◆若井麗華個展 1998
◆「ALOHA MODO」若井麗華
◆「SWIM MODO」 若井麗華
1999年10月1日発行のART&CRAFT FORUM 15号に掲載した記事を改めて下記します。
「WOOL GATHERING」 若井麗華(フェルト造形作家)
私はかたまりです。私はそのかたまりから自由になりたいと願ってきました。
大きく伸びて、柔軟に広がる軽やかな存在に。けれども願いを叶えるべく術を知らずにいました。
あまりにも願いが強くなり外に出たいと大声を出したものだから、その振動でかたまりの表皮に切れ目が走りました。
その時、意識はかたまりの中に居たことを知り、内と外との境界にあるものが皮膚であることを知りました。私の意識は羽の生えた天使となって外へ飛び出し自由に浮遊する術を得ました。
水の中で宙返りをしてみる
天と地が区別できなくなるくらいまで
水を通して見えた青空は
私を本当に宙に浮かせた
ALOHA MODE
もし、空想がこうじて
今ここに居るという意識がなくなって
目の前の風景に溶け出したら
きっと大きなストロークで泳ぎ出す
SWIM MODE
身体感覚をなくし空想の世界へ入っていく時、私の体を覆っている表皮から意識が抜け出ます。
内と外の境界を越えて。
「人生はすべて幻想である。」ある作家のこの考え方が大好きです。
そう考えていくと自分の人生を創る事は可能かもしれないと、気がつきました。そしてこの作家の言葉から、まずはものづくりを通して幻想をつくってみようという考え方をするようになりました。
これら一連のフェルト作品は、意識が空想の世界へと飛び立つ為の衣として制作しています。仮想空間でそれは衣となって動き出し、こちらの世界から見れば抜け殻のようであり残像のようにも見えます。どんな衣を身につけるにしても意識が入ったところに生命が宿り生まれます。それはちょうど、私のこの肉体の中に(器の中に)、私という意識が入ってここに生きているのと同じなのです。
太古の昔から人間は、祭や儀式の際に日常とは異なる衣装を身に着け臨む事で日常から別の世界へと意識を移行させてきました。
(音や舞の要素も加わって)
現代でも同じようなことが祭事や行事、そして自分を逸脱して楽しむ仮装パーティー等で行われています。身近な場面でいうと、誰もが日常生活の中で身につけている物の色や形を変えただけで気分が変わってしまう経験をしていると思います。
実際には、皮膚の上に衣装や装飾を重ね合わせることなのですが、それによって意識がポーンと変化します。そこに私は皮膚と衣が溶け合い一体化する現象が起きていると見るのです。意識をいろいろな世界に飛び立たせる為の衣を作るには、この肉体と皮膚の感覚に、より近い素材でなければなりません。もともとテキスタイルの感触が好きだった私は、数ある素材の中からフェルトという素材を選び出しました。私にとってフェルトの肌触りはたまらなく皮膚感覚を呼び起こしてくれます。そしてフェルトの自ら持っている特性と、皮膚と衣が溶け合い一体化する(空想の世界に移行する時に起こる)という現象に、共通の成り立ちを見るからです。
たくさんの毛が集まってフェルトになる。
たくさんの思いが集まって空想になる。
ここに空想の世界を現実化するという試みとフェルトでの表現が重なり合うのです。
『W00L GATHERING』という単語があります。
直訳すると「羊毛の集まり」という事になりますが、言葉としての意味は「とりとめのない空想」という意味です。フェルトの中にいろいろな思いを込めようとしている今、私のW00L GATHERINGは当分続くでしょう。