4種類加えられた。
5.下染めの比較検討
実習は以下の手順と条件で行った。
1.下染めをする
2.インド茜で染める
※染める直前にミョウバンで媒染する。
※インド茜はそれぞれの糸に対して、100%(1回につき)使用し、2回染める。
※インド茜、前の晩に水に浸けておき、アク抜きをする。
※インド茜は、2回煮出して下染め分に必要な量の染液を作る。
※染液が90℃になったら糸を入れ、90℃~100℃で30分染め、常温まで放冷する。
※3日~1週間、中干しをして、2回目を染める。
3.その他の染料で染める
※ウコン[タンニン酸・椿の実の皮つきと皮なし・椿油・クミリ・抽法2種類]
※ヤシヤ[タンニン酸・落花生・なたね油]
※タンガラ<タンニン酸・ごま>
※ビンロウジ[大豆]
※アナトゥ[タンニン酸・松の実・クミリ・KLC]
(5種類の染料がそれぞれ[ ]内の染材で下染めされた。)
4.実習の結果
実習の結果、染着濃度の高いのは、油脂類>クミリ・種実類>タンニン酸、の順であった。これはインド茜以外の染料でも同様で、8名の担当者全員の一致した結果だった。色合いについては、タンニン酸は黄味がかっか色になり、クミリを含む種実類には若干濁りがみられた。クミリとタンニン酸は全員が同染料、同条件で染めたにもかかわらず色の違いが現れた。8人の染め手がいれば8通りの色になるということで、今回は種実や油の種類による比較には至らなかった。濃度、赤の色相、透明感という点では油脂類が最もすぐれていた。[油+タンパク質]が重要だろうと考えていたメンバーにとってこの結果は予想外だった。精練された油脂を使えば良いのなら実に簡便である。しかし、タンニン酸では染色後の糸の風合いは変わらないのに対して、種実類ではタンパク質のせいか固くなり、油脂類はいつまでも惨み出てくるような油と匂いが気になった。豆類の大豆はタンパク質が、その他の種実類は脂肪が主成分だが、どれも脂肪やタンパク質をはじめとして各種ビタミン類やカルシウム、鉄、カリウムなどのミネラル類も含まれている。それらの有用性もあるかもしれない。この時点でのメンバー間の結論としては、理論的ではないが染め比べた感触では油だけではなく種実全体をつぶして使用するほうが良さそうだ、ということに落ちついた。
今回の実習で、バリ島で入手した糸を一緒に染めてみたところ驚くほど濃く赤く染まった。果たしてこれはどのようにクミリで下染めされたのだろうか。 1996年3月現地で調べてみた。そして、私たちの予想はあえなくくつがえされた。(次号につづく)
(※)小柴辰幸『木綿の草木染めを濃くするための知識』(染織&NO.151)1993年
木綿染め研究グループ報告
天然染料による下染めの比較検討(1)
-赤をより赤く染めるために-
富田和子
※ 実習担当者:大方悦子・太田晴美・工藤いづみ・近藤由巳・酒井和美・富田和子・久常久美子・矢部淑恵・米倉伸子
1. はじめに
1993年4月、東京テキスタイル研究所「草本糸染クラス」の卒業生を対象に、米倉さんの呼びかけにより「木綿染め研究グループ」が発足した。天然染料の場合、一般的に絹や羊毛に比べ木綿や麻は染着が悪く、濃く染めるためには苦労を要し敬遠しがちである。けれども木綿の持つ風合いが好きであり素材として捨てるわけにはいかない、と思った仲間が集まった。あえて染まりにくい木綿を取り上げ、草木で木綿の糸が堅牢に生き生きと染まり上がる方法を見つけるためのアプローチが始まった。
1年目は、今も草木で糸を染めている木綿の縞織物、館山唐桟の糸染め方法に習って行い、濃く染め上げることに専念した。
木綿を染めるということの感触を味わいながら、ともかく150色のサンプルが集まった。2年目は、唐桟の常温染法と従来の煮染法との比較をしながら、さらに藍とのふたがけを加えた。染色温度のほかに時間、回数、濃度などが検討され、その結果、木綿は染め重ねることが重要であること、藍が多くの色を提供してくれることを再確認した。そして、ここで問題になってくるのが赤色の染め方だった。
1年目、2年目を通してメンバーは各自知恵を絞った。前述の染色条件に加え抽出方法、様々な下染めによる有機媒染方法、糸の精練方法にも検討は及んだ。
3年目には欲を出し藍以外の染料によるふたがけと、海外に目を向けてインドネシアの木綿染めを勉強するに至った。ふたがけは染料の組み合わせと相性、媒染剤の扱い方、2色の色のバランスなど難しい点が多く未消化に終ってしまったが、インドネシアの木綿染めについては1995年9月に現地へ行き、情報とサンプルを持ち帰ることができ、それらと資料を頼りに検討し、実習したことをここでご報告したいと思う。
2.インドネシアの天然染料
赤道を挟んで13000もの島々からなるインドネシアは250余の民族が暮らし、それ以上の言語が話されているという。ここで作りだされる染織品は多種多様多彩である。その中でもバリ島の東に連なる東ヌサトゥンガラ州の島々ではイカット(木綿の経絣)が盛んに織られている。インドネシアには絹織物と綿織物があるが、この地域では木綿しか扱われていない。日常の中で自生の綿で糸を紡ぎ、絣を括り、糸を染め、布を織るといった一貫作業が母から娘へと受け継がれている様子を見ることができる。化学染料が普及した現在では天然染料と併用する地域もあるが、まだ身近に自生あるいは栽培された植物による糸染めも健在であった。海に囲まれた熱帯性気候のインドネシアには染料となる植物は豊富である。黄色はウコンやカユ・クーニン(黄色い木の意)で、また茶色はマングローブに総称されるヒルギ科やアカネ科の木々で染められる。藍は最も一般的かつ重要な染料で、キアイやナンバンコマツナギなどの藍が庭先に栽培され沈殿藍の製法で用いられている。織物を織っている各家の軒先や部屋の片隅には小さな瓶に建てられた藍液をよく見かけることができる。
3.インドネシアの赤染め
藍とともに重要な染料に赤色を染めるムンクドゥと呼ばれるアカネ科の樹木のヤエヤマアオキ(色素の主成分はモリンドン)がある。このムンクドゥもまた庭先や村の一角に栽培されていて、その木の根でオレンジ色~赤茶色までを染める。同じように赤色を染めるインド茜や西洋茜とは異なった独自の染め方があり、染め方とともに染め出される赤色も各島、村ごとに違った色合いが特色となっている。
《共通するムンクドゥの染め方の特徴》
○下染め…赤色の色素成分は直接木綿には染着しにくいため、クミリと呼ばれる木の実を擦りつぶし灰汗あるいは水に数種の樹皮や葉を加えた液と混ぜて下染めをしておく。
○抽出法…一般的には煮出すことはしない。ムンクドゥの根の皮を細かくつぶし水を加えて絞り染液を作る。色が無くなるまで何度もこれを繰り返す。
○染め方…糸を染液に数日間浸した後、充分日に干す。これを数回繰り返し加熱はしない。○媒染剤…明礬は用いず、ロバと呼ばれる二オイハイノキの樹皮と葉の乾燥したものを加えて染める。
4.木綿染め研究グループの試み
インドネシアの天然染料による木綿染めについて、現地に行ってみて特に印象に残ったことが幾つかあった。
○染める前に糸を精錬している様子のないこと。
○媒染剤には化学薬品を使わずに身の回りの自然から調達すること。
○赤を染めるために木の実で下染めすること。
○糸はかなり濃く染められていること(インドネシアで購入した布を洗ってみると、洗っても洗っても止めどなく色が落ち続けるにもかかわらず、布の色はもとのまま色褪せることはない。これはたぶん数か月間、数年間という充分な時間をかけ、濃い染液で繰り返し染め重ねているためではないかと思う)。
では研究グループでは何を勉強しょうか…。限られた時間の中で、入手できる材料の制約や自然条件の違いなどもあり、現地の染め方をそのままなぞってみても、今後への活かし方という点であまり意味はないと考えを巡らせた結果、今回は赤を染めるための下染めについて検討し、種実類を用いて実習してみることにした。
実習の諸条件については次のようなことが検討された。
1.木綿糸の種類について
製糸・紡績・撚糸・番手の状態により染まり具合に違いがあるのかどうか。インドネシアの手紡ぎ単糸と紡績単糸、日本の紡績単糸と綿コーマ糸などを染め比べてみたが、あまり濃度差はみられず、従来よりサンプル染めに使用していた綿コーマ糸を使うことにした。
2.精練の有無について
上記の方法を未精練と精練済の糸で比較すると末精練の方が濃く染まった。現地でも精練をしているのが見られないことや、かって「染織&」に掲載された『精練漂白による木綿の草木染め比較』(※)から末精錬の糸が最も濃く染まっていたことなどを考え合わせ、精錬はしないことにした。
3.染料について
ヤエヤマアオキは手に入りにくいので、今後引き続き手に入る染料であり、これまでメンバーも苦戦しながら染めていたインド茜で染めることにした。
4.染色温度について
現地では加熱をしない常温染めが一般的である。その理由ははっきりしないが、加熱するためにはエネルギーが必要になり不経済であることや熱帯性気候の高い気温と関係があるように推測する。グループでは2年間の経験と、今回は高温染めを必要とするインド茜を使用することから、今回は煮染法で行うことにした。
5.下染めについて
バリ島で入手したクミリで下染めされた糸をみると、たっぷりと油を含みベトついた手触りで糸の色は黄変している。実に含まれている油やタンパク質が重要なのではないかという見解が出て、次の4種類の下染めを実習することにした。
○タンニン酸…一般的に行われている有機媒染の常法として。
○ク ミ リ…現地から持ち帰ったもので、どんな感じかをつかむために。
○種 実 類…今後の参考のためにクミリの代用になりそうな<油+タンパク質>(豆類を含む)を豊富に含んでいるものとして7種類の染材を選んだ。
○油 脂 類…さらに天然油脂も4種類加えられた。
5.下染めの比較検討
実習は以下の手順と条件で行った。
1.下染めをする
2.インド茜で染める
※染める直前にミョウバンで媒染する。
※インド茜はそれぞれの糸に対して、100%(1回につき)使用し、2回染める。
※インド茜、前の晩に水に浸けておき、アク抜きをする。
※インド茜は、2回煮出して下染め分に必要な量の染液を作る。
※染液が90℃になったら糸を入れ、90℃~100℃で30分染め、常温まで放冷する。
※3日~1週間、中干しをして、2回目を染める。
3.その他の染料で染める
※ウコン[タンニン酸・椿の実の皮つきと皮なし・椿油・クミリ・抽法2種類]
※ヤシヤ[タンニン酸・落花生・なたね油]
※タンガラ<タンニン酸・ごま>
※ビンロウジ[大豆]
※アナトゥ[タンニン酸・松の実・クミリ・KLC]
(5種類の染料がそれぞれ[ ]内の染材で下染めされた。)
4.実習の結果
実習の結果、染着濃度の高いのは、油脂類>クミリ・種実類>タンニン酸、の順であった。これはインド茜以外の染料でも同様で、8名の担当者全員の一致した結果だった。色合いについては、タンニン酸は黄味がかっか色になり、クミリを含む種実類には若干濁りがみられた。クミリとタンニン酸は全員が同染料、同条件で染めたにもかかわらず色の違いが現れた。8人の染め手がいれば8通りの色になるということで、今回は種実や油の種類による比較には至らなかった。濃度、赤の色相、透明感という点では油脂類が最もすぐれていた。[油+タンパク質]が重要だろうと考えていたメンバーにとってこの結果は予想外だった。精練された油脂を使えば良いのなら実に簡便である。しかし、タンニン酸では染色後の糸の風合いは変わらないのに対して、種実類ではタンパク質のせいか固くなり、油脂類はいつまでも惨み出てくるような油と匂いが気になった。豆類の大豆はタンパク質が、その他の種実類は脂肪が主成分だが、どれも脂肪やタンパク質をはじめとして各種ビタミン類やカルシウム、鉄、カリウムなどのミネラル類も含まれている。それらの有用性もあるかもしれない。この時点でのメンバー間の結論としては、理論的ではないが染め比べた感触では油だけではなく種実全体をつぶして使用するほうが良さそうだ、ということに落ちついた。
今回の実習で、バリ島で入手した糸を一緒に染めてみたところ驚くほど濃く赤く染まった。果たしてこれはどのようにクミリで下染めされたのだろうか。 1996年3月現地で調べてみた。そして、私たちの予想はあえなくくつがえされた。(次号につづく)
(※)小柴辰幸『木綿の草木染めを濃くするための知識』(染織&NO.151)1993年