水の門

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歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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書評(1):石田由香理・西村幹子『〈できること〉の見つけ方〜全盲女子大生が手に入れた大切なもの』

2021年01月02日 15時20分54秒 | レヴュー(書評)
 この稿に取り掛かる前、ふと「すぐれた書物はひらかれている」という一文が浮かんだ。ググってみたが、同じ文例は見当たらなかった。石田由香理・西村幹子 著『〈できること〉の見つけ方〜全盲女子大生が手に入れた大切なもの』(岩波ジュニア新書)はおそらくそれほど知られていないのだろうが、この一文を冠するに相応しい。
 この本を知ったのは、以前私が行なっていた代読ボランティアのサービス利用者さんからの情報メールであったか、それとも大学の同窓会報だったか、もう忘れてしまった。私の住まいの隣の市の図書館に所蔵していることが分かったので、iPhoneのリマインダーの「借りる本リスト」に登録しておき、2019年秋に借りた。1歳3ヶ月で網膜芽細胞腫により両眼を全摘したという石田さんの生い立ちから始まって、「お前が思っている以上に障害者って邪魔なんや」と親に言われた生活環境を経て、大学時に参加したフィリピンへのスタディツアーがきっかけで、自らの内なる壁を取りのけて、互いの〈できること〉を見つけ合い、尊重し合う生き方へ変えられていった様がつぶさに語られており、夢中になってページを捲ったことが甦ってくる。また今借り直して読んでみても、新鮮な驚きと感動を覚える。こう上っ面だけ書いて、単なるサクセスストーリーかと思われるのも嫌なので、一人の登場人物に絞って、ここでは書いてみたい。
 本書の4章に横森美奈子というファッションデザイナーが出てくる。私の中での横森美奈子氏はMEN'S BIGI のイメージが強かったが、MELROSE、HALFMOON、BARBICHEのデザイナーを歴任し、後年になって、介護ユニフォームの企画デザインや、リユースきものを中心としたコーディネート提案なども行なっているようだ。書店に並んでいる雑誌をチェックできない石田さんは、ネットやファッションデザイナーが執筆した本をファッションに関する情報源としていて、その中に横森美奈子氏の書籍があったそうだ。服選び・コーディネートのコツが文章だけでも分かりやすく書かれてあり、本の最後に記されていたメールアドレスに石田さんはダメ元で、「自分に本当に合う服や色、髪型や靴などを、ストレートに教えていただきたい」と請い、直接会えなくてもいいと書き添えたと言う。目の不自由な友人のいる横森氏は、視覚障害者のグループのためにファッションセミナーを開いたことがあり、色は皮膚感覚でも認識できる、サイズやフィット感は手で触って確かめるなどの助言をして大変喜ばれたことを明かし、「私も忙しくしていますが、時間を作れると思いますのでお会いできるといいですね」と返信くださり、2013年夏に石田さんと横森美奈子さんは対面が叶ったことが、本書に綴られている。
 本編にまつわることはこのくらいにして、大学での石田の恩師・西村幹子による「おわりに」に引いてある聖句に少し触れたい。西村氏は石田さんを見て、「なぜなら、わたしは弱いときにこそ強いからです」(コリントの信徒への手紙 二 12章10節)を思い出し、「人間は自分の弱さを自覚するときにこそ神の恵みと力に支えられていることを実感でき、強くされる」と述べ、「強がらずに自分のあるがままを受け入れ、他者に支えられることに感謝できたからこそ、それを力に変えて他者のために何かをしたい、と思えるようになった」と結んでいる。
 私は先に、単なるサクセスストーリーではないとお断りした。実際本書のあちこちから伝わってくるのは、頑張っている〈我〉ではなく、何気ないひと言や機転で石田さんを勇気づけ、また陰日向になって支えてくれた方々への溢れんばかりの感謝なのだ。そして、横森美奈子氏の著書や、5章にある「ケイパビリティ」(選択肢を拡大する力。直訳すると「能力」「才能」「素質」「手腕」)へと私達の視野を広げてくれる、そのような「ひらかれた」書物なのである。あーー、最寄り図書館で、この「ケイパビリティ」に関する本も、私を待っているよ!!
 ……とまぁ、書評第一回はこんなところで。
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