少し前のことですが、朝ドラ「虎に翼」で、主人公の佐田寅子は、最高裁長官の息子、星航一との再婚を決めます。
寅子には、戦病死した夫との間に娘(優未)がいる。
星も先妻と死別し、息子と娘がいる。
その際、結婚後の姓(名字)をどうするかが問題になりました。
寅子のほうは、最初の結婚で、猪爪姓から佐田姓に変わっています。
しかし、再婚時に「星姓」になるのに抵抗がある。
それで、結婚後も「佐田」という名字を名乗りたいと言います。
一方、星航一のほうは、別に名字にこだわりはないので、
「自分が佐田姓を名乗る」
と言う。すると航一の義母、百合が猛反対。百合は、航一の父の後妻で、航一と血のつながりはありません。
寅子も改定にかかわった戦後の民法では、男女が結婚したら、夫または妻の名字を名乗る、となっていて、妻の名字を名乗ってもよいのですが、夫婦が別々の名字を名乗ることは認められていません。なので、夫婦のどちらかが名字を変えなければならないのです。
ところで、いわゆるファミリーネームのことを日本語では、姓と言ったり、名字と言ったり、氏と言ったりします。
フルネームのことを、姓名とか氏名とか言いますが、実質的には同じ。
ただ、法律用語では「氏」なのだそうです。
旧民法(明治31年)
夫婦は、家を同じくすることにより、同じ氏を称することとされる。
新民法(昭和22年)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称することとされる。
いずれも「夫婦同氏制」です。
そもそも、名字が日本人全員に昔からあったわけではなく、明治3年に「平民」に氏の使用が許され、明治8年に氏の使用が「義務化」されたもの。翌年、「妻の氏は実家の氏を用いる」とされ、このとき夫婦は「別氏制」でした。
夫婦同氏制は明治31年に始まったもので、それほど古いものではない。
現在の日本で、「選択的夫婦別姓(氏)」が議論されています。
これは、結婚後の氏を夫婦のどちらかの氏に揃えさせるのではなく、選択できるようにするというもの。妻が夫の氏を名乗ってもいいし、もとの氏を維持し、夫婦別々の氏を名乗ってもいいことにする、というものです。
私はどっちでもいいと思いますが、夫婦が「別氏」になると、不都合なことも起きます。
お隣の韓国は、「夫婦別姓制」(韓国では「氏」とはいわず、「姓」といいます)です。
夫婦の間に生まれた子供は、父親の姓を名乗ります。子どもと母親の姓が異なることになるのです。
学校で子どものお友達に金哲洙(キム・チョルス)君がいるとします。そのお母さんの姓は金ではなく、李だったり、崔だったりする。
お母さん同士は、それぞれの子どもの名前(姓名)は知っているけれども、そのお母さんの名前は知らない。
金哲洙君のお母さんを、「金さん」とは呼べないのですね。
それでどうするかというと、哲洙のママ(チョルス・オンマ)と呼ぶのです。
子ども同士が友だちになって何年にもなるのに、そのお母さんの名前(姓)を知らない、というのはよくあることです。
もし日本で選択的夫婦別氏(姓)が実現したとして、「別氏」を選んだお母さんは、学校で友だちのお母さんから「鈴木さん」と呼ばれると、「いいえ、私は佐藤です」と答えなければならなくなる。
そんな状況が生まれるかもしれません。
なお、妻に夫の氏を名乗らせるのは女性差別のように言う人がいますが、どうなんでしょう。
韓国は朝鮮時代から、非常に「姓」を大事にします。「姓を変える奴」というのは、罵倒表現の一つになっているほどです。
では、夫婦別姓制の韓国は、男女平等の社会なのか。
韓国の古い家柄には、「族譜(チョクボ)」と言われる家系図があります。
しかし、そこには女性の名前が載っていません。
「族譜」は父系血縁集団の系統を記したものなので、そこに女性は入れてもらえない。
金姓の血統に、李姓の妻は入れてもらえないのです。
日本は、父系の血統を重視する韓国とは違い、昔から「家制度」をとってきました。結婚すれば、妻も「家族」の一員です。男子のいない家は、女子が当主となって、婿をとり夫のほうが氏を変える。そのようにして「家」を存続させるのです。
日本にさまざまな男女差別があった(今もある)ことは、「虎に翼」で取り上げられている通りですが、それと「夫婦同氏」か「(選択的)夫婦別氏」かはあまり関係がないと思うのです。
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