今回は,先の記事であげた最初の三つを取り上げます。
脳がでかい(体重に比べて)
体毛が薄い
武器として使える身体部位がない(牙,鋭い爪など)
の3点です。
脳がでかい(体重に比べて)
単純に脳の大きさを比較すると,ヒトが1400ccで,シロナガスクジラは9000cc,ゾウは4000ccだから,人間より大きい動物がいます。けれども,体重に対する脳の大きさを計算すると,ヒトは際立って大きいらしい。
ただし,ヒトの脳が最初から大きかったかというとそうでもなく,初期人類であるアウストラロピテクスの脳の大きさは400~500cc程度で,チンパンジーやオランウータンと大差ない。
ヒトの脳がはっきりと大きくなったのはホモ属以降で,ホモ属の登場を約200万年前とすれば,600万年の人類の歴史の中の最後の3分の1の期間に脳は3倍に肥大したということです。
脳の肥大には食性の変化が関係しているとみられます。脳は,体重の2%を占めるにすぎないのに,全代謝エネルギーの20%を消費する。この脳を維持するには,従来の植物中心の食事では難しく,「肉食」しなければならないということです。
そして,肉食を可能にしたのは「石器」の使用であるという考え方もあります。ヒトが最初に使いはじめた石器は,猛獣が食べ残した骨を割り,中の髄を食べるための石斧だったというのです。
なお,脳が大きいほど賢いのかというと,そう単純なものではないらしく,現世人類の従兄弟にあたるネアンデルタール人の脳は1600ccで人間の平均より大きかったのに,おそらくは知恵の差によって,ホモサピエンス(クロマニョン人など)との生存競争に敗れたとみられます。
また,ホモ・フローレンシエンシスという,約2万年前まで生き延びていたホモ属の脳は380ccで類人猿並なのに,相当高い知能をもっていたようです。
体毛が薄い
ヒトに近いといわれる類人猿は,みな毛むくじゃらです。猿人や原人の体毛がどうだったかといえば,化石に残らないのでなんともいえません。ネアンデルタール人は,寒冷地に適応して体型がずんぐりしていたといいます。体毛も濃かったかもしれません。
では,体毛が豊かであると利点は何か。
①体温を維持する,
②紫外線から皮膚を守る,
③外傷を受けにくい,
などがあるでしょうか。
樹上生活を送っていた類人猿が,草原に降り立ち,2本足で行動するようになったとき,樹上に比べれば擦り傷などを負いにくいので,③の「外傷を受けにくい」というメリットは薄れたかもしれません。
一方,森の中に比べて草原が直接日に照らされて,暑い。それで,①の保温性はかえってデメリットになり,毛が薄くなったのかもしれません。
しかし,②の紫外線については何らかの対応をしないといけない。もしかしたら,皮膚を黒くして(メラニン色素),紫外線に対抗したのかも。
初期人類は,温暖なアフリカで誕生し,数百万年を過ごしますが,あるときアフリカを脱出し,その生活範囲を広げます。
最初の「出アフリカ」は原人段階ですが,あまり寒い地方には行かず,ユーラシア大陸の温帯・熱帯地域に広がりました(ジャワ原人,北京原人)。寒い地域に行くには,すでに原人段階で無毛になっていたことが災いしたのかもしれません。
次に「出アフリカ」を試みるのは,旧人(ネアンデルタール人)。彼らは相当に寒い地域に進出しました。原人とは違って,大型獣を狩っていたと考えられ,動物の毛皮で寒さをしのいでいた可能性があります。ただし,気密性のすぐれた「服」を作るには,骨針の使用が必須で,それは新人(ホモ・サピエンス)の登場を待たなければなりません。
火の使用は,北京原人が最初とも,ネアンデルタール人ともいわれますが,火で暖をとっていたので体毛が必要なかったのかもしれません。
一方,人類の大きな特徴として,汗腺が発達し,汗をかくことで体温を調節(主に,暑くなりすぎるのを防ぐ)していたことがあげられます。毛に覆われている状態で汗をかくと,今度は冷え込んだときに凍りついて凍傷になるおそれがある。地球で冬の気温が最低といわれるユーラシア大陸内陸部のモンゴル人の体毛が薄いのはそのせいだという説を読んだことがあります。活発に発汗するという体質を備えたあとに寒い地域に生活領域を広げるのには,体毛が濃いことがかえってデメリットになりうるようです。
もう一つ,まったく別の視点で,「体毛の薄さ」を説明するものが,人類ネオテニー説です。これは,人類の赤ちゃんが「未熟児」状態で生まれてくるということと関係があります。これについては,「赤ん坊がかよわい」という項目であらためてとりあげます。
武器として使える身体部位がない(牙,鋭い爪など)
人類の定義は「直立二足歩行」ですが,化石人骨で特徴的なものに,歯の形状があります。臼歯と犬歯が類人猿に比べて小さいことです。
動物はたいてい,天敵から自分の身を守るための身体的な武器があります。体のうろこや甲羅で包むとか,角があるとか,牙や爪があるとか…。または,空を飛べるとか,速く走れるとか,鼻がいいとか…。
人類には,そのような身体部位や能力が欠けているように思えます。草原に降り立ったばかりの人間は,身体的にみれば,肉食獣のかっこうの餌食ではなかったかと思います。実際,古代人類が肉食獣に食べられた証拠が化石として残っているようです。
人類は,自分の身体の不備を補うために,木や石で武装した,つまり「知恵」によって対抗したのではないでしょうか。「火の使用」ができるようになってからは,火もまた天敵に対抗する有力な手段になったでしょう。
脳がでかい(体重に比べて)
体毛が薄い
武器として使える身体部位がない(牙,鋭い爪など)
の3点です。
脳がでかい(体重に比べて)
単純に脳の大きさを比較すると,ヒトが1400ccで,シロナガスクジラは9000cc,ゾウは4000ccだから,人間より大きい動物がいます。けれども,体重に対する脳の大きさを計算すると,ヒトは際立って大きいらしい。
ただし,ヒトの脳が最初から大きかったかというとそうでもなく,初期人類であるアウストラロピテクスの脳の大きさは400~500cc程度で,チンパンジーやオランウータンと大差ない。
ヒトの脳がはっきりと大きくなったのはホモ属以降で,ホモ属の登場を約200万年前とすれば,600万年の人類の歴史の中の最後の3分の1の期間に脳は3倍に肥大したということです。
脳の肥大には食性の変化が関係しているとみられます。脳は,体重の2%を占めるにすぎないのに,全代謝エネルギーの20%を消費する。この脳を維持するには,従来の植物中心の食事では難しく,「肉食」しなければならないということです。
そして,肉食を可能にしたのは「石器」の使用であるという考え方もあります。ヒトが最初に使いはじめた石器は,猛獣が食べ残した骨を割り,中の髄を食べるための石斧だったというのです。
なお,脳が大きいほど賢いのかというと,そう単純なものではないらしく,現世人類の従兄弟にあたるネアンデルタール人の脳は1600ccで人間の平均より大きかったのに,おそらくは知恵の差によって,ホモサピエンス(クロマニョン人など)との生存競争に敗れたとみられます。
また,ホモ・フローレンシエンシスという,約2万年前まで生き延びていたホモ属の脳は380ccで類人猿並なのに,相当高い知能をもっていたようです。
体毛が薄い
ヒトに近いといわれる類人猿は,みな毛むくじゃらです。猿人や原人の体毛がどうだったかといえば,化石に残らないのでなんともいえません。ネアンデルタール人は,寒冷地に適応して体型がずんぐりしていたといいます。体毛も濃かったかもしれません。
では,体毛が豊かであると利点は何か。
①体温を維持する,
②紫外線から皮膚を守る,
③外傷を受けにくい,
などがあるでしょうか。
樹上生活を送っていた類人猿が,草原に降り立ち,2本足で行動するようになったとき,樹上に比べれば擦り傷などを負いにくいので,③の「外傷を受けにくい」というメリットは薄れたかもしれません。
一方,森の中に比べて草原が直接日に照らされて,暑い。それで,①の保温性はかえってデメリットになり,毛が薄くなったのかもしれません。
しかし,②の紫外線については何らかの対応をしないといけない。もしかしたら,皮膚を黒くして(メラニン色素),紫外線に対抗したのかも。
初期人類は,温暖なアフリカで誕生し,数百万年を過ごしますが,あるときアフリカを脱出し,その生活範囲を広げます。
最初の「出アフリカ」は原人段階ですが,あまり寒い地方には行かず,ユーラシア大陸の温帯・熱帯地域に広がりました(ジャワ原人,北京原人)。寒い地域に行くには,すでに原人段階で無毛になっていたことが災いしたのかもしれません。
次に「出アフリカ」を試みるのは,旧人(ネアンデルタール人)。彼らは相当に寒い地域に進出しました。原人とは違って,大型獣を狩っていたと考えられ,動物の毛皮で寒さをしのいでいた可能性があります。ただし,気密性のすぐれた「服」を作るには,骨針の使用が必須で,それは新人(ホモ・サピエンス)の登場を待たなければなりません。
火の使用は,北京原人が最初とも,ネアンデルタール人ともいわれますが,火で暖をとっていたので体毛が必要なかったのかもしれません。
一方,人類の大きな特徴として,汗腺が発達し,汗をかくことで体温を調節(主に,暑くなりすぎるのを防ぐ)していたことがあげられます。毛に覆われている状態で汗をかくと,今度は冷え込んだときに凍りついて凍傷になるおそれがある。地球で冬の気温が最低といわれるユーラシア大陸内陸部のモンゴル人の体毛が薄いのはそのせいだという説を読んだことがあります。活発に発汗するという体質を備えたあとに寒い地域に生活領域を広げるのには,体毛が濃いことがかえってデメリットになりうるようです。
もう一つ,まったく別の視点で,「体毛の薄さ」を説明するものが,人類ネオテニー説です。これは,人類の赤ちゃんが「未熟児」状態で生まれてくるということと関係があります。これについては,「赤ん坊がかよわい」という項目であらためてとりあげます。
武器として使える身体部位がない(牙,鋭い爪など)
人類の定義は「直立二足歩行」ですが,化石人骨で特徴的なものに,歯の形状があります。臼歯と犬歯が類人猿に比べて小さいことです。
動物はたいてい,天敵から自分の身を守るための身体的な武器があります。体のうろこや甲羅で包むとか,角があるとか,牙や爪があるとか…。または,空を飛べるとか,速く走れるとか,鼻がいいとか…。
人類には,そのような身体部位や能力が欠けているように思えます。草原に降り立ったばかりの人間は,身体的にみれば,肉食獣のかっこうの餌食ではなかったかと思います。実際,古代人類が肉食獣に食べられた証拠が化石として残っているようです。
人類は,自分の身体の不備を補うために,木や石で武装した,つまり「知恵」によって対抗したのではないでしょうか。「火の使用」ができるようになってからは,火もまた天敵に対抗する有力な手段になったでしょう。
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