犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ヒト、この不思議なる動物②~赤ん坊がかよわい

2010-04-07 23:32:13 | 文化人類学
赤ん坊がかよわい

 前回,「体毛」に関連して,ネオテニー説に言及しました。

 ネオテニーとは,動物が幼児の体のまま性的に成熟すること。チンパンジーとヒトは,成体は違いが大きいのに,赤ん坊がよく似ていることから,ヒトはそもそもネオテニーなのではないかという説が唱えられているそうです。そして,ネオテニーであるために,体毛が生え揃わないまま大きくなり,無毛という特異な動物(裸のサル)になった…。

 今回の「赤ん坊がかよわい」という話はこれとはちょっと違います。

 馬やシカなどの草食動物は,出産の数時間後に立ち上がり,走ることができます。一般に,草食動物は,生まれた直後に天敵に襲われたらひとたまりもありませんから,子どもは生まれながらに基本的な能力を備えている。サルも,赤ん坊はお母さんの懐にしがみつくだけの握力があるそうです。

 それに比べて人間の赤ちゃんはかよわい。

 親の庇護がなければ何もできません。人類の定義といえる「直立二足歩行」ができるようになるには,誕生後1年ぐらいかかります。

 チンパンジーの赤ちゃんの脳は,大人の半分ぐらいだそうですが,人間の赤ちゃんは大人の4分の1。そして,出産後にも,胎内にいたときと同じようなスピードで成長を続け,大人の2分の1の大きさになるまで,出産後1年かかる。

 つまり,本来妊娠期間は21カ月あってしかるべきなのに,9~10カ月で生まれてしまったということになります。11~12カ月も早産しているのですね。

 この理由ははっきりしています。直立二足歩行脳の肥大が原因です。

 直立二足歩行をスムーズに行うために,人間の骨盤の幅は狭くなった。幅が広いと左右のバランスをとるのが難しく,二足歩行がうまくいきません。そして,骨盤が狭いと広い産道を確保できない。

 一方,人類の脳は大きくなった。大きな脳は産道を通ることができないので,早産するしかない。

 この「早産」がヒトの進化のどの段階からあったのかはよくわかりません。脳の小さかったアウストラロピテクス属では,歯の成長の様子から,類人猿と同様の成長のしかただと推定されており,赤ん坊の早産化は,ホモ属の特徴ではないかと思います。

 そして,この早産が,ヒトにとって非常に重要であった可能性があります。

 1990年発行の高校教科書では,人類の定義として「直立二足歩行」のほかに「文化をもつ」があげられていました。文化とは,本能の対立概念で,出産後に学習によって身につける慣習・能力のことです。

 人間の赤ちゃんが脳の未発達な状態で生まれることは,人間の能力の多くを後天的に学習によって得るようになることと関係があると思われます。

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