犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

「虎に翼」に思う~在日差別

2024-09-13 23:46:26 | 朝ドラ

写真:病床の多岐川を囲む寅子、崔香淑、薫


 朝ドラ「虎に翼」が9月末の放送終了に向けて、急展開しています。

 寅子の学友の一人、崔香淑(チェヒャンスク)は戦後、日本人(汐見)と結婚し、出自を隠して汐見香子(きょうこ)として暮らしています。その娘、薫は大学生。

 薫は、70年安保闘争の渦中に母が朝鮮半島出身であることを知り、母が出自を隠していたことにショックを受ける。

「なんでそんな大事なこと黙ってたの! 自分の生まれた国が、自分の血が恥ずかしいって思ってたってこと?」

「安全な場所に、加害者側に立って、今までずっと見て見ぬふりしてきたってことじゃない。最低だよ!」


 薫は安保反対デモに参加し逮捕されます。弁護士資格を持つ香淑(香子)は、裁判でわが子の弁護をしようとするが、薫は素直に従おうとしない。(結局不起訴)

 香淑が司法試験に受かっているということは、香淑がある時点で日本に帰化したことを意味します。

 終戦当時、日本には戦前に渡航してきた朝鮮半島出身者が多数、居住していました。そのうち、徴用で日本に来ていた人々(独身男性)は、大部分、戦後すぐに朝鮮半島に帰国します。

 しかし、以前から日本に住んでいた人々は、朝鮮半島の情勢を見極めてから帰国しようとするものが多かった。

 朝鮮半島が政治的に分断され、韓国と北朝鮮という二つの国に分かれたことから、帰国に二の足を踏むものが増え、日本には60万人ほどの朝鮮半島出身者が「在日コリアン」として日本にとどまることになりました。

 終戦直後の朝鮮半島の混乱と貧困、さらに朝鮮戦争が勃発するに及び、戦後、新たに日本に密航する人々もいました。

 崔香淑は戦前、日本に留学していましたが、帰国した後、朝鮮半島から引き上げる日本人とともに来日し、日本人と結婚した在日コリアンです。

 終戦直後は、朝鮮半島には韓国も北朝鮮もありませんでしたから、朝鮮半島出身者の国籍は戦前同様、日本でした。

 1952年、サンフランシスコ講和条約が発効し、日本は朝鮮の独立を承認。これにともない、朝鮮半島出身者は日本国籍を喪失します。韓国籍を希望する者は国籍が韓国になりましたが、希望しない者は「朝鮮籍」となりました。北朝鮮は、日本が国家承認をしていないので、「北朝鮮国籍」は認められませんでした。

 ところで、崔香淑は戦後再び法律の勉強を再開し、見事司法試験に合格、弁護士資格を得たとのことですから、ある時点で日本国籍を取得したはずです。

 司法試験に国籍条項はありませんが、合格後の司法修習所は外国人を受け入れていませんでした。外国人を例外的に受け入れるようになったのは1977年、司法修習所の国籍条項が撤廃されたのは2009年のことです。

 崔香淑がいつ、どのようにして日本国籍を取得したかは不明。1952年以降にいったん韓国籍を取得して、その後帰化したのか、終戦直後に汐見と結婚してその時点で日本国籍者になったのか。

 いずれにしろ、娘の薫が母の出自を知ったとき、母は「在日韓国人」ではなく、「韓国系日本人」であったはずです。

 しかし、崔香淑は自分の出自を娘にも隠していた。自分と娘に対する「差別」をおそれたためです。

 実際、薫は、母が韓国系であることにより、差別を受けます。付き合っていた恋人に明かしたところ、それを理由に「結婚はできない」といわれたのだそうです。

 私は東京出身で、身近に在日コリアンがいなかったので、在日差別をしたこともないし、意識したこともありませんでした。

 唯一、聞いたのは、私の幼馴染の女の子のケースです。小学校卒業以降、本人は疎遠になっていましたが、母親同士が親しく、母を通して、幼馴染の結婚が破談になったことを聞いたのです。

 幼馴染の恋人は在日韓国人。母の話では、「遺伝性の目の病気があったことが理由」ということでしたが、出自も理由の一つだったと推測しています。

 恋人は、結婚が破談になったことを苦に自殺を図ります(未遂)。幼馴染はショックを受け、その後長らく独身を続けます。傷が癒えて結婚したのは50歳をすぎてからでした。

「虎に翼」に話を戻すと、もし崔香淑が自分の出自を早くから娘に明かしていたら、はたして薫は「安保闘争」に関わっていたのか。

「安全な場所に、加害者側に立って、見て見ぬふりしてきた」

という薫の言葉はどういう意味なのか。

 崔香淑は日本人と結婚し、祖国が同族相食む朝鮮戦争で大混乱に陥っていたとき、「安全な場所で傍観していた」のは事実です。

 しかし、「加害者側に立って」というのはどういう意味なのか。

 日本は、朝鮮戦争において「朝鮮特需」で潤ったということはありますが、「加害者」ではありませんでした。

 日本に駐留していた米軍が、朝鮮派兵の基地として使われたことを「加害」と表現しているんでしょうか。

 しかし、米軍は国家存亡の危機にあった韓国を救援し、朝鮮半島が「赤化統一」されるのを防いだ恩人だったはずです。

 確かに、70年の安保闘争は、日米安保条約に反対する旧社会党など、左翼勢力が主導しており、北朝鮮を「地上の楽園」などと喧伝していました。

 薫も、左翼思想に影響されて、韓国に加担した米軍(と基地を提供した日本)を「加害者」と見なしていたのかもしれません。

「地上の楽園」が真っ赤な嘘だったことが明らかになるのは、その後かなり経ってからのことですが…。

 1961年生まれの私にとって、60年安保闘争は生まれる前のこと。70年安保の時も小学生でしたから、ほとんど印象にありません。

 わずかに、小学校5、6年時の担任教師(50代女性)が、「昨日、国会前でデモをしてきた。『安保、反対!』って」と授業で言っていたことを覚えているぐらい。当時、「日教組」が勢力を持っていた時代でした。

 今週の番組最後では、崔香淑と薫の親子は「仲直り」していて、薫は「コリアンの血を引いた日本人」として堂々と生きていくようです。

 在日コリアンに対する結婚差別が今も残っているのかは、よくわかりません。在日コリアンと日本人の結婚数は、年々増えています。日本人と外国人の国際結婚もしかり。

 私の娘のうち二人は国際結婚です(フィリピンとスウェーデン)。

 私は11年半韓国に暮らし、子どもたちも在日の友だちが多い。娘の誰かが在日、または韓国人と結婚したいと言い出しても驚かなかっただろうし、反対もしなかっただろうと思います。

 来週の予告では、美佐江の再登場がありそうで、楽しみです。

〈参考〉

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