◆高宮紀子作 写真1
◆写真 2
◆写真3~写真6
2005年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 36号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご (22)
『ゾウリ』 高宮紀子
2005年4月10日発行のART&CRAFT FORUM 36号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご (22)
『ゾウリ』 高宮紀子
ワラ細工で私が最初に習ったのは、ゾウリでした。以前に書いた柳田利中さんから習ったのですが、柳田さんによるとワラ細工の基本は縄ないで、ゾウリは縄ないの実力が試される一番いい例だそうです。習いにくる初心者の人に対して「まずゾウリから始めましょう」とよく言います。ただし、初めから縄ないはむつかしいので、ポリ紐を代用して作ります。
私の場合も最初に作ったゾウリは、ポリ紐を芯縄にしてワラ縄で編んでいくものでした。ゾウリでやっかいな問題は、左右を同じ幅、長さにすることです。最初からうまくいくわけはなく、やはり同じ大きさにはなりませんでした。写真1は最近作ったもの。芯縄を人工のワラ縄(ポリ紐)で、編み材はシュロ縄とジャージーの布を裂いた物。布は強く撚りをかけるとしっかりした縄ができますが、その縄を最初と最後に使っているのが私の工夫です。ご覧の通りまだまだのゾウリです。
ゾウリは芯縄という縦に通っている縄とその間を埋める編み材でできています。芯縄を引っ張ってテンションをかけ編んでいくので、簡単な織りのようです。織りと違うのは、形を整形するプロセスが途中や最後にあるということです。
まず手順としては芯縄をないます。編み終わった後でこの芯縄を引っ張って縮めるのですが、うまくできてないと途中で切れてしまうので初心者の場合はすべりがよく、引っ張っても切れないポリ紐を代用します。
まず、1ヒロ分(両手をいっぱい横に伸ばした時の手の先から手のまでの長さをいう)の長さの縄を用意して交差させ輪を作ります。上の輪(ピンがある所)を足の指にかけるか、編み台のでっぱりにひっかけてテンションを得ます。織りの経糸のように張れたら、次に編みます。手前の輪に編み材をかけて、間の2本の材を入れて経糸とし手前から編んでいくのですが、プロセスとしてはつま先から、つまり逆向けの方向に編んでいきます。
編む幅の調整は縄を引っ張ったり、緩めたり、編み目の間に手の指を差し込んで広げたりして、手加減で編んでいきます。つま先からしばらく編んで、足を入れる緒をかけて、またしばらく編んでかかとの所まで編みます。編み終えたら、手前にある芯縄の2本の端を引っ張ります。この2本の縄は交差しているのですが、ゾウリにとってこの交差は大事です。交差の部分がかかとの端に残って、うまく引っ張ると丸く端が合うことになります。やってみると難しい所です。
芯縄に編み材を入れて編んでいくゾウリは、他の履物の基本ともいえる構造です。同じ構造で別の履物ができます。また芯縄を交差させず、そのまま編んでかかとの所に返しと呼ばれる部分を作る方法もあります。ワラジや雪靴がそうです。雪靴などのように、甲をくるむ部分を編む履物は複雑化したプロセスですが、やはり芯縄がある構造は同じです。
ゾウリは簡単な編み方なので、基本的には同じなのですが、地域、作る人によって少しずつ違う所があります。例えば、最初の始め方、と終わり方、鼻緒の後ろの結び方などですが、いかに美しく仕上げるかという競い合いみたいな工夫で見ていて楽しいです。作る人のこだわりが、いろいろと込められています。
10年以上も前のことになりますが、秋川でワラ細工をやっていた人の所へ連れて行ってもらったことがあります。その方は履く人の足の大きさに合わせたゾウリをいろいろな素材で編んでいました。違う素材が面白かったので、シュロ縄、ワラ、チョマ、ミチシバ、ミョウガで編んでもらいました。少しずつ履いたのと、人にあげたこともあり、最後に残ったのはミチシバで編んだものです。この方の“こだわり”は、ゾウリの大きさでした。履く人の足の大きさよりは小さ目がいいということで、できあがってきたのがこの大きさ。右は普通の市販のサイズです。なんでも足がのっている時に、足先やかかとが出ている方がかっこよく履けるということで、なるほど履いてみると足にぴったりつく感じでした。
伝統的なものかはわかりませんがスリッパのような履物は福島県の三島町のものです。芯縄はヒロロ(ミヤマカンスゲ)の葉を割いたもので、編みの部分はガマです。あまり太いふかふかした葉ではありませんが、薄めの軟らかそうな葉が使われています。蒲の葉は平らなテープ状の素材で幅がありますので、藁のように断面が丸いものと違ってそのままでは編みにくい。そこで少しねじりながら編んでいます。平らなテープ状の素材のため、ちょっと見ただけでは気が付きませんが、編みの部分は平らな所が芯縄に対して垂直に立っているような感じがあります。編み目を詰めながら編んでいるので、一段ずつの編み材が重なっている、そんな感じです。同じ蒲を使ったゾウリでも岡山のものは、蒲の根元の方でふかふかした部分を使っているので、三島のように重なっている感じではありません。
この素材の違いによる編み目の現象は沖縄のクバのゾウリを見ると、より明らかになってきます。しっかりした平らなクバの葉を詰めて編んでいるので編み目が重なっています。このクバのゾウリの場合、同じ面を向けて、つまりねじらずに編んでいます。このことは編み目がうまく重なることと関係しているようです。
去年の5月、デンマークで行われたヤナギのかごのフェスティバルに参加したのですが、その時出会ったバスケットメーカーがこれと同じような手法で編むかごを作っていると聞きました。写真で見ただけですが、確かトワイニングだと言っていたように思います。いろいろな色を変えて、カラフルなかごだったことを思い出しますが、厚みがあることに気がつかなければ、普通の編み方にしか見えませんでした。
私がゾウリを作るのは自分のためか、ワークショップの時だけですので、そんなにたくさんは作っていません。ときたまかごを訪ねて出かけますと、やはりその地域のワラ細工が気になります。そんな気持が呼ぶのか、最近も宮崎の山の中で作られたゾウリをもらいました。とてもよくできていて、かかとの芯縄を引いた所が美しい。ぞうりの形もいろいろありますが、ここのところをみれば、上手下手がわかるので、作り手がもっとも注意する点の一つであるようです。何足も作ってこられた作り手の技術が自然に出ていて、感心するばかりでした。