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編む植物図鑑 ⑥『イギリス編』 高宮紀子

2017-10-08 10:25:49 | 高宮紀子
◆写真 6  パピルス製のエジプトのかご(ケンブリッジの博物館)

◆写真 1

◆写真 2

◆写真 3

◆写真 4

◆写真 5

◆写真 7

◆写真 8

◆写真 9

◆写真 10

◆写真 11

2008年1月10日発行のART&CRAFT FORUM 47号に掲載した記事を改めて下記します。

 編む植物図鑑 ⑥『イギリス編』 高宮紀子

前回も書きましたが、今年の夏、イギリスに一ヶ月ぐらい滞在しました。
 
 一枚目の写真はキューガーデンの美しい温室です。有名だから行かれた方もおられると思います。イギリスはご存知の通り、博物的な物の集め方のメッカです。博物的な物の集め方をするのは、作っている人に多い気がします。私もその一人ですが、このキューガーデンでも夢のような収蔵庫がありました。この話は後ほどします。

 イギリスに行ったと書きましたが、実際には作品を出品している展覧会が行われたスコットランドから始まり、イギリス国内三箇所に滞在、そしてアイルランドに行きました。

 前回はかごのワークショップをしたこと、そして、苦労したけれど藁をなんとか持ち込んだというお話を書きました。ワークショップは全部で三箇所、それぞれで行いました。スコットランドのグラスゴーのコリンズギャラリー、そしてケント、最後にオックスフォードから車でしばらく走ったハートフォードシャーという所で行いました。

 ワークショップのうち二つは2日間のコース、一つは1日のクラスでした。参加した人というのは、かごを趣味で編んでいる人、またはバスケットメーカー、アーティストの人達でした。用意した藁を材料に使ったのですが、なんせ持ちこめる量がそれほど多くない。そこで、二日間のコースでは、手持ちの他の素材があれば持ってきて下さい、とお願いしておきました。

 イギリス、そしてスコットランドといえば、まずはヤナギのかごが頭に浮かびます。写真2は私がケンブリッジ市内をブリブリ走った貸し自転車です。これについていたのはヤナギのかご。おそらく中国製かポーランド製かもしれませんが、当たり前のようにヤナギのかごがついている所が面白い。

 イギリス、ヨーロッパはかごを編むヤナギの種類がたくさんあり、その加工方法もいろいろあります。西の方でヤナギを栽培している有名な一家もいて、容易に材料が手に入ります。でも今回はそれ以外の材料とも出会いたい、と思っていました。国内では湿地がたくさん見受けられ、ガマ、カヤツリグサの仲間もたくさん使われています。この他、名前がわかりませんがひどい匂いがする草、イネ科のような草、樹木はオーク、シラカバなど、たくさんの素材があります。

 残念ながら素材を栽培している所には行かれなかったのですが、ワークショップに参加した人からいろいろと教えてもらいました。スコットランドで行ったワークショップでは、デンマークのバスケットメーカー、エヴァさんと再会しました。彼女とは以前、デンマークの彼女の家で行われたビッグウイローズ デイというヤナギのかごのお祭りの際、ワークショップをさせてもらったという関係でした。

 彼女はヤナギのかごを編むバスケットメーカーですが、いろいろな技法も勉強していて、特にアフリカのかごの技法に興味があります。その一つが、フランスの地方のかごを編む方法と操作方法が似ていたため、二つの技法を関係づける本を書いたぐらいです。その彼女がワークショップで使っていたのが写真3のヤナギの枝。太さは1mmぐらいの細さで30cmぐらいの長さのものです。これで材料として売っているようです。細くても柔軟なので、水につけて編むことができ、折れません。

ケントのワークショップで出会った素材はイグサの仲間。小さいものが近くに生えていました(写真4)。ワークショップの会場は牧場。芝生の上の青空教室でした。

 写真では見えづらいのですが、先に花がついています。草は柔らかく編むことができます。名前はジャンカスと呼ばれていました。

 写真5は参加者が作ったガマと麦で作られた吊るしです。最初に藁で唐辛子などを吊しておく吊るしを作ったのですが、手持ちの素材で同じ技法を試してみたもの。中央を編んでいるのは麦、横に並んでいるものがガマの茎です。これも柔らかく編むことができます。伝統的な素材で、長く三つ編みにして履物、マット類などを作ります。

 イギリスの博物館ではアフリカの編み組み品の展示が充実しているような気がします。ケンブリッジの小さな博物館にも紀元前に作られたパピルス製、エジプトのかごが展示されています。写真6がその一つ。レプリカかもしれませんが、コイリング(巻き上げ編み)のかごです。ところどころ編み目が切れて芯が見えていますね。これは私が昔作ったかごと同じです。私はわざと芯が見えるように作ったのですが、結果は同じ。つまり、かごで地球上には新しいことは何もない、ただ現代人は表現方法にこだわっているのにすぎない、と言えるかもしれません。でもそれだから楽しい。それだけ一個人の行為が人間の歴史に繋がっていられるという思いです。

 さて、キューガーデンの話にもどります。この構内の中にKew Economic Botany Collectionsの収蔵庫があるのですが、友人のおかげでその収蔵庫に入れてもらいました。冷蔵庫なみに寒いその中で夢のようなコレクションを見たのです。写真がおもうように撮れなかったのが残念ですが。引き出しがいっぱいついたロッカーが並んでいて、その一つ一つに植物とその繊維や加工された素材、そして同植物から作られた世界中から集められたテキスタイル、編み組み品などが詰まっています。一つの引き出しはそれほど、深くはありませんから、同じ植物で複数引き出しがあります。世界中の植物からいろいろな繊維や素材が取れること、たくさんの地域の編み組み品があることが見てとれるのです。

 写真7はチャイナ グラスという植物の引き出し、皮か繊維で編まれたものが入っています。そして写真8は麦です。日本にも麦稈細工がありますから、どういうものかは分かっていただけると思います。入れ物、袋類、帽子などが作られていますが、とても細かく繊細です。1本の麦の稈(茎)を何本かに分ける道具もあって、細い編み紐を編むことができます。

 このコレクションはWilliam Hookerという人が1841年に設立したと書いてあります。困難を極める現地への探検を通じて集められたコレクションが充実していました。キューガーデンでは、植物に関する本がたくさん出ていますが、編み組みに関する本もあり、このコレクションに関する本も出版されています(写真9)。写真はコルク製の帽子。

 ワークショップで出会った人が話していたのですが、イギリスには工芸が無い、だから他の文化の工芸を取り込んだ、という話をしていました。麦稈やかご作りの工芸はあったでしょうが、現在、かごなどはヨーロッパの他の国や中国などからの輸入に頼っているのが現状です。

 すでにかごを使う生活は日本と同様ありませんが、昔は写真10のように家具もかご編みの技法でできていた時代がありました。この椅子は巻き上げの背もたれが付いています。このスタイルでたくさん作られた時代があったようです。

 イギリスも日本と同様、これからの工芸の将来に希望と不安を抱えています。

 最後に、編んだものではありませんが、ケンブリッジでみかけたお菓子の写真を皆さんに紹介します。これはメレンゲのお菓子。直径10cmはありそうな大きさでした。あまりの大きさで買えませんでしたが、どこかオブジェのようにも見えました。


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