◆トイシ入れの展開(藁)
◆トイシ入れ(藁)・写真2
◆バンダンの縄(写真3)
2006年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 41号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご(27)
『縄からはじまる』高宮紀子
2006年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 41号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご(27)
『縄からはじまる』高宮紀子
いろいろな植物による縄が作られています。加工品や金属など、様々な用途の縄を店で手に入れることができます。昔の生活でも縄は大活躍の道具だったと思います。例えば、蔓の縄、これで橋も作っています。そして葉や繊維。これは植物1本の葉や茎では弱いけれど、束にして綯うことで丈夫な縄になります。昔の民家の屋根裏をご覧になったら縄がたくさん使われていることがわかります。藁や蔓、そして硬そうな竹の縄が使われています。
縄を綯うというのは一番簡単な技術だと思いますが、均一な太さの縄を綯うのは難しい。例えば藁細工、基本は縄綯いということを人からよく聞きました。このシリーズでもずいぶんと藁細工のことを書いてきました。全ての藁細工に縄ないが必要というわけではありませんが、縄を使う民具は多い。縄綯いの技術には藁を束で扱う技術が凝縮されていると思います。
縄を綯う技術は簡単です。葉や繊維を束にして同じ撚りをかけて反対方向に撚り合わせる、というシンプルな工程です。しかもこの技術は植物の繊維の強さを試すことに使うこともできます。自然素材を使うと植物に関心ができ、庭や散歩の途中で見つけた植物が気になってきます。それでこの植物は使えるだろうかと試してみたくなります。手っ取り早い方法が縄をなうことです。葉を生のまま、よりをかけて綯ってみます。そうすると繊維の強さがある程度わかってきます。
藁細工では縄を見ると、作り手の技量がわかるといわれます。私は最初から技量的なことは無理、上手な人がいくらでもいらっしゃる。例えば、足半では誰々さん、馬では、というようにその道を極めた作り手がおられる。その方々は膨大な作業量から技術を工夫してこられたのですから、そういう方にはかなわない。私が藁細工をやってきたのは、知識を得る楽しみもありましたが、その他に、藁を使ってものを作るというのはどういうことかを感覚的に掴みたいということでした。
藁細工で最初に行ったのは、柳田利中さんの藁細工ビデオの編集でしたが、それからいろいろな方と藁つながりでお会いすることができました。例えば、藁筆を作っておられる方や、東北地方の作り手さん、韓国の藁と草の博物館の館長さん、そして嬉しかったのは少ないが若い藁細工の後継者ががんばっておられることもわかりました。
藁細工の技術の素晴らしさを何か違う方法で皆さんにみていただけないだろうか、と思うようになりました。ただし、藁には問題もあります。虫がつきやすいし、ゴミも出る。飾りだといいのですが、実用的なものは作っても使うのが難しい、という意見もあった。それならば、技術展開を造形で見せるということは私にもできそうだ、と思うようになりました。
技術自体の素晴らしさというのは、博物館のようにそれ自体を伝統的な形、たとえばゾウリで展示しても伝わらない。見た方は、ただゾウリだと思うでしょう。それはそれでいいのかもしれませんが、それより藁細工の技術は現代にも生かせるものなのだ、ということを伝える展覧会をしたい、と思うようになりました。
二年前、韓国の藁と草の博物館の館長さんとお話した時に、いつか藁細工の交流展をやりましょうと言われ、企画書を提出してみました。不幸にもその後反日感情が高まったこともあり、展覧会の実現が今は難しいということになりました。企画の内容は、伝統的な技術保持者による伝統的な藁細工と実演、藁を今日の生活に活かそうとしている人々の作品、私達の造形という三部の構成だったので、あまりにも大きすぎたというのが今の反省です。
その後、すっかり頓挫していた藁の展覧会でしたが、たまたま千疋屋ギャラリーでキャンセルが出て、前号の足半の記事を読んで下さったTさんより連絡があり、急遽、藁の展覧会をやってみることになりました。
展覧会のタイトルをどうしようか、と考えた時に柳田さんの縄綯いが基本、という言葉が頭に浮かびました。それで縄に関係するということで参加を呼びかける作家の顔がタイトルとほぼ同時に頭に浮かびました。そしてタイトルは『縄からはじまる』になりました。
参加する作家は岩崎睦美さん(縄のバスケタリー)、東明美さん(藁筆)、山本あまよかしむ(草の面)さんと私(素材・技法の展開)の4人です。それぞれ、作る分野は違いますが、みなさん、柳田さんに関わってきた人達で藁、縄という共通項があります。
展覧会に向けて、私のテーマは素材・技法の展開ということで制作を始めています。上の作品はその一つで、縄の技法ということで伝統的な“トイシ入れ”の方法を展開しています。
“トイシ入れ” は縄でできているのですが、何箇所か縄を出っ張らせて作るので、縄の進む方向が面白い。また、普通とは違う方法で縄にするという所がずいぶんあって、縄をどういう手順で連結していくか、が面白くいくつか作っています。もう一つ、縄関連ということでゾウリの技術の展開をやってみたいと思っています。
もう一つのテーマは縄の素材の展開です。様々な素材による縄というのも面白いですが、いろいろな素材が使えるということがわかっても博物館的な展示になってしまう。実際縄を綯う時にいろいろなことが素材の性質で起こるわけです。それを形にしてみよう、というのが今回の課題。
例えば、写真3枚目はパンダンという呼ばれる素材で縄をなったものです。素材の特徴を手でとらえていくと、こういうこともできる、したくなるというのが自然にわいてくる。それを形にしたいと思っています。パンダンでは折れ曲がったり、こぶを作ったりしています。他にもいろいろな素材で縄を作って、手で触って見てもらいたいと思います。
宣伝ですが、期間中、ワークショップをやります。千疋屋ギャラリーではあまりこういうことが行われるのは見たことがありませんでしたが、今回、ギャラリーのご好意で実現できることになりました。ワークショップの意味は体験してほしいということ。形を作るよりは素材と向き合い、藁筆を作ったり、縄を綯うことで、自分と素材との関係を作る、というプロセスを楽しんでほしいと思っています。
展覧会名:「縄からはじまる」
-藁の可能性- 縄・藁を使った造形作品展とワークショップ
日時:2006年7月17日から22日 於:千疋屋ギャラリー
(ワークショップなどにつきましてはhttp://www001.upp.so-net.ne.jp/basketry-idea/pages/sub6.htmをご参照下さい。)
-藁の可能性- 縄・藁を使った造形作品展とワークショップ
日時:2006年7月17日から22日 於:千疋屋ギャラリー
(ワークショップなどにつきましてはhttp://www001.upp.so-net.ne.jp/basketry-idea/pages/sub6.htmをご参照下さい。)
読者の皆様へ:
『民具としてのかご・作品としてのかご』の連載は1999年より始まりました。このシリーズで自分とかごの伝統とのつながりについて考えてみよう、と思い書きました。そろそろ違う視点で、というご意見があり、このシリーズを終了し、テーマを変えて再出発したいと思っております。今までお読みいただきましてありがとうございました。新タイトルは未定ですが、かごに関することは変わりなく、新しいものはないと思いますが、また皆さんに呼んでいただけたら幸いです。