以前、韓国の朴裕河教授の『帝国の慰安婦』という本を紹介したことがあります。(→リンク)
この本は、出版から10か月経ってから、元慰安婦たちから名誉棄損で告訴され、今年の2月に、判決が出ました。それを伝えるニュースをご紹介します。
オーマイニュース20150222
『帝国の慰安婦』はなぜ禁書になったのか
[解説]「慰安婦問題の本質を無視した」判断…朴裕河「削除する理由はないので「禁書」を選ぶ」
表現は、常に自由だとはいえない。憲法は「表現の自由」という権利を保障しつつ、時には制限を加える。▲真実ではなかったり、▲公益のためでなかったり、▲被害者に対し重大かつ顕著に、回復困難な損害を与える恐れがある場合は、無条件の自由を認めるわけにはいかないからだ。
5月17日、ソウル東部地方裁判所民事法廷21部(部長判事コ・チュンジョン)は朴裕河世宗大学教授の著書『帝国の慰安婦』の内容の一部が上記3つに該当すると判断した。裁判所は、日本軍慰安婦被害者9人が朴教授と出版社の代表を相手に提出した仮処分申請を受理し、同書の34カ所を削除しなければ販売してはならないと命じた。ただし、「朴教授らへの接触、取材の禁止」の申請は却下された。
日本文学を専攻した朴裕河教授は、2013年8月『帝国の慰安婦』を出版した。日本軍慰安婦被害者らは、彼女がこの本の中で日本軍慰安婦を▲自発的に募集に応じた人であり、▲日本軍の「同志」、戦争の「協力者」として描かれている、▲日本に法的責任はないと記述しているなど、54箇所で、自分たちの名誉を毀損したとし、出版販売を禁止するよう、2014年6月17日、裁判所に仮処分を申請した。
「日本軍慰安婦」の本質をめぐる論争
8か月間の審理の末、裁判所は、原告の主張の多くを認めた。「日本軍慰安婦は最低限の人間らしい生活も保障されないまま、性的快楽の提供を強要された「性奴隷」にほかならない「被害者」」という大前提のためだった。
裁判所は、問題とされた34か所で描かれている慰安婦の姿が、上の前提と異なっていると判断した。削除対象の一部は以下の通り。
19ページ:千田は「慰安婦」を、「軍人」と同様に、軍人の戦争遂行を自らの体を犠牲にして助けた、「愛国」した存在であると理解している。(中略)どの本よりも慰安婦の本質を正確に指摘したのだった。
32ページ:「からゆきさんの後裔(19世紀後半、海外売春に従事した日本の女性を指す言葉)」、「慰安婦」の本質は、まさにここにある。
265ページ:朝鮮人慰安婦は、同じ日本人女性としての同志的関係であった(記者注:日本軍の同志という意味)。
朴教授は、これらの表現が自身の学術研究の結果であり、個人的見解と言ってきた。また、個々の文言ではなく、全体の文脈を見るべきとも言った。彼女は21日、自身のフェイスブックに公開した「名誉毀損と指摘された54項目に対する回答」で、からゆきさんの後裔という表現のケースでは、それを証明するために同書の本文に多くの根拠資料を挙げていると弁明している。慰安婦たちが日本軍の同志だったという叙述は事実だとし、「この逆説を認めてこそ、その被害を正しく見つめることができる」とも反論した。
しかし、裁判所は、該当の表現が日本軍慰安婦の強制動員という事実を否定したうえ、彼女らが犠牲者であるという「本質を無視している」と指摘した。
また、その内容が真実であるとか、または公益に資するとは認めなかった。最終的には、該当部分を削除しないまま『帝国の慰安婦』が販売·配付され続けた場合、慰安婦被害者の名誉が毀損される恐れがあるというのが裁判所の結論であった。裁判所は、「日本軍慰安婦」という言葉が集団を指すとはいえ、政府に登録した日本軍慰安婦は238人、うち現在の生存者は53人であることを考慮すれば、被害者は特定されるとも判断した。
では、なぜ一部は削除対象からはずれたのだろうか。裁判所は、該当の表現は、前後の文脈からみて、大部分が朴教授の意見表明と見なした。朴教授が慰安婦強制動員の責任を日本国家に問うことはできず、一次的には売春業者などに非があると述べた部分も、彼女の見解とした。裁判所は、この内容が歴史的事実と異なる部分があるが、「憲法上保障された学問の自由、表現の自由の保護の範囲にあると思われる」と明らかにした。
「このような見解は、自由な議論と批判などを通じて、市民社会が自ら問題提起し、これを健全に解消するのが望ましい。」
裁判所は、決定文の末尾で「市民社会自らの解決」を要望した。しかし、その期待とは異なり、『帝国の慰安婦』をめぐる議論は、まだ裁判所を出ていない。
当面、本書を読んで討論することも簡単ではなくなった。朴裕河教授が削除決定を拒否したことにより、自動的に「禁書」になったからだ。朴教授は21日、Facebookに「本の一部を削除しなければならない理由がわからないので、自主的に「禁書」状態を選択した」と書いた。裁判所は、34項目に名誉毀損のおそれがあるので、いったん販売禁止要請を受け入れるということであり、名誉毀損という最終結論が出たわけではないという理由だった。
ボールは再び司法に投げ返された。慰安婦被害者たちは、昨年の仮処分申請と同時に朴教授らに慰謝料2億7000万ウォンを要求した。この損害賠償訴訟の第一回弁論は3月25日午後2時に行われる。表現の自由は最後に守られるか否か。
法廷が削除を命令した『帝国の慰安婦』の主な箇所(記事中の表)
33ページ:「慰安婦」の本質を見るためには、「朝鮮人慰安婦」の苦痛が日本人娼妓の苦痛と基本的に異ならないという点を知っておく必要がある。
38ページ:しかし「慰安婦」たちを「誘拐」し「強制連行」したのは、少なくとも朝鮮の地では、そして公的には日本軍ではなかった。言い換えれば、需要を作ったことがそのまま強制連行の証拠になるわけではない。
65ページ:家族や故郷から離れ、遠い戦場で明日死ぬかもしれない軍人たちを精神的・肉体的に慰め、勇気づける役割。その基本的な役割は数多くの例外を生んだが、「日本帝国」の一員として要求された「朝鮮人慰安婦」の役割はそのようなものであったのであり、そうであったからこそ愛が芽生えることもありえた。
120ページ:慰安婦問題を否定する者たちは「慰安」を「売春」とのみ考え、われわれは「強姦」とのみ理解したが、「慰安」は基本的にその二つの要素をともに含んでいた。すなわち、「慰安」は、過酷な食物連鎖構造の中で実際にお金をもらった者は少なかったが、基本的に収入が予想される労働であり、そうした意味では「強姦的売春」だった。あるいは「売春的強姦」だった。
205ページ:しかし実際に朝鮮人慰安婦は「国家」のために動員されたのであり、日本軍とともに戦争に勝とうとして彼らの世話を焼き、士気を鼓舞した者たちでもあった。大使館前の少女像は、彼女たちのそうした姿を覆い隠す。
この記事によれば、朴教授は内容の一部削除を拒否し、出版販売禁止を選んだということですが、その後、削除したうえでも刊行に同意したもようです。
最近の朴教授のフェイスブックには、削除された版が写真入りで紹介されていました。問題とされた一節が、墨塗りならぬ、白丸(○)表示になっています。
いまどき、民主主義国家でこんな検閲が行われるとは信じられません。
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