犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

肉について

2009-02-19 00:44:09 | 言葉
 タイ語では肉を「ヌア」と言います。

 また牛,豚,鶏はそれぞれ

牛=ウア
豚=ムー
鶏=カイ

 タイ語の語順では修飾語は後ろにつくので,牛肉,豚肉,鶏肉は,それぞれ

牛肉=ヌア・ウア
豚肉=ヌア・ムー
鶏肉=ヌア・カイ

 これが料理の名前に入るとどうなるか。

 たとえばカオパッ(チャーハン)。

豚肉チャーハンはカオパッ+ヌア・ムー=カオパッ・ムー
鶏肉チャーハンはカオパッ+ヌア・カイ=カオパッ・カイ

 ところが牛肉チャーハンはカオパッ+ヌア・ウアが,カオパッ・ウアにならず,カオパッ・ヌアとなる。

 つまり,「豚肉」「鶏肉」は料理名の中では「肉」が省略されて「豚」「鶏」となるが,「牛肉」は「牛」のほうが省略されて「肉」となる。

「これがタイ語の特徴です」

「へえ,おもしろいですね」

 最近受けているタイ語の個人レッスンで,こんな説明を受けました。

 授業が終わって,

(じゃ,日本語はどうなんだ?)

と考えてみると…

 日本語で肉は「ニク」。牛,豚,鶏は「ウシ」「ブタ」「ニワトリ」。で,肉の名前は,「ギュウニク」「ブタニク」「トリニク」…。

 うーん,すでにこの段階で,ウシ→ギュウ,ニワトリ→トリの変形を受けている。なんで「牛」だけ音読みなんだろう。そして鶏の肉はどうして「ニワトリ・ニク」と言わず,「トリニク」なんだろう。

 以前,どこかの国の空港のファストフードの店で「ニワトリ・バーガー」という日本人向けカタカナ表示を目にし,「プッ」と吹き出したことがあります。

 料理名ではどうか。

トリ肉を焼いた料理は「ヤキトリ
ブタ肉を焼いた料理は「ヤキブタ
ところがギュウ肉を焼いた料理は「ヤキギュウ」とか「ヤキウシ」とは言わず「ヤキニク」!

 なんと,日本語でも料理名の中で,豚肉,鶏肉の場合は「肉」が省略され,牛肉では「牛」が省略されているではありませんか。ほかの例を考えてみると,「肉じゃが」は牛肉を使うが「ウシジャガ/ギュウジャガ」とは言わない。肉うどんも然り。

 この法則は万国共通なのか! 大発見だ!

 いや興奮するのはまだ早い。もっと例を探してみましょう。

 日本語で,牛肉+どんぶりは「肉丼」ではなく「牛丼」。

「肉まん」は中身が牛肉じゃなくて豚肉なのに「肉まん」。ま,「肉まん」の場合,関西では「豚まん」と言いますね。「肉まん」というと,関西では自動的に「牛肉」がイメージされるからでしょうか?

 いずれにしろ「牛肉が料理名の中では「肉」になる」という傾向は,日本語に認められなくもないけれど,タイ語ほど顕著ではない。

 万国共通ではなくバンコク限定だったようです。

 試みにタイ語辞典を引くと,

ヌア:肉(特に牛肉)

となっているのに対し,日本の国語辞典では,

にく:①動物のからだの,皮の下にある,やわらかな部分,②鳥・けもののからだのうちで,食べられるやわらかなところ

に続く語釈として

③牛肉やぶた肉

となっている(三省堂国語辞典6版)。

 一般に「にく」と言われると,何の肉を思い浮かべるか。

 これは,出身地方や育った環境(特に子どものころのその家の経済状態)に左右されるようです。東京の中流家庭出身の私に限っていえば,子どものころ,母から「夕食はニクよ」と言われれば自動的に「豚肉」と受け取りました。

 東京では牛肉は高かったので,うちの経済状態では滅多に食卓にのぼることはありませんでした。関西では牛肉と豚肉の価格差はあまりなかったそうなので,「ニク」と言われてまず「牛肉」を思い浮かべる人が多いかも。でも,鶏(や羊,馬,クジラ,犬…)を思い浮かべる人は少ないでしょう。

 うーむ,「韓国漫談」なのに韓国と関係ないことを書いてしまった。

 ということで,韓国語の「肉」の考察は次回。

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6 コメント

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いも (スンドゥプ)
2009-02-19 08:27:32
肉と同様に「いも」と聞いてどんな種類の芋を頭に浮かべるのかも地方によって違うと感じたことがあります。これは両親の出身地の影響も受けるでしょう。
「じゃがいも」「さつまいも」「さといも」「やまいも」など。これ以外の芋を思い浮かべる人もいるのかな?
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Unknown (Unknown)
2009-02-19 14:05:00
関東の肉じゃがは豚肉を使うと聞いたことがありますが?
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Unknown (某延世大留学生)
2009-02-19 21:43:08
言語学で言うところの、有標性の問題ですね。豚の肉のことを関東では普通、無標の「φ+肉」がつかわれ、関西では有標の「豚+肉」が、牛の肉の場合はその反対。ですから関東では「肉まん」「肉じゃが」は豚でなければならないのです。無標有標の例としてよく上げられるのが、英語のmanとwoman。男性が一般、女性は特殊と、男女差別?がはっきりと語形に現れています。^^;
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Unknown (某延世大留学生)
2009-02-19 22:14:04
関東では「肉」は「豚でなければならない」、なんて決め付けてしまいましたが、豚の肉じゃが、関東では一般的だと思ってましたが、本文でおっしゃってるとおり、牛の肉じゃがもけっこうみかけますよね。肉うどんは関東でも確かに牛だよなあ。豚汁ってのもあるし。結構例外がありますね。いやいや失礼しました。^^;;;
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Unknown (某延世大留学生)
2009-02-19 22:33:11
連投失礼します。
万国共通とバンコク限定のところで大笑いしました。
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肉じゃがの肉 (犬鍋)
2009-02-21 02:51:44
子どもの頃,あまり意識しないで食べていましたが,そういえば豚だったような(東京の話)。

妻の出身地島根は牛肉だったそうです。

有標性ですか。勉強になりました。

「イモ」は私の場合,サツマイモを思い浮かべます。「焼きいも」(さつまいも),肉じゃが(じゃがいも)の例からすると,さつまいもは料理名(?)の中では「いも」になる?

韓国語のさつまいもはコグマ,じゃがいもはカムジャ。「イモ」という総称はないんじゃないかな。

タイ語は,さつまいもがマン,じゃがいもがマン・ファラン(外国のいも)。
もっとも代表的と思われるタロイモは,プアクという別の言葉です。
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