犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

「虎に翼」に思う~原爆裁判

2024-09-05 21:08:15 | 朝ドラ

写真:長崎に投下された原爆のきのこ雲(Wikipediaより)


 朝ドラ、「虎に翼」で原爆裁判が進行中です。

 ドラマのモデル、三淵嘉子が実際に担当した裁判です。

 被爆者の損害賠償請求権に関する裁判ですが、原爆投下が国際法違反かどうか、米国に賠償責任があるか、戦前の日本を引き継いだ戦後の日本政府に賠償責任があるかなど、論点は多い。

 1963年に出た実際の判決(東京地裁)は、被爆者に損害賠償請求権を認めなかったものの、原爆投下が国際法違反であること、大日本帝国に戦争責任があること、大日本帝国を引き継いだ日本国は立法府及び内閣の責務として救済策を執るべき、という判決を下しました。判決は政府、国会を動かし、1968年の「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律」に結実しました。

 私が1980年代に勤めていた出版社で、原爆投下関連の書籍を出したことがあります。アメリカ人のジャーナリストによるもので、なぜ原爆が日本を標的に落とされたのかを、アメリカの関係者への取材から明らかにしたもの。

 この本の担当者を決めるとき、ある編集者が手を上げました。

「私にやらせてください。私の母は被爆者なんです」

 本の内容はよく覚えていませんが、アメリカで一般的に支持されている「正当防衛論」(日本本土上陸作戦が実行されれば多数の米兵が死ぬので、その予防のためだ)とか、対ナチスドイツ用に開発されたものだが、ナチス降伏前に開発されたとしても使われなかっただろう。日本は白人国家ではなかったので使用に躊躇しなかった(人種差別論)とか、多大の投資と努力によって開発した科学者たちは、「せっかく苦労して作ったんだから、実戦で威力を試してみたかった」と思っていた、とか…。そんな内容だったと思います。

 実際に使われた二つの原爆の威力はすさまじかった。死者数は諸説ありますが、広島で9万~16万6千人、長崎で6万~8万人、計15万~24万6千人と言われています。

 さらに、生き残った人々(被爆者)も後遺症(ケロイド、癌、白血病、流産、障害児出産など)に悩まされ、さらに被爆者とその子どもに対する差別が追い打ちをかけました。

 今年の原爆記念日に観た「朗読劇」は、被爆者の娘が主人公でした。

原爆記念日の朗読劇

 主人公に目立った後遺症はありませんでしたが、母親は早くに亡くなりました。主人公の娘は、若くして白血病を発症(祖母の被爆との関連性はわかりませんが、関連があることが示唆されていました)。

 娘の命を救うには、骨髄移植手術が必要。主人公は、娘のために骨髄を提供し、命を落とします。(娘は助かります)

 被爆は、世代を越えて影響を与えることがあるようです。

 実は、原爆被爆者の中には、当時の植民地出身者も含まれていました。

 被害者数は、日本人の被害者同様、正確にはわかっていません。

 例によって韓国が発表している数字は誇張気味ですが…

 韓国原爆被害者協会の推定では広島5万人(死者2万人)、長崎2万人(死者1万人)

 広島市・長崎市原爆災害誌編集委員会編『広島・長崎の原爆災害』(岩波書店、1979年)では、広島2万5000人〜2万8000人(死者5000人〜8000人)

 中谷悦子による調査では、広島・長崎合わせて5001人

 戦後、朝鮮半島に帰還した被爆者は、やはり差別と無関心に苦しみました。

 日本の政府が遅ればせながら被爆者に対して行った支援は、韓国人被爆者には及びませんでした。

 韓国では、朝鮮半島出身の被害者が相当数いたにもかかわらず、日本に対する原爆投下を「天罰」「神の懲罰」などとする心ない言説がみられます。

 1990年代半ばに映画化され、大ヒットした反日娯楽小説『むくげの花が咲きました』は、韓国人核物理学者が北朝鮮と共同で開発した原爆が、物語の最後で東京湾に投下されるというお話。

 驚くべきことに、「原爆・天罰論」は、今世紀に入っても大手新聞に載ったりします。

2013年5月20日 中央日報 オピニオン(リンク
安倍よ、丸太の復讐を忘れたのか
キム・ジン(論説委員)


 神は人間の手を借りて人間の悪行に懲罰を加えることがある。最も過酷な刑罰が大空襲だ。歴史には代表的な神雷が二つある。第二次世界大戦のが最終盤にさしかかった1945年2月にドイツ・ドレスデンが炎に包まれた。6か月後、日本の広島と長崎に原子爆弾が落ちた。

 これらの爆撃は神の懲罰であり、人間の復讐だった。ドレスデンはナチスに虐殺されたユダヤ人の復讐だった。広島と長崎は、日本の軍国主義の犠牲になったアジア人の復讐だった。特に731部隊の生体実験に動員されたマルタの復讐だった。同じ復讐だったが結果は違う。ドイツは気持ちを入れ替え、新しい国家として生まれ変わった。しかし日本はちっとも変わっていない。

 ナチス・ヒトラーの悪行が絶頂に達した時、英国と米国はドレスデン空襲を決めた。軍需工場もあったが、ドレスデンは基本的に文化・芸術の都市だった。ルネサンス以後自由奔放なバロック建築美術が花を咲かせた場所だ。3日間、爆撃機5000機が爆弾60万発を投下した。炎の嵐が街を飲み込んだ。市民は火に焼かれた。大人は子供のように、赤ん坊はひよこのように縮んだ。全部で3万5000人が死んだ。

 満州のハルビンには731部隊の遺跡がある。博物館では生体実験の場面が再現されている。実験対象はマルタ(丸太)と呼ばれた。真空の中で体を捩らせて、あるいは細菌を注射されてゆっくりと、あるいは縛られたまま爆弾で粉々にされ、マルタは死んでいった。少なくとも3000人が実験に動員された。中国・ロシア・モンゴル・韓国人だった。

 マルタの悲鳴が天に届いたのだろうか。45年8月、原子爆弾の熱爆風が広島と長崎を覆った。ガス室のユダヤ人のように、マルタのように、刀で首を落とされた南京の中国人のように、日本人も苦痛の中で死んでいった。放射能被曝まで合わせると全部で20万人が死んだ。

 神雷は国家を改造し、歴史を変えた。ドレスデン空襲の25年後、ブラント西ドイツ首相はポーランドのユダヤ人の追悼碑の前でひざまずいた。雨のしとしと降る日だった。その後、ドイツ大統領、首相は機会があるたびに謝罪し、許しを乞うた。過去に対する追跡は今も続いている。ドイツ検察は最近、アウシュヴィツ刑務所に勤めていた90歳の男性を逮捕した。

 ところが日本は違う。一部の指導者たちは侵略の歴史を否定し、妄言でアジアの傷をうずかせる。新世代の政治家を自認する人物が堂々と「慰安婦は必要なものだ」と言う。安倍は笑いながら731という数字が書かれた訓練機に乗った。その数字にどれだけの血と涙がこめられているのか、彼は知らないのだろうか。安倍の言葉は人類の理性と良心の生体実験である。もう、人類がマルタになってしまった。

 安倍は今、幻覚を見ているかのようだ。円安景気と一部極右の熱気に目がくらんで、自分と日本が進むべき道が見えなくなっている。自分の浅はかな知識で人類の深い知性に挑戦できると勘違いしている。

 彼がどう行動しようと彼の自由だ。だが神にも自由がある。マルタの恨みがまだ解けていないから、日本に対する神雷が足りないと判断するのも神の自由だろう。


「犠牲者20万人」という数字に、どれだけの朝鮮半島出身者の血と涙が含まれているのか、キム・ジン論説委員 は知らないんでしょうか。

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