『帝国の慰安婦』で3つの訴訟を提起された朴裕河教授は、刑事告訴について「国民参加裁判(=裁判員裁判に相当)」を申請すると同時に、『帝国の慰安婦』をネットで無料配信するとのことです。朴教授には、この問題に関し支援団体発の情報のみが流布され、肝心の書籍がほとんど読まれていない、という不満があるのでしょう。
原告側(元慰安婦というよりその背後にいる支援団体)が訴訟を起こした本当の目的は、仮処分申請訴訟で削除を命じられて改訂した「削除版」や、日本版を含め、『帝国の慰安婦』の「禁書」処分にあることが明らかですので、今回の無償配布決定は支援団体に対する痛烈な反撃にもなります。
無償配布にすると、本は売れなくなりますが、朴教授のフェイスブックによれば、本書の収益は平和/学術運動に使うことにしていて、昨年6月以降、著者も出版元も利益を得ていないとのこと。
日本では、『帝国の慰安婦』はアジア・太平洋賞特別賞や石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞するなど、評価されている一方で、ネット上ではさまざまな批判がなされています。それはそれで健全な状況だと思います。ただ、本そのものを読まずにネット上の批判だけを読む人も多いと思われます。日本版の出版元の朝日新聞出版が許せば、日本版も無償配布すればいいのにと思います。
ところで、1月26日の京郷新聞に朴教授とメディアの記者の懇談会の様子が報道されていたので翻訳・紹介します。(→リンク)
「慰安婦支援団体がハルモニを人質にしている」
『帝国の慰安婦』朴裕河教授の反論
朴裕河教授は26日、ソウル広津区のレストランで記者たちに、これまでの訴訟経緯について説明し、慰安婦を貶める内容の多い『帝国の慰安婦』に関する質問に答えた。
『帝国の慰安婦』の著者、朴裕河世宗大日本語日本文学科教授(59)は26日、メディアとの懇談会を行った。慰安婦被害者の名誉を傷つけた嫌疑で起訴され、1月29日の二次公判準備期日を控え、大手メディアに対する説得の試みと見られる。
朴教授はこの日ソウル、広津区のあるレストランで記者たちに会い、2013年8月の発刊以降、現在進行中の民事・刑事訴訟が提起されるまでの経緯について説明した。
朴教授は「慰安婦問題が『なぜ20年以上解決されないのか』という疑問から『帝国の慰安婦』という本が生まれた」、「問題解決のためには日本が何をし、何をしなかったかを正しく知るべきであり、それを多くの人々に知らせたかった」と執筆の動機を説明した。
朴教授はまた「(慰安婦問題解決のプロセスにおいて)ハルモニたちが人質になっている気がする」と主張した。
慰安婦被害ハルモニたちを応援する支援団体などの運動団体が、「日帝に蹂躙されたかわいそうな少女」という唯一の被害者像を押しつけ、問題解決の仕方もまた自分たちの意見だけを一方的に主張し、ハルモニたちはこうした流れに引きずり回されているという主張だ。
朴教授は、自身の本が「これまで戦争犯罪としてのみ議論されてきた慰安婦問題を、帝国主義の問題として解きほぐし、肯定的な評価を受けている」と主張した。また「一部の表現が日本の右翼の主張と似ているという理由で単純に比較したり、親日と決めつけたりするべきではない」と主張した。
朴教授は、「昨年末の韓日間(慰安婦関連)合意には何の意味もないと思う」、「韓国内で(慰安婦問題について)社会的合意を作ることができなければ、日本の天皇が来てひざまずいたり、首相が謝罪をしたりしても、和解は難しい。まず、国民がこの問題について認識を共有すべきであり、私が行った作業はまさにそのためのもの」と説明した。
以下は、朴教授との一問一答。
-裁判所に追加の資料を出す計画はあるか。
「慰安婦ハルモニたちと対話したときの録音と映像がある。一部は民事裁判の最後に提出した。私がハルモニたちの苦痛をまるでわかっていないと何度も言われたので(裁判所に)出した。ハルモニたちの中には、「強制連行はなかったと思う」と話された方もいる。「慰安婦は軍人の世話をする存在だった」という発言もあった。この二つが朝鮮人慰安婦の本質だと思う。私が「同志的関係」と言ったことについても誤解されているが、朝鮮は当時植民地統治下にあったので、日本帝国において、嫌でも日本人として動員されざるをえなかった。私はこれを「やわらかい(柔軟な)国民動員」と表現した。結局のところ、言いたいのは「強制連行か否か」、「売春か否か」はそれほど重要ではないと思う。日本帝国主義の問題が何だったのかを問い質すのが重要だ。」
-挺対協など慰安婦被害者支援団体に対する問題意識が大きいように見える。
「どんな意見であれ、当事者が直接伝えるべきなのに、今私たちが知っているハルモニたちの考えは、相当部分が間に入って代弁する人々の考えだ。今、まるで私とハルモニたちの争いであるかのように、私がハルモニたちを攻撃する構図になっているのが残念だ。私が最もやりきれないと思うところだ。私も支援者たちと同様、ハルモニたちの代弁者にすぎない。強い女教授が、弱いハルモニたちを攻撃しているかのように語るおかしな枠組みができていて、心苦しい。もちろんハルモニたちは弱者だが、私もやはり弱者だ。支援団体は、自分たちが考える被害者像にハルモニたちをあてはめて、自分たちが考える問題解決法だけを押しつけていることが問題だと思う。
-一方的な被害者ではない、慰安婦の異なる姿に焦点を当てた本を書くことになった理由は何か。
「いつも残念に思うのは、意図の歪曲だ。私を非難する人の多くが、「あなたの話は、言われなくても知っていた。なぜあえて売春婦の話を持ち出すのか」と言う。私の見るところ、彼らと日本の右翼はどちらも同じだ。慰安婦被害者を「純潔な少女」と見る側も、「もともと売春婦だ」と主張する日本の右翼も、売春に対する差別があるのだ。私は慰安婦と、徴用された軍人が似ていると思う。朝鮮人の軍人は、それなりに補償金など法の保護を受けた。しかし慰安婦は、いちばん最後まで戦場に残って苦労したのに、何の保護も受けられなかった。結局、男性中心の近代国家システムが、性を必要としながらも抑圧し、軽蔑するというダブルスタンダードの態度を見せたのだ。このような枠組みの中で、支援団体にとって、ハルモニたちは売春婦であってはならないのだ。しかし、1970年のソウル新聞の報道を見れば、花柳界で働いていた人も多かったとある。では、そのような人たちは被害者ではないのか。もう一度強調するが、純真な少女であれ、もともとそうした仕事に従事していた人であれ、同じだ。「売春か否か」で区別しようとするのは、ハルモニたちに対する抑圧だ。慰安婦に関し、売春という言葉を使った学者は何人もいる。既存の公娼システムが土台になっているという人も多い。それなのに私だけが告発されたのは、私が支援団体を批判したからだと思う。」
-民事損害賠償訴訟の判決では、「一部の例外的な事例を一般化した」と指摘された。
「例外的な部分もあるが、残りの半分は日本を批判した。慰安婦の惨状を十分に書いた。既存の団体がしてきた話を私もしたし、日本を批判する文脈で書いた。また、例外もいろいろだ。韓国人は強制連行だと認識しているが、むしろ(日本の)軍人に連れて行かれたという証言は10%にもならない。本当に何が例外なのかは、状況を見なければならない。これまでの認識が誤っているときは、それを認めて前に進まなければならないのに、そうしたプロセスがないのが残念だ。政府に登録されている慰安婦被害者の283人も、明らかに一部だ。声を出していない人たちの思いに対する想像力も必要だ。私は一部でない、一般的ケースについて書いた。たとえこれが例外に見えたとしても、われわれは少数者を尊重すべきなのであって、なぜ例外的な事例を否定するのか。例外的な事例も、重要なものは受け入れるべきだ。」
-民事裁判所は、「ハルモニたちの人格権は学問の自由より重視される」と判断した。
「すべては読解の問題だ。より正確には、(ハルモニたちの)代弁者の曲解だ。当初、「ナムヌの家」側のパク・ソンア弁護士が教えている漢陽大学法学部の学生たちが私の本を分析し、それを基に起訴状が作られた。109か所を指摘したが、その中には引用文を私の文章だと書いていたものもあった。学生たちの粗雑な誤読を基に告発したのを知って、びっくりした。パク・ソンア弁護士は、学界ではもはや強制連行ではなく、人身売買が論じられているということを知らなかったのだろう。あるいは知っていても、メディアにはそうしたことを言わなかったのだ。自分たちの運動を成功させるために、人々の怒りを煽るのは誠実ではないと思う。私が具体的に反論したので、「嘘をついている」と批判したかと思えば、「歴史認識に問題がある。戦争犯罪を称賛している」という言い方に変わったりした。(10数秒涙をこらえ)私に対する見方が非常に悪くなっている。自分たちが学界の論点を知らずにしたことかもしれないが、大変軽率だと思う。私がハルモニたちを非難したかのように話しているが、それこそ歪曲だ。」
-慰安婦問題の望ましい解決法は。
「本の中でも、韓日両国の協議体のことを書いた。接点を増やし、より多くの国民がこの問題について考えるべきだ。論点は多くない。強制連行、法的責任、補償の問題などについて、最近の研究成果を踏まえ、多くの議論が可能だ。メディアもそのプロセスを見守り、何が論点か、われわれはどんな結論を下すべきかを、多くの国民に知らせるべきだ。そのようにして社会的合意を作り、両国の国民が接点を見出す中で、少女像の問題を含め、さまざまなわだかまりが解消されるだろう。」
-裁判の準備はどうしているか。
「国民参加裁判を申請した理由は、裁判所がたとえ私に有利な判断をしても国民やメディアがそう思わない場合もあり、世論がずっと「私が間違っている」と考えることもあるからだ。近い将来、ホームページを作り、これまでの裁判の資料をすべてアップする計画だ。私がどんな反論資料を出したのか、関連記事や書評なども紹介するつもりだ。日本で出た議論も紹介するつもりだ。この問題に関し、この1年半の間にどんなことがあったのかがわかるようにする。インタビューをしたハルモニの映像も裁判所に提出する計画だ。忌まわしいことに巻き込まれたが、それでも良い共同体を作ることに寄与したい。もし悪い結果が出ても、私が身を置いている韓国という時間的・空間的状況が作り出した結果として受け入れる覚悟はできている。」
最新の画像[もっと見る]
-
一年ぶりのミニ同窓会 23時間前
-
東野圭吾『魔球』 5日前
-
いちご狩りからのPISOLA 6日前
-
いちご狩りからのPISOLA 6日前
-
いちご狩りからのPISOLA 6日前
-
自願奉仕 1週間前
-
劇場版「孤独のグルメ」の個人的な楽しみ方 1週間前
-
劇場版「孤独のグルメ」の個人的な楽しみ方 1週間前
-
劇場版「孤独のグルメ」の個人的な楽しみ方 1週間前
-
劇場版「孤独のグルメ」の個人的な楽しみ方 1週間前
そのうち、反証調査の過程で日本時代、戦後粛清された親日派の再評価まで踏み込んでしまうと、この先生は韓国にいられなくなりますね…。
しかし、韓国、そして日韓関係の真の正常化には、日本時代、そして敗戦後から朴大統領までの再評価は避けて通れない道だと思います。
生き証人の多くが世を去った今となっては時機を逸したかも知れませんが。
しかし、挺対協など慰安婦被害者支援団体が北の分断工作機関だと言うことが韓国民にも広く周知されてるにもかかわらず、なんらメスが入ることは無いのが不思議ですね。
>なんらメスが入ることは無い
親北勢力が、検察にも司法にも食い込んでいるからじゃないでしょうか。