◆写真 2ヤナギのかご
◆写真1Salix viminalis
◆写真3. 柳で縄がなえる
◆写真4
◆写真5
◆写真7
◆写真6 夏期講習
2006年10月10日発行のART&CRAFT FORUM 42号に掲載した記事を改めて下記します。
編む植物図鑑①『ヤナギ:Salix』 高宮紀子
新しいシリーズ『編む植物図鑑』を始めます。前回の『民具のかご・作品としてのかご』では民具と自分の作品の繋がりを書いてきました。その中でも繊維植物について書くこともありました。植物については知識や自分の体験を記録してきましたが、集めたままのばらばらの情報で、新シリーズになったのを機会にここらでまとめてみようと思ったわけです。これまでと同じ、かごの視点ですが、主役を植物にして、編むという角度から、植物学の図鑑にはない内容にしたいと考えています。編める素材の植物図鑑というものになれば、と思い名前をつけました。
第一回目はヤナギです(写真1Salix viminalis)。ヤナギ科の植物はそれぞれ川や山、高山と育つ場所が違います。また枝の形も曲がりくねったもの、扁平、あるいはしだれるもの、そして樹木の高さも草のようなものがあれば何十メートルになるのもある。花穂は似ていると思えば、葉は細長いものだけでなく、輪状やギンドロやポプラのようにハート型もあります、という具合です。古代より人の歴史と関わって、材や薬に使われる他、かごが作られました。
身近なものはシダレヤナギ:Salix babylonica、かごの伝統的な素材ではありませんが、これで編んだことがある方もおられると思います。風にそよぐ長い枝が柔らかく編む材に、太い枝からは樹皮がとれます。枝は生の時は柔らかく編めるのですが、乾くと柔軟性はありません。細い先はぽきぽき折れます。そこで乾燥したものは4,5日水に浸けて柔らかくします。ただ生のような柔軟とまではいかない、と思っていました。小田原に住むYさんのシダレヤナギは乾燥後も4,5日水につければ十分柔らかくなるとのことです。Yさん作のフレームバスケットは、縁のところで編み材が折れることなく折り返っています。少しは折れるものもある、とのことですが柔らかいらしい。シダレヤナギにも数種類ありますし、環境の違いも影響するでしょう。いろいろな方の体験を聞いた方がいいと思いました。
ヤナギのかご、といえば柳行李。中国、韓国に同じものがありますが、素材はコリヤナギ:Salix koriyanagiで皮を剥いて使います。川に生えるヤナギですが、豊岡では畑で栽培していました。柳行李の技術は縦に並べたヤナギの枝を細い麻糸で織る方法で、太い枝から細い枝まで使える万能の方法です。この方法は枝で編むというよりは細い麻糸で織ってまとめるというもの。一番細い枝を使うのはお弁当箱で、直径が2~3mmぐらい。この他、細い枝をまるっぽ使って、タテ材、編み材ともに使うかごも作られています。枝は細く真っ直ぐで分岐が無い枝が必要となります。そのため夏には芽をとらなければならず、たいへんな手間です。どちらも枝は収穫後皮を剥き、よく乾燥させて使う前に水につけて柔らかくします。
ヤナギのかごといえばヨーロッパ。長さや太さ、色も違うたくさんのヤナギの種類があり、その加工方法やかごの技術が確立されています。ヤナギは採取後乾燥させ、長さによって束に分け、かごの素材として売っています。使う時は水に浸けて柔らかくします。ヤナギのかごはウイッカワークと呼ばれます。ウイッカーとは、ヤナギの枝のような柔軟な枝のことをいい、ウイッカワークとはヤナギなどの枝で作られた物のこと、かごも含まれます。写真2のように一見、普通なかごですが、実は特別な技術でできています。
特殊な技術とは、まず底です。普通ですとタテ材は底から側面を通って縁に出るわけですが、ヤナギのかごでは円盤状の底を作り、側面のタテ材を底に挿して編みます。これはヤナギの枝の元と先の太さの違い、長さ、かごの丈夫さから考えられた方法です。側面の編み方や縁のしまつも籐のかごの編み方と一見同じですが違います。かごの作り方としてはこの他、フレームバスケットという作り方が多く見られます。太い材を使ってフレームを作り、あばら骨のような骨格を作りその間を編んでうめる方法です。柳のほかの木材のへぎ材も使える方法で、どちらもヤナギの性質をうまく活かした方法です。
今年になってヤナギを栽培している農園主のT氏を紹介してもらいました。栽培されている品種の中にかごを編むオランダヤナギがある、とのことでした。このヤナギはもともと花材として栽培されましたが、かごに使われるという説明が苗の解説にあったそうです。T氏はヤナギを知り尽くした方ですが、編むということにも関心を持って下さりいろいろと実験して報告して下さいとのことで、送ってもらうようになりました。
最初に送られてきたのは鉛筆より太い枝。編めるか試してみたのですが、まず驚いたのが、枝全体が捩れに対して強いということでした。これはシダレヤナギと違う点で、全体が柔軟で繊維の束のようにしなって捩れ、曲げに強い。例えば、写真3のように枝で縄をなうこともできます。
とにかく生のままかごを編んでみました。太い枝だったので、ずいぶんと力はいりましたが、久しぶりに全身で編むということを体験できました。枝の柔軟性は独特です。急な曲げにはポキンと折れるのではなく、ふにゃりと曲がります。太いものは編むのがたいへんですが、鉛筆ぐらいの太さまででしたら、捻るようにして編むと少し楽に編めます。この性質が発揮されるのは、捻り編みの類の編み方の時です。太いものでも3本、4本で追いかけて編む捩り編みですと(写真4)とてもよくわかる。普段、一つの編む技術としてみていたこの技術が、実はヤナギを編む技術だったのだとその時初めてわかりました。枝が持つ弾力のおかげで、他の素材ではむつかしい構造も可能です。たとえば写真5のようなトレイ。枝で輪を作り、タテに太い枝を渡して横に枝を入れて編むだけのものです。輪に材の端がかかっているだけですが、とまっています。密に材を入れれば外れることはありません。
枝からへぎ材をとることもできます。半分に割り、それを半分にして1/4にします。割った材の真ん中の隋を削って表面の層だけにすると柔軟な編める材をとることができます。これでどんな作品を作るのか、今はわかりませんが。このヤナギの学名はSalix viminalis、ヨーロッパでかご編みに使われるヤナギであることがわかりました。
編むヤナギを体験できる、そう思った私はT氏に夏期講習用にヤナギを大量に切ってもらうことをお願いしました。実はヤナギを切るのは冬。夏は枝が水をいっぱい吸っているので、乾燥後皮に皺がよってしまう、品質も心配。それで水をあげてない季節に切るといいのですが、ヤナギの枝は得がたい素材です。いろいろな都合もあって夏にお願いすることになりました。
講習が始まる一週間ほど前に、農園に伺い、ヤナギの畑をみせてもらいました。切ってもらうのは二年目の株のもの。ずいぶんまっすぐ伸びています。心配していた分岐も先だけでした。というのも分岐するとその先の枝は細くなるからです。写真6は夏期講習の模様です。大量に送られてきたヤナギを参加者に手伝ってもらい、葉をとり、枝を分けているところです。
夏期講習は、ヤナギを使ってもらい、伝統的なヤナギのかごの技術を体験してもらう内容でした。普段は造形的なチャレンジを勧めているのですが、実際の素材を使って技術を体験することで、素材と技術との関係が見えるかもしれない、そう思いました。
クラス中、枝の長い先が飛んで、鞭のようにしなったり、太くて編めなかったりでいろいろな問題が起こりましたが、そのつど問題解決をしてもらい、なんとか終わりました。ヤナギを編む技術というのは、ほんとうによく考えられていて、ヤナギの太さや長さを常に勘定にいれて編むことに徹底しています。枝の元から編み、先で編み終えたり、必要な箇所で必要な編み方をする合理的な方法です。柔らかい素材ですと自分の造形意思がかなり通せるのですが、ヤナギの場合はそうはいきません。そこに面白さがあると思いました。
緑色をしていた枝も今は黄色から薄茶に変わってきています(写真7)。これからもオランダヤナギとのつきあいが続けばと思っています。未知のことが多い楽しみなヤナギです。